2023.4.13 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

GIGAスクール構想とコロナ禍を経て、広がりをみせるオンライン授業

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はじめに

私たちの生活様式は、コロナ禍を経て、この数年で大きな変容を遂げている。ビジネスの世界では、インターネットを介したWeb会議や情報共有は当たり前のものとなり、在宅勤務やワーケーションを恒常的に導入する企業も出現している。

こうした変容はビジネスだけのものではない。教育に目を向けると児童生徒1人1台の情報端末の整備などを行うGIGAスクール構想が推進されたことが追い風となり、特に小中学校における教育ICTについては、環境整備と利活用の両面において大きな変化が見て取れる。

今回は教育ICTの多様な側面の中から小中学校におけるオンライン授業に焦点をあて、コロナ禍でのオンライン授業の浸透状況と、オンライン授業の更なる可能性について紹介する。

コロナ禍で浸透した休校時のオンライン授業

現在でも新型コロナウイルスや季節性インフルエンザの流行、さらには災害などによって、臨時休校や学級閉鎖を余儀なくされる学校・学級は多数存在しているが、新型コロナウイルス感染拡大第1波の頃と現在では、休校の様相が異なっている。第1波の際には全国のほとんどの学校が一律に休校となったのに対し、現在は学校・クラス単位において休校や学級閉鎖が実施される、あるいは児童生徒のうち感染者や濃厚接触者において一定期間欠席させるなど限定的な対応となっている。このため、休校や欠席による授業進捗の遅れなどは学校・クラス単位でカバーする必要があり、国や自治体としてのフォローが難しい状況となっている。

そうした中、臨時休校や学級閉鎖などを余儀なくされた学校における学習指導の対応状況に大きな変化が見受けられる。

文部科学省では、2022年1月11日~2月16日において、学校全体の臨時休業、学年閉鎖および学級閉鎖により特定の学級が土日祝日等を除いて連続5日間以上休業した学校における学習指導等の状況について調査を行っている[1]

調査結果によると、休校となった4,652校[2]うち、84.7%の学校ではICT端末を活用した学習指導が行われており、「教科書や紙の教材の活用」(88.9%)と比較しても、ほぼ同程度にICT端末の活用が行われていたことが分かる。さらに、同時双方向型のWeb会議システムを活用している学校は69.6%に達し、約7割の学校においてオンライン授業が実施されている(図1参照)。

同種の調査が2020年4月にも行われている[3]が、「同時双方向のオンライン指導を通じた家庭学習」の実施率はわずか5%であった。

【図1】臨時休校時における学習指導等の状況

【図1】臨時休校時における学習指導等の状況
(出典:文部科学省「新型コロナウイルス感染症の影響による
臨時休業期間中の学習指導等に関する調査<結果>」(2022年3月))

オンライン授業の工夫と成功のためのポイント

実際のオンライン授業の様子について、文部科学省は事例をとりまとめている[4]が、それらの事例から見えてきたオンライン授業の工夫と成功のためのポイントについて整理する。

オンライン授業の多くはWeb会議システムを活用して教室の授業をライブ配信する形で行われているが、登校できない児童生徒に向けて一方的に授業を配信するだけではなく、授業や学習に積極的に取り組めるような工夫が行われている。

【工夫1】チャット機能や学習支援アプリの活用による双方向型授業

Web会議システムのチャット機能や音声通話を活用して、発言を求めたり、声かけを行ったりすることで対話を促す工夫が行われている。さらに、ペアやグループによる「話し合い学習」の場面でもWeb会議システムを介して教室にいるクラスメイトと一緒に議論が行えるようにしたり、自分の考えをまとめたノートを学習支援アプリで共有化し、教室にいるクラスメイトに発表を行ったりするなど、授業に積極的に参加するための工夫が行われている。また、クラスメイトとの疎外感を薄めるため、休み時間などの授業以外の時間においても教室の様子をオンライン配信し、友達とのコミュニケーションが行えるようにした学校もあった。

こうした双方向型のオンライン授業を実施することで、自宅にいながらもクラスの一員として一緒に授業に参加しているという実感を持たせることで、登校できない不安を和らげ、休校明けの復帰をよりスムーズにすることが可能になると考えられる。

【工夫2】情報共有ツールの活用による教材や課題の配布と回収

学校では日々多くの学習資料や課題などが児童生徒に対して配られるが、こうした学習資料や課題をデジタル化し、学習支援アプリの情報共有ツールを活用して配信している事例が多く見られた。また、課題については、児童生徒が情報共有ツールを使って提出し、それに対して教員がデジタルペンで添削指導を行って返却するといったやりとりを行っている事例もあった。

このようなデジタルでのやりとりを増やすことによって、プリントなどの受け渡しのために保護者などが学校に訪問する頻度を減らせることや、学校全体の休校や学級閉鎖などで多数の児童生徒が登校できない状況となった場合における教員側の負担軽減につながることが期待できる。

