2021年8月11日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

コロナ禍における観光業界のデジタル技術を活用した取り組み



新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の感染拡大によって多くの業界がダメージを受け、変革を迫られている。その中でも観光業界は最も大きな影響を受けた業界の一つであり、失われた需要を喚起するため、様々な取り組みを行っている。以下では、観光を取り巻く現状と今後について展望する。

インバウンド観光の状況

日本を訪れる外国人観光客は新型コロナが発生するまで年々増加しており、政府は2017年3月に閣議決定した「観光立国推進基本計画」の中で、2020年までに訪日外国人旅行者数を4,000万人にするという目標を掲げていた。これに従い、具体的な取り組みとしてビザの緩和や免税制度の拡充、ICTを活用したプロモーションやWi-Fi等通信環境の整備、多言語対応など官民が連携した取り組みを推進することによって2019年まで過去最高の訪日外国人観光客数を更新していた。ところが、2020年は新型コロナの世界的な流行に伴い移動が制限され、観光客数は大きく減少し、412万人[1](対前年87.1%減)となった(図1)。

【図1】訪日外客数※(2015~2020年)

【図1】訪日外客数※(2015~2020年)
(出典:日本政府観光局(JNTO)データをもとに作成)

国内観光の状況

国をまたぐ移動だけではなく、都道府県をまたぐ移動についても自粛が呼びかけられ、国内旅行をする人も減少した。特に1回目の緊急事態宣言が出された期間である2020年4-6月については大きく減少し、1人当たりの平均宿泊旅行回数(帰省や出張を含む)は0.13回となった。さらに「観光・レクリエーション」「帰省・知人訪問等」「出張・業務」に分けてみると、「観光・レクリエーション」が宿泊旅行全体の約半数を占めており、宿泊旅行回数が大きく減少した主な要因となっている(図2)。なお、2020年7月以降は例年の7~8割程度にまで回復している。

【図2】1人当たり平均宿泊旅行回数(2015~2020年)

【図2】1人当たり平均宿泊旅行回数(2015~2020年)
(出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」データをもとに作成)

こうした状況もあり、政府は失われた旅行需要を回復させるため、Go Toトラベル事業を2020年7月22日に開始した[2]。これは国内旅行を対象に宿泊・日帰り旅行代金の35%を割り引くとともに、15%相当分の地域共通クーポンを付与するというものである。観光庁によると、Go Toトラベルを利用した旅行は少なくとも約8,781万人泊であり[3]、一定程度の効果があったことがわかる。

しかし、新型コロナの感染が再び拡大したため、11月24日以降、地域ごとに同事業の一時停止が発表され、12月28日からは全国一律の一時停止措置が取られている。Go Toトラベルの利用者で新型コロナの陽性が判明した人は411名[4]となっており、やむを得ない措置と言える。ただ、11月20日に開催された新型コロナウイルス感染症対策分科会(第16回)の資料[5]には「Go To Travel事業が感染拡大の主要な要因であるとのエビデンスは現在のところ存在しない」とも記載されており、密にならない工夫とともに再開されることが待たれる。

次に、新型コロナの影響が最も顕著に表れている2020年4-6月について、性・年代別に宿泊旅行の状況を確認すると、20代の男性が最も多く、他の年代のほぼ2倍となっている。特に目的別では「観光・レクリエーション」が突出しており、この時期に20代の男性のおよそ5人に1人が観光目的の宿泊旅行に行っていたことになる(図3)。最近も各地の繁華街で若者の姿が目立っているが、コロナ禍初期の旅行についても同様に若者が多かったことがわかる。また、「帰省・知人訪問等」は女性と中高年男性が多く、「出張・業務」は男性が多いという特徴がある。

【図3】平均宿泊旅行回数(2020年4~6月、性・年代別)

【図3】平均宿泊旅行回数(2020年4~6月、性・年代別)
(出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」データをもとに作成)

デジタル技術の活用

新型コロナによって観光を取り巻く状況が大きく変化する中、デジタル技術を活用した取り組みが増えてきている。その一つがオンラインツアーであり、自宅からZoom等を活用することで観光地の様子を見て回ったり、現地の人と交流したりすることができるというものである。1回60~90分程度で料金は3,000~5,000円程度となっている。新型コロナ禍で自粛が求められる中においても観光気分を味わいたいという層のニーズを取り込み、オンラインツアー専用の検索サイトまで登場している[6]。大手旅行代理店だけではなく、地元密着のバス会社等もサービスを提供しており(表1)、例えば、琴平バス株式会社は、現地のガイドとライブ中継を行うことによって観光地にいるような臨場感を演出するとともに、旅行先の特産品が宅急便で届くプランとなっている。

【表1】オンラインツアーの開催状況

【表1】オンラインツアーの開催状況
(出典:各種公開情報をもとに作成)

また、トラベルズー・ジャパン株式会社が実施したアンケート調査[7]によると、オンラインツアー参加の目的では「将来の旅行の情報収集/旅の予習(65.1%)」が最も多く、次いで「オンラインツアー自体への興味(43.0%)」「リアルな旅行の代替(34.9%)」となっている。単にリアルな旅行を代替するものではなく、オンラインツアーだからこその楽しみ方があり、オンラインだから参加できる人もいるため、コロナ後のビジネスとしても十分な可能性が考えられる。

