2020年3月13日掲載 地方創生 InfoCom T&S World Trend Report

インバウンドをテコにしたアウトバウンド創出による地域活性化



日本の現状と今後のインバウンド

日本は、少子高齢社会に突入し、人口減少、経済規模の縮小が予測されている。このような状況でも国民の豊かな生活を継続していくためには、社会保障の維持、地域格差の解消などの課題を解決していくことが求められる。そのためには、国および地方の経済を活性化させることが非常に重要である。これまでの日本は人口も多く、個人所得も大きかったことから輸出に大きく依存せず内需を中心に経済が支えられてきた。

2015年 輸出依存度 国際比較

【図1】2015年 輸出依存度 国際比較
(出典:国連貿易開発会議)

しかしながら、人口減少社会では内需は縮小せざるを得ない。今後は、内需を維持しつつ外需を増加させていくことが欠かせない。そのために、インバウンドが重要になるのは明らかだが、来訪者数だけではなく来訪の中身を考慮することで、よりインバウンドの効果を高めることができると考えられる。

本稿では、インバウンドの現状と課題を概観し、課題解決を地域活性化へとつなげるアウトバウンド創出の試みについて提言したい。

日本の取り組みと課題

日本のインバウンドの取り組みには2つの課題がある。外需は、インバウンド(訪日外国人)とアウトバウンド(輸出・海外展開)の両面があり、インバウンドについては、観光立国を目指す政策の効果もあって、2018年には10年前の約5倍となる3,000万人を超え、その後も増加している。今後、東京オリンピックや大阪万博を控えており、政府は、2030年までに6,000万人の達成を目指している。最近では、都市部だけではなく地方への来訪についてもテレビなどで取り上げられるようになった。ところが、日本政府観光局の2018年都道府県別訪問率を見ると、10%以上に達しているのは、東京都、大阪府、千葉県、京都府および福岡県の5都府県のみである一方で、20県は1%未満となっている(表1)。依然、来訪者の地域分散は大きく進んでおらず、恩恵がまだ地方までたどり着いていないというのが実態だ。これが1つ目の課題である。

2018年 都道府県別訪問率

【表1】2018年 都道府県別訪問率
(出典:日本政府観光局データをもとに情報通信総合研究所作成)

もうひとつの課題は、インバウンドによる経済効果を来訪者数に依存しすぎるリスクである。中国に端を発したコロナウイルス感染拡大のような人の流れに影響を与える事象が発生すると、来訪者が減り、経済に直接的に影響する。来訪者数には常に変動リスクがあり、来訪を期待して整備した受け入れ態勢は時として過剰となり大きな損失につながる。このことからも、安定した収入確保の仕組みを作る必要がある。

一方、アウトバウンドを輸出で見てみると、暫増しているものの2019年は減少し、貿易収支(差引)も2年連続マイナスとなっている。この数字は大企業による輸出減の影響が大きいが、ここでは、インバウンドとの関連における地域活性化の視点での輸出の可能性に限定して見ていく。

課題解決の方向性

今後、インバウンドとアウトバウンドをどのように国や地域の活性化に生かすことができるのか。

来訪者数に依存しすぎるのは問題だとは言え、まず、来訪者数の維持、増加は基本戦略としては重要となる。ただ、増やすことだけに焦点を当てると、オーバーツーリズム、来訪者数の変動、安い単価でのツアー客など様々な事象に振り回され、結果的に疲弊してしまうということも起こりうる。特に、受け入れ態勢に不安のある地方においては、来訪者数だけに頼らない収入の仕組みを作っておくことを真剣に検討しておくことが望まれる。

来訪者数だけに頼らない収入の仕組みとはどういうものなのか?簡単に言えば、来訪者がいなくても収入が得られる仕組みである。

以下のような例がある。

岩手県盛岡市に南部鉄器を作っている岩鋳という明治35年創業の会社がある。フランスの有名紅茶専門店から「カラフルなティーポット(急須)を作ってほしい」との依頼を受けたことにより、現在では50%が海外向けとなった。

また、京都にある明治8年創業の開花堂の茶筒は、英国の有名デザイナー、マーガレット・ハウエルさんが気に入って彼女の店舗で販売しており、売り上げの10~15%は海外向けとなっている。

古くは伊万里焼の例もある。海外からの注文に応じて西洋文化にあう独特な形の壺が17世紀後半から18世紀初頭にかけて、西洋へ美術品として大量輸出された。

 これらの例に共通することは、日本発案の輸出ではなく、海外の人が日本のある地域のあるモノを気に入り、それを自分の国で売ってビジネスをするという仕組みである。重要なポイントは、南部鉄器も茶筒も陶磁器も日本では取り留めのない日常生活の一部であり、日本人が輸出品としての価値に気づくのは非常に難しいという点である。日本では当たり前のモノでも海外の人の視点で見ると新たな発見があり、ビジネスのネタとして使える可能性があることを示唆している。海外で受け入れられるモノが何かを知るには、そこの国の人が見たほうが間違いないということは理にかなっている。

このように考えると、インバウンド客を単なる観光や買い物目的としてだけ見るのではなく、地方の資源の発掘人として、販売人として連携することで、安定した来訪者数や収入の確保につなげる仕組みができるのではないかと推察されえる。

この仕組みでは、日本側のメリットとしては輸出品の新たな発見、海外の人のメリットとしてはビジネス商材の発見というWin-Winの関係が生まれ、最終的には来訪者数だけに依存しない日本のインバウンド・アウトバウンドモデルになる。

