2020.1.30 5G/6G InfoCom T&S World Trend Report

特定基地局開設料(周波数の経済的価値を踏えた評価額)~標準的試算の意味するもの

改正電波法(2019年5月公布)で、モバイル通信特定基地局の開設計画認定において「特定基地局開設料制度」が設けられ、今後の5G等周波数割当手続規定の変更がありました。開設計画、即ち、周波数割当申請時の比較審査項目に、既設基地局の周波数活用計画と周波数の経済的価値を踏まえた評価額の2項目が追加されて配点対象となりました。なかでも、後者の評価額は特定基地局開設料として国庫に納付されてSociety5.0の施策に充当されます。

この制度改正に応じて、総務省では「特定基地局開設料の標準的な金額に関する研究会」(座長 多賀谷一照 千葉大学名誉教授)を開催して、新しい割当手続きの運用に当たり、申請者の予見可能性を高めて合理的な評価額を算出できるよう周波数の経済的価値の標準的試算を示そうとしています。昨年10月7日に第1回会合があり、今年春までの開催期間となっていますので、近いうちに標準的試算が示されるものと想定しています。研究会での論議や検討状況等から言えることは、周波数の経済的価値の考え方や評価手法には万能な手法は存在しないこと、それぞれの手法の有効性や限界を見定める必要があることの2点に尽きます。政策的にはオークション方式における最低落札価額の設定時に種々の手法が各国で採用されていますが、大別すると「オークション落札結果比較法」、「コスト削減価値法」、「収益還元法」の3つになると研究会で報告がありました。どの方法によっても一長一短があり、重大な課題が提起されています。(1)比較する対象(事例)が限られ制度上の違い(前提)があること、(2)比較する代替手段の設定が難しいこと、(3)周波数の利用方法やサービスについて重要な前提条件を規定する必要があること、など評価手法の困難さを指摘しています。

今回の研究会は標準的試算を示すことが目的なので手法だけでなく試算金額も例示されるかもしれません。そして、その試算が標準として次の5Gの開設指針や開設計画記載事項に取り入れられることになりそうです。具体的には免許申請において、経済的価値の標準が示されて申請者が評価額を申請し、その金額も考慮(配点)して開設計画を審査・認定することになります。そして割当を受けた者はその申請金額を国庫納付する図式です。収入相当額は電波を使用する高度情報通信ネットワークの整備等に充当すると改正電波法で規定しています。これは初めての政策的取り組みであるだけに、この研究会で進められている経済的価値の標準的試算に注目しています。

今回の研究会のベースとなったのは、2018年8月公表の電波有効利用成長戦略懇談会報告書で、その中の“周波数割当制度の見直し-割当手法の抜本的見直し”の項目では、経済的価値を踏えた割当手法やオークション制度についての意見募集、懇談会での議論を整理した上で、(1)一定エリアの同一無線システムの中では一の者が専用する周波数であること、(2)新しく周波数が割り当てられる場合であって競争的な申請が見込まれるもの、を要件とし、周波数の特性や政策目的に応じてその都度審査項目全体や配点を決めることが適当と取りまとめています。さらに、審査項目のバランスでは経済的価値に係る配点が過重とならないよう注意を促しています。この懇談会報告書が公表される際に、内閣府の規制改革推進会議からは「電波制度改革に関する意見」の提出があり、特に割当に係わる見直しに関しては、同会議が提起した“経済的価値を踏まえた金額を競願手続にて申請し、これを含む複数の項目を総合的に評価して割当を決定する方式”は価格競争の要素を含めたメカニズムが根幹である旨を指摘する厳しい意見が表明されました。これに対し懇談会側からは、価格競争の要素についても、制度の趣旨を踏まえた適切な配点が定められるべきとの考え方が示されています。

要は周波数の割当において、オークション方式導入を主張する経済政策重視の立場と制度整備をした上で総合審査方式の原則を維持しようとする通信・電波管理政策推進の立場との衝突がここでも見られたのですが、結局、電波法改正の中で特定基地局開設料制度が制定され現在に至っています。電波利用を促進してワイヤレスがもたらす社会的・経済的効用を追求する取り組みが、オークション方式という局所的な経済合理性を上回る効果をもたらすとの政策判断に落ち着いたものです。伹し、オークション制度については引き続き各国の最新の動向を注視する必要があることも述べられていますので完全に解決を見た訳ではありません。そのため、今回の研究会による経済的価値の標準的試算に対して注目が集まっています。

他方、今後の5Gの候補周波数として、4.8-5.0GHz帯、26.6-27.0GHz帯、39.5-43.5GHz帯を対象に、情報通信審議会「新世代モバイル通信システム委員会(技術検討作業班、ローカル5G検討作業班)」で共用検討が進んでいます。4.8-5.0GHz帯は既に技術基準が策定済みであり、39.5-41GHz帯及び42-43.5GHz帯については検討の結果、5Gとの共用が可能なので技術的条件の検討段階となっています。また、4G等周波数帯の5G化についてもSA(スタンドアローン)構成の5Gにより、広域の高信頼・超低遅延通信に有効なので技術的条件をまとめて制度整備を行う方向で進んでいます。さらに、ローカル5Gについても4.6-4.8GHz帯及び28.3-29.1GHz帯について共用検討等を実施し、今年11-12月の制度化を想定しています。以上のことから、前述の特定基地局開設料制度を含む5G周波数の割当では、4800-5000MHz帯(100MHz×2、伹し、4900-5000MHz帯は共用検討中)と39.5-41GHz帯(1500MHz)、42-42.5GHz帯(500MHz)の周波数が新しく対象になりそうです。開設計画申請受付時期等は未定ですが、これらが今回の研究会で行われる標準的試算の対象周波数帯域ではないかと想定できます。他方、ローカル5Gでは免許単位が土地建物内など閉空間であり競願申請を想定していないので、経済的価値の評価にはなじまず、今回の特定基地局開設料制度の枠外と思われます。

今後の5G開設計画申請時期が未定であることに加えて、経済的価値の標準的試算に必要となる前提条件の設定でも、例えば収益還元法の場合の5Gの収支見通しや周波数共用促進方策(電波法改定案、ダイナミック周波数共用システムの実運用)、また、4G等周波数帯の5G化(SA構成化)など未確定事項が多いので、経済的価値の評価も厳しい事業環境を設定した上での試算とならざるを得ないのではないかと考えます。その方が長い目で見て、ワイヤレス成長戦略(ワイヤレスインフラ整備)推進との整合性が高いと思います。そうしないと各社がそれぞれバラバラに評価額を申請すると、その合計値が市場全体の見通しとしては非現実的な大きな金額に達してしまうことが起こり得ます。注意が必要です。

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