2024.3.28 法制度 InfoCom T&S World Trend Report

行政規制・プラットフォーム「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載12回

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はじめに

サイバネティック・アバター(CA)の法律問題に関する13回の連載も最終盤に至っている。以下では、まず、前回(12回)で議論をした民事刑事規制に引き続き、行政規制、すなわち、行政法がどのようにアバターとの関係で影響するのかを論じた上で、CAが活動するメタバースを運営するプラットフォームの果たすべき役割について検討していこう。

第1 行政規制

1 金融規制

金融規制を考える上では、メタバース上の金融取引について、仮想空間上の自称銀行が仮想通貨を集めて破綻したGINKOFinancial事件1があるものの、これはアバターとの関係は深いとは言えないので、適合性原則2、犯収法、その他の金融業法3に留意すべきであることを指摘するに留めたい。

なお、例えば、不招請勧誘に関する金商法38条4号が「金融商品取引契約(中略)の締結の勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問し又は電話をかけて、金融商品取引契約の締結の勧誘をする行為」としており、「訪問」と「電話」という行為態様を規定している。メタバース上の声かけやメッセージ送付等の勧誘は「訪問」にも「電話」にも該当しないとは解され得るが、アバター時代における規制の姿としてそれで良いか等は問題となるだろう。

2 ヘルスケア

(1)メタバースを通じたカンファレンス等

例えば、患者を診察するかかりつけ医が存在するものの、残念ながらその患者の罹患している疾病に関する専門家ではないので、専門医に意見を聞きたいといった場合において、いわゆるWeb会議によってコミュニケーションを行うことができる。ここで、CAの発展を踏まえ、メタバース上でかかりつけ医と専門医がお互いに立体的な患部画像を見ながらイメージを共有することで、より良いコミュニケーションを図ることが期待される。

このような場合においては、セキュリティ等医療情報の保護に関するルール4を遵守しながら安全に仮想空間でCAを利用して交流することになるだろう。

(2)オンライン診療

メタバース上に病院が建てられ、病気になった場合においてメタバースにログインすればすぐに診察を受けることができるのであれば、大変便利であり、かつ、時宜に叶った受診の増加は、公衆衛生上も好影響があるだろう。ここで、このようなオンライン診療については、医師法第20条本文は「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。」とし、また、医療法第1条の2第2項においても、病院や診療所等が医療提供施設と定義され、医療が医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供される旨が規定される。そこで、これらの規定との関係で、オンライン診療がどの範囲で許容されるかが問題となる。

令和5年に一部改正された「オンライン診療の適切な実施に関する指針」5は、診断や処方等の診療行為をリアルタイムで行う行為をオンライン診療とし、オンライン診療に対するルールを明確にしている(表1)6

【表1】オンライン診療における用語の定義

【表1】オンライン診療における用語の定義
(出典:厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づき筆者作成)

あるオンライン上の行為がオンライン診療の定義に入る場合、例えば、リアルタイムの視覚及び聴覚の情報を含む情報通信手段を採用すること(V1(6)②ii)、原則として特定多数人に対してオンライン診療を提供する場合には、診療所の届出を行うこと(V2(2)②iii)等の各事項を遵守すべきである7

3 景表法

(1)はじめに

CA、特にVTuberは様々な広告宣伝に関与しており、その意味ではまさに景表法はCAとも関係が深い法令である8。なお、メタバースと広告規制としては、デジタルツインと屋外広告物規制等の問題もあるが、CAとの関係が薄いので、詳論しない。

(2)表示規制

景表法の定める表示規制としては、優良誤認(景表法5条1号)、有利誤認(景表法5条2号)、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」(景表法5条3号)が挙げられる。

ここで、景表法5条3号の対象として重要なのが2023年10月に新たに規制が導入されたステルスマーケティングである。VTuberがその配信の中で特定の商品やサービスを推薦すれば、VTuberのファンはその商品やサービスについてVTuber自身がそれを良いと信じて勧めていると理解してこれを購入する可能性が高い。しかし、実際には、それがVTuberとして良いと思っているから勧めたのではなく、単にスポンサーからお金をもらって宣伝しているだけということもないわけではない。

