2023.6.13 DX ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

ポストコロナ時代の観光地経営とICT利活用

Happysmile Lau from Pixabay

1.はじめに

地方創生の推進や東京2020オリンピック競技大会を契機として、日本の観光は、近年の重要政策のひとつになってきたものの、その一方で、観光産業は、新型コロナの影響を極めて強く受けざるを得なかった業界のひとつともいわれている。コロナ禍を経て、2022年秋以降は、水際対策の大幅緩和により、多くの外国人観光客が日本に戻りつつある。東京の街を歩いていると、外国人観光客と思われる人々が、スーツケースを持って歩いている光景を目にすることも珍しくなくなった。

コロナ禍を経験した全国の観光地経営には、新しい課題もある。一例として「宿泊業界の人手不足」が深刻化している。観光客からの予約があっても、働き手が不足しているために、空室があるにもかかわらず予約を受け入れられない状況が常態化し、地方の宿泊事業者の多くは、コロナ以前のような十分なサービスが提供できない、と言われている。例えば、出張先でも今までのようにはタクシーを捕まえることができない。

こうした状況の中、国では、観光産業を盛り上げるために、観光庁を中心として「観光DXの推進」と銘打って、観光地経営におけるICT利活用の在り方に関するとりまとめを行ってきた。「Ⅰ . 旅行者の利便性向上・周遊促進」「Ⅱ . 観光地経営の高度化」「Ⅲ . 観光産業の生産性向上」「Ⅳ . 観光デジタル人材の育成」の4つの柱建てのもと、観光地経営におけるICT、DX活用への期待が、これまで以上に、ますます注目されている。

2.調査の具体的内容と結果

(1)基本的な課題

こうした背景のもと、「ポストコロナ時代の観光地経営」に関する調査を実施することとなった。調査の要点としては、ポストコロナの起爆剤としての観光産業、インバウンド需要の復活、その一方で、コロナ発生以降、改めて露呈した課題等が考えられる。本稿では、同調査結果をもとに、まず、「コロナ禍と観光地経営、改善したことや新たな課題」:コロナ禍は、全国の観光地経営にどのようなインパクトを与えたのか、また、「観光地経営から見たICTへの期待」:観光地経営の課題を解決するためにはICTはどのような期待に応え得るのか、さらに、「ポストコロナ時代における観光地の自走化」:観光地が自ら運営するためには何が必要なのか、について考察する。

(2)調査概要

株式会社情報通信総合研究所では、2023年1月に、NTTタウンページの電話帳データを活用し、全国の観光協会、道の駅、観光施設等に対して、アンケート調査を発送、408件(約10%強)からの回答を得た(表1)。

【表1】調査概要

【表1】調査概要
(出典:情報通信総合研究所)

(3)ポストコロナの観光課題

まず、各地域における「インバウンド観光への期待」について。外国からの観光客来訪を「期待する」としている地域は、日本全国で見ると3分の2程度ある、ということが確認できた(図1)。

【図1】地域から見た「インバウンド(海外からの誘客)」への期待

【図1】地域から見た「インバウンド(海外からの誘客)」への期待
(出典:情報通信総合研究所調査)

一方、2023年1月現在の観光客の回復状況については、全国的に見ると、国内外の観光客ともに、大部分のエリアでは、「減少した」という回答だった。地域全体で見てみれば、必ずしも回復したとは、まだ言い切れない状況が確認できた(図2)。

【図2】観光客の状況(コロナ禍前(2019年より前)との比較)

【図2】観光客の状況(コロナ禍前(2019年より前)との比較)
(出典:情報通信総合研究所調査)

コロナ前後で、「改善したこと」や新たな課題については、「地域の情報発信」「地域資源を生かした『魅力的なアクティビティ』」「周遊の工夫」といった、地域資源の新たな発掘に関する項目については、比較的積極的に取り組んでいる様子がわかる(図3)。

【図3】地域の観光産業の状況(コロナ禍前(2019年より前)との比較)

【図3】地域の観光産業の状況(コロナ禍前(2019年より前)との比較)
(出典:情報通信総合研究所調査)

その一方で、「働き手不足」に関する課題は、全国各地で、かなり深刻な状況にある。働き手の「数的な不足」「働き手の高齢化」については、全国で課題視され、それぞれ大きなウエイトを占めている。併せて、「多言語対応」についても課題とするところは多く、コロナ禍でインバウンド観光客が消え、各地の外国語人材の雇用にも大きく影響を与えたことにより、地域の対応力が極端に弱まってしまったことが考えられる。

(4)ICTソリューションのニーズ

旅行者の行動の流れを意識した、いわゆる「タビマエ」「タビナカ」、また観光協会自身の業務効率化に有益と考えられるソリューションへの関心、および行政への期待度合いについてアンケートで確認した結果を以下に示す。

まず「タビマエ」については、概して「観光アプリを用いた情報提供」「高リアリティの映像配信」「問い合わせの自動化・効率化」「混雑に関する情報発信」などについて、高い関心が示されている(図4)。

【図4】「行動前(タビマエ)」のICT利活用・興味関心

【図4】「行動前(タビマエ)」のICT利活用・興味関心
(出典:情報通信総合研究所調査)

「タビナカ」については、「公衆Wi-Fiの高速化・多様化」に、最も高い関心が示されている。続いて、「顧客の属性に応じた情報発信」「安心安全を意識したソリューション」「多言語化対応」「キャッシュレス」等の取り組みに大きく関心が集まっている。「旅先納税」といったキーワードについても、65%以上もの興味関心がもたれている(図5)。

【図5】「行動中(タビナカ)」のICT利活用・興味関心

【図5】「行動中(タビナカ)」のICT利活用・興味関心
(出典:情報通信総合研究所調査)

