ポストコロナ時代の観光地経営とICT利活用

1.はじめに
地方創生の推進や東京2020オリンピック競技大会を契機として、日本の観光は、近年の重要政策のひとつになってきたものの、その一方で、観光産業は、新型コロナの影響を極めて強く受けざるを得なかった業界のひとつともいわれている。コロナ禍を経て、2022年秋以降は、水際対策の大幅緩和により、多くの外国人観光客が日本に戻りつつある。東京の街を歩いていると、外国人観光客と思われる人々が、スーツケースを持って歩いている光景を目にすることも珍しくなくなった。
コロナ禍を経験した全国の観光地経営には、新しい課題もある。一例として「宿泊業界の人手不足」が深刻化している。観光客からの予約があっても、働き手が不足しているために、空室があるにもかかわらず予約を受け入れられない状況が常態化し、地方の宿泊事業者の多くは、コロナ以前のような十分なサービスが提供できない、と言われている。例えば、出張先でも今までのようにはタクシーを捕まえることができない。
こうした状況の中、国では、観光産業を盛り上げるために、観光庁を中心として「観光DXの推進」と銘打って、観光地経営におけるICT利活用の在り方に関するとりまとめを行ってきた。「Ⅰ . 旅行者の利便性向上・周遊促進」「Ⅱ . 観光地経営の高度化」「Ⅲ . 観光産業の生産性向上」「Ⅳ . 観光デジタル人材の育成」の4つの柱建てのもと、観光地経営におけるICT、DX活用への期待が、これまで以上に、ますます注目されている。
2.調査の具体的内容と結果
(1)基本的な課題
こうした背景のもと、「ポストコロナ時代の観光地経営」に関する調査を実施することとなった。調査の要点としては、ポストコロナの起爆剤としての観光産業、インバウンド需要の復活、その一方で、コロナ発生以降、改めて露呈した課題等が考えられる。本稿では、同調査結果をもとに、まず、「コロナ禍と観光地経営、改善したことや新たな課題」:コロナ禍は、全国の観光地経営にどのようなインパクトを与えたのか、また、「観光地経営から見たICTへの期待」:観光地経営の課題を解決するためにはICTはどのような期待に応え得るのか、さらに、「ポストコロナ時代における観光地の自走化」:観光地が自ら運営するためには何が必要なのか、について考察する。
(2)調査概要
株式会社情報通信総合研究所では、2023年1月に、NTTタウンページの電話帳データを活用し、全国の観光協会、道の駅、観光施設等に対して、アンケート調査を発送、408件(約10%強)からの回答を得た(表1)。

【表1】調査概要
(出典:情報通信総合研究所)
(3)ポストコロナの観光課題
まず、各地域における「インバウンド観光への期待」について。外国からの観光客来訪を「期待する」としている地域は、日本全国で見ると3分の2程度ある、ということが確認できた(図1)。
一方、2023年1月現在の観光客の回復状況については、全国的に見ると、国内外の観光客ともに、大部分のエリアでは、「減少した」という回答だった。地域全体で見てみれば、必ずしも回復したとは、まだ言い切れない状況が確認できた(図2)。
コロナ前後で、「改善したこと」や新たな課題については、「地域の情報発信」「地域資源を生かした『魅力的なアクティビティ』」「周遊の工夫」といった、地域資源の新たな発掘に関する項目については、比較的積極的に取り組んでいる様子がわかる(図3)。
その一方で、「働き手不足」に関する課題は、全国各地で、かなり深刻な状況にある。働き手の「数的な不足」「働き手の高齢化」については、全国で課題視され、それぞれ大きなウエイトを占めている。併せて、「多言語対応」についても課題とするところは多く、コロナ禍でインバウンド観光客が消え、各地の外国語人材の雇用にも大きく影響を与えたことにより、地域の対応力が極端に弱まってしまったことが考えられる。
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3.データ利活用のいくつかの段階
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