2019年3月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

5G時代のモバイル通信市場構造を考える~5Gの機能を活かすユースケース



いよいよ5G基地局開設に向けた周波数の割当て(開設計画の認定)が行われて、5Gネットワークの構築が始まります。5Gの主要性能や周波数割当枠の特徴、エリアカバーの要件など、5Gネットワーク構築にあたり満たすべき要件は明確になっているものの、5Gサービスの普及・発展を果たすためのサービス開発、ユースケース、市場構造の想定などはまだ十分な事業計画とはなっていません。

これまで移動(モバイル)通信システムは、1980年代の第1世代から2010年代の第4世代までほぼ10年毎に進化を遂げ、最大通信速度は30年間で約10万倍になっています。契約数の急速な拡大の下、通信速度の高速化は主としてデータ通信系のサービス、メール、静止画(カメラ)、動画、高精細動画などを実現してきました。各世代における周波数割当て(開設指針)においては、電波が国民共有の財産との基本認識から、サービスの地域的展開の意義と事業者のサービス競争促進の狙いもあり、もっぱら人口カバー率の達成が要件とされてきました。即ち、人口カバー率とは人が使う(当初は音声サービスが中心)ことを前提とした要件設定であり、サービスの中心が映像系に移行してもやはり、直接的な人中心のサービス展開を通信事業政策だけでなく電波政策(免許)上も追求してきたことがよく分かります。

ところが、今回の5G開設指針では人口カバー率ではなく、5G高度特定基地局(親局)のメッシュカバーと早期の全都道府県でのサービス開始という、これまでの周波数免許には見られない要件に変更されています。つまり、人が使うエリア展開でのサービス競争(今秋参入する楽天を含めて)は4Gまでで、5Gでは別の観点でのモバイル通信の市場構造を想定していると理解すべきです。4Gまでの発展がもっぱら高速化をベースにしたBtoCサービスの競争であったが故に、5Gでも同様にBtoC中心の展開を予想しがちなのは当然ですが、これまでの国の5G総合実証試験やNTTドコモの5Gオープンパートナープログラムなどを見ていると、ほとんどすべてがBtoB又はBtoBtoXのサービスで、幅広いパートナーとの協調に立脚したものとなっています。改めて、5Gのユースケースは、デジタルトランスフォーメーション(DX)が中心であり、そこに5Gを推進する意義があることが分かります。

5G周波数免許のエリアカバー要件の抜本的な変更だけでなく「Society 5.0」の基盤となる5Gの迅速・円滑な普及を図り電波の有効利用を促進するため、これからは既存周波数の活用計画、即ち4G基地局の整備計画なども含めて、5G等の周波数割当ての審査ができるよう規定を整備(電波法を改正)することに総務省は取り組んでいます。これは5Gの普及・発展には既存周波数の有効活用が必要不可欠で、4G基地局との連携があってこそ、5Gの通信エリアの効率的・効果的な拡大と4Gと5Gのシームレスなサービスが可能との理解に基づくものです。つまり、人口エリアカバーは4Gで行い、5Gはユースケースに合わせてエリアカバーの形成を図るとの考え方が基盤になっています。BtoB(toX)ベースのサービスエリアの展開となるので、4Gまでのサービスエリア形成とは市場構造や事業のあり方が大きく違ってくる前提で対応する必要があります。エリア展開先行型の設備投資計画では結局、投資コストの回収に苦しむことになるでしょうし、BtoB(toX)ベースのサービスでは通信料金として独立の体系がそもそも設定できるものなのか疑問です。個別のタリフではなく、卸サービス的な料率の決め方も必要になるし、一括料金やレベニューシェア的な方式も想定できます。

さらに、ユースケースに応じたサービスエリア設定となると該当するエリア形成コストが料金を制約することになるので、サービスエリア内のデータの収集や蓄積、配信、分析なども同時に提供して付加価値を高める取り組みが併せて求められます。BtoB(toX)のビジネスでは、どうしてもコストベースでの交渉事となり、通信事業者の利益率は低下しがちになります。5Gのもたらす主要な性能、例えば超低遅延や多数同時接続だけでは新しい料金を設定することはまず不可能です。その上、ユースケースに応じたサービスエリアの形成となると、コストベースでの価格設定が事業構造となるので、通信を利用した付加価値で市場競争に対応して利益を確保する途がどうしても必要になります。柔軟性とコストの両面からエリア形成能力を高める努力が絶対に必要ですし、サービスエリアから得られる各種のデータこそユーザーにとっては宝の山なので、AIを活用したデータプラットフォームに参画していく事業構造を構築していくことが急務です。通信だけでは利益率の低下は避けられそうにありません。Society 5.0におけるDXとは、サービスや生産過程における各種のデータ処理の中から付加価値を追求して生産性を高めようというものなので、サービスの一部となる通信の取り分だけでは利益を生み出す力とはなり得ないのです。4Gと5Gをシームレスにするだけでは通信の取り分は増えないでしょう。

最後に、通信事業者による5Gのエリア形成の上で最もインパクトが大きいのが5Gが自営網で可能となる動きです。前述の5G開設指針の中で既に自営用等で利用できる割当枠(ローカル5G)が設定されていて、その割当対象・割当単位の検討や技術的条件の策定が、情報通信審議会の下の「新世代モバイル通信システム委員会・ローカル5G検討作業班」で始まっています。ここでも、5Gの実証試験の時と同様に、スマートファクトリ、遠隔操作、遠隔医療・映像診断などのローカル5Gのユースケースの提起から議論が進んでいます。まずは既に共用についての検討が終了している28.2GHz-28.3 GHz(100MHz幅)で早期の制度化が進んでいます(2019年8月制度化予定)。また、それ以外の4.6GHz-4.8GHz、28.3GHz-29.1GHzは遅れて来年6月の制度化を見込んでいます。

ローカル5Gのユースケースが自営用なのか電気通信業務用なのかの割当対象、屋内/構内/屋外(公共スペース)の割当単位をどうするのか、また、通信システム同士の周波数共用などを検討中ですが、基本はエリア限定免許による自営の5G通信システムを認める方向です。特に、28.2GHz-28.3GHzについては、技術条件整備の上、今年中に割当て予定となっていますので、モバイル通信事業者の5Gサービスの開始と競合することになりそうです。モバイル通信事業者の5Gサービスエリア形成能力が市場競争力の源泉となる中、ローカル5Gという新しい枠組みにどう対応していくのかが問われています。私はこのローカル5Gが事実上プライベート5Gとなると考えています。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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