FTCと州政府がAmazonのeコマースビジネス慣行を提訴

米国の公正取引委員会にあたるFTC(連邦取引委員会)と複数の州政府は2023年9月26日、Amazonのeコマースビジネス慣行を反トラスト法違反で提訴した。本稿ではFTCのウェブサイトで公表されている情報[1]をもとに同訴状の概要をまとめてみたい。
1.訴訟の基礎情報
原告はFTCおよび17州の司法長官。訴状に名を連ねている州はニューヨーク、コネチカット、ペンシルベニア、デラウェア、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ミシガン、ミネソタ、ネバダ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューメキシコ、オクラホマ、オレゴン、ロードアイランド、ウィスコンシン。
原告は、Amazonのeコマースビジネス慣行が、不公正な競争方法などを禁じるFTC法第5条(a)、独占化行為を禁ずるシャーマン法第2条、そして、各州の競争法および消費者保護法に違反しているとして、ワシントン西地区連邦地方裁判所[2]に提訴した。構造的な措置を含め是正措置を検討し講じることを裁判所に求めている。
2.Amazonのビジネスに関する記述
訴状ではまず、Amazonが非常に規模の大きい会社であることを指摘している。「世界の上場企業の中で、株式時価総額および売上高のいずれにおいてもトップ5に入る」こと、「事業領域が小売、メディア、クラウドコンピューティングなど多岐にわたる」こと、「100を超える買収を通じて事業を拡大してきたこと」などが述べられている。
その上で今回の訴訟に関連する事業として(1)自社小売およびサードパーティ向けマーケットプレイス、(2)オンライン・スーパーストア、(3)広告サービス、(4)プライムサブスクリプション・プログラム、(5)フルフィルメント・サービス[3]、の5つを挙げている。
各事業についてポイントになりそうな記述を以下にピックアップして紹介する。
サードパーティ向けマーケットプレイスの項においては、現実問題としてほとんどの小売事業者がAmazonに対して4種類の料金を支払う必要があると指摘している。「マーケットプレイスを利用するためにかかる出品料金」、「商品が売れるたびにかかる販売手数料」、「配送代行などにかかるフルフィルメント・サービスの利用料」、そして「広告料」である。広告を出稿するかどうかはもちろん任意だが、Amazonが広告事業に注力するようになり、広告料を支払ったスポンサーの製品が目立つ位置に表示されるようになったことから、マーケットプレイスで売上を増やしたい小売事業者の多くが広告料を支払っていると指摘されている。
オンライン・スーパーストアの項では、Amazonが米国内で非常に多く利用されていることや膨大な商品が販売[4]されていることが述べられている。月間利用者数は、モバイルアプリで1億2,600万人、デスクトップコンピューターからも4,200万人以上がアクセスしているという。
広告サービスの項では、買い物客が商品検索をした際に、かつてはほとんどの場合「オーガニックな検索結果(検索ワードに直接的に紐付いた結果)」が表示されていたが、現在では「スポンサー」広告が目立つ位置に表示されることを指摘している。多くの買い物客は、次ページを見ることはないため、オーガニックな検索結果よりも広告料を支払った小売事業者の商品をより多く見ることがしばしば起こる。モバイルアプリの場合には、画面に表示されるのは広告だけで、オーガニックな検索結果を見るためにはスクロールしなければならないというケースも多いと指摘している。
プライムサブスクリプション・プログラムの項では、2005年に配送料を無料とするための有料サービスとして始まったAmazonプライムが、現在では動画や音楽、ゲームなど多様なサービスへのアクセスや、「プライムデー」と呼ばれる会員向けセールへの参加資格が含まれるものになっていることや、年会費が79ドルから139ドルに値上げされていることなどを記載。プライム会費の存在により買い物客は「元を取るためにもっと買い物をしよう」という意識になると指摘。Amazonプライムの開発に関わった同社の元従業員の「(プライムは)利用者が他所で買い物をしないようなメンタリティにするためのものだ」という発言を引用している。また会員向けの配送料が無料になる商品にプライム・マークが表示されることや、「プライム対象商品のみ」の検索ができることにも言及。プライム会員を増やすことがAmazonのトッププライオリティになっていると指摘した。
フルフィルメント・サービスの項では、「フルフィル」と「デリバリー」は関連するが別のサービスであると指摘している。「フルフィル」は商品の保管・ピッキング・梱包などの配送の準備作業であり、それを顧客宅に届ける「デリバリー」はUSPS、FedEx、UPSなどに依頼することも本来は可能である。しかし、Amazon小売およびマーケットプレイスで購入された商品の多くについて「フルフィル」と「デリバリー」の双方をAmazonが担っている[5]と指摘している。また2020年から2022年にかけてAmazonが小売事業者に請求するフルフィルメント料金が30%値上げされていることも書かれている。
3.関連市場と市場支配力
訴状では米国の「オンライン・スーパーストア市場」と「オンライン・マーケットプレイス・サービス市場」を関連市場とし、両市場においてAmazonが独占力を有していると指摘している。
【オンライン・スーパーストア市場[6]】
