2023.10.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

FTCと州政府がAmazonのeコマースビジネス慣行を提訴

justynafaliszek from Pixabay

米国の公正取引委員会にあたるFTC(連邦取引委員会)と複数の州政府は2023年9月26日、Amazonのeコマースビジネス慣行を反トラスト法違反で提訴した。本稿ではFTCのウェブサイトで公表されている情報[1]をもとに同訴状の概要をまとめてみたい。

1.訴訟の基礎情報

原告はFTCおよび17州の司法長官。訴状に名を連ねている州はニューヨーク、コネチカット、ペンシルベニア、デラウェア、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ネバダ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューメキシコ、オクラホマ、オレゴン、ロードアイランド、ウィスコンシン。

原告は、Amazonのeコマースビジネス慣行が、不公正な競争方法などを禁じるFTC法第5条(a)、独占化行為を禁ずるシャーマン法第2条、そして、各州の競争法および消費者保護法に違反しているとして、ワシントン西地区連邦地方裁判所[2]に提訴した。構造的な措置を含め是正措置を検討し講じることを裁判所に求めている。

2.Amazonのビジネスに関する記述

訴状ではまず、Amazonが非常に規模の大きい会社であることを指摘している。「世界の上場企業の中で、株式時価総額および売上高のいずれにおいてもトップ5に入る」こと、「事業領域が小売、メディア、クラウドコンピューティングなど多岐にわたる」こと、「100を超える買収を通じて事業を拡大してきたこと」などが述べられている。

その上で今回の訴訟に関連する事業として(1)自社小売およびサードパーティ向けマーケットプレイス、(2)オンライン・スーパーストア、(3)広告サービス、(4)プライムサブスクリプション・プログラム、(5)フルフィルメント・サービス[3]、の5つを挙げている。

各事業についてポイントになりそうな記述を以下にピックアップして紹介する。

サードパーティ向けマーケットプレイスの項においては、現実問題としてほとんどの小売事業者がAmazonに対して4種類の料金を支払う必要があると指摘している。「マーケットプレイスを利用するためにかかる出品料金」、「商品が売れるたびにかかる販売手数料」、「配送代行などにかかるフルフィルメント・サービスの利用料」、そして「広告料」である。広告を出稿するかどうかはもちろん任意だが、Amazonが広告事業に注力するようになり、広告料を支払ったスポンサーの製品が目立つ位置に表示されるようになったことから、マーケットプレイスで売上を増やしたい小売事業者の多くが広告料を支払っていると指摘されている。

オンライン・スーパーストアの項では、Amazonが米国内で非常に多く利用されていることや膨大な商品が販売[4]されていることが述べられている。月間利用者数は、モバイルアプリで1億2,600万人、デスクトップコンピューターからも4,200万人以上がアクセスしているという。

広告サービスの項では、買い物客が商品検索をした際に、かつてはほとんどの場合「オーガニックな検索結果(検索ワードに直接的に紐付いた結果)」が表示されていたが、現在では「スポンサー」広告が目立つ位置に表示されることを指摘している。多くの買い物客は、次ページを見ることはないため、オーガニックな検索結果よりも広告料を支払った小売事業者の商品をより多く見ることがしばしば起こる。モバイルアプリの場合には、画面に表示されるのは広告だけで、オーガニックな検索結果を見るためにはスクロールしなければならないというケースも多いと指摘している。

プライムサブスクリプション・プログラムの項では、2005年に配送料を無料とするための有料サービスとして始まったAmazonプライムが、現在では動画や音楽、ゲームなど多様なサービスへのアクセスや、「プライムデー」と呼ばれる会員向けセールへの参加資格が含まれるものになっていることや、年会費が79ドルから139ドルに値上げされていることなどを記載。プライム会費の存在により買い物客は「元を取るためにもっと買い物をしよう」という意識になると指摘。Amazonプライムの開発に関わった同社の元従業員の「(プライムは)利用者が他所で買い物をしないようなメンタリティにするためのものだ」という発言を引用している。また会員向けの配送料が無料になる商品にプライム・マークが表示されることや、「プライム対象商品のみ」の検索ができることにも言及。プライム会員を増やすことがAmazonのトッププライオリティになっていると指摘した。

