世界における5G動向と6Gに向けた取り組み ~社会実装に向けて
5Gサービスの展開、6Gの研究開発・国際連携
米国・韓国で2019年4月に5Gモバイルサービスが開始されてから4年が経過した。移動体通信端末関連の業界団体GSAによると、2023年1月時点で、世界で243の商用5Gネットワークが運用されている[1]。5G接続端末数は米国、韓国、中国などで急速に増加し、世界で10億台に達するとされる[2]。新興国においても今後、Open RAN(異なるベンダの機器を組み合わせたネットワーク)の活用によるコスト効率化や端末の低価格化などを通じて、5Gが浸透していくとみられる。
一方、2030年頃に実用化が見込まれるBeyond 5G(6G)については、要求される技術などについて、5Gの先行市場(米国、韓国、欧州、中国、日本)を中心に研究開発が行われている。Beyond 5G(6G)に関する産学官の国際連携が進められており(図1)、2022年5⽉、日本の「Beyond 5G推進コンソーシアム」は、欧州、米国の各推進団体と6Gに係る覚書を締結した[3]。また、米国Next G Allianceと欧州6G-IAは、2022年8月、6Gなどの情報交換に関する協力に合意した[4]。
本稿では、本誌2021年9月号の記事「世界における5G動向と6Gに向けた取り組み~ポストコロナの社会に向けて」を踏まえて、主要国・地域における5G・6Gに係る近時のトピックスを概観し、今後を展望する。
5G動向
世界における5Gは現状、ノンスタンドアローン(NSA、4Gコア設備を利用)によるネットワークを中心に運用されている。スタンドアローン(SA、5G専用コア設備を利用)による5Gネットワークの展開は、想定より遅れているが、業界団体GSAによると、世界の約20カ国で30以上の通信事業者が5G SAによるサービスを提供している[5]。5G SAネットワークでは、低遅延、多数同時接続、ネットワークスライシング等の活用による多様なユースケースへの対応が可能となる。
近時、注目が高まるメタバースなどの没入型体験のサービス対応に向けて、通信事業者は大容量、低遅延の伝送を可能にするネットワークの整備が求められる。通信インフラの高度化をオープン化等により推進する世界的な非営利団体Telecom Infra Projectは2022年10月、メタバース対応ネットワークに取り組むプロジェクトグループを発足した[6]。一方、通信事業者の自社プラットフォーム活用による新サービス創出の動きもみられる。主要国・地域における5Gの展開状況は以下のとおりである。
米国
VerizonおよびAT&Tは、広範囲をカバーできるローバンド、超高速通信が可能なハイバンド(ミリ波)に加えて、カバーエリアと速度を両立できるミッドバンド(Cバンド)の周波数を利用した5Gのカバレッジ拡大を進める。Verizonは、2022年10月、商用トラフィックの5G SAコアへの移行を開始した[7]。AT&Tは、特定の用途やアプリケーション向けにカスタマイズされた機能を顧客に提供するため、5G SAネットワークコアを搭載した「Edge Zones」を全米10カ所以上で稼働させている[8]。
ローバンドで全国5G SAネットワークを構築済みのT-Mobile USは、より高速化が図れるミッドバンド周波数での5G SAサービスを2022年11月に開始した[9]。新規参入のDISH Networkは、2022年5月に、米国初のクラウドネイティブなOpen RANベースの5G SAネットワークのサービスを開始した[10]。また、T-Mobile USおよびDISH Networkは、5G SAによる音声通話サービス(VoNR:Voice over New Radio)を一部の地域で提供している。
韓国
韓国政府は、2021年7月に発表した「デジタル ニューディール2.0」に基づいて、5GとAIの利活用促進、メタバース産業の育成などに取り組んでいる。同政府は、2022年1月に「メタバース新産業先導戦略」[11]を発表し、メタバースをICT技術の集約体として、ICTエコシステムのパラダイム変化を呼び起こす新しいWeb 3.0プラットフォームと位置づけ、企業への支援等を強化する。
韓国では、通信事業者3社に対して、5G向けに3.5GHz帯と28GHz帯の周波数が割り当てられている。科学技術情報通信部(MSIT)は2022年11月、各社の28GHz帯(ハイバンド)での基地局展開が割り当て条件を満たしていないとして、同周波数におけるSK Telecomのライセンス期間を6カ月短縮し、KTとLG Uplusへの同周波数の割り当てを取り消した[12]。
