2020年6月29日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

5Gサービスの開始~COVID-19の影響とモバイル通信市場の行方



3月末にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が5Gの商用サービスを開始しました。我が国では約10年ぶりの新世代モバイル通信規格の登場ですが、1年前に韓国と米国が世界一番乗りを競ったような興奮はなく静かなスタートとなりました。新型コロナウイルス(COVID-19)対策のため多人数を集めての発表会等は中止となり、外出自粛要請のなかキャリア店舗の営業短縮や家電量販店の休業などで客足は鈍く、消費者が直接に端末やサービスに触れる機会が大きく減っている状況です。

スタートした5Gでは3社とも4Gとコアネットワークを共用するNSA(ノンスタンドアロン)方式を採用しているものの、ネットワーク構築の仕方や料金設計、端末ラインアップに方向性の違いが表れています。開始からまだ2カ月余り、今後の動向を見定めることは無理ですが先行した世界の動きやCOVID-19対策の影響などを踏まえて今後の行方を考えてみます。

5Gのネットワークでは3社とも6GHz帯以下の周波数(Sub-6)を使ってスタートしています。ただ、サービスエリアは限定的でスポット的なレベルに止まっているのが現状で、3社とも同様に1~2年先のエリア展開計画を明らかにしています。

NTTドコモ3月末150カ所500局、2022年3月末2万局
KDDI 3月末15都道府県の一部、2022年3月末2万局
ソフトバンク2021年末人口カバー率 90%1

 

上記計画の背景には3社の考え方に違いがあります。NTTドコモが5G専用の基地局展開を計画しているのに対し、KDDIとソフトバンクは既存の4Gネットワークを活用しながら5Gエリアを拡大するという周波数共用(DSS:ダイナミック・スペクトラム・シェアリング)方式で進めようとしています。この利点は5Gエリアを広げやすいことにありますが、反面で5Gの特長である高速、低遅延を犠牲にせざるを得なくなります。DSS方式では通信速度が4Gと大差がなくなる欠点があります。つまり、NTTドコモでは本来の高速通信を狙って5G専用基地局を拡充することを重視しているので対象的な取り組みとなっています。いずれにせよ、5Gサービスの本格的な展開は2023年以降になる見込みですが、COVID-19の感染拡大がエリア展開計画を遅延させる懸念が生じています。5Gを世界にアピールする場と予定していた東京オリンピック・パラリンピックが1年延期となり、また今年9月と予想されていた5G対応の次期iPhoneの発売が遅れて来年前半にずれ込むと複数メディアが報じるなど、多方面で厳しいスタートとなっています。日本ではアップル社は最大のスマホ供給者なのでユーザーの5G移行に大きな影響を与えそうです。

他方、料金設定と端末ラインアップでも3社の違いが明らかになっています。料金ではキャンペーンとは言えデータ容量無制限プランを導入したNTTドコモと従来の4G料金を基準にして無制限プランを避けたソフトバンクの違いが目立っています。KDDIは5Gでもデータ容量無制限プランを踏襲していますので対応が分かれました。これは5Gサービス時のデータ通信重視の姿勢とネットワークインフラ整備の取り組みの違いを示していると思います。もうひとつの端末ラインアップでは逆に、NTTドコモが中国メーカーを扱わずに日韓メーカーのハイエンドモデルに注力しているのに対し、KDDIとソフトバンクはハイエンドからエントリーモデルまで用意し、中国メーカーも取り入れていて対応が分かれました。5Gサービスのエリアカバーが十分でない当初の段階の普及戦略の違いを示したものと受け取れます。2023年頃の本格的なエリア整備までの間の市場動向をどのように想定していくのか、ユースケース、キラーアプリケーションをどう捉えていくのかが窺えるところです。結局、高速・低遅延の本格的な5Gサービスを使える場所は当初は自宅等の個人の居場所ではなく、人が多く集まる公共のスペース中のスポット個所となるので、その場所に集客することで活かせるアプリケーション、コンテンツ、サービスがポイントになると考えます。いわゆるユニバーサルサービス化して屋内外や公共とプライベート空間のどこでも使えるようになるためには、特に5G機能を本格的に発揮できるミリ波帯によるSA(スタンドアロン)方式の拡充が必要なので、ネットワークの整備には時間を要します。したがって、ネットワークの整備水準に応じた5Gのユースケースを見出す努力が必要です。このように5Gサービスではネットワークの拡充手順と料金設定/端末ラインアップとが相関して進むと想定できるので、3社3様の取り組み、各社独自の戦略で挑戦する狙いが見えています。その中では、法人企業向けのサービスや農業、医療分野などネットワーク整備/料金/デバイス・AI等を包括した統合サービスへの取り組みが見られます。従来とは違って、ユニバーサルサービス的取り組みだけが目標ではありません。

ここで5Gサービスで先行した韓国と米国の動きを取り上げてみます。韓国でも特にキラーアプリケーションの故に5G契約数が伸長した訳ではなく、5Gスマホに対する補助金の制限が緩和されていてユーザーの購入価格が低下しているので、4Gから5Gへの移行が進んでいると私は見ています。韓国のIT産業振興政策のひとつと理解できます。また米国では特筆すべき事態が起こっていることに注目しています。それはモバイル通信各社が5G周波数の不足懸念から新しい周波数の提供(免許)をFCCに強く要望し、数多くのミリ波帯周波数のオークションが行われたということです。即ち、Upper37GHz帯、39GHz帯、47GHz帯周波数が新たに取得(免許)されています。これは1回のオークションとして過去最大の3400MHz幅となり、ミリ波帯で最大の連続スペクトラムともなっています。モバイル通信事業者がこうした大幅な新しい周波数を必要としている背景には、米国で急増しているクラウド・ゲーミングがあります。ストリーミング配信の形態で提供するクラウド・ゲーミングはデジタルエンターテインメント市場の主流となりつつあり、5Gサービスのキラー・ユースケースになると見込まれています。そこから生ずるトラフィックの急増、ネットワーク容量の逼迫に備える動きが米国では顕著になっています。

日本でもエリアカバーの充実だけに拘っていて新しい周波数の開拓を怠っていると、結局周波数不足に陥ることになりそうです。早急な準備が必要です。現下のCOVID-19の流行のなかで在宅勤務やオンライン授業等によってデータ通信量が6割も増加したとの報道があり、通信事業者においてネットワーク容量の拡充が急務となっていると同時に、学生の通信費負担軽減のための支援策などが求められる状況となっています。COVID-19流行の結果、私達の日常生活や就業活動でのICT活用の必要性が高まり、特にモバイル通信への依存度が強くなっています。これこそ5G時代を迎えた今日、新たなモバイル通信市場の行方を左右する兆しと受け止めています。

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