フルフィルメント・サービスの項では、「フルフィル」と「デリバリー」は関連するが別のサービスであると指摘している。「フルフィル」は商品の保管・ピッキング・梱包などの配送の準備作業であり、それを顧客宅に届ける「デリバリー」はUSPS、FedEx、UPSなどに依頼することも本来は可能である。しかし、Amazon小売およびマーケットプレイスで購入された商品の多くについて「フルフィル」と「デリバリー」の双方をAmazonが担っている[5]と指摘している。また2020年から2022年にかけてAmazonが小売事業者に請求するフルフィルメント料金が30%値上げされていることも書かれている。

3.関連市場と市場支配力

訴状では米国の「オンライン・スーパーストア市場」と「オンライン・マーケットプレイス・サービス市場」を関連市場とし、両市場においてAmazonが独占力を有していると指摘している。

【オンライン・スーパーストア市場[6]

オンライン・スーパーストアには以下のような特徴がある:(1)多様なカテゴリーのさまざまな製品が一カ所で揃う、(2)営業時間が限定されず24時間365日運営可能、(3)インターネットにアクセスできればどこでも利用できる、(4)過去の検索・購入履歴などのデータも利用し膨大なカタログの中から効率的に商品を探し出すツールを提供する、(5)購入者による評価やレビューを含む詳細な情報を提供する、(6)決済情報や届け先住所などを記録することで購入手続きを簡略化する、(7)まとめて購入した商品を同時に届けるなどのサービスを提供する。

そのため「ブリック&モルタル店舗(リアルの小売店)」や「品揃えが限定的なオンラインストア」が仮に、より安い価格で商品を提供したとしても、オンライン・スーパーストアの代替にはならないというのが原告の主張である。

市場シェアについては複数のデータが紹介されている。Bank of America Global Researchのデータによれば2015年に69%だったAmazonの米国内のeコマース市場の流通取引総額シェアは2021年に77%(推計値)。一方、eMarketer Insider Intelligenceのデータでは2016年に75.6%だったAmazonのシェアが2022年(推計値)に82.3%となっている[7]

このようにAmazonの市場シェアは極めて高く、またその市場シェアは、規模の経済、ネットワーク効果、評判、スイッチングコストなどの参入障壁によって守られていると指摘している。

【オンライン・マーケットプレイス・サービス市場[8]

オンライン・マーケットプレイス・サービスは(1)オンラインで販売を行う米国内の多くの小売事業者にアクセスでき、(2)製品を探すための検索インターフェースを備えておりマーケットプレイスを離れることなく商品を探して購入でき、(3)小売事業者がマーケットプレイス上で販売する自社の商品の価格を決めることができ、(4)小売事業者が自社の商品に関する詳細な情報をマーケットプレイス上に作成・維持でき、(5)利用者が付けた評価やレビューを表示させることができるものである。

ShopifyやBigCommerceなどが提供するサービスは、小売事業者自身のオンラインストアの構築・運営を支援するSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)と位置付けられ、オンライン・マーケットプレイス・サービス市場には含まれないというのが訴状の整理である。

引用されているeMarketer Insider Intelligenceのデータによれば、米国内のオンライン・マーケットプレイス・サービス市場(流通取引総額)におけるAmazonのシェアは、2016年の58.9%が2022年には71.7%に上昇している[9]。オンライン・スーパーストア市場同様、こちらも規模の経済、スイッチングコスト、ネットワーク効果などによって守られていると指摘されている。