次にオンライン授業を成功させるためのポイントとして見て取れたのは次の3点である。

  1. GIGA端末を持ち帰っての家庭学習を日頃から行っている
  2. 非常時に備えて、オンライン授業の予行練習を行っている
  3. オンライン授業の準備や端末操作、板書撮影などオンライン授業で必要となるICT操作の一部を生徒に任せることでスムーズな授業進行と教員への負担軽減を図っている

いずれにおいても要諦となるのは教員、児童生徒の双方がGIGA端末をはじめとしたICT環境を日常からいかに活用できているか?という点に行き着くのではないだろうか。

注目を集めるオンラインクラス・ハイブリッドクラス

ここまではいわば非常時における学習支援としてのオンライン授業の取り組みについてみてきたが、こうしたオンライン授業をさらに発展させる形で、公教育の課題を解決するための取り組みとして注目されているのがICTを活用してオンラインで義務教育が受けられるオンラインクラス・ハイブリッドクラスである。

オンラインクラス・ハイブリッドクラスが注目されている背景としては、何らかの理由で学校に通うことのできない、いわゆる不登校の児童生徒の増加がある。小中学校における不登校者数は2021年度において244,940人にのぼり、9年連続で増加し、過去最多を記録している(図2参照)。

【図2】不登校児童生徒数の推移

【図2】不登校児童生徒数の推移
(出典:文部科学省「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(2022年10月))

国も対策に乗り出しており、2016年には「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律(教育機会確保法)」により、不登校児童生徒に対し、その実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校の整備および当該教育を行う学校における教育の充実のために必要な措置を講ずるよう務めることを定めた。この教育機会確保法を踏まえ、「経済財政運営と改革の基本方針2022【骨太の方針】」の中では、ICTも効果的に活用し、不登校特例校の全都道府県等での設置や指導の充実の促進が盛り込まれている。

このような政策動向を追い風に、学校以外に義務教育を受けられる場としてICTを活用したオンラインクラス・ハイブリッドクラスの運営に取り組む自治体・教育委員会が現れている。

オンラインクラスの事例:
フレンドリーオンライン(熊本市)

熊本市教育委員会では、学校への登校が難しい児童生徒を対象としたICTを活用したオンライン学習支援「フレンドリーオンライン」を2022年度から開始、200人超の小中学生が利用している。

フレンドリーオンラインの特徴はすべての授業や学習活動がオンラインで展開されており、児童生徒は在宅から授業に参加することが可能となっている点である。

フレンドリーオンラインの提供にあたっては市内の小学校1校と中学校1校を拠点校として、両校それぞれに3つの配信スタジオを整備した。これにより必要に応じて学年や科目毎に複数のオンライン授業が配信できるようになっている(図3参照)。また、AIを用いた学習アプリを併用することで、児童生徒個々の学習状況や学習ペースに合わせた個別最適な学びを実現するほか、先生や学習支援員からの学習支援や各種相談もオンラインで行える仕組みを提供している。さらに児童生徒の興味関心に応じた課題を設定し、自分の考えを持ち、調べた上で発表するという学びを通じて、課題発見力や課題解決能力の育成を目指す「ミッションタイム」を設定し、探究的な学習に取り組んでいることも大きな特徴といえよう。

【図3】オンライン授業配信の様子

【図3】オンライン授業配信の様子
(出典:熊本市立芳野中学校Webサイト
(http://www.kumamoto-kmm.ed.jp/sch/j/yoshinojh/foy/foytop.html))

フレンドリーオンラインが徹底しているのは、通常授業以外の場面でもオンラインを活用していることである。例えば、社会科見学でも現地に赴くのではなく、出前授業として動物園やトヨタ自動車など様々な場所をオンラインで結び、特別授業が行われている。また、2023年1月からは2次元仮想空間を活用した「バーチャル教室」を運用する実証実験が開始された。「バーチャル教室」は児童生徒の居場所作りの一環として、自由なコミュニケーションが行える空間となっており、コミュニケーションに対する不安の軽減や集団生活に慣れることを目的としている。

このようにフレンドリーオンラインでは、学習をはじめとした日々の学校生活をオンライン上でも体現できるような取り組みが行われている。

ハイブリッドクラスの事例:
草潤中学校(岐阜市)

岐阜市教育委員会は、何らかの理由で学校に通えない生徒のための不登校特例校[5]として、草潤中学校を2021年4月に開校している。「学校らしくない学校」「ありのままの君を受け入れる新たな形」をコンセプトに掲げる同校の取り組みは非常にユニークなものとなっている。

草潤中学校の大きな特徴は、生徒の要望に基づき、通学とオンラインを自由に組み合わせることができるハイブリッド型の中学校となっていることである。学校で行われている対面型の授業はすべてオンラインでも配信されているため、通学をしてもしなくても授業に参加できる。これにより生徒は①家庭学習を基本とする②週に数日登校する③毎日登校するという選択肢の中から、自分の学びやすい学習スタイルを選択することができるのである。図4は週2日だけ通学するスタイルとした場合の時間割モデルであるが、通学頻度だけではなく通学する曜日の選択や1カ月単位での見直し・変更なども可能であり、生徒個人に寄り添った柔軟な学習スタイルを提供している。

