世界の街角から:大航海時代の覇者 ~ポルトガル~
ポルトガルと聞くと何を連想されるだろうか。
インド航路を開拓したヴァスコ・ダ・ガマ、南米大陸を発見したとされるコロンブス、史上初の世界一周を成し遂げたフェルディナンド・マゼラン、それとも世界最高のサッカー選手と言われるクリスティアーノ・ロナウド?
ポートワインにマディラ酒? カステラ、金平糖、天ぷらなど、ポルトガルから日本に伝わったものを思い浮かべる人もいるかもしれない。
日本との交流は室町時代に遡る。昔、日本史で1543年 鉄砲伝来と習ったのを覚えているだろうか。鉄砲は種子島に漂着したポルトガル人が技術を伝えたもの。また南蛮貿易がもたらした様々な物、食、文化は日本に大きな影響を与え、現代ではすっかり日本の文化として根付いているものも多い。しかしながら、他の欧州の国々と比べて訪れる日本人観光客は少なく、その魅力はあまり知られていないのではないだろうか。
ポルトガルはイベリア半島の西の端に位置し、面積は日本の約1/4。東側をスペインに接し、西側は大西洋に面している。日本からの直行便はなく、欧州のどこかで乗り継ぎ、約15~16時間かかるので、なかなか行きにくいことも確かだが、歴史と文化の魅力にあふれ、ぜひ訪れていただきたい国の一つ。今回は、16世紀には世界最大級の都市であり、栄華を極めた首都リスボンとその周辺の見どころをご紹介したい。
リスボン
まずは真っ先に行ってみたかったベレン地区へ。旧市街から、黄色いレトロな路面電車で街並みを楽しみながら約30分で到着。ベレン地区は大航海時代に大西洋に出て行く拠点となった場所。
テージョ川の岸に立つのがその記念碑である発見のモニュメント(写真1)。
ポルトガルの王子で、探検家達のパトロンであり、天文台や航海学校の創設、航海技術の開発に力を注いだエンリケ航海王子を先頭に、ヴァスコ・ダ・ガマや探検家、航海士など32名の像が並ぶ。船の船首をイメージしたモニュメントは高さ52mもあり、まさにここから大海原に出て行ったのかと思わせる迫力がある。地面にはポルトガルが発見した世界中の国や地域が、発見の年とともに描かれており、日本はポルトガル船が豊後に漂着した1541年と記述されている。
その傍にあるのが、ベレンの塔。元々はテージョ川を行き交う船を監視し、河口を守るために造られた要塞。塔はマヌエル様式と呼ばれる海に関係する美しい装飾が施された6層からなっており、優美な姿を残しているが、下部には潮の満ち引きによって水が流れ込む水牢があり、権力闘争に敗れた多くの人が幽閉された場所でもあったらしい(写真2、3)。
次に向かったのがジェロニモス修道院。
ジェロニモス修道院は1983年、ベレンの塔と共に世界文化遺産に登録されており、エンリケ航海王子の功績と、インド航路を発見したヴァスコ・ダ・ガマの偉業を称え、航海の安全を祈願するために1世紀以上をかけて建設されたもの。インド航路の発見により、インドやアフリカとの香辛料や金などの貿易で得た膨大な利益を元手に造られたことから、一辺が300mという壮大で豪華な装飾が施された建物となっている。中庭や回廊も素晴らしく、どこから見ても美しい(写真4)。
修道院の南門は、マヌエル様式の最高傑作と言われ、24人の聖人やエンリケ航海王子、王家の紋章などの彫刻、トップには聖母マリア像の壮麗な彫刻が施され、扉のアーチ部分には修道院の名前となった聖ジェロニモスの生涯が描かれている(写真5)。
内部の聖母マリア聖堂はマヌエル1世を初めとする王家の墓廟となっており、ヴァスコ・ダ・ガマの棺も安置されている。幾何学模様の天井とそれを支える見事な彫刻の柱、ステンドグラスから光が差し込む空間は凛とした美しさで、まさに当時の栄華を極めた建物と言える(写真6、7)。
見どころばかりなので、あっという間に数時間が過ぎてしまい、圧倒される空間にも少し疲れたところで、ちょうど小腹も空き、楽しみにしていた場所へ。
ポルトガルに来たら、ここも絶対に外せないスポット。元祖エッグタルト(パスティス・デ・ナタ)の老舗パスティシュ・デ・ベレンへ。外界と閉ざされた生活をしていた修道士達の唯一の楽しみであった甘いお菓子がナタ。修道院から受け継がれたレシピで今も作られており、ポルトガルで一番、ということは世界で一番美味しいエッグタルトと言われている。店はいつも大勢の人でにぎわっており、やっとのことで席を確保し、念願のナタをいただくことができた。バターとカスタードの甘い香りのする焼きたてのナタは想像を超える美味しさ! これだけを食べにベレンに行くとポルトガル人が言うのも納得の味。幸せな時間を過ごすことができた(写真8)。
その後リスボン市内に戻り、ウォーキングツアーに参加してみた。
リスボンの旧市街は中世の面影を残す、美しい街並みが魅力的な街。七つの坂の街と呼ばれるほど、坂道が多い。海と山が近く、港町でもあり、個人的には神戸と似た印象を持つ。このツアーでは旧市街の見どころだけでなく、新市街の街角アートや美しい街並みをガイドが案内してくれる。まずは旧市街の中心にあるセンタジュスタのエレベーターへ(写真9)。高低差のある下の街と上の街をつなぐ木製エレベーターは1902年に完成したもので、今も現役で通勤や通学の足として使われている。係員が手動で扉を閉めると、数十秒で45m上昇し上の街へ。
そこから新市街を散策。街のあちこちにカラフルなオブジェがあり、ストリートアーティストによる壁画が描かれている。街は迷路のように入り組んでいるので、一人で同じ場所にたどり着ける自信はないが、治安もいいので迷いながらアートを探して歩いてみるのも楽しいかも(写真10、写真11、写真12)。
ツアーの最後は町全体が見渡せる丘から夕景を眺める(写真13)。欧州の夏は21時頃まで明るいので、夜はまだこれから!