ただ、リアルな旅行の代替と考える層にとっては、現地の空気を感じながら自分の好きなところを自由に散策できない点や没入感などがまだまだ十分ではなく、改善・工夫の余地があると言える。その点については、VR(Virtual Reality)を活用したサービスや、仮想空間内に観光地等を再現し、自分の分身を使ってバーチャルな旅行を楽しむサービス、リアル空間にある分身ロボットを操作することで自由な散策を可能にする方法などが模索されており、今後の発展が期待される。その一つとして、海外のユニークな取り組みを紹介する。

デンマークの自治領であるフェロー諸島は18の島々からなり、自然豊かな絶景を楽しむことができるため、新型コロナ流行前は島外から多くの観光客が訪れていた。しかし、自治政府は新型コロナの感染拡大を避けるため島外からの訪問を禁止し、観光局がオンラインで島を散策できるリモート・ツーリズムを始めた。面白いのは、カメラを頭につけたガイドが登場し、参加者がそのガイドを画面上のコントローラーで操作することができる点である。進行方向や動作(走る・ジャンプする等)を指定することに加えて、カヤック、乗馬などを楽しむことができる(図4)。2020年6月17日までに22回開催され、ユニークな取り組みとして注目された。

【図4】フェロー諸島でのリモート・ツーリズムの様子

【図4】フェロー諸島でのリモート・ツーリズムの様子
(出典:リモート・ツーリズムHP https://www.remote-tourism.com/)

観光地域づくり法人(DMO)の取り組み

オンラインツアーではなくリアルな観光を想定した場合、多くの観光客は複数の観光スポットを巡るものであり、観光客を増やすためには1地点に限るのではなく、各地の魅力的な観光資源・コンテンツを活かしつつ、広域で連携した取り組みが求められる。そのためには、複数の地域で協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを推進する必要がある。観光庁では、このような考えのもと、日本版DMO(DestinationManagement/Marketing Organization)の形成・確立を支援するため、観光地域づくり法人(DMO)を登録する制度を創設している[8]。2016年2月に初めて日本版DMO候補法人として24団体が登録され、2021年3月末時点では「広域連携DMO」10団体、「地域連携DMO」92団体、「地域DMO」96団体の計198団体が登録されている。DMOに求められる役割・機能として「各種データ等の継続的な収集・分析、データに基づく明確なコンセプトに基づいた戦略の策定」があり、データやデジタル技術を活用した様々な取り組みが進められている(表2)。

今日、データは「21世紀の石油」とも言われ、その重要性が認識されつつある。今後は観光業界でもDMOを中心としてデータの活用が進み、きめ細やかなニーズ把握や施策の実施が可能になると期待される。

まとめ

新型コロナ禍で懸念される人と人との接触や密を避けるため、デジタル技術の活用は進んでおり、大きな打撃を受けた観光業界においてもオンラインツアーやデータ活用の取り組みが盛んになっている。オンラインツアーについては、リアルな旅の目的地を決める際の予習という位置づけもあり、アフターコロナにおいても一定の需要が残ることが十分に考えられる。また、オンラインならではの楽しさや人々を魅了するサービスが実現できれば更なる需要拡大の可能性も秘めている。

当面の間、これまでのように人々を1カ所に集めて効率的にサービスを提供するのではなく、時間・場所などいろいろな形で人々を分散させてサービスを提供することが求められる。そのため、デジタル技術を駆使することで新型コロナによって変化したニーズや人々の行動を詳細に把握し、新たな観光サービスを実現していくことが期待される。アフターコロナにおける日本の観光がさらに魅力的なものになるため、デジタル技術を活用した観光業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)が今、求められている。

[1] 2020年1~2月で375万人であり、3月以降は壊滅的な影響を受けた。

[2] 東京都を発着する旅行については10月1日から対象となった。

[3] 観光庁「Go To トラベル事業の利用実績等について」https://www.mlit.go.jp/kankocho/news06_000499. html

[4] 観光庁「令和3年版観光白書」https://www.mlit.go.jp/statistics/file000008.html

[5] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/bunkakai/ corona16.pdf

[6] 例えば、「ONTABI(オンタビ)」では、25以上のサイトが取り扱う1,200件以上のオンラインツアーを網羅的に検索できる。

[7] https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054. 000045034.html

[8] 登録された法人および連携して事業を行う関係団体に対しては、観光庁をはじめ関係省庁が連携して支援を行うことになっている。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

ITトレンド全般 年月別レポート一覧

2022 (19)
2021 (63)
2020 (61)
2019 (63)
2018 (78)
2017 (26)
2016 (25)
2015 (33)
2014 (1)
2013 (1)
2012 (1)
2010 (1)

InfoCom World Trend Report

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

ICR|株式会社情報通信総合研究所 情報通信総合研究所は情報通信のシンクタンクです。
ページの先頭へ戻る
FOLLOW US
FacebookTwitterRSS