地域の業務支援に資するソリューションについては、「来訪者統計と誘客促進」という、データ利活用に関連したキーワードに関心が寄せられた。また、「予約者の属性と物販の連携」や、イベントの開催を支援する「アプリ利活用」も大きく期待されている(図6)。

【図6】観光地経営を支援するICT利活用・興味関心

【図6】観光地経営を支援するICT利活用・興味関心
(出典:情報通信総合研究所調査)

さらに、各地の観光協会から見た、国や自治体への期待については、「Wi-Fiの通信環境整備」に対して、高い関心が確認された。「ICT整備に対する金銭的な支援」についても、引き続き強い要望・ニーズが示されている。国の助成金等これまでも公衆Wi-Fi整備に向けては多くのメニューが準備されてきたが、現場から見ると、引き続き、国の支援を求め必要としている(図7)。

【図7】地域から見た国や自治体への期待

【図7】地域から見た国や自治体への期待
(出典:情報通信総合研究所調査)

3.データ利活用のいくつかの段階

ICTソリューションは、旅行者のタビマエ、タビナカなどの各シーンにおいて、課題解決に役立つ、あるいは、観光地の付加価値を高める役割を果たし得る。その中でも、多くの地域は、観光地経営に直結することとして「来訪者」そのものの人数や、彼らの来訪前後の行動に関する基本的な定量データを把握したい、と考えている。

特に、来訪者そのものの人数については、コロナ禍の影響で、インバウンドや国内旅行者の人出がまだ十分に戻っていないと考えられる地域では、次の一手に向けた早急な対応が求められるだろう。一方、来訪する旅行者が多すぎてしまうと、いわゆる「オーバーツーリズム」が発生し、地元住民の日常生活を脅かしかねない。そのほか、季節ごとに来訪者に「波」がある場合は、平準化に向けたニーズが出てくる。さらには、来訪者の数(量)以上に、来訪者がどのように行動しているか、といった質に注目したい、というニーズもある。

来訪者の状況把握は、観光施策の展開、その成果確認という面での「原点」として、押さえておきたいことのひとつだと思う。日本ではいつどこで災害が起きてもおかしくない状況でもあり、住民以外の来訪者が、地域内にどの程度存在しているのか、有事に備えた基本的な状況把握は、どの地域でも必ず必要になってこよう。

こうした状況把握[1]には、いくつかの段階がある。

①人数を把握したい

最も基本的なニーズとして、「来訪する人数を把握したい」というニーズがある。地域へのゲート(入り口)が限定的な場合、例えば、島しょ部で地域への入り口が任意の空港に限定されるような場合、空港利用者の数で来訪者を把握することができる。また、宿泊が主要な観光資源である場合であれば、地域内の宿泊事業者に定期的に調査をすることで、来訪者を把握することは可能である。

②属性を把握したい

性別や年齢、居住地等を把握したい、というニーズがある。観光動態把握を目的として、携帯電話の位置情報を活用することで、特定のエリア内の人口や性別、年齢等を把握する方法は、兼ねてから活用されてきた。また、祭りやイベントに特化した人数を類推する上でも、有効な把握手段である。

③継続的にデータを把握したい

②の動態把握では、特定の期間/特定のイベントでの把握がこれまでの中心だった。これに加え、日々の来訪状況を、より「継続的に」把握したい、というニーズがある。また、日別のデータ把握の精度を上げていくことで、曜日ごとの把握や近未来の予測などに生かしたいといったニーズもある。

④来訪者の行動把握に対するニーズ

域内の観光拠点間の移動導線を把握する、あるいは域内での「買い物」での消費額を把握したい、といった、「行動把握」にまつわるニーズがある。これについては、来訪者の「宿泊日数」と「宿泊単価」から、おおよその顧客動向を踏まえて、消費傾向を掴むといった方法も考えられる。

⑤CRM的観点

観光地のウェブサイトにアクセスした顧客が、実際に来訪しているのかを把握したい、というニーズがある。個人情報の取扱い等を含め、すべての閲覧者と来訪者を厳密に同定させることは難しいが、その一方で、例えば、イベントの申し込み窓口を観光協会が担い、そこから顧客リストを作ることで、先々のリピーター確保に向けた新しい関係を築く等、観光ならではのCRMを戦術的に取り組む、といったことが考えられる。

⑥SNSへの参画

書籍やウェブ等のペイドメディア、オウンドメディアなどを活用した地域の側からの情報発信に加え、SNS等を活用した取り組みはもはや一般的になっている。地域が、SNSコミュニティの「参加者」として、対等な立場から情報をキャッチボールしていくことで、SNSからの新しい情報の収集や、優良コンテンツ発掘が可能となり、ひいては、地域の新たな魅力造成の一助になる、と考えられる。

◇◆◇

観光地経営は、とりわけ多くの主体が絡むからこそ、PDCAのようなサイクルを描き、回しきることがとても難しい。基本的な域内データの把握についても、関係者間の合意等が必要だったり、外部から情報を購入するにも、様々に手間がかかったりする。とはいえ、様々な施策、それに対する成果の把握方法まで含めて、地域に根付かせることで、観光地のレベルも少しずつ高度化していくだろう。そのためにも「把握のための把握」ではなく、身の丈に応じた基本データの収集と、定点観測、さらに「成果把握の方程式」を見つけることが、成功への近道になる、と考えられる。地域にあった有効・有益なマーケティングの高度化に向けて、引き続きウオッチしていきたい。

[1] 観光庁は「観光地域づくり法人(DMO)による観光地域マーケティングガイドブック」を策定し、科学的なアプローチを取り入れ、客観的なデータを基に戦略を立案し、施策を実行することを支援している。https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/ 001580600.pdf

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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