2022.8.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

NFTの登場と今後の課題

Pete Linforth from Pixabay

はじめに

NFTという言葉を目にしたことがあるだろうか。正式名称は「Non-Fungible Token」で日本語では「非代替性トークン」と翻訳される。概要は以下で説明するが、NFTはデジタルコンテンツを流通させる新たな仕組みのみならず、昨今注目されている分散型技術を実現するものとしても非常に重要な役割を担う可能性が高い。

本稿では、NFTに関する概要を紹介した後、NFTの利用シーンや今後の課題について、現時点で明らかになっているものを紹介する。

NFTの概要および、NFTが注目されるようになったきっかけ

はじめに、NFTの概要について述べる。NFT関連書籍などで、多様な解説が行われているので、簡単に紹介するにとどめるが、筆者はNFTの役割を一言で表現するならば、デジタルコンテンツにおいても希少性を示す手段であると考えている。

これはどのような意味か。具体的な事例をもとに説明してみよう。

例えば、有名なバスケットボール選手が優勝決定戦で着用したシューズがあるとする。このシューズには専門家による鑑定書が付属しており、本当にこの選手が決勝戦で着用したシューズであること(唯一のものであること)が証明されているとしよう。もし、この鑑定書がなければ、本物かどうか疑わしいが、この鑑定書があるため、このシューズが極めて希少なものであることがわかる。

次にデジタルの世界を考えてみる。例えば、風景を撮影した写真があるとする。デジタルであれば複製が容易であり、どれがオリジナルでどれがコピーであるかは判別することは困難だ。先ほどのシューズの例では、鑑定書によりオリジナルであることが証明されているから、希少性があることがわかるが、このように複製が容易なデジタルコンテンツでは希少性を実現することは非常に難しいことがわかる。

それではNFTを使用した場合はどうか。NFTはコピー防止技術ではないため、デジタルコンテンツの複製を防止することはできない。しかし、シューズの例で見たようにブロックチェーン技術を用いて、「鑑定書」をつけることができるため、デジタルコンテンツにおいて希少性を示すことが可能になるといえる。上述の風景の写真の例でいえば、オリジナルとコピーされた写真の違いがわかるということになる。

このように、デジタルコンテンツにおいて希少性を実現することが可能になれば、デジタルコンテンツ販売における新たな市場が生まれることが予測される。

NFTが注目されるきっかけについては、筆者が複数の文献などを調査した限りにおいては、今から5年ほど前の2017年に遡ることができる。米国のベンチャー企業である「Larva Labs」がデジタルコンテンツを提供する実験として「CryptoPunks」という非常に小さな(2mm x 2mm程度の)画像ファイルを配布したことが始まりとなったようだ。NFTに関する最も大きなニュースとしては米国のアーティストであるBeeple氏が5,000枚のデジタル画像をコラージュした「Everydays:The First 5000 Days」がオークションの老舗であるクリスティーズで競売にかけられ、6,930億ドル(約75億円)で落札されたことが挙げられるだろう。この「Everydays:The First 5000 Days」はNFTを利用したものであり、金額の大きさや老舗のオークションハウスで競売が行われたことから多くの耳目を集めることになった。

以上のように、NFTはデジタルコンテンツの希少性の実現に利用されると述べた。また、実はデジタルコンテンツ以外の利用シーンでも利用が検討されている。それでは具体的にどのような利用シーンがあるのか、次の節で紹介することにしたい。

NFTの利用シーン

NFTが活用されている利用シーンについて、以下の表1にまとめた。

取り扱うものがデジタルコンテンツであるため、重なり合う部分もあるが、この表をもとに各対象サービスで代表的と思われる事例を簡単に紹介する。

【表1】NFTの利用シーン

【表1】NFTの利用シーン
(出典:『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計までデジタルデータが資産になる未来』天羽健介・増田雅史(編著)(朝日新聞出版、2021))より情総研作成

コレクティブル(収集品)

「CryptoKitties」

猫のキャラクターを購入・収集・繁殖・販売するゲームであり、NFTを利用したサービスの元祖であるといわれている。

スポーツ

「TOP SHOT」

米国のプロバスケットボールリーグ「NBA」の選手のカードをNFTでデジタル化したものである。トレーディングカードのデジタル版だと考えてもらうとわかりやすいだろう。ファンやカード収集家を引きつけるコンテンツになっている。

アート(芸術作品)

「Open Sea」

デジタルコンテンツなどをNFT化して販売しているマーケットプレイスである。この「Open Sea」は幅広いコンテンツを取り扱っているが、他にも、映像に特化した「THETA」、音楽に特化した「AUDIUS」などアートを扱うマーケットプレイスが複数存在する。

ゲーム

「Crypto Spells」

NFTを活用したカードゲームである。ユーザー同士で自由な売買ができることで「カード」が資産になる点を特徴としている。

メタバース

「The Sandbox」

四角い箱を組み合わせたようなメタバースが特徴である。メタバース内の土地である「LAND」を現実の土地と同じように売買・貸借をすることができ、やりとりを行う際にNFTが活用されている。

その他

上記で簡単に紹介してきた内容はデジタルコンテンツが直接対象となるものであったが、NFTの利用の範囲は広がりつつある。当然のことながらデジタルが関わる内容ではあるが、いくつか興味深い事例があるので紹介したい。

「楽座」

「楽座」はアニメーションに利用されるセル画の保有をNFTを通じて行うサービスだ。実物のセル画を楽座を通じて購入し、その保有についてNFTで管理するというものである。セル画は購入者が直接自分で管理するのではなく、楽座が管理している。購入者自身はセル画を保有するだけではなく、他者に貸し出しすることも可能となっている。