【図4】家庭で学習しながら週2日登校するスタイルの時間割例

【図4】家庭で学習しながら週2日登校するスタイルの時間割例
(出典:岐阜市立草潤中学校 学校案内(https://www.city.gifu.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/904/gakkouannnai.pdf))

さらに「取り組みたい学びを好きな場所で」という考えから、たとえ通学しても必ずしも普通教室で授業を受ける必要はない。同校には個別ブースなどを備えたEラーニングルームが設置されており、“登校してオンラインで授業に参加”することも認められている。

「ICTを活用した学習者主体の学び」の実現にも力を入れており、個別学習や家庭学習などにおいてはEdtechを積極的に活用、学び直しや先取り学習など個別最適化された学びが行われている。

このように草潤中学校は、生徒自らが“どこで”“何を”“どのように”学ぶかを考えて決定し、学校側は生徒の決めた学びを支援する「学校らしくない学校」なのである。

ちなみに、草潤中学校の第1期卒業生(2021年度卒)の進路を見ると、卒業生15名全員が高等学校へ進学している。

オンラインクラス・ハイブリッドクラスの特徴

ここでは前述にて紹介した事例から見て取れるオンラインクラス・ハイブリッドクラスの特徴について整理してみる

(1) 自治体・教育委員会が主導

何らかの理由で学校に通えない児童生徒の受け皿としては、これまでNPOなどが運営するフリースクールや私塾、あるいは私立学校などがその役割を担ってきた。それに対し、今回の事例はいずれも自治体・教育委員会が主体となっている点が特徴的である。教育機会確保法や骨太の方針2022などを受け、今後も自治体・教育委員会による受け皿作りが推進されることが期待できる。

(2) 個に応じた学びの実現に不可欠なICT

両事例ともオンライン授業をベースにしながらも、個に応じた学びを実現するためにAIによる学習アプリやEdtech教材なども積極的に活用している。またコミュニケーションや学習指導のツールとしてもICTは利用されている。

学校に通えない理由や学力、学習スタイル、学習への興味関心が異なる児童生徒にきめ細やかな指導を実現するために、ICTが大きな力となることが期待できる。

(3) つながりを意識した学び

両事例ともオンラインミーティングや情報共有アプリなどを活用して、担任や学習支援員と日々の学習や健康状況についての確認や振り返りを行う時間を設定している。教員と児童生徒とのつながりを密にすることで、個に応じた学びにより陥りがちな孤独感や行き詰まり感の排除を行っている。また、両校とも地域や大学、企業などと連携した学びの提供に積極的である(草潤中学校では、地域の人や企業、他校と一緒に作業や学習を行う取り組みが行われている)。こうした学びは、児童生徒に社会とのつながりを感じさせることを狙いとしており、そのツールとしてICTが活用されている。

おわりに

何らかの理由で学校に通えない児童生徒の数が増加していることの背景のひとつとして、社会や保護者、児童生徒の学校に対する考え方の変化があげられる。

昭和の時代においては「学校に毎日通うのが当たり前」という考え方が主流であり、また義務教育を受ける手段も学校しかなかった。そのような状況下では、不登校対策も“児童生徒をいかにして学校に戻すのか”という観点で行われてきた。

その後、平成、令和と時代が進むにつれ、「子供が無理をしてまで登校する必要はない」という考え方や世論が台頭してきた。そうした学校に対する考え方の変化とともに、フリースクールなど学校以外で義務教育が受けられる手段が拡大してきた。今回紹介したオンラインスクール・ハイブリッドスクールもICTを十二分に活用することで生まれた新しい義務教育を受ける手段であり、大きな可能性を秘めていることは間違いない(図5)。

【図5】複線化する義務教育

【図5】複線化する義務教育
(出典:筆者作成)

こうした学校に対する価値観の多様化とともに、義務教育を受ける手段が複線化されることは歓迎すべきことではないだろうか。単一ではなく、複数の選択肢から児童生徒一人ひとりが自らに適した手段を選び取り、学んでいく。これが令和における新しい義務教育の姿になるのかもしれない。

[1] 文部科学省「新型コロナウイルス感染症の影響による臨時休業期間中の学習指導等に関する調査<結果>」(2022年3月)

[2] 対象は小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校および特別支援学校

[3] 文部科学省「新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について(令和2年4月16日時点)」(https://www.mext.go.jp/content/ 20200421-mxt_kouhou01-000006590_1.pdf)

[4] 文部科学省「新型コロナウイルス感染症の影響によりやむを得ず学校に登校できない児童生徒の学習保障についての取組事例」(2022年3月)

[5] 不登校となった児童生徒に対しその実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校。授業時間数やクラス編成などの自由度が高く、柔軟なカリキュラム編成が行えるのが特徴。2022年時点では全国で21校(公立学校12校、私立学校9校)が設置されている。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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