2022.1.11 ICT経済 InfoCom T&S World Trend Report

シェアリングエコノミーの成長期待と事業連携のビジネスチャンス

日本におけるシェアリングエコノミーは多くの社会課題の解決につながるものとして期待されつつも、米国や中国に比べて成長が遅れていたが、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)の影響で状況が大きく変化した。利用者が増加し、今後の成長期待は高まっている。これによりシェアサービス事業者と他分野の企業の事業連携によるビジネスチャンスが拡大している。

本稿では、まずシェアリングエコノミーの市場規模予測と今後の成長分野を示す。そして、成長の背景にある様々な価値を説明した後、事業連携によるビジネスチャンスについて述べる。

なお、ここで扱うシェアリングエコノミーは表1に示したシェアサービスを対象としている[1]

【表1】各シェアサービスの説明とサービス例

【表1】各シェアサービスの説明とサービス例
(出典:情報通信総合研究所作成)

シェアリングエコノミーの市場規模予測

シェアリングエコノミーの国内市場規模は2020年度の2兆円から、2030年度で14兆円[2]を超える見通しである(図1)。これは現時点での業界規模ランキング22位の鉄鋼業界14兆円[3]並みの規模であり、シェアリングエコノミーが日本市場全体の上位を占める主要な業界の一つになると言っていいだろう。なお、10年間の増加額12兆円は携帯電話サービス業界の市場規模12.7兆円に匹敵する規模である。

【図1】シェアリングエコノミー市場規模予測

【図1】シェアリングエコノミー市場規模予測
(出典:情報通信総合研究所「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」)

高成長の一因として、新型コロナをきっかけとしてシェアサービスのユーザー(資産・サービスの提供者と利用者の双方)が増加したことがある。

資産・サービスの提供者では、ブランドバッグや高級家電等を貸す「モノ(レンタル)」[4]、自宅の部屋等を旅行者に貸す「スペース(民泊)」、マイカーを貸す「移動(カーシェア)」等が増加した。新型コロナによる収入減少への対応策としてシェアサービス活用が拡大したとみられる。個人がサービス提供によって収入を得られる点は、既存サービスと異なるシェアサービスの特徴の一つであり、これが新型コロナ対応に貢献したといえる。

資産・サービスの利用者では、飲食店から料理を配送するサービス(主にUber Eats)を含む「移動(その他)」、個人事業主等が寄付を集められるクラウドファンディングを含む「お金(その他)」が増加した。新型コロナ感染リスクを避ける目的や新型コロナによる困窮対応の目的でユーザーが拡大したといえる。

シェアサービスは最初に利用する際の心理的なハードル(個人間取引に対する不安感等)が高いものの、使ってみると利用価値が実感できるため利用が増えるという特徴がある。このため、新型コロナへの対応をきっかけにシェアサービスユーザーが増えたことが、今後の成長加速につながるのである。

今後の成長分野

2030年度の市場規模約14兆円をカテゴリ別にみると,「スペース」「モノ」「スキル」の順に大きい(図2)。

【図2】カテゴリ別シェアリングエコノミー市場規模予測

【図2】カテゴリ別シェアリングエコノミー市場規模予測
(出典:情報通信総合研究所「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」)

中でも成長分野といえるのは、2020年度からの伸び幅が大きい「スペース」「スキル」である。両者が伸びる要因は多様な働き方・住み方にフィットすることにある。「スペース」シェアと非対面型の「スキル」シェアを組み合わせれば、どこにいても都合の良い時間に仕事ができる。

新型コロナをきっかけとして社会がオンライン化する中で、場所と時間に縛られない働き方・住み方が可能なことが知れ渡ってきた。個人毎の好みに合わせて場所と時間を自由に使える生活に価値を感じた人は、たとえ新型コロナが撲滅されたとしても同様の生活を続けようとするため、「スペース」「スキル」の需要は拡大が続くと見込まれる

また、将来新型コロナの脅威が収まっても、オンラインからリアルへ戻るのではなく、オンラインとリアルをうまく組み合わせるようになると予想される。リアルで必要となる資産は、自分で所有して維持・管理コストをかけるよりも、シェアして使う方が効率的である。このため、シェアサービス全体のニーズが拡大することが期待できる。