通信事業者の動向として、SK Telecomは、Samsungと共同で「5G SA Option 4」のトライアルを完了したと2022年2月に発表[13]した。同オプションは、NSAと同等の速度と品質を提供しながら、ネットワークスライシングなどのSA機能を利用できる。SK Telecomはまた、2022年11月、同社のメタバース プラットフォーム「ifland」が世界49の国と地域で同時に開始されたと発表[14]した。2021年7月に5G SA商用サービスを開始したKTは、2022年12月にB2B・B2G顧客向けにカスタマイズされたメタバースソリューション「KTメタラウンジ」を提供すると発表[15]した。
欧州
欧州は、「5G Action Plan」にて、2020年末までにすべての欧州連合(EU)加盟国で5Gサービスを開始することを目標としていたところ、やや遅れが生じ、2022年1月に、EU加盟の全27カ国における5Gサービス展開が完了した。
Vodafone Germanyは、2021年4月、欧州初の5G SA商用サービスをドイツで開始し、2025年までに全国を5G SAでカバーすることを計画している[16]。Vodafone UKは、2023年1月、英国で初めて5G SAでのトライアルネットワークを一部の顧客に提供した[17]。Orangeは、2023年にフランスなどで5G SAサービスを商用化することを予定している[18]。
TelefonicaがMeta Platformsと提携するなど、欧州の通信事業者各社はネットワーク上でメタバースを機能させる取り組みを進める。Deutsche Telekom、Orange、TelefonicaおよびVodafoneは、2022年9月、ディープテック企業MATSUKOと協力し、5Gとエッジコンピューティング(MEC:Mobile Edge Computing)を組み合わせて、ホログラフィック通話を実証した[19]。
中国
中国工業情報化部(MIIT)によると、中国では2022年11月末時点で、全国で約230万の5G基地局が建設されており[20]、鉱業、港湾、製造、医療などで5Gが広く利用されている。2022年の北京冬季オリンピックにおいて、China Unicom(中国聯通)は、China Telecom(中国電信)との共用5Gネットワークで、87のオリンピック会場すべてと会場間の道路をカバーした。
中国では当初から5G SAによるネットワークを展開しており、中国情報通信研究院(CAICT)によると、2025年までに世界最大の5G SAネットワークを構築し、都市部と農村部で完全なネットワークカバレッジを実現するという[21]。中国の主要通信事業者3社は、5G SAによる音声通話サービス(VoNR)を提供し、高画質のビデオ通話、画面共有などの機能を利用可能としている。
日本
デジタル実装を通じた地方活性化により社会課題の解決と魅力の向上を目指す「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けて、総務省は5Gネットワークの都市と地方での一体的な整備を図るため、2022年3月に「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」を公表した。同計画は、2030年度末で全国5G人口カバー率99%を目標とし、2021年度末時点で93.2%という整備状況である[22]。今後は、超高速通信が可能なミリ波帯による5G活用拡大が鍵となり、2023年1月、総務省に設置された「5Gビジネスデザインワーキンググループ」において、検討を進める。
NTTドコモは、2021年12月より法人顧客向けに5G SAサービスを開始し、2022年8月よりスマートフォン対応5G SAの提供を始めた[23]。KDDIは、2022年2月にSamsung、富士通と共同で、オープン化した5G SA仮想化基地局の商用通信に成功、2022年10月にソニーと共同で、5G SA構成で複数のネットワークスライスを使い分けて同時利用する技術実証に成功した[24]。2021年10月に5G SA商用サービス提供を開始したソフトバンクは、新技術「SRv6 Flex-Algo」によるネットワークスライシングの商用ネットワークへの導入を2022年4月から開始した[25]。楽天モバイルは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、5G SAにおいて、AI(人工知能)を用いた5Gスライスオーケストレーションの高度化に成功したことを2022年10月に発表した[26]。
6Gに向けた取り組み