そして、ステマ規制を定める「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」9は「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」を景表法5条3号の対象として指定した。その具体的内容は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準10において明確にされている。上記のVTuberとスポンサーの間の事例に即して説明すると、要するに、①スポンサーが表示内容の決定に関与したと認められ、客観的な状況に基づき、VTuberの自主的な意思による表示内容と認められない場合であり、かつ、②その表示がスポンサーによる表示だということが明瞭となっていないため、スポンサーの表示でないと一般消費者に誤認され得るものが当該規制に違反することが示されている。

(3)景品規制

景品規制としては、懸賞の場合といわゆる総付景品の場合で異なる規制が適用されるが、CAとの関係が薄い。なお、メタバースゲームを含むゲームにおいて、利用者にとって自由に選択できない(ランダムな)形でアイテム等を付与するサービス(いわゆるガチャ)を行う場合には、コンプガチャ規制11が適用されるが、これもCAに固有の話ではないので、詳論しない。

4 電気通信事業法

電気通信事業法によって、電気通信役務を提供する者の中に電気通信事業を営む者とそうでない者が区別され、電気通信事業を営む者の一部が電気通信事業者として届出・登録が必要となり、それ以外は届出・登録不要な電気通信事業を営む者である12(図1)。

【図1】電気通信事業法による「電気通信事業を営む者」の条件

【図1】電気通信事業法による「電気通信事業を営む者」の条件
(出典:総務省総合通信基盤局「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」
(2022年4月14日策定、2023年1月30日改定) https://www.soumu.go.jp/main_content/000799137.pdf)

メタバースにおける各サービスがこれらのうちのどの類型に該当するかは、メタバースの具体的サービス内容次第である13

例えば、メタバース上でCA同士が交流する場合、特定のCA同士のやりとりを可能とするのであれば、他人の通信を媒介しているため、登録又は届出が必要な電気通信事業者の可能性が高い。これに対し、例えば、CAによるライブ配信を流すだけであれば、情報のやりとりができる「場」を提供しており、他人の通信を媒介していないとして届出・登録不要な電気通信事業を営む者となる可能性もある。なお、他人の通信を媒介していないとしても、利用者登録が必要なものであって、アクティブ利用者数が1,000万以上である場合には媒介相当電気通信役務として登録又は届出が必要電気通信事業者となる。

5 その他

その他、風営法(例えば同法の第2条第1項第5号のゲームセンター営業)該当性、出会い系サイト規制法等も問題となる。

なお、税法14については触れないこととする。

第2 プラットフォーム

1 プラットフォームの果たす役割

メタバースはプラットフォームが運営する、ある意味で「閉じられた」世界である15

成原は、メタバースという仮想世界が企業等の「創造者」により創造されるところ、多くの場合、これらの創造者はメタバースプラットフォーム事業者の提供するプラットフォーム上で仮想世界を創造することから、メタバースプラットフォーム事業者は、メタ仮想世界において各々の仮想世界を創造することのできる枠を決めることができるという意味で、世界創造のモデレーションを行っていると指摘する16

要するに、それぞれのメタバースがCA等の利用者にとって使いやすい「場」になるのか、それとも利用しにくい「場」になるかはメタバースプラットフォーム事業者のいわば「さじ加減」次第ということであるところ、プラットフォーム事業者の責任は重い。特にそのような「枠」づくりや、具体的なCAの活動に対する制約について、プラットフォーム事業者が自由裁量を持つものではなく、例えば、独占禁止法等によって制約を受けるものである。

なお、デジタルプラットフォーム透明化法や取引デジタルプラットフォーム法等については、CAそのものとの関連性が薄いので、ここでは詳論しない。

InfoComニューズレターでの掲載はここまでとなります。
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2 トラブル対応の必要性

