2020年2月14日掲載 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:バヌアツ ~砂絵と火山とブルーホール



昨年8月に南太平洋のバヌアツを旅行した。世界で最も火口に近づける火山や、真っ青なブルーホール等を訪れ、自然の力強さや美しさを身近に感じながら休暇を過ごした。本稿では、バヌアツの基本情報と、筆者が訪ねた3つの島(エファテ島、サント島、タンナ島)の観光地を紹介するとともにバヌアツの魅力をお伝えしたい。

バヌアツの概要

バヌアツはオーストラリアの北東に位置し、シドニーから飛行機で約3時間のところにある。80余りの島々が南北約1,200kmにわたりY字型に連なる島嶼国だ。国土は約1.2平方kmと新潟県とほぼ同じ広さで、人口は約30万人。

バヌアツの島々のうち人が生活しているのは12の島で、村ごとに異なる文化・慣習がある。言葉はその代表例で、使用される言語は100を超える。大きな島では地域ごとに言葉が異なる。バヌアツの公用語は3つで、ビスラマ語(ピジン英語)、英語、フランス語だ。

島々は1980年まで英国とフランスの共同統治下にあった。バヌアツでヨーロッパ人による植民が始まったのは18世紀以降で、この時期、キャプテン・クックで知られる英国のジェームズ・クックによる調査も行われた。19世紀後半にはフランスの進出が盛んになり、1906年に英仏の共同統治領となった。英仏の利権争いの高まりと数々の紛争を経て、1980年7月、バヌアツは両国から独立した。

wtr370-20200214-kamei_f1

エファテ島

バヌアツの首都ポートビラはエファテ島の南西に位置する。島には5万人が暮らしている。

ポートビラ空港から車で15分ほどの距離にはカルチュラルセンターがある。ここではバヌアツの歴史や伝統文化に関する資料が展示されている。祭具や楽器、トーテムポールのような木彫りの神様(タムタム)などがあった。

このセンターでは、世界無形文化遺産に登録されている「砂絵」の実演を見ることができる。今回筆者がバヌアツ行きを決めた最大の理由はこの砂絵だ。砂絵は1本の指で、一筆書きで幾何学模様が描かれる。最初に縦横数本の線が描かれる。続いて、交差した1点から次の点へと線がつながれ、ゆっくりと、同じペースで縦横に直線や曲線が描かれていく。実演での1つ目の絵は魚(写真1と2)。2つ目は、愛、平和、感謝等の意味が込められた模様だ。いずれも1分半程度で描き上げられた。

最初に描かれた格子

【写真1】最初に描かれた格子
(出典:文中掲載の写真は、すべて筆者撮影)

完成した魚の模様

【写真2】完成した魚の模様

国内にはそれぞれ固有の言語を用いる民族がいるため、砂絵は部族間でコミュニケーションをとるための手段として、また民族の儀式や歴史や技術の記録方式として発達した。しかし、風雨の影響を受けやすく、長期保存が容易でないことから消滅の危機にも直面している。砂絵の技術保存のため、一部の学校では授業で砂絵を教えているそうだ。

エファテ島の東側の海岸沿いには「タートル・ベイ」がある。ウミガメを中心に、サメやヤシガニ、コウモリ等が飼育されている。白い砂浜のビーチ沿いにあり、一見するとリゾートホテルのような施設のよう。生まれて数年の手のひらサイズのウミガメや、200歳を超えるウミガメとも触れ合うことができる。

タートル・ベイ

【写真3】タートル・ベイ

ウミガメ

【写真4】ウミガメ 1歳

ウミガメ

【写真5】ウミガメ 200歳

サント島

サント島は、面積900平方kmと佐渡島よりやや大きいバヌアツ最大の島。ブルーホールとシャンパン・ビーチで知られている。今回、島の東岸にある2カ所を巡った。1つ目の神秘的な青い池「リリ・ブルーホール」には、車を降りてアルトリガー付きのボートに乗り、川を遡って向かう。、こんもりとした木々が両側からかぶさるように川べりを覆う。ボートを漕ぐ音だけが響く。池の水面には周囲の木々の影が映り込んでいる。水中を泳ぐ魚も見える。ガイドさんがココナツを削って落とすと、魚が群がってきた。誘われるように池に飛び込んだが、当日は曇っていたためか、想像以上に水温が低く、水から上がると指先にしびれを感じた。

シャンパン・ビーチはバヌアツで最も美しい海と言われている。この名前は、地下から湧き出る淡水が泡になって出てくる様子がシャンパンの泡に似ていることに由来する。訪れた日は曇天のため、その美しさを堪能しきれなかったが、水温は比較的高く、シュノーケリングでは黄色や青といった鮮やかな色彩の魚を間近で見ることができた。

リリ・ブルーホール

【写真6】リリ・ブルーホール

シャンパン・ビーチ

【写真7】シャンパン・ビーチ

 

タンナ島

タンナ島には、「世界で一番火口に近づける火山」として有名なヤスール山(標高361m)がある。この火山観察を目的として多数の観光客が訪れることから、バヌアツ旅行のハイライトとも言える。麓の事務所で入山手続きしたのち、山の神様への奉納や入山の申し出をするための村人による儀式に参加する。これまでの訪問先では出会わなかった大勢の観光客で賑わっていた。事務所では急な悪天候や火山灰の飛来に備え、ヘルメットや雨ガッパをレンタルしてくれるが、今回は入山者が多く、数が足りなかった。事務所のスタッフがなしでも大丈夫だというので、筆者のグループはそのままで行った。