【フィードバックループ】

このように両市場で大きな市場支配力を有するAmazonだが、両市場間でフィードバックループが働くことによって、規模の経済やネットワーク効果がより強化されていると指摘されている。オンライン・スーパーストアは必ずしもオンライン・マーケットプレイスを提供する必要性はないが、双方を提供することでメリットがある。例えば、オンライン・スーパーストアが多くの買い物客にアクセスしてもらうためには、広範かつ多様な製品ラインアップを揃える必要があるが、マーケットプレイスを開設しサードパーティの小売事業者に出店させることで品揃えを充実させることができる。一方、出店する小売事業者の立場からすれば、既に多くの買い物客がアクセスしているスーパーストアと同じ場所にあるマーケットプレイスには、集客面での魅力がある。これらの市場に新規参入しようとする事業者は、「にわとりと卵問題」に直面する。買い物客に訪問してもらうためには品揃えを充実させる必要があるが、出店者を集めるためには顧客が必要なのだ。Amazon創業者のJeff Bezosはこうした相関を早くから認識しており、「フライホイール効果」を意識した経営を行ってきたとされている。

しかしながら原告は、単に好循環が機能しているというきれいごとではなく、Amazonは戦略的に選択肢を制限することで利用者の行動に影響を与えてきたのだと指摘する。例えばAmazonプライムは「配送料無料」というサービスだけを単独で契約することはできない。動画や音楽やゲームなどを含むサービスとして「オール・オア・ナッシング」の契約にすることでいずれかのサービスが必要な顧客をすべてAmazonプライムの会員に組み入れている。この仕組みは競合他社がAmazonに対抗することを意図的に難しくするものだという。訴状では「競合他社がプライムのような配送料無料のサービスを提供することは可能だし、新たなNetflixのようなサービスを提供することもあり得るが、その両方を同時に行うことができる可能性は低い」という元Amazon幹部の発言が引用されている。

4.違法な独占化行為

原告は、Amazonが2つの反競争的行為によって独占力を維持してきたと指摘している。1つ目は、人工的に下限価格を創り出しAmazon以外の場所でより安価な価格で販売している小売事業者に制裁を科すことで価格競争を排したこと。2つ目は、マーケットプレイスに出店する小売事業者にプライム・マークを取得するためにAmazonのフルフィルメント・サービスであるFBAの利用を強制したことだ。

【下限価格と制裁】

Amazon以外のサイトでより安い価格の商品が出回ることはAmazonのビジネスを脅かすことになる。そこでAmazonはマーケットプレイスに出店する小売事業者が、他所でより安い価格を設定することを禁止した。当初は契約書上そうした規定を明記していたが欧州委員会が調査を開始したことを受けて欧州においてはその条項を外した。その後、米国内でも上院議員が調査を求めたことを受けて、2019年に同様の措置を執った。しかしながら、Amazonは契約書上の条項を削除したあとも他所で低価格販売を行う小売事業者に制裁を科していたとされる。その手法には、商品表示の際「カートに入れる」や「今すぐ買う」を表示しない、検索結果の表示順位を下げるなどが含まれると指摘されている。

Amazonはまた、マーケットプレイスに出店する小売事業者がAmazonと同じ製品をAmazonより安い価格で販売することを妨げていたと指摘されている。具体的な手法は訴状の該当箇所が黒塗りになっているため不明だが、価格を下げることが売上の増加につながらず、単に利益率を下げる結果になるためほとんどの小売事業者が価格競争を断念することになっているという。訴状は「プライス・カッターをプライス・フォロワーに飼い馴らすことでAmazonは価格競争をフリーズさせた」と記している。またこちらも黒塗りとなっているため詳細は明らかではないが、“Project Nessie”と呼ばれるアルゴリズムを利用して価格操作を行っていたことも指摘されている[10]

【FBA利用の強制】

Amazonプライム会員はプライム・マークが付いている商品については送料無料で購入することができる。Amazonで買い物をする利用者の多くがプライム会員[11]であり、同種の商品が多くの小売事業者から出店されている場合、プライム・マークが付いているかどうかが販売の成否に大きな影響を持つ。プライム・マークはFBAを利用している小売事業者の商品に付くため、Amazonのマーケットプレイス上で売上を増やしたい小売事業者は、否応なくこれを利用せざるを得なくなっていると原告は指摘する。

