2021年12月13日掲載 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

York University v. Access Copyrightカナダ最高裁判決の概要と検討: ~カナダ著作権法における「利用者の権利」



1.はじめに

日本を含めて世界的にみて、著作権の権利制限規定は著作権者の権利を一定の場合に制限する例外的なものであり、著作権者の主張に対する抗弁として著作物の利用者が主張するものと一般的には認識されている。一方、カナダの最高裁判所は、カナダ著作権法の権利制限規定の一つであるフェア・ディーリング規定は「利用者の権利(User's Right)」であると判示する判決を複数出している。2021年7月末にも、York University v. Access Copyright最高裁判決[1](以下、「York判決」という)において、フェア・ディーリングは「利用者の権利」であると明言された。York判決では過去の裁判例等を引用し、「利用者の権利」としてのフェア・ディーリングの解釈が判示されており、本判決を検討することで、カナダ著作権法における「利用者の権利」概念の明確化につながると考えられる。

本稿では、近時の最高裁判決であるYork判決の分析を通して、カナダ著作権法における「利用者の権利」の現状について検討する。

2.フェア・ディーリングの概要と「利用者の権利」を扱った過去の最高裁判例の概要

本節では、York判決を読み解く前提として、カナダ著作権法のフェア・ディーリング規定の概要と、フェア・ディーリングを「利用者の権利」として扱った3つの最高裁判例の概要をまとめる[2]

2.1 フェア・ディーリングの概要

カナダ著作権法[3](以下、条文番号のみを示す場合はカナダ著作権法の条文番号を表す)は、29条から32.2条まで(その間には枝番の条文が多数存在する)に権利制限規定を置いている。私的目的の複製(29.22条)、教育施設における利用(29.4条~30.04条)、図書館等における利用(30.1条~30.21条)など、日本の著作権法にもみられるような、いわゆる個別権利制限規定がみられる一方で、権利制限規定の冒頭の29条~29.2条には、抽象度の高い権利制限規定であるフェア・ディーリング規定が定められている。York判決において「利用者の権利」として言及されているのは29条であるため、ここでは29条のみ以下に条文を示す[4]

(研究、私的調査等)
第29条 研究、私的調査、教育、パロディ又は風刺を目的とした公正使用は、著作権侵害を構成しない。

29条は2012年に改正されており、その際にフェア・ディーリングの目的として、「教育、パロディ又は風刺」の部分が追加されている[5]

フェア・ディーリングの適用を判断するにあたっては、CCH判決[6]で示された手法が用いられている。CCH判決は、フェア・ディーリングを判断するにあたって、二段階のテストを採用した。第一のテストとして、条文に示された目的に該当する利用であること、第二のテストとして、取引が公正であることを証明する必要があることである。第二のテストについては、(1)取引の目的(第一のテストと区別するために、「取引の目標(goal of the dealing)」と呼ぶ慣行がある)、(2)取引の性質、(3)取引の量、(4)取引の代替性、(5)著作物の性質、⑥著作物の取引に与える影響の各要素を分析するものとされている[7]。York判決を含む一連の判決においても、CCH判決の基準が採用されている。

2.1.1 CCH判決

CCH判決(2004年)は、法律系図書館(Great Library)が利用者の求めに応じて文献を複写して郵送するサービスを行っていたことにフェア・ディーリングが認められるかが争われた事例である。29条の「研究」の解釈が争われ、最高裁は全員一致で本事案のサービスは「研究」に含まれ、フェア・ディーリングが適用されると判示した。McLachlin判事による法廷意見では、「利用者の権利」について、次のように述べられている。

……フェア・ディーリングの例外は、単なる抗弁というよりも、著作権法の不可欠な部分としてより適切に理解されるべきである。フェア・ディーリングの例外に該当する行為は、著作権の侵害にはならない。フェア・ディーリングの例外は、著作権法の他の例外と同様に、利用者の権利である。著作権者の権利と利用者の利益との間の適切なバランスを維持するためには、〔フェア・ディーリングは〕制限的に解釈されてはならない[8]。(下線強調および〔〕内筆者。以下同様。)

このような認識の下、29条の「研究」の解釈にあたっては、利用者の権利が過度に制約されることがないよう、拡大的、リベラルに解釈されなければならないとした[9]

2.1.2 SOCAN判決

SOCAN判決[10](2012年)は、音楽ファイルをダウンロード販売するオンライン配信サイトにおいて、購入前に音楽ファイルの30秒から90秒の試聴を提供することにフェア・ディーリングが認められるか争われた事例である。CCH判決と同じく、29条の「研究」の解釈が争われ、最高裁は全員一致で本事案のサービスは「研究」に含まれ、フェア・ディーリングが適用されると判示した。

Abella判事による法廷意見では、最高裁は、Théberge判決[11]において、著作権には公共の利益を促進することと創作者が正当な利益を得ることのバランスが必要であると指摘し、この指摘は著作者や著作権者の独占的権利に焦点をあてた従来の著作者中心の枠組みからの脱却を反映しているとする。また、著作権が公共の利益を促進する上で果たす重要性に注目し、著作物の普及が文化的・知的パブリックドメインを発展させるにあたって中心的な役割を果たすことをThéberge判決は強調しているとした上で[12]、「利用者の権利」としてのフェア・ディーリングに関して、以下のように述べている。

CCH判決は、利用者の権利は、著作権法の公益目的を促進するために不可欠なものであることを確認している著作権法において保護とアクセスの適切なバランスを達成するために採用された手段の一つが、フェア・ディーリングの概念であり、これにより利用者は、著作権侵害となる可能性のある一部の活動に従事することができる。これらの利益の適切なバランスを維持するために、フェア・ディーリングの規定は「制限的に解釈されてはならない」(CCH判決)[13]

このような認識の下、29条の「研究」の解釈について、利用者又は消費者の視点から検討し、消費者は購入する音楽を特定するための「研究」を行う目的で試聴を使用したと判断した[14]

2.1.3 Alberta判決

Alberta判決[15](2012年)は、教員により作成された教科書等の短い抜粋の複製が、フェア・ディーリングの「研究又は私的調査」目的であったかが争われた事例である(Alberta判決は2012年の法改正前の事例であり、「教育」は29条に含まれていなかった)。最高裁は、5対4の僅差[16]で本事案にはフェア・ディーリングが適用されると判示した。利用者の権利について、以下のように述べている。

……フェア・ディーリングは「利用者の権利」であり、そのフェア・ディーリングがCCH判決の第一のテストで許容される目的のために取引が行われているかどうかを検討する際の関連する視点は、利用者の視点である。……しかし、これは、複製の目的が公正性のテストに無関係であることを意味するものではない。……複製者が、利用者が許容される目的という盾の後ろに隠れて、取引を不公正にする傾向がある別の目的に用いる場合には、その別の目的も公正性の分析に関連してくる[17]

このような認識の下、本事案では、教員に隠れた別の目的は存在せず、教員が複製物を提供する目的は、生徒が研究の目的のために必要な資料を手にできるようにすることであるとして、指導(教育)と「研究又は私的調査」とは、学校という文脈ではトートロジーであるとした[18]

InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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3.York判決の概要
4.検討
5.おわりに

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

1.York University v. Canadian Copyright Licensing Agency (Access Copyright), 2021 SCC 32.

2.以下で紹介するCCH判決およびSOCAN判決の概要を日本語で紹介するものとして、谷川和幸「カナダ著作権法における『利用者の権利』としての著作権制限規定」情報法制研究4号57-68頁(2018)。

3.Copyright Act (R.S.C., 1985, c. C-42).

4.カナダ著作権法の日本語訳は、財田寛子訳「外国著作権法:カナダ編」公益社団法人著作権情報センター(2017年3月)(https://www. cric.or.jp/db/world/canada. html, 2021年10月22日最終閲覧)を参照した。なお、2017年以降、カナダ著作権法は何度か改正が行われているが、本稿で扱うフェア・ディーリング規定についての改正は2012年以降行われていないため、本稿でカナダ著作権法を引用する場合は、当該日本語訳を用いた。

5.2012年改正前の29条は、「研究又は私的調査を目的とした公正使用は、著作権侵害を構成しない。」というものであった。

6.CCH Canadian Ltd v. Law Society of Upper Canada, 2004 SCC 13, [2004] 1 S.C.R. 339 [CCH].

7.CCH, paras 50-60.

8.CCH, para 48.

9.CCH, para 51.

10.Society of Composers, Authors and Music Publishers of Canada v. Bell Canada, 2012 SCC 36, [2012] 2 S.C.R. 326 [SOCAN].

11.Théberge v. Galerie d’Art du Petit Champlain inc., 2002 SCC 34, [2002] 2 S.C.R. 336.

12.SOCAN, paras 8-10.

13.SOCAN, para 11.

14.SOCAN, para 30.

15.Alberta (Education) v. Canadian Copyright Licensing Agency (Access Copyright), 2012 SCC 37, [2012] 2 S.C.R. 345 [Alberta].

16.ただし、反対意見は、複製の主な目的は生徒を指導・教育する過程で利用することであり、「研究又は私的調査」とは言えないという点に重点が置かれていると考えられる(See Alberta, paras 43, 49)。この点については、2012年の改正により29条の目的に「教育」が加わったことから、本件の反対意見は現行法にそのまま当てはまるものではないだろう。

17.Alberta, para 22.

18.Alberta, para 23.

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