一日歩き回ってお腹もすいたので、ホテルでおススメされたシーフードレストランへ直行。テラス席でファドの生演奏を聴きながら、グリーンワインというローカルワインでシーフードを堪能。ポルトガル料理はスペイン料理と似ているが、味付けはよりシンプルで、タコを塩茹でにしてレモンを絞ったものや、イワシの炭火焼きなど、より日本人の味覚には合う。ワインの生産も盛んで、甘いポートワインやマディラ酒まで種類も豊富。豊かな食文化もまたポルトガルの魅力と言えよう(写真14,15)。
食後は海に面したコルメシオ広場の夜景を楽しみ、充実した一日を終えた(写真16)。
シントラ
翌日はリスボンから西へ30km余りのシントラへ。
街全体が「シントラの文化的景観」として1995年に世界遺産登録されており、その中心となるペーナ宮殿は街を一望する山の頂上に立つ。ここは実際に使用されていた本当の宮殿だが、まずはその見た目に驚かされる。オモチャのようにカラフルで、宮殿というよりテーマパークの建物のよう。ゴシック、マヌエル、ルネサンスなど、様々な建築様式が混ざった建物は、ユニークで個性的な見たことのないお城。ごちゃ混ぜ感はあるが、何故か絶妙に調和しており、バランスが取れた不思議な風景をつくりだしている(写真17)。
外観だけでなく屋根や壁、門の装飾も独特で、最も有名なのがトリトン門。この半魚人像がギリシャ神話のポセイドンの息子、海の守護神トリトンだが、上から見下ろすような位置にいて今にも飛び掛かってくるのではと思うくらいかなり不気味で、ひときわ異彩をはなっている(写真18)。
この不思議な城は、廃墟となっていた修道院をフェルナンド2世が自身の理想の城を造るべく改築したもの。本人はその完成を見る前に亡くなってしまったそうだが、この風景は自身も絵を描きアーティスト王とも呼ばれた彼の夢の世界だったのだろうか。
ロカ岬
シントラからもう少し足を延ばし、ユーラシア大陸西端の地、ロカ岬へ。
一度は訪れてみたいと思う人も多いのではないだろうか。岬にはポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスの「ここに地終わり、海始まる」という言葉が刻まれた石碑がある(写真19)。石碑の先には赤い灯台があり、その先はまさに断崖絶壁で一面広大な海を眺めると、最果ての地に来た気分が高まる(写真20)。
水平線の彼方にあるジパングを目指して、旅立った人達に想いをはせながら、私自身も東の果ての日本から、ここまでよく来たのもだと感慨深い思いがした。記念に、ユーラシア大陸最西端到達証明書(Certificado de acreditacao, Cabo da Roca) を発行してもらい帰途についた。
古くから日本に影響を与えた国でありながら、遠い国となっているポルトガルだが、実際に行ってみると文化も、食も日本人には親しみやすく、見どころもたくさんある。
ポルト酒で有名なポルトでシーフードとワインを楽しみ、世界一美しいレロ書店で本を買い、文化都市コインブラで最古の大学を訪れ、インスタ映え間違いないアゲタの傘祭りを観に行くなどなど、まだまだ行ってみたいところがたくさんある。欧州の中でも暮らしやすい国であり、移住にもよいのではないかと思ったり夢は膨らむ。またいつか、必ず訪れる日を楽しみに!
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