2021年1月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

水道事業の現状とデジタル化の推進に係る政策動向



国内の水道事業は、人口減少にともなう事業収入が減少する一方で、設備の老朽化による維持管理コストが増大する等の事業課題に直面している状況にある。

そのような状況のもと、今後、水道インフラの維持・運用コストを効率化しつつ、所謂、ユニバーサルサービスとしての水道事業の持続可能性をどのように確保していくかが、喫緊の政策課題となっており、政府は、水道インフラをはじめとする“生活インフラ”のデジタル化をより一層推進させ、インフラの効率的な管理・運用を促す方針を掲げ、生活インフラと通信/ITの連携・融合に向けた土壌が整備されつつある。

本稿では、国内における水道事業の取り巻く制度、及び事業を取り巻く諸課題について整理しつつ、水道インフラのデジタル化の推進に向けた政策・施策動向について概説する。

水道事業のユニバーサルサービス制度

まず、水道事業のユニバーサルサービス制度については、水道法15条(給水義務)において、「水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申し込みを受けたときには、正当の理由がなければこれを拒んではならない」と規定されており、水道事業者は、(1)給水申し込み受諾義務、及び(2)24時間常時給水義務が法的に課せられている。事業退出についても、認可制となっている。

次に、水道事業(一般の需要に応じて、水道により水を供給する事業)の提供については、原則として、独立採算性(水道料金で水道事業の運営を賄う)のもとで、市町村単位で経営することとされており、現在は全国に約6,000以上の水道事業、約1,300の水道事業者が存在している。

水道事業の事業概況と課題

先述のように、水道事業は、ユニバーサルサービスとしての、さまざまな提供義務等が課せられているが、足下の水道事業を取り巻く環境は日々しい状況にある。

収入面については、人口減少や、節水機器の普及等による家庭での1人当たりの利用水量の減少により、有収水量(料金徴収の対象となる水量)は大幅な減少トレンドとなっている(2065年にはピーク時の約4割減となる見込み)。とりわけ、「限界自治体」と呼ばれる高齢者が過半を占める水道事業体においては、より顕著な需要の減少が見込まれている。

そうした市場トレンドを反映し、水道事業をめぐる経営環境は厳しさを増しており、全体の約3分の1の水道事業者が、供給原価が供給単価を上回る原価割れの状況となっており、経営状況が悪化する中で、水道サービスを継続できないおそれも生じている。

インフラ面では、高度経済成長期に整備された水道インフラの老朽化が大きな課題となっている。とりわけ、耐用年数を超えた水道管路の割合は、平成28年度時点で、14.8%となっており、今後、一気に更新を迫られる状況となっている他、漏水・破損事故も年間2万件を超えるなど、インフラの維持・運用コストの増大も大きな課題となっている(図1)。

このように水道事業は、ユニバーサルサービスとしての責務が課されている一方で、事業環境は厳しさを増しており、今後、水道事業の持続可能性の確保が喫緊の政策課題となっているところである。

図1:水道事業を取り巻く状況

【図1:水道事業を取り巻く状況】
(出典:厚生労働省「水道を取り巻く状況」)

水道事業における政策動向:フェーズ(1)

ここからは、水道事業に対する直近の政策対応を、フェーズ(1)(関連制度の整備)と、フェーズ(2)(デジタル化の推進)の2つの局面に分けて概観する。

まず、フェーズ(1)としては、平成30年12月12日に改正水道法が公布された。本改正水道法においては、水道の「普及」から水道の「基盤強化」に政策の軸足が移行され、水道事業の基盤強化を促進するための制度改正が講じられた(表1)。

表1:改正水道法の概要

【表1:改正水道法の概要】
(出典:厚生労働省「水道法の一部を改正する法律(平成30年法律第92号)の概要」)

 

改正水道法における制度改正で、とりわけ注目されるのは、「広域連携の推進」と、「官民連携の推進」が明確に打ち出されていることである。

第1の「広域連携の推進」では、国が広域連携の推進を含む水道の基盤を強化するための基本方針を定め、都道府県は当該基本方針に基づき、関係市町村及び水道事業者等の同意を得て、水道基盤強化計画を定めることができるとされている。

水道広域化は、事業統合、経営の一体化、管理の一体化、施設(浄水場、水質試験センター等)の共同化など、その類型はさまざまではあるが、水道事業の広域連携化に向けた制度環境が整えられたといえよう(図2)。

