2020年8月31日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

5GとCOVID-19で進む通信事業の構造変化



5Gが昨年4月に韓国と米国で始まって以来、世界各国で取り組みが進んでいます。日本でも今年3月にモバイル通信3社がサービスを開始しましたが、世界でも日本でもスタートアップ段階で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に遭遇しました。そのため、サービス契約数が増加している一方で、スマートフォン等の端末デバイスの開発の遅れや逆に基地局などのインフラ構築の政策的な加速等の現象が見られます。5G性能が経済・社会に与えるインパクトの大きさについては専門家が既に数多く指摘していますので、ここでは取り上げません。ただ、5Gのスタート直後のCOVID-19流行拡大がもたらした経済・社会・政治への影響の大きさから5Gサービスにおいても、今後紆余曲折が予想されるので指摘しておきたいと思います。

その第1は、大都市(特に東京)集中リスクを踏まえて地方への分散が進む又は進められること、第2は同時にリモートワークやオンライン授業が国民生活に浸透して定着し日常化していくこと、3番目は感染症伝染防止の本旨から人と人との接触をどうやって把握してコントロールしていくのか、具体的な行動変容を促すための方策を生み出す基礎データの収集と個人情報保護とのバランスの変化と調整が進展していることです。これは基本的人権と公共の福祉(社会権)との調和の問題なので情報通信サービス産業に携わる者は常に意識しておくべき課題、即ち、個人行動データの利用用途の拡大の問題です。この3点について通信事業の構造変化を展望してみます。

第1の社会全体の地方分散の問題はメディア等で多く取り上げられるようになっています(例えば、日経新聞社説2020.6.28「東京リスク直視し地方に分散を」)。5Gのエリア展開は始まったばかりなので今後の取り組み次第というところですが、総務省は既に2023年度末の基地局整備計画を昨年のサービス開始当初の7万局から今年6月には3倍の21万局以上に引き上げる方針を示しています。5Gの電波は到達距離が短いので50万超ある4G基地局数以上の構築が必要です。しかし、このことは単純にどこでもすべての場所で5Gサービスをすぐに使えるようにするものではありません。結局は誰に対して、どこで5Gサービスを始めるのか、サービスエリアの拡充計画の問題となります。5G開発実証などで示された利用方法(アプリケーション)はほとんどが企業(法人)利用で、工場等の生産現場、遠隔診断、サービス業分野でした。5Gの持つ高速・低遅延機能を活用するものです。純粋に個人利用を対象とするアプリケーションでキラーユースとなりそうなサービスをまだ見出していません。企業(法人)ユースなのか、個人ユースなのか、中心がどちらになるかによって5Gサービスのエリア構築計画は変わってきます。経済・社会基盤の地方分散の動向の見定めは5Gをベースとするモバイル通信事業者に構造変化を促します。ただし企業内利用でもなく、また個人利用でもない中間的なリモートワークのような利用方法が急速に拡大すると予想できるので新たな対応が必要となっています。

そこで第2のリモートワークやオンライン授業の定着・拡大は新しい形の通信サービス需要を生み出しています。緊急事態宣言発令中には平日昼間のデータ通信量が5割、解除後でも4割の増加となっていて、リモートワークやオンライン授業の通信トラフィックへの影響の大きさを如実に示しました。リモートワークの場合、就業者の利用なので光回線やPCなど比較的充実した情報通信環境であったと思いますが、学生中心のオンライン授業や臨時的・一時的な在宅勤務ではモバイル回線やスマートフォン/タブレットの利用も多く見受けられました。光回線なら情報検索、データ送受信、テレビ会議・打ち合わせなどで通信が支障になることは少ないでしょうが、モバイル回線では現状ではまだまだ十分な通信レベルとはいかないケースも多いようです。モバイル回線ではそもそも上りと下りに回線速度に差があるのが実態です。リモートワーク側からのデータの送信やテレビ会議映像では上り回線の充実がどうしても必要になります。光回線の普及度合いとモバイル回線のエリアカバー、回線開設の難易度などから、これからはむしろモバイル回線での情報機器接続が求められることになりそうです。簡便性と移動性から、ノートPCとモバイル通信モジュールの組み合わせがリモートワーク、オンライン授業での標準装備となると思います。加えて、光回線はさらにハイレベルのリモートワークでの必需品となります。

背景には、モバイルサービスエリアの人口カバー率は既に99.99%に達しているし、2019年6月に総務省が発表した「ICTインフラ地域展開マスタープラン」では、エリア外人口約1.3万人(2019年3月末)を2023年度末までにすべて解消する目標を掲げていることがあります。他方、光回線の世帯カバー率は98.8%(2019年3月末)、未整備世帯数約66万世帯であり、2023年度末までに18万世帯に減少する目標となっていましたが、これを2年前倒しするよう今年度の補正予算に530億円が計上されています。企業(法人)利用と個人利用の中間的なユースケースとなるリモートワークやオンライン授業に必要となるブロードバンド回線のエリアカバーでは4Gモバイル回線、光回線の順であり、5Gモバイル回線の展開はまだまだです。ただし、データ通信料金の設定となると少し事情が違ってきます。光回線のデータ通信料金は定額制ですが、4Gでは従量制がほとんど、5Gでようやく定額制が多く導入されている段階です。データ通信料金の負担を意識しながらのリモートワーク、オンライン授業では懸念が伴います。この点もこれからの通信事業の構造変化をもたらすことになると考えます。

最後に、個人の行動データの利用用途の拡大についてです。新型コロナウイルス感染者の早期発見のため検査の拡大が各方面から強く要望されて件数と対象者の拡大が進んできました。ただ公衆衛生と感染予防のためには感染者との接触者に早期の検査が必要なので、個人の行動データを把握して感染の有無を検査することが感染予防の第一歩であるとして世界各国では具体的な方策が実行されてきました。日本ではCOCOAと名付けられた感染者接触通知アプリが6月19日から利用可能となっています。その際、個人の行動データを把握するツールとしてスマートフォンを利用してデータを収集し、検査対象につなげることは世界共通の取り組みとなっています。ただ、その時に個人の特定や個人情報の取り扱いに関してはそれぞれの国情に応じて違いが出ています。COVID-19の流行拡大のなかで人々の意識にも変化が見られ、感染拡大防止、即ち、感染予防と早期発見(検査)のためには個人の権利を一部制限しても社会全体の権利(公共の福祉)を守ることはやむを得ないと考えるように変わってきていると感じています。こうなると私達が日頃使うスマートフォンの機能やアプリケーション、通知連絡方法などをあらかじめ利用可能なものとしておかなければなりません。今後はこうした性能を十分に発揮し得るデバイスの開発も必要となるでしょう。また、データの収集・解析の基盤となる情報通信能力の拡充も併せて必要となります。これまでのような通信の秘密厳守という通信事業者の立場とは別次元の個人の行動データの管理という新しい役割を担うことになります。

現在の5Gプラスwithコロナ時代を迎えて、通信事業、特にモバイル通信事業の構造が大きく変化していくことになりそうです。新しい時代を先取りする必要があります。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

平田 正之のレポート一覧

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS