2020年12月28日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:AIビートルズは「サージェント・ペパーズ」を生み出せるか?



もう1年ほど前のことになりますが、「AI美空ひばり」が話題となりました。紅白歌合戦に出てきたのは何となく覚えていますが、その時は茶の間でボーッと見ていて特段の感慨はありませんでした。改めて雑文のネタにと思ってYouTubeなどに上がっている公開時の映像を観てみましたが、涙ぐんで感激しているファンの方もいて、確かになかなかの再現度のように感じました。

同じく音楽の絡みでは、「AIバッハ」というのもあります。Googleが昨年のバッハの誕生日に合わせて、自分が入力したメロディーにAIがバッハ風のハーモニーをつけてくれるサイトを公開しましたが、私も早速遊んでみました。またあるTV番組では、本当のバッハの作品とAIバッハが作った曲をプロの音楽家に両方聴いてもらって、どちらが本物のバッハか当てさせるという、意地の悪い趣向をやっていました。

こうした企画は、正に実在する(した)人物を仮想の領域に再現するということで、ヒトデジタルツインのわかりやすい例と言えそうですが、NTTグループが今進めようとしている「IOWN構想」では、これまでの個別のデジタルツインにとどまらず、サイバー空間で多様なデジタルツインどうしのインタラクションを行い、新たな価値を構築することを目指すという「デジタルツインコンピューティング」(DTC)が、重要な構成要素とされています。

そうした未来の仮想空間では、例えば、現実世界にいる(いた)人物を精緻にトレースした複数のヒトデジタルツインが、グループを組んで音楽を創作し演奏するなどということもあるのでしょうか。とすると……

現代において最も優れた音楽を創造したのは、やはりビートルズだと思います。米国の著名な作曲家・指揮者のL・バーンスタインも、「ビートルズは20世紀最高の作曲家だ。いや、今世紀ならずとも、少なくともシューベルトやヘンデルより上等だろう」と述べているくらいですから。

ビートルズはメジャーデビューしてから解散するまでの数年間の間に、ポピュラー音楽の世界を革新し、半世紀以上たった現在でも強い影響を与え続けています。彼らの画期的なアルバムに、1967年発表の「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」があります。サイバー空間に仮想のジョン、ポール、ジョージ、リンゴからなる「AIビートルズ」を設定し、深層学習させたら、果たしてサージェント・ペパーズのような作品を生み出せるのだろうか……?

まず、どんなデータを学習してもらうのでしょうか。音楽的なデータでは、彼ら自身の作品や演奏はもちろん、バックボーンとなっているリズム・アンド・ブルースや初期のロックンロール、強く刺激を与えたと言われるビーチ・ボーイズの「ペット・サウンズ」を始めとした他のアーティストの音楽も欠かせないでしょう。なお、彼らの作品の多くはジョンとポールの共作のクレジットとなっていますが、本当に一緒に作ったものもあれば実質どちらか単独の作品もあり、厳密に学習させる必要があります。

音楽を成り立たせるものは音楽のみではないはずです。彼らの生い立ち~例えばジョンが幼少期に出入りした近所の孤児院「ストロベリー・フィールド」での体験、ハンブルクでの下積み時代、交友関係など。ジョージがインドに行って学んだのは楽器のシタールだけではなく哲学にも触れただろうし、薬物によるトリップ体験も重要な要素でしょうか。

こういうところまで学習させたとして、実際の制作の現場では4人の間に、外側からはうかがい知ることのできないケミストリーが起こっているはずです。まだコンセプト・アルバムという概念が確立していなかった時代に、架空のバンドのショーというトータル・アルバムの構成にすることをどうやって決めたのか? また、5人目のビートルズとも称されるプロデューサーのジョージ・マーティンのアレンジ面を含む様々な貢献も見逃せない。ひょっとしたらAIビートルズにはジョージ・マーティンのデジタルツインも不可欠かもしれないですね。

考え始めたらきりがありませんが、データをとことん学習させても、なおミステリアスな人間の創造力が大きく働くのではないか? と考え、現時点での私の結論は、「AIビートルズはサージェント・ペパーズ(のようなもの)を生み出せないだろう」としておきます。

しかし、こういう妄想のネタはいくらでもありそうですね。次の妄想は、「AIフレディ・マーキュリーはボヘミアン・ラプソディを生み出せるか?」にしてみようかな……

(2020年12月8日 ジョン・レノン40回目の命日に)

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