オンライン・スーパーストアには以下のような特徴がある:(1)多様なカテゴリーのさまざまな製品が一カ所で揃う、(2)営業時間が限定されず24時間365日運営可能、(3)インターネットにアクセスできればどこでも利用できる、(4)過去の検索・購入履歴などのデータも利用し膨大なカタログの中から効率的に商品を探し出すツールを提供する、(5)購入者による評価やレビューを含む詳細な情報を提供する、(6)決済情報や届け先住所などを記録することで購入手続きを簡略化する、(7)まとめて購入した商品を同時に届けるなどのサービスを提供する。
そのため「ブリック&モルタル店舗(リアルの小売店)」や「品揃えが限定的なオンラインストア」が仮に、より安い価格で商品を提供したとしても、オンライン・スーパーストアの代替にはならないというのが原告の主張である。
市場シェアについては複数のデータが紹介されている。Bank of America Global Researchのデータによれば2015年に69%だったAmazonの米国内のeコマース市場の流通取引総額シェアは2021年に77%(推計値)。一方、eMarketer Insider Intelligenceのデータでは2016年に75.6%だったAmazonのシェアが2022年(推計値)に82.3%となっている[7]。
このようにAmazonの市場シェアは極めて高く、またその市場シェアは、規模の経済、ネットワーク効果、評判、スイッチングコストなどの参入障壁によって守られていると指摘している。
【オンライン・マーケットプレイス・サービス市場[8]】
オンライン・マーケットプレイス・サービスは(1)オンラインで販売を行う米国内の多くの小売事業者にアクセスでき、(2)製品を探すための検索インターフェースを備えておりマーケットプレイスを離れることなく商品を探して購入でき、(3)小売事業者がマーケットプレイス上で販売する自社の商品の価格を決めることができ、(4)小売事業者が自社の商品に関する詳細な情報をマーケットプレイス上に作成・維持でき、(5)利用者が付けた評価やレビューを表示させることができるものである。
ShopifyやBigCommerceなどが提供するサービスは、小売事業者自身のオンラインストアの構築・運営を支援するSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)と位置付けられ、オンライン・マーケットプレイス・サービス市場には含まれないというのが訴状の整理である。
引用されているeMarketer Insider Intelligenceのデータによれば、米国内のオンライン・マーケットプレイス・サービス市場(流通取引総額)におけるAmazonのシェアは、2016年の58.9%が2022年には71.7%に上昇している[9]。オンライン・スーパーストア市場同様、こちらも規模の経済、スイッチングコスト、ネットワーク効果などによって守られていると指摘されている。
InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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【フィードバックループ】
4.違法な独占化行為
5.まとめ
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] FTCプレスリリース(2023年9月26日)“FTC Sues Amazon for Illegally Maintaining Monopoly Power”(https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2023/09/ftc-sues-amazon-illegally-maintaining-monopoly-power)
[2] ワシントン州はAmazonの本社シアトルの所在地。
[3] フルフィルメント・サービスとは、他社のオンライン通販事業を支援する商品保管・配送代行事業のこと。Amazonジャパンのウェブサイトでは以下のように説明されている。「フルフィルメント by Amazon(FBA)は、商品をAmazonのフルフィルメントセンター(物流拠点)に保管し、購入者様から注文を受けると、Amazonがピッキング、梱包、発送からカスタマーサービスまで、すべてを担当します。」
[4] 具体的な商品数は黒塗りされており不明。
[5] 具体的な数値は黒塗りされており不明。
[6] 本訴状における「オンライン・スーパーストア市場」は、地理的には「米国を対象」とし、「生鮮食料品は含まれない」としている。
[7] 2位以下はBank of America Global Research の2021年推計データでは2位Walmart(13%)、3位eBay(8%)、4位Target(2%)。eMarketer Insider Intelligenceの2022年推計データでは2位eBay(8.1%)、3位Walmart(6.7%)、4位Target(2.9%)。
[8] オンライン・スーパーストア市場では地理的市場は「米国」とされたが、オンライン・マーケットプレイス・サービス市場に関しては、「米国内の消費者にものを売ろうとする世界中の小売事業者」が対象となる。
[9] 2022年の2位はeBayで10.4%、3位がWalmartで2.1%、その他が15.8%。
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清水 憲人 (Norito Shimizu)の記事
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