こうした制約がなければ、小売事業者は独立系のフルフィルメント・サービスを利用して、他のオンライン・マーケットプレイスとAmazonを併用する「マルチ・ホーミング戦略」を追求することができるが、FBA利用が事実上強制されている現状でそれをやろうとすれば、物流コストが倍増することになる。またこうした慣行は独立系フルフィルメント・サービス事業者のビジネス機会を奪うものでもある。

FBAを利用すれば当然のことながら、小売事業者がAmazonに支払う手数料は増加する。Amazonのフルフィルメント・サービスを利用する典型的な小売事業者は今や商品価格の約半分をAmazonに支払っており、利益を出すことが年々難しくなってきていると原告は指摘している。

5.まとめ

本稿ではAmazonのeコマースビジネスに関する反トラスト訴訟の訴状の内容を概観したが、その記述に関して事実関係を肯定するものでも否定するものでもない。Amazonが同訴訟に対して反論するプレスリリースを公表していることも付け加えておきたい[12]

一方、訴状を読んで改めて感じるのは、eコマース市場におけるAmazonの存在の巨大さである。マーケットプレイス上で商品を販売する小売事業者にとってはAmazonの制度設計こそが競争ルールとなる。商取引の多くがオンラインに移行するなかで、どのようなビジネス慣行が許容されるのかは小売事業者にとって死活問題である。今回の訴訟では、規模の重要性を認識していたAmazonが、自身の事業に関してクリティカルマスを確保するとともに、競合事業者が同じことをする能力を排除してきたことが問題視された。

バイデン政権でFTC委員長に就任したLina M. Khan氏は、Amazonのビジネスモデルを批判的に取り上げた論文で知られていた学者だ[13]。2017年に公表した論文においてKhan氏は、短期的な価格への影響に着目する「消費者厚生基準」を重視する現行の反トラスト手法では、Amazonのような現代の独占企業に対処しきれないと指摘。略奪的価格設定のリスクや異なる事業間の連携が反競争的行為につながる可能性などが過小評価されていると指摘していた。

FTCは今年6月にAmazonプライムに関わるビジネス慣行に対する提訴[14]も行っている。いずれの訴訟もAmazonのビジネスモデルの根幹の是非を問うものであり、これらの訴訟の行方はAmazonの事業運営はもちろん、eコマース市場の競争環境に大きな影響を与える可能性がある。

【フィードバックループ】

このように両市場で大きな市場支配力を有するAmazonだが、両市場間でフィードバックループが働くことによって、規模の経済やネットワーク効果がより強化されていると指摘されている。オンライン・スーパーストアは必ずしもオンライン・マーケットプレイスを提供する必要性はないが、双方を提供することでメリットがある。例えば、オンライン・スーパーストアが多くの買い物客にアクセスしてもらうためには、広範かつ多様な製品ラインアップを揃える必要があるが、マーケットプレイスを開設しサードパーティの小売事業者に出店させることで品揃えを充実させることができる。一方、出店する小売事業者の立場からすれば、既に多くの買い物客がアクセスしているスーパーストアと同じ場所にあるマーケットプレイスには、集客面での魅力がある。これらの市場に新規参入しようとする事業者は、「にわとりと卵問題」に直面する。買い物客に訪問してもらうためには品揃えを充実させる必要があるが、出店者を集めるためには顧客が必要なのだ。Amazon創業者のJeff Bezosはこうした相関を早くから認識しており、「フライホイール効果」を意識した経営を行ってきたとされている。

