2021.6.28 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

EUのデジタルサービス法案の概要・検討状況と日本のデジタルプラットフォーム規制との関係

1.はじめに

2020年12月15日、欧州委員会は、デジタルサービス法(Digital Services Act:DSA)[1]とデジタル市場法(Digital Markets Act:DMA)[2]と題する新たなデジタルプラットフォーム規制案を欧州議会とEU理事会に提出した。両法案の内容をそれぞれ一言でまとめるならば、DSAはデジタルプラットフォームに対して違法コンテンツへの対策を求めるものであり、DMAはデジタルプラットフォームによる自社サービスの優遇を禁止するものと言える。

本稿では、2つの法案のうちDSAについて取り上げ、その概要やEUでの検討状況を紹介するとともに、日本のデジタルプラットフォーム規制との関係を簡単に分析してみたい。

2.DSAの概要

欧州委員会は、2020年2月に公表した欧州のデジタル戦略「Shaping Europe’s Digital Future」において、ネットワーク効果を持つ大規模プラットフォームが絡む市場が、公正で競争力のあるものであり続けることを保証するための事前ルールをデジタルサービス法パッケージとして、2020年第4四半期に検討すると計画していた[3]

欧州委員会は、2020年6月から9月にかけて、パブリックコンサルテーションを実施し、多様なステークホルダーから2,863件の意見と、約300件のポジションペーパーを受け取り、全体として、オンラインの安全性に関する対応とデジタルサービスの域内市場の促進の両面において、行動の必要性がステークホルダー間で合意を得られているとする[4]。また、欧州議会は、2020年10月に、電子商取引に関する法的枠組みについて、2つの決議を採択し、欧州委員会で検討中だったDSA及びDMAへの反映を求めた。1つは、オンラインマーケットプレイスに関する詳細な項目を含むことによって、消費者保護を中核にするとともに、ユーザーの基本的権利を尊重しつつ、デジタル経済における消費者の信頼を確保する措置等を求める決議[5]であり、もう1つはデジタルサービスコンテンツの適正な取引のために公正性、透明性、説明責任を高めること、基本的権利が尊重されるようすること、司法救済のための独立した手段を保証すること等を求める決議[6]である。これらを経て、2020年12月15日にDSA及びDMAの両法案が公表された。

欧州委員会は、DSA及びDMAの目的は、①デジタルサービスの全利用者の基本的権利が保護される、より安全なデジタル空間を創出すること、②欧州単一市場とグローバルの両方で、イノベーション、成長、競争力を促進するための公平な競争条件を確立すること、の2つであると説明している[7]。そして、DSAはそれらの実現のため、オンラインにおける消費者とその基本的権利の保護の強化、オンライン・プラットフォームに対する強力な透明性と明確な説明責任の枠組みの確立、単一市場におけるイノベーション、成長、競争力の促進を定めるルールであるとする[8]

DSAは主に、プロバイダの免責要件と、透明かつ安全なオンライン環境の実現のためにプロバイダに課される義務を規定しており、その構成は次のとおりである。第I章 総則(DSAの範囲や定義)、第II章 仲介サービスプロバイダの責任(免責要件等)、第III章 透明かつ安全なオンライン環境のためのデューデリジェンス義務(プロバイダの各サービスに課される義務)、第IV章 実施、協力、制裁及び執行(デジタルサービス調整官や罰金等)、第V章 最終条項(電子商取引指令の規定の削除等)。なお、DSAは、欧州連合の機能に関する条約[9]114条を根拠として提案されている。

DSAの詳細な規定内容は、総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」第24回資料として、日本語による詳細な説明資料が既に公開されているため[10]、本稿では特に重要と考えられるポイントに絞ってDSAの内容を以下で紹介する。

2.1.DSAの対象

DSAの対象となるのはプロバイダであり、サービスの種類ごとに、①仲介サービス(intermediary service)、②ホスティング(hosting)、③オンライン・プラットフォーム、④超巨大プラットフォーム(Very large online platforms)の4つに分類される。DSAにおいて、各サービスは以下のように定義されている。なお、以下の説明は、DSAの条文と欧州委員会による説明[11]によるものである。