「UniCask」

「UniCask」ではウイスキーなどの樽をNFTで小口化することで、将来、樽がボトリングされたときにウイスキーと交換することができる。また、交換するだけではなく、ウイスキーに興味のある他者とNFTを通じて取引をすることもできる。

「MetaHKUST」

香港の公立大学である「香港科技大学(HKUST)」は2022年7月末にメタバース上にデジタルツインキャンパスである「MetaHKUST」を設立する構想を公表した。大学キャンパスをメタバース上で実現するという取り組みも興味深いが、NFT形式での卒業証書も導入される予定であるとしている。

以上で見たように、NFTの利用シーンはデジタルコンテンツが直接対象となるものが多いが、その範囲はデジタルの世界のみにとどまらないことがわかる。NFTは生まれたばかりの取り組みであるが、今後より利用が拡大していくことが予想される。

NFTのプレイヤーとビジネスモデル

本節では、現状でのNFTに関するプレイヤーとビジネスモデルがどのようになっているのか、という点について紹介したい。

筆者が調査した内容を以下の図1にまとめた。

【図1】NFT市場俯瞰図

【図1】NFT市場俯瞰図
(出典:各種資料および有識者ヒアリングをもとに情総研作成)

この図はNFTの市場を俯瞰したうえで、参画するプレイヤー、プレイヤーの主なビジネスモデルを大まかにまとめたものであり、すべてのプレイヤーやビジネスモデルを反映したものではないことに注意されたい。

図1の左側はNFT市場における主な分野を示したものである。今回は「コンテンツ」、「NFT流通サービス」、「インフラ」という分類を行っている。

「コンテンツ」については、前節で紹介したような、NFT化されるものが対象であり、映像、音楽、音声、ゲームといったデジタルコンテンツの他にセル画やウィスキーといったようなものも対象となる。

「NFT流通サービス」とは、多様なデジタルコンテンツを販売するプラットフォームのことである。多様なコンテンツを取り扱う「マーケットプレイス型」と特定のコンテンツを取り扱う「特化型」というように整理している。

最後にインフラだが、NFTを支える技術にはブロックチェーンがある。そのブロックチェーンを提供するプレイヤーが存在する。現在はEthereumの利用が主流であるが、NFT専用のブロックチェーンを提供する事業者も登場している。

次にそれぞれのビジネスモデルだが、「コンテンツ」はデジタルコンテンツの制作者がデジタルコンテンツを提供することによって対価を得るという非常に基本的なものである。

「NFT流通サービス」は主に手数料が収入源になる。手数料といっても2つあり、一つはコンテンツをNFT化する(NFTを付与する)際の手数料、もう一つがマーケットプレイスを通じてNFTを販売した際に生じる手数料だ。

最後に「インフラ」であるが、NFTの取引の内容をブロックチェーンに書き込むための手数料を収入源とするものとなっている。

 

以上では、NFT市場を「コンテンツ」、「NFT流通サービス」、「インフラ」という視点で俯瞰し、各分野におけるプレイヤー、ビジネスモデルを紹介した。NFTの利用普及が進めば、これ以外にも新たな分野やビジネスモデルが登場する可能性があるだろう。

NFTに関する課題

最後にNFTに関する課題について述べる。以下表2は、NFTに関する技術的な課題をまとめたものとなっている。

【表2】NFTに関する技術的課題

【表2】NFTに関する技術的課題
(出典:『NFTの教科書 ビジネス・ブロックチェーン・法律・会計までデジタルデータが資産になる未来』天羽健介・増田雅史(編著)(朝日新聞出版、2021)より情総研作成)

この中で特に筆者が注目しているのは1番目のNFT画像データの管理の問題だ。例をあげると、マーケットプレイスで購入した画像データは、購入者の手元にあるのではない。NFTはあくまで購入者が誰であるかということや、画像データはどこにあるのかということを示すものである。つまり画像データを管理する外部サービスにトラブルなどがあり、画像データが消失してしまう可能性があるということが懸念材料としてある。

また、上記の表2には示されていないが、筆者がNFTの有識者に行ったインタビューで指摘された点として、実際にマーケットプレイスで提供されているコンテンツが作者本人が作成したものであるかどうかをどうやって確保するのかという課題がある。マーケットプレイスで出展されるデジタルコンテンツが作者本人が作ったものであるかどうかは基本的には、マーケットプレイスから提供される情報を信用するしかない。このような課題は業界内でも認識されており、2022年6月にはNFTの偽物に対抗するシステムの運用を行う報道がなされている(日経新聞 2022年6月27日「『NFTの8割が偽物』対策システム本格運用へ」)

最後に参考として、関係団体から提示されているNFTの課題を掲載した文書について表3にまとめた。各団体から懸念点は示されているが本格的な制度的整備はこれからだと考えられる。

【表3】関係団体によるNFTの課題関連文書

【表3】関係団体によるNFTの課題関連文書
(出典:各団体公表資料より情総研作成)

まとめ

以上、NFTの概要、利用シーン、プレイヤー、ビジネスモデル、課題などについて、その概観を紹介してきた。NFTはコピーが容易であった、デジタルコンテンツの希少性を実現する技術・手段として注目と期待を集めている。また、NFTの対象はデジタルコンテンツが主なものであるが、それ以外にも範囲が広がりつつある。

技術的課題は残されてはいるものの、その課題の解決を促すような動きもある。しかし利用者が安全にNFTを売買できるような制度の整備はこれからといえるだろう。

日本国内においては、現岸田政権のもとでNFT活用の機運が上昇しており、自由民主党内にNFT検討プロジェクトチームが結成されるなど、政府の関心も高まっている。

そういった意味では、NFTは現状では利用の可能性を探っている状況にあると考えられるが、今後、NFTが我々の社会にどのように受け入れられていくのか注目したい。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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