しかしながら原告は、単に好循環が機能しているというきれいごとではなく、Amazonは戦略的に選択肢を制限することで利用者の行動に影響を与えてきたのだと指摘する。例えばAmazonプライムは「配送料無料」というサービスだけを単独で契約することはできない。動画や音楽やゲームなどを含むサービスとして「オール・オア・ナッシング」の契約にすることでいずれかのサービスが必要な顧客をすべてAmazonプライムの会員に組み入れている。この仕組みは競合他社がAmazonに対抗することを意図的に難しくするものだという。訴状では「競合他社がプライムのような配送料無料のサービスを提供することは可能だし、新たなNetflixのようなサービスを提供することもあり得るが、その両方を同時に行うことができる可能性は低い」という元Amazon幹部の発言が引用されている。

4.違法な独占化行為

原告は、Amazonが2つの反競争的行為によって独占力を維持してきたと指摘している。1つ目は、人工的に下限価格を創り出しAmazon以外の場所でより安価な価格で販売している小売事業者に制裁を科すことで価格競争を排したこと。2つ目は、マーケットプレイスに出店する小売事業者にプライム・マークを取得するためにAmazonのフルフィルメント・サービスであるFBAの利用を強制したことだ。

【下限価格と制裁】

Amazon以外のサイトでより安い価格の商品が出回ることはAmazonのビジネスを脅かすことになる。そこでAmazonはマーケットプレイスに出店する小売事業者が、他所でより安い価格を設定することを禁止した。当初は契約書上そうした規定を明記していたが欧州委員会が調査を開始したことを受けて欧州においてはその条項を外した。その後、米国内でも上院議員が調査を求めたことを受けて、2019年に同様の措置を執った。しかしながら、Amazonは契約書上の条項を削除したあとも他所で低価格販売を行う小売事業者に制裁を科していたとされる。その手法には、商品表示の際「カートに入れる」や「今すぐ買う」を表示しない、検索結果の表示順位を下げるなどが含まれると指摘されている。

Amazonはまた、マーケットプレイスに出店する小売事業者がAmazonと同じ製品をAmazonより安い価格で販売することを妨げていたと指摘されている。具体的な手法は訴状の該当箇所が黒塗りになっているため不明だが、価格を下げることが売上の増加につながらず、単に利益率を下げる結果になるためほとんどの小売事業者が価格競争を断念することになっているという。訴状は「プライス・カッターをプライス・フォロワーに飼い馴らすことでAmazonは価格競争をフリーズさせた」と記している。またこちらも黒塗りとなっているため詳細は明らかではないが、“Project Nessie”と呼ばれるアルゴリズムを利用して価格操作を行っていたことも指摘されている[10]

【FBA利用の強制】

Amazonプライム会員はプライム・マークが付いている商品については送料無料で購入することができる。Amazonで買い物をする利用者の多くがプライム会員[11]であり、同種の商品が多くの小売事業者から出店されている場合、プライム・マークが付いているかどうかが販売の成否に大きな影響を持つ。プライム・マークはFBAを利用している小売事業者の商品に付くため、Amazonのマーケットプレイス上で売上を増やしたい小売事業者は、否応なくこれを利用せざるを得なくなっていると原告は指摘する。

こうした制約がなければ、小売事業者は独立系のフルフィルメント・サービスを利用して、他のオンライン・マーケットプレイスとAmazonを併用する「マルチ・ホーミング戦略」を追求することができるが、FBA利用が事実上強制されている現状でそれをやろうとすれば、物流コストが倍増することになる。またこうした慣行は独立系フルフィルメント・サービス事業者のビジネス機会を奪うものでもある。

FBAを利用すれば当然のことながら、小売事業者がAmazonに支払う手数料は増加する。Amazonのフルフィルメント・サービスを利用する典型的な小売事業者は今や商品価格の約半分をAmazonに支払っており、利益を出すことが年々難しくなってきていると原告は指摘している。

5.まとめ

本稿ではAmazonのeコマースビジネスに関する反トラスト訴訟の訴状の内容を概観したが、その記述に関して事実関係を肯定するものでも否定するものでもない。Amazonが同訴訟に対して反論するプレスリリースを公表していることも付け加えておきたい[12]