① 仲介サービス:サービスの受信者が提供する情報を通信ネットワーク上で伝送する又は通信ネットワークへのアクセスを提供する「単なる導管」(mere conduit)サービス、あるいは、通信を効率化することのみを目的として、情報を自動的、中間的、かつ、一時的に保存する「キャッシング」サービスを指す(2条)。例として、インターネットアクセスプロバイダ、ドメイン名レジストラーが挙げられており、以下の②~④も仲介サービスに含まれる。

② ホスティングサービス:仲介サービスであって、サービス受信者から提供された情報を、サービス受信者の要求に応じて保存するサービスを指す(2条)。例として、クラウド、ウェブホスティングが挙げられており、以下の③・④のサービスも含まれる。

③ オンライン・プラットフォーム:ホスティングサービス提供者が、サービス受信者の要求に応じて情報を保存し、公開するサービスを指す(2条)。例として、オンラインマーケットプレイス、アプリストア、シェアリングエコノミープラットフォーム、ソーシャルメディアプラットフォームなど、売り手と消費者をつなげるものが挙げられている。

④ 超巨大プラットフォーム:オンライン・プラットフォームのうち、EU域内の平均月間アクティブサービス受信者数が欧州人口の10%以上(4,500万人以上)に相当するサービスを指す(25条)。

上記①~④のサービスは、図1のような包含関係にある。したがって、上位のカテゴリのサービスに課されるDSA上の義務は、下位のカテゴリのサービスにも課されることになる。

【図1】DSAにおけるプロバイダの包含関係

【図1】DSAにおけるプロバイダの包含関係
(出典:欧州委員会の説明資料(脚注8)をもとに筆者作成)

2.2.プロバイダの免責規定

DSAは、各サービスプロバイダの免責を規定している。従来、プロバイダの免責は、2000年に制定された電子商取引指令(2000/31/EC)(「eコマース指令」とも訳される)12~15条に定められており、現在まで変更はなかった。特筆すべき点として、DSAは「規則(Regulation)」として提案されている一方、電子商取引指令は「指令(Directive)」となっている。「規則」は、加盟国に直接適用されるものであり、国内法化は必要ないものである一方、「指令」は加盟国に直接適用はされず、指令の内容に沿った国内法等の整備が必要になる。したがって、DSAが成立した場合、DSAに定められた免責条項が加盟国に直接適用されることになる。各国の規定を参照する必要なくなるため、免責の判断に関してはプロバイダ側の負担軽減が見込まれる。

DSAでは、電子商取引指令12~15条を削除し、これらの規定に関する他の指令等での言及は、DSA3~5条、7条への言及として解釈するものとされている(71条)。以下、DSA3~5条、7条の概要を説明する。

仲介サービスのうち、導管サービスのプロバイダは、①自身で送信しないこと、②送信の受信者を選択しないこと、③送信に含まれる情報を選択・修正しないこと、を満たす場合、送信された情報について責任を負わない(3条)。この規定は電子商取引指令12条に相当し、内容に実質的な変更はない。

キャッシングサービスのプロバイダは、①情報を改変しないこと、②情報のアクセスに関する条件を遵守すること、③情報の更新に関する業界ルールを遵守すること、④情報の利用に関するデータを取得するために、業界で広く知られた技術の合法的使用を妨害しないこと、⑤情報が削除・アクセス無効化された場合には、保存している情報を速やかに削除・アクセス無効化していること、を満たす場合、扱う情報について責任を負わない(4条)。この規定は電子商取引指令13条に相当し、内容に実質的な変更はない。

ホスティングサービスのプロバイダは、①違法行為等を知らないこと、又は、②違法と知った場合には、違法なコンテンツを速やかに削除又はアクセス不可の措置をとること、を満たす場合、保管された情報について責任を負わない(5条)。この規定は電子商取引指令14条に相当するが、電子商取引指令にはなかった内容として、オンライン・プラットフォームの消費者法上の責任について、平均的かつ合理的な消費者が、提供されている商品等について、オンライン・プラットフォーム自身やその支配下等にあるサービス受領者によって提供されていると信じるような方法で提供されている場合には免責されない旨の内容がDSAには追加されている(5条3項)。関連して、DSA前文18段では、仲介サービスプロバイダが中立的にサービスを提供するにとどまらない場合(提供された情報を単に技術的・自動的に処理するだけでなく、その情報に関する知識を得たり、管理したりするような積極的な役割を果たす場合)には、DSAの免責は適用されないとされている。

また、プロバイダには、送信又は保存する情報を監視する義務や、違反行為を積極的に探す義務は課されない(7条)。この規定は電子商取引指令15条に相当するが、電子商取引指令では、プロバイダに対して、そのサービス利用者が行った違法行為や提供した違法な情報を管轄当局に通知する義務を課すことを加盟国が定めることができるとしているものの、義務を課すための具体的な要件は定められておらず、加盟国の判断に委ねられていた(電子商取引指令15条2項)。DSAではそのような義務は課されていないが、代わりに犯罪行為が疑われる場合の法執行機関への報告がオンライン・プラットフォームに対して義務化されている(21条)。

さらに、プロバイダの免責に関して、従来の電子商取引指令では、プロバイダによる違法コンテンツへの自主的な対応が免責に影響するのか明示されていなかったために、プロバイダによる自主的な行動が免責要件を満たさない方向に解されるおそれがあった。DSAでは、プロバイダによる違法コンテンツへの自主的な対応やDSAを含むEU法の要件を遵守するために必要な措置を講じている場合には、そのことのみを理由に免責規定の適用から除外されることがないことが規定されている(6条)。この規定により、プロバイダは、違法コンテンツへの自主的な対応により免責を失うリスクを負うことがなくなることになるため、プロバイダによる、EU法の遵守やユーザーの信頼を獲得するための違法コンテンツに対する積極的な自主的対応が可能になることが期待される。

2.3.各サービスを提供するプロバイダに課される主な義務

各サービスを提供するプロバイダには、表1に示すとおり、様々な義務が課される。

【表1】DSAで規定される各プロバイダに課される義務

【表1】DSAで規定される各プロバイダに課される義務
(出典:DSAの条文から筆者作成)

これらの義務のほか、すべてのプロバイダは、重大なシステムリスクが発生し、それが複数の超巨大プラットフォームに関係する場合、行動規範の策定に参加するよう求められることがある(35条)。また、超巨大プラットフォームとその他のオンライン・プラットフォームは、公安や公衆衛生に関する極めて限定された危機的状況に対処するための危機管理プロトコルの作成等への参加が推奨されている(36条)。

なお、オンライン・プラットフォームに課される義務は、零細又は小規模企業(従業員50人未満、かつ、総売上高又は総資産1千万ユーロ以下。勧告2003/361/ECの附属書で規定)には適用されない(16条)。

2.4.デジタルサービス調整官

DSAは、加盟国に対してDSAの適用及び執行に責任を負う管轄当局を1つ以上指定し、うち1つを「デジタルサービス調整官」として指定することを要求している(38条)。以下、デジタルサービス調整官の主な権限等を説明する。

デジタルサービス調整官は、原則としてDSAの適用及び執行に関するすべての事項について責任を負い、加盟国内でのDSAに関する調整や、EU全体でのDSAの効果的かつ一貫した適用及び執行に貢献する責任を負うものとされ、そのために、他の国の管轄当局や、欧州デジタルサービス会議[12]、欧州委員会と定期的な意見交換を行うなど互いに協力することが義務付けられている。

加盟国は、デジタルサービス調整官が公平・透明・適時にDSAに基づく業務を遂行するために、十分な技術的、財政的、人的リソースを確保しなくてはならず、デジタルサービス調整官は外部の影響を受けない完全に独立した行動をしなければならない(39条)。

デジタルサービス調整官は、DSA違反の疑いがある情報を合理的に認識している可能性があるプロバイダ等に対して、その情報の提供や施設の立ち入り検査、説明等を求める調査権限や、DSAの遵守に関連してプロバイダが提示した約束を受け入れ、拘束力のあるものとすること、DSA違反の停止を命じ、必要な救済措置を課すこと、DSA違反の罰金を科すこと、重大な損害リスクを回避するための暫定措置を採用すること、といった執行権限を有している(41条)。

また、デジタルサービス調整官は、「信頼された旗手(trusted flaggers)」の地位を付与する権限を有している(19条3項)。オンライン・プラットフォームには、信頼された旗手から提出された、違法なコンテンツが存在することを示す通知に対しては、優先的に対応する義務が課されている(19条1項)。信頼された旗手となるためには、①違法コンテンツの検出等の専門知識と能力を有していること、②集団的利益を代表し、オンライン・プラットフォームから独立していること、③タイムリーで、勤勉かつ客観的な方法で通知を提出する目的で活動していること、以上3つの要件を全て満たすことを証明する必要がある(19条2項)。

2.5.罰則

DSAに違反した場合の罰則については、詳細は各加盟国で定めるものとし、デジタルサービス調整官の権限に従って実施されるよう適切な措置を講じるものとされている(42条1項)。また、DSA義務違反の罰則は、プロバイダの年収又は売上高の6%を超えてはならず、不正確な情報等の提供などの罰則は年収又は売上高の1%を超えてはならない(42条3項)。また、定期的な罰則の支払いの最大額が前年度の1日当たりの平均売上高の5%を超えてはならないとされている(42条4項)。

超巨大プラットフォームがDSAの義務等に違反した場合の罰則については、別途規定が設けられており、欧州委員会が課すことができるとされている(59条、60条)。罰則の内容はその他のサービスの場合と概ね同様であるが、欧州委員会によるDSA違反行為の停止をもたらすための権限がすべて行使されたにもかかわらず、違反行為が継続し、EU法や加盟国の国内法では回避できない重大な損害が発生した場合、欧州委員会はデジタルサービス調整官に対して、超巨大プラットフォームに違反行為を終了させるための措置等を要求すること及び当該措置等が講じられない場合には一時的なアクセス制限の権限(41条3項)を行使するよう要請することができる(65条1項)。

3.DSAの検討状況

現在、DSAは、欧州議会及びEU理事会で検討中の段階であり、成立には至っていない。2021年5月27日・28日に開催されたEU理事会の競争力理事会会合では、DSAのこれまでの検討状況を示したプログレス・レポートが報告された[13]。プログレス・レポートでは、DSAの必要性について加盟国の間で強い一般的な支持があると記載されているものの、主な政治的課題も示されている。以下では、プログレス・レポートで示されたDSAの主な検討状況・検討課題を紹介する[14]

3.1.執行と執行可能性

加盟国は、電子商取引指令の主要な原則、域内市場の原則(EU域内で他の加盟国の情報サービスの自由移動を制限してはならないという原則)を維持することに対するコミットメントを表明した。

一部の加盟国からは、仕向国の関与の強化や、デジタルサービス調整官の国境を越えた協力体制等の改善が要求された。また、DSA 8条・9条の義務(EUや加盟国の機関からの命令に基づく協力義務)について、国境を越えた場合の国内法に基づく命令を出すための条件や執行可能性、域内市場の原則への影響を明確にすることが求められた。

DSAの施行には新たな監督システムが必要になるが、その実際の機能や既存の行政機関への影響、EU域外に設置されたプロバイダがEU域内でDSAの義務を遵守していない場合の執行可能性の懸念が示された。

3.2.コンテンツ・モデレーション(違法コンテンツに対する対応)

加盟国は、新しい通知・行動手続とユーザーのための救済メカニズム、及びDSAが国内法又はEU法で定義された違法コンテンツに言及していることを広く支持した。また、プロバイダの規模やサービスの影響度に応じて段階的な義務を導入するという非対称的なアプローチも支持された。

あわせて、超巨大プラットフォームに課されるリスクアセスメント義務(26条)が広く支持された。また、一部の加盟国は、基本的権利、特に表現の自由の保護を強化する必要性を強調したほか、DSAの措置が偽情報に取り組むために十分であるかどうか疑問を呈した。

さらに加盟国は、Know-Your-Business- Customerの義務(22条)の導入を広く支持した。また、一部の加盟国は、この義務の範囲について、他のタイプのプロバイダや零細・小規模企業にも拡大することを提案した。

この他、一部の加盟国は、加盟国の当局が「ステイダウン・オーダー」(違法と認定され削除されたコンテンツが再び表示されないよう、プラットフォームに義務付けることができる命令)を出すことができるかどうかを明確にすることを求めた。この点について、オンラインマーケットプレイスにおける偽コンテンツや不適合品の対策として特に重要であると考える加盟国もあった。

3.3.適用範囲と対象

一部の加盟国から、DSAと既存のEU法との関係についての法的安定性を高めるために、主題と範囲を定める1条に関して、提案の対象と範囲をさらに明確にすることが求められた。また、DSAと電子商取引指令との間の相互関係について、さらなる明確化が求められた。

DSAは、オンライン・プラットフォームを提供するプロバイダに課される義務の適用範囲から零細・小規模企業を除外しているが、一部の加盟国からは、零細・小規模企業の定義について、企業の規模や売上高のみに基づくのではなく、デジタル環境に適合させることが求められた。また、提案されている零細・小規模企業の除外では、小規模なプロバイダを介した違法コンテンツの拡散に対処できないのではないかという懸念が示され、一部の加盟国はリスクベースのアプローチを求めた。

3.4.その他

一部の加盟国から、以下のような課題を議論する必要があると示された。

  • 適用範囲を拡大する可能性。
  • 6条(違法コンテンツに対する自主的な行動)が、プロバイダが行動するのに十分であるか、不正使用に対する追加のセーフガードが必要であるか。
  • 信頼された旗手の地位を、集団的利益を代表する必要性を問わず拡大すること。
  • データへのアクセスと調査におけるプロバイダの企業秘密の保護。
  • 裁判外紛争解決メカニズムに関する規定、その料金体系、及びこれらの規定と関連する現行法との整合性。
  • DSAの施行日。

4.日本のデジタルプラットフォーム規制との比較

本稿では、DSAとの比較を行う日本のデジタルプラットフォーム規制として、プロバイダ責任制限法とデジタルプラットフォーム取引透明化法を取り上げる[15]。以下では、各法律の概要を説明したのち、DSAとの簡単な比較を行う。

4.1.プロバイダ責任制限法

4.1.1.制度の概要

DSAのプロバイダの免責規定に相当する法律として、日本では、いわゆるプロバイダ責任制限法[16]

(以下、「プロ責法」という)が2001年に成立し、2002年5月から施行されている。プロ責法は、制定時は1条から4条までという非常に少ない条文で構成される法律であったが、2021年4月に成立した法改正によって、全18条で構成されるものになっている。以下、プロ責法の条番号は、2021年改正後の条番号で記載する。

プロ責法3条では、プロバイダが提供するサービスの利用者等から発信された違法な情報に対して、プロバイダはどのような場合に責任を負うのかが定められている。プロバイダが責任を負うのは、①情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき、又は、②情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき、とされている(プロ責法3条1項)。

また、プロバイダが情報の削除等の措置をした場合に、当該措置により当該情報の発信者に損害が生じた場合であっても、当該措置が必要な限度のものであって、①当該情報の流通によって他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき、又は、②当該情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、その理由を示して削除等の申出があった場合に、当該情報の発信者に対して削除等に同意するか照会し、7日経過しても同意しない旨の申出がなかったときは、プロバイダは当該情報の削除等に対して責任を負わないとされている(3条2項)。

プロ責法5条以下では、違法な情報を発信した発信者情報の開示手続について定められている。開示手続きについては、インターネット上の誹謗中傷などの権利侵害に対して、より円滑な被害者救済を図るために、新たな裁判手続きの創設や開示請求範囲の見直しが2021年改正でなされた。

4.1.2.DSAとの比較

DSAのプロバイダの免責規定の部分とプロ責法とを比較すると、DSAがプロバイダのサービス種別ごとに免責規定を分けているのに対して、プロ責法では特にプロバイダをサービス種別ごとには分けていない点が違いとして挙げられる。もっとも、DSAにおける「単なる導管」サービスやキャッシングサービスに相当するサービスを提供するプロバイダは基本的に責任を負わないこととされていること、また、プロ責法が想定する典型的なプロバイダはホスティングサービスであることから[17]、DSAとプロ責法との比較は、ホスティングサービス(オンライン・プラットフォームや超巨大プラットフォームも含まれる)に関する規定をメインに行うこととする。

DSAでは、ホスティングサービスがオンライン・プラットフォームに該当する場合、一般的な消費者から見て、オンライン・プラットフォームの権限あるいは管理下で提供されていると信じるような態様で情報や商品・サービス等が提供されている場合は、オンライン・プラットフォーム提供者は免責されないと規定されている(DSA 5条)。プロ責法では、プロバイダが違法な情報の発信者である場合には免責されない旨が規定されているものの(プロ責法3条ただし書)、DSA 5条に相当するような条文はなく、DSAのほうが消費者保護に手厚いものとなっている。

また、違法情報の流通の通知手続について、DSAでは、ホスティングサービス提供者に対して、個人や事業者が違法情報であると考える情報がサービスに存在することを通知することができる仕組みを整備する義務が課されている(DSA 14条)。一方、プロ責法では、プロバイダに対してそのような義務は課されておらず、DSAはこの点でもプロ責法に比べて消費者保護に手厚いものとなっている。

さらに、DSAにはプロバイダが監視義務を負わないことが明記されているが(DSA 7条)、プロ責法には、プロバイダが監視義務を負わないことは明文で規定されていない。ただし、総務省は、違法な情報が流通している事実を「知っていた」ことを、プロバイダが責任を負う要件としているのは、そのような事実を知らなかった場合にはその理由を問わず責任が生じないとするものであり、プロバイダに流通する情報の内容を監視する義務がないことを明確にするものと解説しており[18]、明文規定はないものの、プロ責法でもプロバイダに監視義務は課されていないと解される。

上記のほか、DSAには、信頼された旗手からの通知に対して優先して対応する義務があるとする規定や、EUや加盟国の監督機関から違法情報に対する措置命令やサービス利用者の情報提供命令があった場合に対応する義務を課す規定があること等がプロ責法との違いとして挙げられる。

4.2.デジタルプラットフォーム取引透明化法

4.2.1.制度の概要

デジタルプラットフォームの透明性を確保するための法律として、通称「デジタルプラットフォーム取引透明化法」[19](以下、「透明化法」という)が2020年5月に成立し、2021年2月1日から施行されている。

透明化法では、「デジタルプラットフォーム」を、①コンピューターを用いて構築した場であって、②ネットワーク効果が働くサービスを、③インターネット等を通じて提供するサービス、と定義している(透明化法2条)。このようにデジタルプラットフォームを正面から定義した法律は世界的にも珍しい。

透明化法では、デジタルプラットフォームのうち、取引の透明性・公平性の自主的な向上に努めることが特に必要なものを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」と定義し(2条6項、4条1項)、当該事業者に対する規制を定めている。特定デジタルプラットフォーム提供者に該当するかどうかの具体的な基準は政令[20]で定められており、規制の対象になる事業者は経済産業大臣により指名される(4条)。具体的には、政令では表2に示した基準を満たすB2C総合オンラインモールとB2Cアプリストアが透明化法の対象として定められており、2021年4月1日に規制対象となる事業者が指定されている。なお、透明化法において、特定デジタルプラットフォーム提供者が提供するデジタルプラットフォームは、「特定デジタルプラットフォーム」と定義されている(2条6項)。

【表2】透明化法の規制対象

【表2】透明化法の規制対象
(出典:透明化法政令、経済産業省ウェブサイトの公開情報から筆者作成)

透明化法は、特定デジタルプラットフォーム提供者に対する規制として、利用者の理解の増進を図るための提供条件の開示(5条)や、商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために必要な措置(7条)を求めている。提供条件の開示について、「商品等提供利用者」(デジタルプラットフォームを商品等を提供する目的で利用する者)と、「一般利用者」(商品等提供利用者以外のデジタルプラットフォームの利用者)とに分けて、それぞれに対して開示する情報を規定している。また、相互理解促進のための必要な措置については、特定デジタルプラットフォーム提供者の判断に委ねられているが(7条1項)、適切かつ有効な措置の実施に資するため、経済産業大臣は指針を定めることとされており(7条3項)、2021年2月1日に告示として指針が公表されている[21]。5条及び7条において特定デジタルプラットフォーム提供者に課される規制をまとめたものが表3である。なお、表3では、7条で求められている必要な措置について、参考までに指針で示されている各措置の方向性も記載している。

【表3】特定デジタルプラットフォーム提供者に課される規制(透明化法5条・7条)

【表3】特定デジタルプラットフォーム提供者に課される規制(透明化法5条・7条)
(出典:透明化法及び指針から筆者作成)

また、透明化法にはモニタリング・レビューに関する規定が設けられており、特定デジタルプラットフォーム提供者は、毎年度、自主的な取り組みの状況についての報告書を経済産業大臣に提出しなければならない(9条1項)。報告書の記載事項は次のとおりである(9条1項各号)。①事業の概要に関する事項、②苦情の処理及び紛争の解決に関する事項、③5条(提供条件の開示)に基づく開示の状況に関する事項、④7条(相互理解促進のために必要な措置)に基づき講じた措置に関する事項、⑤上記②~④号の事項について自ら行った評価に関する事項。

経済産業大臣は、報告書の提出を受けたときは、あらかじめ総務大臣と協議し(あらかじめ利用者や利用者団体、学識経験者等から意見を聴くこともできる)、報告書に基づいて特定デジタルプラットフォームの透明性及び公平性の評価を行い、評価結果を報告書の概要とともに公表しなければならない(9条2項~5項)。特定デジタルプラットフォーム提供者はその評価結果を踏まえて透明性及び公平性の自主的な向上に努めなければならないとされている(9条6項)。

そのほか、透明化法では、利用者からの経済産業大臣への情報提供(10条)、公正取引委員会との連携(13条)、国外の事業者に適用するための公示送達手続(21条)などが定められているほか、施行後3年を目途に施行の状況や経済社会情勢の変化を勘案して見直しの検討を行い、必要な措置を講ずるものとされている(附則2項)。

4.2.2.DSAとの比較

DSAと透明化法とを比較すると、規制の対象に大きな違いがある。DSAは、プロバイダを仲介サービス、ホスティングサービス、オンライン・プラットフォーム、超巨大プラットフォームの4つに分けて、それぞれの影響力に応じて課す義務の加重を調整しているのに対し、透明化法はデジタルプラットフォームをさらに絞り込んだ特定デジタルプラットフォームのみを規制対象にしている。これは、DSAが日本のプロ責法に規定されるプロバイダの免責規定を定めていることから、対象を絞り込むことは適切でなかったためと見ることもできるが、DSAではオンライン・プラットフォームや超巨大プラットフォーム以外に対しても透明性レポートの提出などの透明性確保のための義務を課しており、また、DSAはオンライン・プラットフォーム、超巨大プラットフォームの具体的な事業内容を問わない一方、透明化法では、今のところオンラインモールとアプリストアのみが規制対象となっており、これらの点を踏まえると、DSAは透明化法と比べて、より消費者保護を重視した規制であると考えられる。

ただし、透明性確保の義務が負担となり、新規参入の障害となることによって、却って市場競争が鈍化し、独占・寡占が進むおそれもあることから、プロバイダに一律に規制をかけることが望ましいとは必ずしも言えない。透明化法の対象となる特定デジタルプラットフォーム提供者の具体的な事業の区分や規模は政令で定められることとされていることから、その改正は、法律の改正ほど時間や労力を要さず、社会情勢を見ながら柔軟に規制対象を拡大あるいは縮小することができる。既にデジタル市場競争会議(内閣に設置されたデジタル市場競争本部の下で開催される会議)の報告書において、デジタル広告市場についても透明化法の対象とする方針が示されており[22]、今後は、オンラインモールやアプリストア以外の事業についても、市場への影響力等を勘案して透明化法の対象となると考えられる。

そのほか、DSAと透明化法とでは、課される義務にも当然ながら細かな違いがあるが、より大きな違いはエンフォースメントに関する規定と考える。DSAでは独立した管轄当局としてデジタルサービス調整官を置くことを加盟国に義務付け、デジタルサービス調整官に強力な権限を与えてDSAの義務が遵守されるようエンフォースメントの体制を構築しようとしている。一方、透明化法は、公正取引委員会等との連携に関する規定はあるものの、基本的には経済産業大臣がモニタリング・レビューを担当することとなっており、職員に立入検査等の調査をさせることができるものの(12条2項)、DSAのデジタルサービス調整官のようなエンフォースメントのために完全な独立性を持って行動することが義務付けられている管轄当局とは言えず、また、デジタルサービス調整官が持つ一時アクセス制限等の強力な権限も与えられていない。透明性の確保の具体的措置は事業者に任される部分が大きいため、強力な執行権限があると事業者が委縮し、過剰な措置を講じてしまうことも考えられるが、透明性の確保は公正な競争が行われているか否かを判断するための基盤になると考えられることから、透明化法においてもエンフォースメント体制の強化を今後検討する必要があるように思われる。

5.おわりに

DSAは、DMAとセットでデジタルプラットフォームの活動を縛るという意味の「規制」として取り上げられることが多いように思われるが、本稿で紹介したとおり、DSAはデジタルプラットフォームに義務を課すだけでなく、EU域内での統一的なプロバイダの免責規定も定めており、デジタルプラットフォームの活動をサポートする側面もある。また、DSAの規制で要求される透明性の確保は、利用者からの信頼を獲得するためにも必要なものであり、デジタルプラットフォーム事業者にとっても、DSAを遵守することによる恩恵はあると考えられる。