国際電気通信連合(ITU)の無線通信部門(ITU-R)は、2023年に「6Gビジョン」をまとめ、2030年までに3GPPなどの標準化団体を通じて、6Gの技術要件などを策定する予定である。ITU-Rは、2022年11月に発行した文書「Future Technology trends of terrestrial IMT systems towards 2030 and beyond」[27]において、2030年以降の潜在的な新サービスとして、触覚・触感インターネットアプリケーション、インタラクティブな没入型体験、多次元センシングなどを挙げている。
2022年9月、ITUの次期電気通信標準化局長選挙が行われ、日本から立候補した日本電信電話株式会社CSSO(最高標準化戦略責任者)の尾上氏が選出された[28]。米国では事業者連合による推進団体(Next G Alliance)がホワイトペーパーを順次公開し、欧州では欧州委員会の研究開発プログラムに基づいて、産学連携による複数のプロジェクトが進行する。韓国・中国は政府主導でBeyond 5G(6G)を推進している。主要国・地域における6Gに向けた取り組み状況は以下のとおりである。
米国
米国FCC(連邦通信委員会)は、技術諮問委員会(Technological Advisory Council)[29]において、AI・ML(機械学習)、高度周波数共有などのワーキンググループで6G技術の活用方法等を議論している。FCCに6Gタスクフォースを設置する法案「Future Networks Act」が、2021年12月に米国連邦議会の下院で可決された。米国NSF(国立科学財団)は、2022年4月、次世代(NextG)ネットワークとコンピューティングに関する学術研究プロジェクト「RINGS」への4,350万ドル(約57億円1))超の投資を発表[30]した。「RINGS」は、DoD(米国国防総省)、NIST(米国立標準技術研究所)と、Apple、Googleなどが連携する官民研究パートナーシップであり、全米の各大学が実施する37の研究プロジェクトに資金を提供する。
Next G Allianceが2022年2月に発表した6Gロードマップ[31]では、6Gにおける北米のリーダーシップに向けた6つの大胆な目標を以下のように特定している(詳細は表1参照)。
- 信頼性・セキュリティ・レジリエンス
- デジタルワールド体験
- コスト効率化ソリューション、
- 分散型クラウド・通信システム
- AIネイティブな無線ネットワーク
- サステナビリティ
米国の大学においては、産学連携による6Gの研究が推進されており、AT&Tは、2021年7月、Samsung、Qualcommなどと協力して、テキサス大学オースティン校における6G研究センターの立ち上げを支援した。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)とEricssonは、2021年7月、無線信号を介して直接給電する「ゼロエネルギー」デバイスの可能性など、次世代モバイルネットワークの共同研究を行うことに合意した。
韓国
韓国は2022年1月、ネットワーク革新国家に向けた未来ビジョン「次世代ネットワーク開発戦略」の確立に着手し、5G Advanced、6G、量子通信、Open RANなど先端技術開発を本格化している。2022年3月には、6G、自律車両、カーボンニュートラル等に関連する国際・国家基準を作成するため、2,513億ウォン(約265億円2))を投資すると発表した[32]。科学技術情報通信部(MSIT)は、2022年7月、技術・デジタル革新で国家の進歩を遂げるための5つの主要戦略[33]を発表し、6Gの技術と特許に関する官民連携の必要性に言及している。
また、2022年5月、Samsungはホワイトペーパー[34]を発表し、6Gでは超広帯域・連続帯域幅を備えた周波数が必要となり、これにより、高忠実度モバイルホログラムや真の没入型XRなどの新サービスが可能になるとしている。
欧州
欧州委員会の6Gフラッグシップイニシアティブの第2フェーズ「Hexa-X-II」[35]が、2023年1月に開始され、44の組織が協力して、6G標準化前のプラットフォームとシステム全体図の作成を進めている。同コンソーシアムは、イノベーションを通じて、社会的課題(サステナビリティ、インクルージョンおよび信頼性)の克服に努めるとしている。Deutsche Telekomは、2022年10月、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)が資金を提供するプロジェクト「6G NeXt」を主導し、XRアプリケーションのリアルタイムで信頼性の高い伝送のための6G要件を調査することを発表した[36]。英国政府は、2022年12月、5G、6G、通信セキュリティに関する研究開発への1億1,000万ポンド(約176億円3))の投資を発表、英国のトップ3の大学およびテストラボ(UK Telecoms Lab)に充てられる[37]。