図2:水道広域化のイメージ

【図2:水道広域化のイメージ】
(出典:日本政策投資銀行「我が国水道事業者の現状と課題」)

 

第2の「官民連携の推進」については、地方公共団体が、水道事業者等としての位置づけを維持しつつ、厚生労働大臣の許可を受けて、水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みが導入され、水道事業に対する民間参入を促す仕組みが導入された。

このように、政策フェーズ①においては、水道事業者間の広域連携や、民間ノウハウの活用などが掲げられ、水道事業の基盤強化に向けた制度が整備された。

水道事業における政策動向:フェーズ(2)

ここからは、水道事業政策のフェーズ(2)として、水道インフラのデジタル化政策の動向について述べる。

従来、水道システムは、自体体/水道事業者が、ベンダーと協力しつつ、個別に構築されてきたが、自治体ごとにシステム仕様が異なっており、現状では、システム間のデータ連携が困難であることや、水道事業を維持管理する際のコスト効率性が課題となっている(図3)。

図3:我が国の上水道システムの課題

【図3:我が国の上水道システムの課題】
(出典:経済産業省「水道標準プラットフォームについて」)

 

そこで、政府は、自治体の水道システムを標準化しつつ、保守管理の自動化や、需要データを活用した効率的な水道運営を可能にする仕組みの導入を後押しし、水道料金の上昇や、インフラコストの抑制をめざす方針である。

水道インフラのデジタル化については、既に、経済産業省、厚生労働省両省の主導で20年度からシステムの共有による業務効率化やシステムコストの低廉化、システム間のデータ連携を可能にする「水道情報活用システム」および「水道標準プラットフォーム」(図4)が構築されている。水道標準プラットフォームの導入により、水道事業者等の負担軽減と事業基盤の強化につながることが期待されている。

図4:「水道情報活用システム」および「水道標準プラットフォーム」

【図4:「水道情報活用システム」および「水道標準プラットフォーム」】
(出典:経済産業省「水道標準プラットフォームについて」)

 

このような取り組みに加え、政府は都道府県に対して2022年度までに、システムの標準化を通じたコスト削減効果や今後の推進方針について、地方自治法に基づいて都道府県が策定する「水道広域化推進プラン」に試算結果などを示すように要請する等、水道インフラのデジタル化をさらに推進していく方針である(2020年12月1日「日本経済新聞」より)。

ここ最近、行政/地方自治体のデジタル化が議論の遡上に上がっているが、今後は、水道事業をはじめとする公益事業のインフラのデジタル化も政策上の大きな焦点となりそうである。

水道インフラのデジタル化の推進に向けて

本稿では、我が国の水道事業の制度と事業の状況・課題、及び政策動向について概観してきた。

最後に水道インフラのデジタル化の推進の要諦を筆者なりに、3点述べたい。

まず第1に、水道インフラのデジタル化と行政・業界データとの連携による事業の効率化の視点である。例えば、デジタル化された水道インフラと、気象データ、人口データ等を有機的に連携させつつ、人工知能(AI)を活用しながら、水需要の予測や変動に応じた動態的な供給力の調整などが想定されるのではないだろうか。

第2は、民間の通信/ITプレイヤーが保有する民間アセット(IT人材、アプリケーション、データセンター、セキュリティ等)の活用の視点である。水道インフラをデジタル化し、さまざまな情報・データとの連携を進める際には、情報・データのセキュリティの担保や、情報・データの流通基盤・管理等のソリューション基盤が必要となるであろう。前述したように、改正水道法においては官民連携の推進が掲げられているが、インフラ領域の官民連携のみならず、インフラのデジタル化に際して必要となる、通信/ITインフラや、ソリューション、デジタル人材等のソフト面においても、官民連携を推進していくことが必要であると考える。換言すれば、水道事業をはじめとする“生活インフラ”のデジタル化は、通信/ITプレイヤーにとってもビジネスチャンスであるとも言える。

第3は、行政/地方自治体のデジタル化の議論と、“生活インフラ”のデジタル化を効果的に連動させながら、両輪で推進していくことの必要性である。

足下では、行政/地方自治体のデジタル・トランスフォーメーションの加速に向けた議論が白熱化しているが、地方自治体における行政業務のデジタル化と併せて、水道をはじめとする地域の住民生活に密接に関係する“生活インフラ”のデジタル化、及びその活用をどのように全体のデジタル化戦略に取り入れていくのかというグランドデザインが求められる。

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