一方、訴状を読んで改めて感じるのは、eコマース市場におけるAmazonの存在の巨大さである。マーケットプレイス上で商品を販売する小売事業者にとってはAmazonの制度設計こそが競争ルールとなる。商取引の多くがオンラインに移行するなかで、どのようなビジネス慣行が許容されるのかは小売事業者にとって死活問題である。今回の訴訟では、規模の重要性を認識していたAmazonが、自身の事業に関してクリティカルマスを確保するとともに、競合事業者が同じことをする能力を排除してきたことが問題視された。

バイデン政権でFTC委員長に就任したLina M. Khan氏は、Amazonのビジネスモデルを批判的に取り上げた論文で知られていた学者だ[13]。2017年に公表した論文においてKhan氏は、短期的な価格への影響に着目する「消費者厚生基準」を重視する現行の反トラスト手法では、Amazonのような現代の独占企業に対処しきれないと指摘。略奪的価格設定のリスクや異なる事業間の連携が反競争的行為につながる可能性などが過小評価されていると指摘していた。

FTCは今年6月にAmazonプライムに関わるビジネス慣行に対する提訴[14]も行っている。いずれの訴訟もAmazonのビジネスモデルの根幹の是非を問うものであり、これらの訴訟の行方はAmazonの事業運営はもちろん、eコマース市場の競争環境に大きな影響を与える可能性がある。

[1] FTCプレスリリース(2023年9月26日)“FTC Sues Amazon for Illegally Maintaining Monopoly Power”(https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2023/09/ftc-sues-amazon-illegally-maintaining-monopoly-power)

[2] ワシントン州はAmazonの本社シアトルの所在地。

[3] フルフィルメント・サービスとは、他社のオンライン通販事業を支援する商品保管・配送代行事業のこと。Amazonジャパンのウェブサイトでは以下のように説明されている。「フルフィルメント by Amazon(FBA)は、商品をAmazonのフルフィルメントセンター(物流拠点)に保管し、購入者様から注文を受けると、Amazonがピッキング、梱包、発送からカスタマーサービスまで、すべてを担当します。」

[4] 具体的な商品数は黒塗りされており不明。

[5] 具体的な数値は黒塗りされており不明。

[6] 本訴状における「オンライン・スーパーストア市場」は、地理的には「米国を対象」とし、「生鮮食料品は含まれない」としている。

[7] 2位以下はBank of America Global Research の2021年推計データでは2位Walmart(13%)、3位eBay(8%)、4位Target(2%)。eMarketer Insider Intelligenceの2022年推計データでは2位eBay(8.1%)、3位Walmart(6.7%)、4位Target(2.9%)。

[8] オンライン・スーパーストア市場では地理的市場は「米国」とされたが、オンライン・マーケットプレイス・サービス市場に関しては、「米国内の消費者にものを売ろうとする世界中の小売事業者」が対象となる。

[9] 2022年の2位はeBayで10.4%、3位がWalmartで2.1%、その他が15.8%。

[10] Project NessieについてはWall Street Journalが2023年10月3日の記事“Amazon Used Secret ‘Project Nessie’ Algorithm to Raise Prices”で概要が報道されている。(https://www.wsj.com/business/retail/amazon-used-secret-project-nessie-algorithm-to-raise-prices-6c593706)

[11] 具体的な数値は黒塗りされており不明。

[12] Amazonプレスリリース2023年9月27日 “The FTC’s lawsuit against Amazon would lead to higher prices and slower deliveries for consumers—and hurt businesses”(https://www.aboutamazon.com/news/company-news/amazon-ftc-antitrust-lawsuit-full-response)

[13] The Yale Law Journal 2017年1月 “Amazon’s Antitrust Paradox”(https://www.yalelawjournal.org/note/amazons-antitrust-paradox)

[14] FTCプレスリリース(2023年6月21日)“FTC Takes Action Against Amazon for Enrolling Consumers in Amazon Prime Without Consent and Sabotaging Their Attempts to Cancel”(https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2023/06/ftc-takes-action-against-amazon-enrolling-consumers-amazon-prime-without-consent-sabotaging-their)

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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