商用化から半年、韓国5Gの最近の動向
2019年4月に5Gサービスの商用提供を開始した韓国の9月末時点の5G加入数は350万。年末までに500万を超えると予想され、人口の10%を5G利用者が占めることになる見通しだ。当初、初年度の加入数見込みが200万だったことを勘案すると、予想を上回る速さで加入者が増えていることになる。
サービス開始直後から、通信の不安定さや5Gが利用できるエリアの狭さ(カバレッジ)などネットワーク品質の問題が指摘され、キャリアは対応に追われた。加入数が増えた現在も、品質改善はキャリアの課題として残っている。
5Gの普及は、ネットワーク、サービス、料金、端末が相まって進展をする。本稿では、商用化から半年を経過した韓国のそれぞれの領域で進行中の試みを概観する。
ネットワーク:カバレッジの注力は「外」から「内」へ
現在の5Gサービスは、4G LTEのネットワークを併用するNSA(ノンスタンドアローン)で提供されており、5Gネットワークでカバーしきれない部分をLTEネットワークで補っている。韓国では5G用の周波数として3.5GHz帯と28GHz帯が割り当てられているが、現行の5Gは3.5GHz帯のみを使用している。2つの5G周波数帯を使うSA(スタンドアローン)方式の商用化は2020年以降に予定されている。
キャリア各社は品質改善の一環で、5Gサービス提供地域や構築済みの基地局数など定量情報をサービスカバレッジマップで公開している。設備数も増え、マップ上で彩られる面積も広がっている。そこで、最近、品質改善が求められているのが「屋内」だ。キャリア各社は、年末までに5Gのカバレッジを人口比80%まで拡大し、屋内のカバレッジも並行して拡大していく方針だ。韓国のモバイルキャリア上位2社のSK Telecom(SKT)とKTは、年末までに大型ショッピングモール、空港、展示ホールなど屋内施設の設備を約1,000カ所整備することを目指していている。関連ソリューションの開発も進行中だ。
サービス:商用サービスはB2Cが先行
5Gで提供されるサービスはコンシューマー向け(B2C)が先行している。スポーツ中継(野球、ゴルフ、eスポーツ)、コンサートのライブ中継、VR/ARによる臨場感あふれるエンタメ系やキッズ向けのコンテンツなどがある。
5Gでは従来の無線通信サービスよりも多様な法人向け(B2B)サービスの活用が見込まれている。スマートファクトリー、スマートシティ、コネクテッドカー等の分野で試験事業や商用運用が始まっている。ただ超高速・大容量、超低遅延、多数端末同時接続という5Gの特性を生かした機能の提供は、28GHzの商用化が実現する2020年以降となる模様だ。
料金:メガバンクがMVNOで5G提供
韓国ではMVNOの5G提供が始まり、キャリア以外の選択肢が広がったことも特筆すべきだ。韓国政府は、従来から消費者の通信料負担の軽減政策に取り組んでいる。モバイルキャリア3社による寡占が10年以上続いているため、料金の引き下げやサービスの充実を促す目的でMVNOを後押しする施策を展開している。
今年9月末には、卸料金の引き下げ、MVNOの周波数利用料の支払い免除期間の延長に加え、支配的事業者のSKTに対し5Gの卸提供が義務付けられた。
5G MVNOの1番手に名乗り出たのは韓国の大手銀行KB国民銀行だ。LGU+の5Gネットワークを借り受け、「破格の料金割引」を謳い文句に、「Liiv M」ブランドを立ち上げた(11月4日)。料金割引は、国民銀行のサービスの利用と連動する仕組みだ。給与振り込みや公共料金の支払い、クレジットカードの決済額等が割引適用の条件になり、割引が全額適用されると、Galaxy Note 10の場合、月額約7万7,000ウォン(約7,700円、24カ月利用前提)で利用できる。
MVNOは、料金は安いが、最新のハイエンド端末は提供されないため、格安携帯のイメージが定着している。今回のKB国民銀行に続き、年明けにはハナ銀行がMVNOサービスを開始し、相次ぐメガバンクの参入でMVNO全体のイメージ向上の効果が期待されている。
端末:Kakaoの5Gスマホ
現在、5Gスマホは、SamsungとLGから数機種発売されている。端末価格は100万ウォン(約10万円)以上で、最も高額な端末は200万ウォン(約20万円)を超える。中価格帯スマホの登場は時間の問題と見られていたが、ここにKakaoが切り込んできた。
Kakaoの5Gスマホ「Stage 5G」は、11月4日、同社のグループ会社Stage Fiveが発売を開始した(図1)。Stage 5Gの特徴は、Kakao Talkをはじめ、Kakaoペイ、Kakaoナビ等Kakaoのサービスパックを基本搭載している点だ。価格は81万4,000ウォン(約8万円)で、既存の5Gスマホより20~30%安い。ZTE(中興通訊)のODM生産で、全般的な仕様(プロセッサー、画面解像度、背面のメインカメラ画素等)はSamsung A90に近いという評価だ。
Kakaoが、プラットフォーム事業から新たに端末領域に業容拡大するのではないかと見る向きもあるが、SIMフリーでの販売であることから、本業を堅持していくだろうという見方が大勢だ。中価格スマホの登場は、高額なハイエンド端末を志向する市場に風穴を開ける契機になるか、Kakaoのブランド力でどこまで食い込めるか、中国製品への関心が薄い消費者を引き付けることができるか、気になるところだ。
まとめ
主管機関である科学技術情報通信部(「部」は日本の「省」にあたる)は、5Gサービスの利用調査の結果から、「5G加入数の増加は、最新端末とキャリアの加入者確保を目的としたマーケティング競争によるものであり、5Gサービス自体が評価されたとは言い難い」と指摘している。キャリアがSamsungやLGの5Gスマホに多額の補助金を投入し、さらに規定外の補助金を追加したことで5Gスマホの価格が4Gスマホよりも安くなり、買い替え時期を迎えた消費者が5Gスマホを選択したケースが多かったことが明らかになったためだ。
5Gの普及は、魅力的なサービス、消費者の利用形態に合わせて選択できる料金プラン、多様な端末ラインナップなどが密接に関わりながら発展していく。中でも安定品質のネットワークはサービスの根幹である。
28GHz帯を使用するSAの国際標準化は2020年に予定され、残すところ約1年となった。世界各国から5G商用化が伝えられる中、今後の1年は、韓国にとって世界最長の5G商用提供の経験を踏まえ、5G本来の特徴を生かしたサービスの開発と、顧客価値向上を図る重要な助走期間となるだろう。
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