AIガバナンスを巡る国際協調と取り組み
EUは2023年12月9日、人工知能(AI)の規制案について、欧州委員会、閣僚理事会、欧州議会の3者で大筋合意したと発表した[1]。今後、文言など細部の調整を経てから上記各機関の最終承認、施行となる。AIを提供、利用する主体を対象とし、4段階に分けたリスクに応じた義務付けを行う。重い違反に対しては高額な制裁金を科す(最大で世界売り上げの7%)。一方汎用AIの事業者には透明性義務を課す。施行は2026年の見通し。今後、世界の各国におけるAI規制に関する立法において参照すべき対象となることは間違いない。
この法案の審議に並行して、AIガバナンスに関する国際協調を目指す取り組みが活発に行われていた。これらは、EUのAI規制法など拘束力を持つ各国法を補完するものとされる。
G7(広島プロセス)[2]
G7は2023年5月の広島サミットから、AIガバナンスの共通ルール形成取り組みを進めてきたが、その区切りとして2023年10月30日、高度AIシステム(汎用AI、生成AIなど含む)の開発に関する11の「国際指針」[3]の原則を採択した。付属のAI開発者向け「行動規範」はこれに基づいたものである。原則は、すべてのAIアクターに適用され、設計、開発、展開をカバーし、かつ高度AIシステムの利用を対象としている。指針はAIのリスクをライフサイクルにわたりコントロールするための安全対策に関連している。
英国AIセーフティサミット(the UK AI Safety Summit)[4]
英国は2023年11月1-2日、各国政府代表(28カ国、EU)、学界、産業界を集めた英国AI安全サミットをBletchleyで開催した。会合は、“frontier AI”の安全な開発に関する宣言で幕を閉じた。frontier AIとは、ファウンデーションモデルを含む高度な能力を持つ汎用AIモデルとして英政府が定義したものであり[5]、サミットの対象が最先端/未開拓領域であることを強調している。宣言へは米中EUを含む29の各国/機関の代表が署名しており、同サミットのイベントがG7のようないわゆる政治上の「同志国」のイニシアティブとは異なった広がりを見せている。
米国EU貿易技術評議会/Trade and Technology Council(TTC)
TTCは米欧主導による通商課題や新たな技術管理に関わる政策連携を目的とし、2021年6月、米バイデン大統領と欧州委フォン・デア・ライエン委員長との首脳会談の機会に設置が合意された外交フォーラムで、EUと米国との貿易・技術を巡る政策対話・規制協力の枠組みを提供する。複数の作業部会が設置され、新たな技術標準や、セキュリティ、データガバナンスについて検討されている。TTCはEUと米国の政策立案者やステークホルダーが貿易やAIを含むデジタル問題に関する今後の協力関係を形作るためのプラットフォームとなっており、両サイドの産業界からは支持が大きい。このTTCは2022年12月、信頼できる(生成AIを含む)AIシステムとリスク管理のための評価・測定ツール開発の策定に関わる共同ロードマップ[6]を発表した。半年後の2023年5月末の閣僚級会合では、生成AIシステムの重要性を再確認したうえでロードマップにおける連携を前進させることで合意し[7]、AIへのリスクベースのアプローチを協議するにあたり重要となる65の用語について、その概念、定義を明らかにするリストを公表した。
さらに、英国Bletchleyサミットの開催に合わせるように、米バイデン大統領は2023年10月30日、AIリスク管理に関する大統領令(EO)を発布し、さまざまな民間部門と公的部門にわたってAIに関連するリスクを管理するための広範な規制課題を設定した。AI開発企業にサービス提供や利用開始前に、政府による安全性の評価を受けるよう義務付けるなど、拘束力あるAI規制を求めている。ただし、これを実施するための米大統領の権限はなく、今後、議会の立法手続きを経たうえで、連邦政府機関が権限に基づき拘束力のある規制を行わなければならない。
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AIセーフティサミット Bletchley宣言と今後の計画
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
[1] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_6473
[2] https://www.mofa.go.jp/ecm/ec/page5e_000076.html
[3] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_5379
[4] https://www.gov.uk/government/publications/ai-safety-summit-2023-chairs-statement-2-november/chairs-summary-of-the-ai-safety-summit-2023-bletchley-park
[5] 広範なタスクを実行可能で、現在最も進んだ人工知能(AI)のモデルが有する能力に匹敵、またはそれを超える能力を持つ。
[6] https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/ttc-joint-roadmap-trustworthy-ai-and-risk-management
[7] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/statement_23_2992
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