中国
中国・国務院が2022年1月に発出した、「第14次五カ年計画(2021~25年)デジタル経済計画」[38]において、中国は6G技術の研究開発、6G国際標準化を推進するとしている。2022年6月、中国のIMT-2030(6G)推進グループは、欧州の推進団体6G-IAと6G協力に関する覚書を締結した[39]。一方、Huaweiは2022年1月、6Gに関するホワイトペーパー[40]を発表、主要機能の6つの柱(ネイティブAI、ネットワークセンシング、サステナビリティなど)を示し、6GではセンシングやAIの利用により「コネクテッド・インテリジェンス」を導くと述べている。また、China Mobileも2022年6月、6Gに関するホワイトペーパー[41]を発表、6Gは通信、認識、コンピューティングなどの統合アーキテクチャーであるとし、6つのネットワーク設計コンセプトを提示した。
日本
総務省は、情報通信研究機構(NICT)に研究開発基金を創設するとともに、テストベッドなどの共用施設・設備を整備し、産学官連携によるBeyond 5Gの研究開発を促進している。2021年9月に諮問した「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方」に係る2022年6月の中間答申[42]においては、日本が注力すべき「重点研究開発プログラム」が特定され、予算の多年度化を可能とする枠組みの創設が望ましいとされた。その点を踏まえて、2022年12月、Beyond 5Gの研究開発に係る恒久的な基金をNICTに設置することなどの改正法案が成立した。
NTTドコモは、2020年1月公表のホワイトペーパー「5Gの高度化と6G」[43](2022年11月5.0版)において、5Gの高度化および6Gに向けた要求条件やユースケース、技術的な検討領域についてのコンセプトを述べている。KDDIは、2021年3月に「Beyond 5G/6Gホワイトペーパー」[44]を公開(2021年10月2.0.1版)し、将来像とテクノロジー(ネットワーク、セキュリティ、IoT、プラットフォーム、AI、XR、ロボティクス)の両面で6Gの検討を進め、その内容・構想をもとに研究開発を推進していくとしている。ソフトバンクは、2021年7月にBeyond 5G/6Gのコンセプト[45]を公開し、6G時代の社会ネットワークインフラの実現に向けて、通信用途にとどまらない無線技術の活用領域の拡大などを進めていくとしている。楽天モバイルは、NICT公募の「Beyond 5G研究開発促進事業」の一環として2021年度に、東京工業大学とのBeyond 5Gエッジクラウドコンピューティングに関する研究開発をはじめ、名古屋大学・沖電気工業との協調型自律ネットワークに関する研究開発、東京大学との低軌道衛星を利用したIoT超カバレージに関する共同研究開発を開始した[46]。
社会実装に向けて
Beyond 5G(6G)について、各国は、技術の開発にとどまらず、産業や社会での実用化を見据えた取り組みを重視している。米国Next G Allianceは、2022年5月および7月に、6Gのユースケース・アプリケーション、6G技術に関する各レポートを発行し、6Gのユースケース例を提示の上、鍵となる技術を特定している。日本の「Beyond 5G推進コンソーシアム」でも、2022年3月発表のホワイトペーパーにおいて、多様な業界から聴取した諸課題を踏まえた2030年頃のユースケースの検討を行い、求められる性能をまとめている。
前述した2022年6月の中間答申では、日本に強みがある技術(①オール光ネットワーク技術、②非地上系ネットワーク技術、③セキュアな仮想化・統合ネットワーク技術)を重点として研究開発を加速し、その成果について2025年以降順次、国内ネットワークへの実装と市場投入を進めると提言されている。2022年10月閣議決定の「総合経済対策」においては、「DXは、新しい付加価値を生み出す源泉であり、社会的課題を解決する鍵」であるとし、「将来の社会や産業の基盤となる Beyond5Gの研究開発の抜本的強化等の最先端技術への戦略的投資を推進する」と明記された。2030年に向けて、日本が主導する中核技術をベースとしたユースケースが世界に広がることを期待したい。
- 1米ドル=89円で換算。
- 1ウォン=11円で換算。
- 1ポンド=43円で換算。
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https://corp.mobile.rakuten.co.jp/news/press/2021/1129_01/
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