データセンター市場動向2023 ~成長とグリーン化、立地場所の選択

データセンター市場の規模は引き続き拡大している。Gartnerの2022年7月の発表によれば、2023年の世界のデータセンターシステムへの投資額は、2,220億ドル(対前年比4.4%増)と見込まれている[1]。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染拡大による需要減の反動を受けた2022年の成長率(同11.1%増)には及ばないものの成長は続いており、市場をリードするハイパースケーラーによるものを中心として、データセンターの新規開設も引き続き活発である。一方で、電力供給やグリーン化の問題に関連して、データセンターの建設抑制の動きが見られるほか、一部の部材の供給不足によるサプライチェーン問題も依然続いており、ハイパースケーラーが求める、大規模データセンターによるスケーラビリティの実現には若干影が差している。また、顧客動向としても、最近では機能の制約や各種規制に加え、コスト上の理由から、パブリッククラウドの利用を控え、従来型のデータセンターやプライベートクラウドにシステムを移行する動きも出てきている。
そこで、本稿では、2022年6月号の拙稿(「データセンター市場動向2022~市場の拡大と電力問題」)に引き続き、データセンター事情の動向に着目し、グローバルでの主要事業者の動きについて報告するとともに、市場拡大につながる動きと課題、そしてさまざまな課題に対するネットワーク機能の高度化による解決の可能性について、データセンターの立地場所の選択(Site Selection)に焦点を当てつつ検討したい。
市場動向
データセンター市場の拡大はさまざまな指標から確認することができる。Synergy Research Groupの報告によれば、前述の投資額のほか、ハイパースケールデータセンターの数、キャパシティにおいても、大手クラウド事業者であるAmazon、Microsoft、Googleの3社に牽引され、、2022年の成長率は対前年比で10%を超えたと見込まれている[2]。ハイパースケールデータセンターのキャパシティの成長率が軒数の成長率を上回っており、これは、1軒当たりの規模が拡大していることを示すものと考えられる。
クラウドサービスへの支出も引き続き増加している。Synergy Research Groupによれば、2022年の企業のクラウドインフラストラクチャーサービスへの支出は前年比470億ドル増となった[3]。2021年には490億ドル増だったことから、金額的には同規模を確保した。とはいえ、成長率としては減速である。各社の2022年第3四半期決算については2022年12月号(「Every cloud has a silver lining?」)で触れたが、ここでは各社が2022年以降大規模なレイオフを行っていることに触れておきたい。報道によれば、Amazonは2022年11月、2023年1月、3月合わせて27,000人、Microsoftは2023年1月に10,000人、Googleの親会社であるAlphabetも2023年1月に12,000人のレイオフを行っている。これらがクラウド事業だけではなく、各社の他事業によるものを含むことには留意が必要だが、各種報道によれば、成長を続けているクラウド事業も例外ではなかったとされている。経済情勢の影響による一時的な減速もあるだろうが、これまでのような成長を謳歌できるかの分水嶺に立っている可能性もある。
大手クラウド事業者の事業展開
ここでは、大手クラウド事業者のデータセンターとサービスに関する動き、特にエッジコンピューティングや通信サービスへの進出に関するものと、並行して進める各社のグリーン化について個別に見ておきたい。
AWSは、2023年5月9日現在、31リージョン、99のアベイラビリティゾーンを展開しているほか、15のアベイラビリティゾーンの展開計画を公表している。エッジコンピューティングに関しては、同社は400以上のエッジロケーションと13のリージョナルエッジキャッシュを持つのに加え、超低レイテンシ(遅延)が求められるアプリケーション向けに29のWavelength Zoneを提供している。ネットワーク関連サービスの提供にも意欲的で、2022年8月にはプライベートLTEネットワークサービス「AWS Private 5G」の米国での一般提供を開始しているほか、同年11月に3年ぶりに米国ラスベガスで通常開催した年次イベント「AWS re:Invent 2022」では、ユーザーのシステムにセキュアなリモートアクセスを提供し、VPNを不要とする新サービス「AWS Verified Access」(プレビュー)を発表している。また、2023年2月には、同社は通信ネットワークをAWS上でデプロイ、運用、拡張する顧客を支援するフルマネージドサービスである「AWS Telco Network Builder」の一般提供を開始したと発表した[4]。クラウド上に構成された運用可能な通信ネットワークのデプロイに要する時間を数日から数時間に短縮するとしている。グリーン化に関しては、AWSは、2023年4月、エネルギー企業Iberdrolaと風力発電と太陽光発電の電力購入契約(Power Purchase Agreements:PPAs)を締結したと発表した。欧州では、ドイツでIberdrolaが保有する2つの洋上風力発電所がAmazonに電力を供給するとされている。なお一方で、IberdrolaがAWSのユーザーとなることも発表されている[5]。
Microsoftは、2023年5月9日現在、60以上のリージョンを展開しており、200以上のデータセンターを有しているとしている。2022年8月には、新たなリージョンをカタールのドーハでオープンしたと発表した(ただし、「60以上のリージョン、200以上のデータセンター」の表現は昨年から変わっていないように見える)。また、2023年2月には、「Microsoft Azure Operator Nexus」(プレビュー)を発表するなど、「Azure for Operators」の拡充を発表した。ミッションクリティカルなモバイルネットワークアプリケーション向けに構築された通信事業者レベルのハイブリッドクラウドプラットフォームで、新しいネットワークサービスのプロビジョニングを簡素化し、オンプレミスのネットワーク機能とアプリケーションのデプロイを最適化するとしている[6]。一方、グリーン化に関しては、2022年11月に、アイルランドで900メガワット以上の新しい再生可能エネルギー電力容量分のPPA締結を発表している。同社が2025年までに全電力を再生可能エネルギーに移行する契約であり、これは同社のデータセンター等で消費される、炭素排出を行う電力分すべてについてPPAが締結されることを意味している[7]。
Googleは、2023年5月9日現在、36のリージョン、109のゾーンを展開しており、176のネットワークエッジロケーションを有している。2023年3月にはイタリアのトリノ、カタールのドーハでリージョンを開設した。2023年4月には千葉県印西市で自社データセンターを開設している。また、これに先立ち同年2月には「Telecom Network Automation」(プレビュー)を発表した。これにより、クラウドインフラとネットワーク機能の5G展開と管理を自動化するとしている。Telecom Network Automationは、Linux FoundationのオープンソースプロジェクトであるNephioをGoogleの管理の下、クラウド実装したものである[8]。また、グリーン化に関しては、2023年3月、ベルギーとオランダで、陸上と洋上の風力発電プロジェクトで得られた再生可能エネルギーに関するPPAを締結したと発表した。これにより、2024年には両国事業の80%近くがカーボンフリーエネルギーで運営されるとしている[9]。