例に挙げた3社は個社であるが、地域他社とのノウハウの共有、役割分担などにより地域ブランド化することで地域として活性化できることも期待される。

仕組みの構築

このモデルの前提は、海外の人が商売用として興味を持つ商品が日本にあることであるが、多くの外国や国内47都道府県を訪問してきた自身の経験から、感覚的にであるが日本各地では世界的に見て質の高い商品やアイデアを数多くの国内企業等が生み出していると感じている。訪問率から見ても、20の県で1%未満となっており、海外の人の目に触れていないモノが隠れている可能性は高い。モノは、刃物や陶磁器などのような日本の伝統製品でも、高度技術で生産された部品類でも、食品でも何でも構わない。

このモデルの実現には、(1)海外の人に、日本のモノを知ってもらう、(2)海外の人に、海外で売れるモノを選んでもらう、(3)海外の人に、海外で売るための改良点を示唆してもらう、(4)売買についての調整をする、(5)商品を売買するという一連のプロセスを構築する必要がある。前項で例に挙げた3つの商品は海外の人の目に留まったことで成功をもたらしているが、まだ海外の人の目に触れていないモノが多数あると思われ、まず、(1)日本のモノを知ってもらうことが最も大切である。その上で、(2)海外で売れるモノを選んでもらうのだが、(1)(2)を効率的に実現するためには、モノを集めるためのオールジャパンのポータルサイトが必要だ。3D画像などを駆使した実物をイメージしやすい環境が望まれる。場合によっては、その地域の風景や生産の様子なども合わせて発信する。対象とするモノについては、売れないだろうと決めつけず、できるだけ多くのものを見られるようにすることがポイントである。また、地域ごとではなく、テーマごとに表示することで比較検討がしやすくなると思われる。このような情報発信により、ビジネス機会を来訪時の一つのオプションとして提供する。実際に興味を持ってもらったモノについては、来訪時に実物に触れて、(3)売るための改良を示唆してもらったり、(4)売買についての調整を行ったりして、実際の(5)商品売買につなげる。この一連の流れができれば、新たな輸出機会が生まれ、地域の安定した収入に寄与すると考えられる。

このモデルは、実際の常設展示場をベースに、日本のモノを集めてその場で見てもらい、意見交換し、交渉し、商談が成立するという流れのほうが本来望ましい。ただ、常設展示場は莫大な費用がかかるため、早期の実現のためには、ICTを活用したインフラづくりが非常に有効であろう。

日本のモノを知ってもらう必要性

【図2】日本のモノを知ってもらう必要性
(出典:情報通信総合研究所作成)

この仕組みへの期待

この仕組みのそもそもの目的は、来訪者数のみに頼らないインバウンドを活用した地域経済の活性化・安定化である。

来訪者へのモノの直接販売だけではなく、輸出機会を創出することができれば、来訪者数に左右されにくい安定した収入確保につながる。また雇用も生まれ、地域の活性化につながる。このことに対して異論はないはずである。しかしながら、輸出機会を創出することは容易ではない。これまで、各地方や企業も独自に海外進出の取り組みを進めてきた。筆者も東南アジアで何度も日本の中小企業の経営者にお会いした。多くの経営者は、「交渉に多くの時間を取られ、会社を離れることが多く自社が心配だ」「渡航費、広告費、出店費用、販売店契約などの経費がかかる」など海外展開の難しさを口にされていた。また、地方自治体で地域活性化を担当されている方々とも話をしてきた。多くが海外への進出には強い関心があったが、単独で取り組むには、「予算がない」「交渉が難しい」「売る相手や売り方がわからない」という話が多かった。

日本のモノが売れる流れ

【図3】日本のモノが売れる流れ
(出典:情報通信総合研究所作成)

この現状を打破してもっとスムーズに輸出機会を作る方法はないのか?

現在行われている輸出の取り組みは、売りたいモノを売るために買いたい人を自らの手で探しているプロダクトアウトの戦略と言えるかも知れない。うまく売りたいモノが買いたいモノとマッチングすれば良いのだが、マッチングさせるためには、複数の相手との交渉が必要になり多くの費用、時間、労力がかかる。それを企業、自治体が個々で行っているところにも限界がある。

逆に、欲しいモノに手を挙げてもらうプロダクトインという考え方がある。一般的にはニーズをもとに売るモノを決めるという戦略だ。ただ、日本の伝統工芸など知らないモノに対してニーズは出てこない。そこで、とにかくいろいろなモノを見てもらってニーズを掘り起こすことが重要になる。

この手法であれば、マッチングのために大きな費用、時間、労力はかからない。相手が欲しいモノが出発点になるため交渉のイニシアチブも持つことができる。売りたいモノを決めて個別に買い手を探すよりも容易に輸出機会を創出できる。

このモデルが機能すると、次のような副次的効果も期待される。

  • 地方に埋もれたモノを表に出すことができれば、技術伝承も可能になる。
  • 海外から地方に目を向けられる機会が増える。
  • 国内のモノ提供者が、ポータルに集まった他の地域のモノを知ることで、お互いの協力関係が進む。
  • 地方にビジネス目的の海外からの来訪者が増えれば、より深い国際交流が可能になる。

結び

2019年も訪日外国人は増加し、史上最高の、3,188万人にのぼった。しかしながら、国内の訪問先の地域差が依然として大きく、地方にあまねく寄与しているとは言い難い。また、来訪目的が、食、観光、買い物、温泉など来訪者数に依存しているため、感染症拡大などでは、直接的に大きな影響を受ける。

今後は、訪日外国人を増やすだけではなく、訪日外国人を通した収益モデルを構築することが、日本、地方の成長には欠かせない。

ここで提示した、「インバウンドをテコにしたアウトバウンド創出」は、オールジャパンとして国が主導すべきことかも知れない。しかしながら、民間ビジネスとしても成立する可能性を持っていると考えている。ポータルに集約された多くのモノ情報やニーズ情報はいろいろな機会をもたらすと思われる。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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