シェアリングエコノミー拡大の背景にある様々な価値

シェアリングエコノミーの市場規模が拡大する背景には、幸福度の増進効果や社会的孤立防止効果等、シェアリングエコノミーが様々な非経済的価値をもたらすことがある。

中でも、最近注目度が増しているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への貢献効果は重要である。SDGsでは17の目標が掲げられており、それぞれの内容は多様である。多様なサービスを含むシェアリングエコノミーはそれらの多くに貢献する(表2)。

【表2】シェアリングエコノミーのSDGs貢献効果の例

【表2】シェアリングエコノミーのSDGs貢献効果の例
(出典:情報通信総合研究所「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」)

特に、既存の建築物や製造物をシェアして使う(中古品を使う)ことで、新品を購入する人が減る効果及び、ゴミが減少する効果によりCO2排出量の削減が期待でき、結果として気候変動対策につながる。

アンケート調査[5]で確認したところ、スペース・モノ・移動のシェアサービス利用によって、新品の購入が減ったという回答割合が25.7%、ゴミが減少したという回答割合が25.6%であった。シェアサービス利用は持続可能な消費スタイルへの変化を促すことがうかがえる。シェアリングエコノミーの普及は気候変動対策として一定の効果があるといえるだろう。

事業連携のビジネスチャンス

日本では、米国や中国のように新興のシェアサービス事業者(Uber、Airbnb、didi等)が既存事業者を駆逐するデジタルディスラプションが生じ難い。これは、既存事業者のサービス品質が高いことや、個人間取引を不安視する人が多いといった日本の特徴が影響している。日本では、シェアサービス事業者は単体で成長するよりも他企業と連携する方が有効である。つまり、シェアリングエコノミーの市場規模拡大は、シェアサービス事業者以外のビジネスチャンスの拡大にもつながる。

他企業がシェアサービス事業者と連携する際のポイントは、既存ビジネスをうまくシェアサービスと組み合わせることにある。

事業連携の例としてはマイカーをシェアする「Anyca」がある。SOMPOホールディングスがDeNAと共同でDeNA SOMPO Mobilityを設立し、元々DeNAが運営していたカーシェア「Anyca」事業を移管して運営している。SOMPOグループは自動車保険の情報(保険加入者が保有している自動車の車種の情報)を持っているので、「Anyca」で人気の車種を持っている人が分かる。このため、人気の車種を持っている人に「Anyca」サービスを薦めることができる。つまり、既存ビジネスの情報リソースを使って、シェアサービスのプラットフォームに優良な資産を集めることができるのである。

また、SOMPOホールディングスは駐車場シェア「Akippa」も関連会社化している。SOMPOグループは自動車保険解約の情報をもとに自宅の駐車場に空きができる人を把握可能だ。つまり、駐車場が空いている人に「Akippa」サービスを活用した収入拡大を薦めることができるわけである。これもまた、上述の「Anyca」と同様の情報リソース活用によるビジネス拡大である。

他にも、米国では家具販売のIKEAが「スキルシェア(対面型)」の「TaskRabbit」を買収した事例がある。IKEAでは家具を安く買えるが、自分で家具を組み立てなければならない。その組み立てに安価なシェアサービスを活用するのは有効である。

以上のように、既存のビジネスとシェアサービスのシナジーを生むことで、大きなビジネスチャンスをつかむことができるといえる。

まとめ

本稿では、新型コロナ後のシェアリングエコノミー市場は大きく拡大することが期待され、シェアサービス事業者と他分野企業の連携にビジネスチャンスがあることを述べた。連携を図るサービス分野を検討する際等に有用な情報(より細かいサービスレベルの市場規模予測等)が「2021年シェアリングエコノミー調査報告書」(https://www.icr.co.jp/publicity/3703.html)で確認可能である。興味のある読者はぜひ購入されたい。

リンクバナー「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」

補足1:アンケート調査の概要

本稿で参照したアンケート調査の概要は以下のとおりである。表1、図1に示した市場規模もこのアンケート調査結果を活用して推計している。

調査手法Webアンケート調査
(プレ調査、本調査の2段階)
調査対象調査会社のWebモニター、
20代~60代の男女
調査時期2020年10月14日~26日
有効回答数プレ調査29,949、本調査2,613

[1] 移動のシェアの中の相乗りは市場規模に含まれない。

[2] これはシェアリングエコノミーの認知度の低さ等の課題がすべて解決する前提での予測である。

[3] 業界動向サーチ(https://gyokai-search.com/)からの引用。以下、他業界の市場規模はすべて同様。

[4] 「」で示した各サービスの説明は表1参照。以下同様。


[5] 概要を文末の補足1に示した。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。



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