このように、各社は従来のクラウドサービスを拡大するとともにエッジコンピューティングや通信サービスを強化しており、各地でリージョンの開設を進めている。このことが、(各社の自社構築か否かを問わず)データセンターの拡大、増加につながっている。そして、各社は大規模設備によるスケールメリットを求めていることから、ハイパースケールデータセンターへの需要が増加している。また、各社が目指す目標に沿ったグリーン化も進められている。
大手データセンター事業者の事業展開
大手データセンター事業者についても見ておきたい。Equinixは5月3日に2023年第1四半期決算を発表したが、売上高は前年同期比15%増加し20億ドルとなった。2月にはスペイン・バルセロナでの新たなデータセンターの開設を発表しているほか、ハイパースケーラー向けにJV(合弁会社)で実施しているxScaleプロジェクト10件が進行中であるとしている[10]。
Digital Realtyは4月27日に2023年第1四半期決算を発表している。売上高は13 億ドル、前年同期比19%増となった。また、期中に大阪で新たに用地を取得したことも発表している(JVであるMCデジタル・リアルティによる)[11]。
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建設抑制の動き
都市に集まるデータセンター
データセンター立地の条件
データセンターを置くべき場所
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
- Statista, Information technology (IT) spending on data center systems worldwide from 2012 to 2023(2022/7), https://www.statista.com/statistics/314596/total-data-center-systems-worldwide-spending-forecast/
- Synergy Research Group, Total Public Cloud Revenues Jumped 21% in 2022 Surpassing $500 Billion Despite Economic Headwinds (2023/1)
https://www.srgresearch.com/articles/total-public-cloud-revenues-jumped-21-in-2022-surpassing-500-billion-despite-economic-headwinds - Synergy Research Group, Cloud Spending Growth Rate Slows But Q4 Still Up By $10 Billion from 2021; Microsoft Gains Market Share(2023/2)
https://www.srgresearch.com/articles/cloud-spending-growth-rate-slows-but-q4-still-up-by-10-billion-from-2021-microsoft-gains-market-share - AWS, Announcing AWS Telco Network Builder (2023/2)
https://aws.amazon.com/about-aws/whats-new/2023/02/aws-telco-network-builder/ - Iberdrola, We announce a partnership with Amazon to accelerate a cleaner, smarter energy system(2023/3)
https://www.iberdrola.com/press-room/news/detail/we-announce-a-partnership-with-amazon-to-accelerate-a-cleaner-smarter-energy-system - Microsoft, Azure Operator Nexus Preview,
https://azure.microsoft.com/en-us/products/operator-nexus/ - Microsoft, As the world goes digital, datacenters that make the cloud work look to renewable energy sources(2022/11)
https://news.microsoft.com/europe/features/as-the-world-goes-digital-datacenters-that-make-the-cloud-work-look-to-renewable-energy-sources/ - Introducing Telecom Network Automation: Unlock 5G cloud-native automation with Google Cloud(2023/2)
https://cloud.google.com/blog/topics/telecommunications/introducing-telecom-network-automation/ - Google, Our progress in stewarding clean energy in Europe(2023/4)https://blog.google/around-the-globe/google-europe/clean-energy-progress/
- Equinix, Equinix Reports First-Quarter 2023 Results (2023/5)
https://investor.equinix.com/news-events/press-releases/detail/1000/equinix-reports-first-quarter-2023-results - Digital Realty, Digital Realty Reports First Quarter 2023 Results(2023/4)https://investor.digitalrealty.com/news/news-details/2023/Digital-Realty-Reports-First-Quarter-2023-Results/default.aspx
※閲覧はすべて執筆時点(2023年5月)である。
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左高 大平 (Taihei Sadaka)の記事
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