ヤスール山近景

【写真8】ヤスール山近景

入山の儀式

【写真9】入山の儀式

 

事務所からさらに車で15分ほど山道を登り、山腹に到着。ここからグループごとに火山スタッフが同行し、火口に向かう。火口近くに設置されている郵便ポストは、「世界一危険なところにあるポスト」としてギネスブックに記載されている。辺りはまだ明るく、火口からは白い煙が見えるのみだったが、噴火の音が間近で聞こえた。火口外周には見学や撮影に適したポイントが設けてあり、1つずつ回って、日暮れを待ちながら定期的に吹き上がる溶岩の様子を眺めた。大半の人は手元でカメラやスマホを操作して撮影していたが、三脚を設置してじっくり撮影する人も少なくなかった。暗くなるにしたがい時折風が吹き、砂粒のような火山灰が顔に当たり痛かった。観察時間は約2時間。日没後の18時頃、スタッフの撤収指示に従い、暗闇の中、ヘッドランプを灯して下山した。

火口近くに設置されている郵便ポスト

【写真10】火口近くに設置されている郵便ポスト(写真中央)

吹き上げる溶岩

【写真11】吹き上げる溶岩

ヤスール火山以外のタンナ島の観光スポットとしては、ブラックマジック(黒魔術)の村やカスタムビレッジと呼ばれる、昔ながらの生活様式を維持している村を訪ねる観光もある。黒魔術の村では、火起こしや、団扇ほどの大きさの葉っぱを互い違いに積み重ねた上に子供を乗せて持ち上げるといったアトラクションがあった。カスタムビレッジでは自給自足で生活する村で、家屋や家畜、伝統料理の調理、ダンスなどを見学した。

積み重ねた葉っぱで子供を持ち上げる

【写真12】積み重ねた葉っぱで子供を持ち上げる

カスタムビレッジの子供達

【写真13】カスタムビレッジの子供達が歌いながら遊ぶ

最後に

南太平洋観光機構(South Pacific Tourism Organisation)が発行する観光調査レポート「2018 Visitor Arrivals Report」によると、南太平洋地域(16カ国・地域)を訪れる観光客は年間214万人(2018年)。訪問先トップはフィジーの87万人で全体の40%であり、域内で最も集客力が高い。バヌアツは、フランス領ポリネシア(10.1%)、クック諸島(7.9%)、サモア(7.8%)パプアニューギニア(5.7%)、ニューカレドニア(5.6%)に続き7番目(5.4%)で訪問者数は11.5万人。前年比で7%増加している。

訪問者の国・地域別内訳を見ると、オーストラリアとニュージーランドの2カ国合計で100万人(50%)を超える。次いで米国22万人(10.5%)、ヨーロッパ21万人(9.7%)。日本からは7.8万人(4%)が訪問している。

バヌアツについて、今回の旅を契機に知ったことがいくつかあった。

ひとつは、第2次世界大戦時、バヌアツは米軍の前線基地となっていたこと。ガダルカナル島の南東800kmに位置し、次の戦場はバヌアツになると予想されていた。米軍は、1942年当時、人口1万人のサント島に10万人の兵士が駐留できるよう、兵舎や病院、道路などの設備やインフラを短期間で構築した。バヌアツは実際には戦場にはならず、終戦後、米軍は基地に配置したブルドーザーなどの重機や飛行機、トラック等数千トンの機材をサント島東部の海に廃棄した。それが今では、「ミリオン・ダラー・ポイント」と呼ばれる、ダイバーにとって人気のスポットになっている。

2つ目は、バンジージャンプの起源がバヌアツにあるということ。それがサント島の東方にあるペンテコスト島で行われる通過儀礼「ナゴール」で、成人男性として認めてもらうために、足につるを巻き付け、数十メートルのやぐらから地面に向かってジャンプする。かつては成人への儀式として位置づけられていたが、今では豊作を祈願する収穫祭の行事に変化している。

3つ目は、環境保全に積極的に取り組んでいること。バヌアツ政府は、プラスチックごみを減らすためレジ袋を廃止する法律を2018年に施行した。市場やスーパーで、買い物客は皆エコバッグを持参していた。また、日本でも最近導入が始まった紙ストローも、ホテルのレストランだけでなく、街中のカフェ等でも一般的に使われていた。一方で十分なゴミ焼却施設がないという現状もあり、今回の旅では事前に旅行会社から、不要な包装は日本で処分する、使用済みの電池は持ち帰るなどゴミ軽減に対する協力を求められた。

公用語のビスラマ語も興味深い。ビスラマ語は、英語をベースに簡略化して使用される「ピジン英語」であり、島や村ごとに異なる言語がある場合の共通語の役割を果たす。聞いていると英単語の混ざり具合がわかりにくいが、掲示板や商品ラベルなど、テキストで見ると何となく意味の見当がつくことがある。例えば、Gudmoning (Good morning)、Sori tumas (I am very sorry)、 Lukim yu (See you)、Yu tok Inglis? (Do you speak English?) など。ピジン言語については、機会があれば改めてご紹介したい。

本稿でバヌアツに興味を持っていただく人が増えれば幸いだ。

Tangkyutumas (Thank you very much)!

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

亀井 悦子のレポート一覧

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS