オハイオ州がGoogleを公益事業者指定すべきとして提訴
オハイオ州は2021年6月8日、Googleに対する訴訟をデラウェア郡裁判所に提起したと発表した。これは「Googleを公益事業者[1]に指定する」ことを求める初の事案である。本稿では同訴訟の概要を紹介する。
1.2020年末の反トラスト訴訟との違い
米国では2020年10月から12月にかけて、連邦司法省や州政府が原告となり、計3件のGoogleに対する反トラスト訴訟が提起された(表1参照)。内容はそれぞれ少しずつ異なるが、いずれも「検索市場」や「デジタル広告市場」における独占化行為や反競争的な取引制限が、連邦の反トラスト法(シャーマン法)に抵触しているとして、構造的な是正措置や損害の賠償等を求めたものである。
それに対して今回のオハイオ州の訴訟は、州法の下で、Googleが公益事業者であることを「宣言」し、競争事業者を公平に取り扱う義務を負っていることを明らかにすることを裁判所に求めるものである。一連のGoogleに対する訴訟とは若干毛色の異なる本事案の内容を解説してみたい。
2.公益事業者指定
オハイオ州の要求の1つ目は、「Google検索は公益事業」であり、「検索サービスを提供するGoogleは公益事業者」であることを裁判所が宣言すべきであるというもの。
その根拠として、州民の大半がインターネットを利用しており、かつ、そのほとんどのユーザーがGoogle検索を利用している点を挙げている。訴状では、StatCounterのデータ[2]を引用し、オハイオ州内におけるインターネット検索市場(パソコン、モバイル、タブレット端末を含む)において、Googleが「2017年、2018年、2019年は85%以上」、「2020年、2021年は88%以上」のシェアを有しており、そのシェアは拡大傾向にあるとしている。またモバイル端末からの検索に限定すれば、2016年以降、常時90%以上のシェアを有していたとも指摘している。
このように、極めて多くのユーザーに利用されているGoogle検索が、どのように運営されるのかは、オハイオ州民にとって、公共の関心事になっているのだという論理である。
また、サービスが無料で提供されていることも、公益事業指定を主張する論拠になっている。訴状では「Google検索を使用するために人々は、契約書にサインしたり、特定のデバイスを購入したり、料金を支払う必要はない。Googleは検索サービスをパブリックに対して無差別(indiscriminately)に提供している。Google検索を利用するには、タイプして、クリックして、待つだけで良い」と記している。
サービスが有料で提供される一般的な市場では、新規参入事業者が、低価格戦略でシェアを拡大することができる。しかしながら、もともと無料でサービスが提供されている検索市場では、価格での差別化ができないため、サービスの質で勝負をするほかない。ところが、アルゴリズムにより結果を導き出す検索サービスにおいては、数多く利用されることこそが、精度の向上につながる。したがって、検索市場における市場支配力は、アルゴリズムのさらなる向上という「好循環(virtuous cycle)」をもたらし、Googleの市場支配力を確実なものにしていくことになるというのである。オハイオ州は「予見可能な未来において、Googleがインターネット検索のドミナント事業者でなくなることは、極めて考えにくい」と指摘している。
オハイオ州は本訴訟において、インターネット検索市場におけるGoogleの市場支配力の是非を問題にしていない。良い・悪いは別として、検索市場においてGoogleがドミナントであるという事実を受け入れ、Googleをオハイオ州法における公益事業者に分類することを求めているのである。
3.公平な取り扱い義務
オハイオ州の要求の2つ目は、公益事業者であるGoogleに対し、公平な取り扱い義務がかかることを確認することである。
Googleは広告でマネタイズされる検索サービスの提供事業者であるとともに、さまざまな情報、製品、サービスの提供事業者であるという側面もあわせ持っている。公益事業者として検索サービスを提供するGoogleには、すべてのソースの情報を無差別に取り扱う義務があり、Google自身の製品やサービスを優先するようなアルゴリズムを採用することは認められない、というのがオハイオ州の立場である。
訴状によればGoogleはしばしば、自社の製品・サービスに関する情報を、ユーザーが求める「オーガニック検索結果(organic search results)[3]」よりも目立つ形で表示させている。ほとんどの検索ユーザーは(とりわけモバイル端末の場合は特に)、検索結果の上の方に表示されるリンクや目立つ形で表示されるリンクをクリックする傾向がある。したがって、自社の製品・サービスをオーガニック検索結果よりも目立つように表示させることは公益事業者の義務に抵触するというのである。
オハイオ州は、こうしたアレンジメントの結果、Google検索の多くが、いわゆる「ノークリック検索[4]」になっていると指摘している。「ノークリック検索」とは、検索を行ったものの、表示された検索結果のリンクがクリックされなかったもの、あるいは、YouTube、Googleフライト、Googleマップ、Googleニュース、Googleショッピング、Googleトラベルなど、他のGoogleプラットフォームへのリンクがクリックされる結果になったものを指す言葉である。
2019年にオハイオ州内で行われたインターネット検索のうち、モバイル端末では55%以上、モバイル端末以外では約50%がノークリック検索であったという。また、2020年のGoogle検索件数のうち、Googleプラットフォーム以外につながるリンクがクリックされたのが全体の33.59%、スポンサーの広告がクリックされたのが1.59%、残りの64.82%はノークリック検索であったというデータも紹介している[5]。
Googleは「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」を自社の使命であると公言している。しかし実際には、情報の表示において、自社サービスを優遇するような操作を行っていて、検索の2/3近くは、Google自身が提供している情報につながっていると、指摘しているのである。
4.まとめ
近年米国ではGAFAなどのプラットフォーマーに対する規制を求める動きが活発化してきている。そうしたなかで、検索などの公益性の高い事業を他のビジネスと峻別できるようにして、非差別的な取り扱い義務を課すべきであるとする主張自体は、目新しいものではない。しかしながら、州法を根拠として現実に公益事業者指定を求める法的手続きはこれが初のケースであり、今後どのような結果につながるのかが注目されるところである。
また、検索以外の事業も含めて垂直統合型のビジネスを行っていることの弊害として、いわゆる「ノークリック検索」の問題に脚光を当てている点も目を引くところである。
もっとも「ノークリック検索」の数値には、「表示された検索結果が期待していたものと異なっていたために再度検索した」あるいは「検索をあきらめた」というケースも多分に含まれていると考えられる。したがって「検索の大部分が結局のところGoogle自身のサービスへの接続になっている」ことを問題として追及するためには、ユーザーが何もクリックせずに立ち去ったケース(本当の意味での「ノークリック検索」)と、他のGoogleプラットフォームへのリンクをクリックしたケースを分計する必要があると考えられる。
今回の訴訟をきっかけとして、そのような数値が開示されることになれば、検索市場におけるGoogleの影響力を評価するための有益なデータになるだろう。
[1] 訴状原文では“common carrier”(コモンキャリア)と“public utility”(公益事業者)の語が混在して使用されており、登場頻度は“common carrier”の方が高い。しかし、本訴訟は米国の連邦通信法における「コモンキャリア規制」の対象とすることを求めるものではなく、オハイオ州法下で非差別的な取り扱い義務を課そうという試みである。そのため意味の混同を回避するため、本稿では「コモンキャリア」ではなく「公益事業者」の言辞を使用する。
[2] StatCounter Global Statistics (https://perma.cc/GA9N-BS4B)
[3] 「Google検索において、検索用語に関連することから表示される無料のリスティング」と説明されている。
[4] 訴状では、より正確には“Captured Clicks”と呼ぶべきだと記しているが、一般的な認知度が低い用語であるため、本稿では“no-click search”(ノークリック検索)の用語を用いる。
[5] Perma.cc(https://perma.cc/54MQ-FHND)
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清水 憲人 (Norito Shimizu)の記事
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