国内中堅・中小企業におけるDX導入動向
AI、IoT、BigData等のデジタル技術を活用した新製品・サービス、ビジネスモデルによる新たな価値の創出や、競争優位性を確立する「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」に取り組む動きがグローバル企業のみならず、国内企業においても加速している。
本稿では、当社が実施した「国内企業ユーザにおけるDX導入状況等に関するアンケート調査」(2018年11月実施)の調査結果を紹介しつつ、国内企業、とりわけ中堅・中小企業層(以下、SMB)におけるDX動向を概観するとともに、今後のDX関連ビジネス戦略の方向性について考察したい。
国内DX市場の市場規模
富士キメラ総研『2018デジタルトランスフォーメーションの市場の将来展望』によると、国内DX市場の市場規模は、2017年の5,653億円から、2020年には1兆2,189億円、2030年には2兆3,687億円に拡大する見通しとなっている(図1)。
次に、DX向け投資成長率を業界別に見ると、2017年から2021年にかけて、「製造」、「金融」、「流通(卸・小売)」業における投資成長率が高く、当該業界が国内DX投資の主な牽引役とされている。とりわけ、「流通(卸・小売)」業においては、デジタル店舗(省人化/無人化)、デジタルオペレーション、動態可視化・分析といった事業構造変革や業務効率化・省人化向けの投資が拡大し、2020年以降も高い投資成長率が見込まれている(図2)。
国内SMB企業においては、働き方改革や人手不足、人材育成/マッチングといった人的リソースへの対応や、売上拡大、コスト削減等のビジネスプロセス上のイノベーション(プロセス・イノベーション)も喫緊の課題となっていることを踏まえると、今後はそのような事業・経営課題の解決策としてもDXニーズもより一層拡大していくものと推察される。
国内SMB企業のDX動向
ここからは、国内SMB企業層におけるDX状況を紹介したい。
図3は、DX導入状況と、ビジネス業務においてDXを導入している業務・領域を企業の年商規模別に集計したものである。
まず、社内でのDX導入状況では、中小層(年商50億円未満)の約2割、中堅層(年商50億円~同500億円未満)では約5割の企業が、社内業務でDXを導入している。とりわけ、中堅層においては大企業層(年商500億円以上)並みの導入率となっており、DXが大企業から中堅・中小企業層に徐々に浸透していることが窺える。
次に、DX導入業務・分野を見ると、現時点では、「バックオフィス業務」、「一般事務業務」といった共通/事務系セクションでの導入が中心となっているものの、今後の導入意向では、「マーケティング業務」、「営業・セールス業務」といった顧客フロント領域での導入意向も高く、SMB層をターゲットにしたDX関連ビジネスの裾野は広い。
事業・業務課題とDX商材ニーズは密接に関係
先述したように、SMB企業層は、さまざまな事業・経営課題を抱えているが、それでは、そのような事業・経営課題とDXニーズはどのように関係しているのだろうか。
図4は、中小企業層の事業・経営課題とDX関連商材との関係性について、コレスポンディング分析という統計的手法を用いて考察したものである。この図においては、原点に近い位置にあるほど共通したカテゴリ、また、相互に近いものほど関連性が強いカテゴリとしてマッピングされている。
本図によると、事業・経営課題としては、「コスト削減」、「働き方改革」、「業務効率化・省人化」といった項目が原点の近くに位置づけられており、中小企業ユーザー層にとっての共通した事業・経営課題となっていることがみてとれる。
他方、(事業・経営課題の解決に向けた)活用商材では、「AI」、「クラウド」、「画像/映像処理」といった商材が原点近くにあり、中小企業ユーザー層において共通的に活用されている商材となっていることが分かる。
また、事業・経営課題としてのDXと、「RPA」「IoTプラットフォーム」が近くにマッピングされている。
以上を踏まえると、中小企業層におけるDXの中心的な商材となっているのは「RPA」や「IoTプラットフォーム」となっていること、および「コスト削減」、「働き方改革」、「業務効率化・省人化」といった事業・経営課題と、「AI」、「クラウド」、「画像/映像処理」等のICT商材との親和性も高くなっており、今後のDX関連ビジネスの展開にあたっては、中小企業層の事業・経営課題の解決策としてのICT商材の提案・訴求がより一層重要となるだろう。
DX導入が企業業績に与えるインパクト
これまで見てきたように、国内企業ユーザーにおけるDX導入は、大企業層からSMB層に徐々に浸透し、また今後の裾野の拡大が見込まれるが、実際に業務におけるDX導入は、企業の業績パフォーマンスにどのような効果をもたらすのだろうか。
DX導入が企業パフォーマンスに及ぼす効果には、売上・生産性向上や、コスト削減や新たな顧客開拓など、さまざまなものが考えられるが、筆者は、「DXを導入している企業」と、「DXを導入していない企業」とで、売上高にどのような差が生じるのかについて、傾向スコア・マッチング法という統計的手法を用いて推計を行った(図5)。
推計の結果、「DXを導入している企業」は、「DXを導入していない企業」に比べて、売上高が成長する蓋然性が25%程度高まることが確認された。
この結果は、企業業務におけるDX導入は、(少なくとも)企業の売上高の拡大に寄与していることを意味しており、ユーザー企業の事業・経営課題の解決策として、DXが大きな役割を果たしていると言えよう。
今後のDX関連ビジネス戦略
本稿の最後に、今後のDX関連ビジネス戦略の方向性について3点ほど検討・提起してみたい。
まず今後のDX関連ビジネス拡大にあたって。もっとも重要なことは、(これまで見てきたように)DX関連商材(AI、IoT等)と企業の事業・経営課題とは密接不可分な関係にあることを考慮しつつ、今後はユーザー企業の事業・経営課題を効果的に汲み取り、当該解題に対応し、マーケット・インでの発想によるDX関連商材の訴求が肝要だと言える。
第2は、SMB層がDXを導入・推進する際のチャネルを押さえることである。というのは、SMB層はDXやICT商材の導入・推進を行う際、通信キャリア/ベンダー以外にも、金融機関や、商工会議所、ITコーディネーターなど、さまざまな事業者へアプローチするため、通信キャリア/ベンダーのチャネルのみでは、SMB層におけるDXの潜在・顕在ニーズを吸い取りきれない可能性が高いからである。そのことを踏まえれば、今後は、通信キャリアによる直販営業のみならず、金融機関や、商工会議所、ITコーディネーターなどの外部プレイヤーとの連携、B2B2XモデルによるDX提案や訴求力の向上も重要となるだろう。
第3は、DX導入で得られたビッグデータによるデータ・マネジメント領域・市場の攻略である。DXによりさまざまな情報や統計がデータ化され、SMB企業の社内でそれらのデータが蓄積されることになるが、データを蓄積しただけでは、単なるデータ種別がアナログからデジタルに変換されたに過ぎず、DXはその手段にとどまってしまう。そもそも、DXは社内のアナログ情報やデータを、デジタル化し、それらをビッグデータとして蓄積し、内部・外部のデータを組み合わせることで、マーケティング業務などへの活用や、SMBユーザーが今まで気がつかなかった視点等を提供していくことがその本質である。
それを踏まえれば、SMB層に対しては、単にAIやIoTといったDX関連商材を提供するのみならず、ビッグデータ解析等のデータ・マネジメント系サービスを提供していくことも重要となるものと思われる。
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