3 プラットフォームによるサービス改変・終了

4 プラットフォームによるアカウント凍結

5 プラットフォームの責任

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授、情報通信総合研究所栗原佑介主任研究員及びグラディアトル法律事務所髙田晃央弁護士に貴重な助言を頂戴し、また、早稲田大学博士課程杜雪雯様及び早稲田大学修士課程宋一涵様に脚注整理等をして頂いた。加えて、T&S編集部には詳細な校閲を頂いた。ここに感謝の意を表する。

  1. https://wired.jp/2007/08/17/『second-life』の銀行破綻:「無法空間」での規制とは
  2. AMTメタバース法務研究会「メタバースと法(第6回・完)メタバースと金融規制」NBL1233号(2023)99頁参照。
  3. 斎藤創=浅野真平「多くの論点や留意点に直面するメタバース空間の法律適用:国境なきメタバース内の金融取引にどの国の金融規制が適用される?」金融財政事情73巻38号(2022)34-37頁。
  4. 厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第0版(令和5年5月)」<https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html>(2024年3月11日最終閲覧、以下同じ)、経済産業省「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン 第1.1版」(2020年8月作成、2023年7月改定)<https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/ healthcare/01gl_20230707.pdf>
  5. 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2018年3月作成、2023年3月一部改訂)<https://www.mhlw.go.jp/content/001126064.pdf>
  6. なお、医療機関への受診勧奨をリアルタイムで行うオンライン受診勧奨には一部適用され、一般的な情報の提供に留まり、診断等の医学的判断を行わない遠隔健康医療相談には適用されない。
  7. なお、新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いに関し「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」(令和2年4月10日付け厚生労働省医政局医事課、厚生労働省医薬・生活衛生局総務課事務連絡)<https://www.mhlw.go.jp/ content/R20410tuuchi.pdf>及び「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いにおける初診からの電話や情報通信機器を用いた診療の実施状況の報告及び医療機関の把握について(周知)」(令和5年7月31日付け厚生労働省医政局医事課事務連絡)<https://www.mhlw.go.jp/content/001128059.pdf>を参照。
  8. 松尾剛行『広告法律相談125問』(日本加除出版、第2版、2022)、松尾剛行『実践編 広告法律相談125問』(日本加除出版、2023)
  9. 消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(令和5年3月28日内閣府告示第19号)」<https://www.caa.go.jp/ policies/policy/representation/fair_labeling/public_notice/assets/representation_cms216_230328_07.pdf>
  10. 消費者庁「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(令和5年3月28日消費者庁長官決定)<https://www.caa. go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/assets/representation_cms216_230328_03.pdf>
  11. 消費者庁「オンラインゲームの『コンプガチャ』と景品表示法の景品規制について」(2012年5月18日作成、2016年4月1日一部改定)<https://www.caa. go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/120518premiums_1.pdf>
  12. 登録及び同法第16条の届出を要しない場合であっても、「電気通信事業を営む者」に対しては、検閲の禁止(第3条)、通信の秘密の保護(第4条及び第 179 条)、外部送信に関する規律(第27条の12)といった一部の規律は適用される。Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会 報告書」<https://www.soumu.go.jp/main_content/000892205.pdf>38頁。
  13. 総務省「電気通信事業参入マニュアル(追補版)」(2005年8月18日策定、2023年1月30日改定)<https://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdf>、総務省総合通信基盤局「電気通信事業参入マニュアル(追補版)ガイドブック」(2022年4月14日策定、2023年1月30日改定)<https://www.soumu. go.jp/main_content/000799137.pdf>参照。
  14. 下尾裕=中村美子「メタバースと法(第5回)メタバースと税務」NBL1231号(2022)76-82頁。
  15. 中崎尚「バーチャルワールド(仮想世界・仮想空間)における法的問題点(1)総論--アバターや3D空間がどう影響するか」NBL926号(2010)67頁。
  16. 成原慧「メタバースのアーキテクチャと法」Nextcom52号(2022)26頁。

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