DSAの今後の見通しについては、前述したプログレス・レポートにおいてDSAの検討課題が多数挙げられ、引き続き議論が必要であると述べられていること、また、デジタルサービス調整官といった新たなスキームを導入するものであり、EUの既存のプラットフォーム規制を補完するものとして他の規制との調整が必要になると考えられることから、DSAが成立するまでにはまだ時間を要するものと予想される。もっとも、DSAの導入そのものについては加盟国の間で強い支持があることがプログレス・レポートで示されており、内容に多少の変更があるとしても、DSAが成立することはほぼ確実と考えられる。なお、今後の議論で特に注視すべき点としては、DSAの適用範囲の検討が挙げられる。現在の提案内容では、オンライン・プラットフォームに課される義務について、零細・小規模企業は除外されているが、一部の加盟国からは除外する必要性について疑問が呈されている。DSAの適用範囲が変更され、零細・小規模企業も含まれることとなると、日本の企業への影響も大きくなることが予想される。今後のDSAの検討状況についても引き続き注視していきたい。

[1] https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/ TXT/?uri=COM:2020:825:FIN. 本稿で挙げるウェブサイトはすべて2021年6月8日に最終アクセスした。

[2] https://eur-lex.europa.eu/legal-content/en/ TXT/?uri=COM:2020:842:FIN.

[3] European Commission, “Shaping Europe’s Digital Future” (February 2020) https://ec.europa.eu/info/ sites/default/files/communication-shaping-europes- digital-future-feb2020_en_4.pdf.

[4] DSA冒頭の“EXPLANATORY MEMORANDUM”参照。

[5] European Parliament “Digital Services Act: Improving the functioning of the Single Market” (20 October 2020) https://www.europarl.europa.eu/ doceo/document/TA-9-2020-0272_EN.pdf.

[6] European Parliament “Digital Services Act: adapting commercial and civil law rules for commercial entities operating online” (20 October 2020) https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/ TA-9-2020-0273_EN.pdf.

[7] European Commission “The Digital Services Act package” https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/ policies/digital-services-act-package.

[8] European Commission “The Digital Services Act: ensuring a safe and accountable online environment” https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019- 2024/europe-fit-digital-age/digital-services-act- ensuring-safe-and-accountable-online-environment_ en.

[9] Treaty on the Functioning of the European Union.

[10] 株式会社三菱総合研究所デジタル・イノベーション本部「インターネット上の違法・有害情報を巡るEUの動向-Digital Services Act について-」総務省プラットフォームサービスに関する研究会 第24回 資料1(2021)https://www.soumu.go.jp/main_content/ 000738571.pdf。本稿の執筆にあたっても、DSAの規定内容についてはDSAの原案を参照するとともに、この資料の訳を参考にした。

[11] European Commission, supra note 8.

[12] 高官を代表とするデジタルサービス調整官によって構成された独立した諮問会議。DSAの一貫した適用のためにデジタルサービス調整官に対して助言を行う(47条~49条)。

[13] Council of the European Union “Competitiveness Council, 27-28 May 2021” https://www.consilium. europa.eu/en/meetings/compet/2021/05/27-28/.

[14] 以下のDSAの検討状況・検討課題に関する記載は、Council of the European Union “Progress report” (12 May 2021) https://data.consilium.europa.eu/doc/ document/ST-8570-2021-INIT/en/pdf に基づく。

[15] 2021年4月28日に成立した「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」(令和3年法律第32号)にも、必要に応じて販売業者の身元確認を行うといったDSA上の義務と比較できる規定がみられるが、DSAにより近いものはプロバイダ責任制限法とデジタルプラットフォーム取引透明化法と考えられることから、DSAと日本の規制との簡単な比較にとどまる本稿では比較検討の対象から除外した。

[16] 平成13年法律第137号。正式な法律名は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」。

[17] 総務省「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律-解説-」2頁、5頁(2018年6月)https://www.soumu.go.jp/main_content/000671655.pdf。

[18] 総務省・前掲注17・12頁。

[19] 令和2年法律第38号。正式な法律名は、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」。

[20] 令和3年政令第17号。

[21] 特定デジタルプラットフォーム提供者が商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図るために講ずべき措置についての指針(経産省告示第16号)。

[22] デジタル市場競争会議「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」36-39頁ほか(2021年4月27日)https://www.kantei.go.jp/jp/singi/digitalmarket/ kyosokaigi/dai5/siryou3s.pdf。

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