2024.5.30 ITトレンド全般 イベントレポート

NAB Show 2024視察を経て考察するAIとメディア業界

【写真1】2日目のトレンドバーで生成AI(左端)に最も票が集まっている様子
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

2024年4月14日から17日まで、米国ネバダ州のラスベガスコンベンションセンターで世界最大規模の映像機器展示会「NAB Show(以下、「NAB」)」が開催された。改装中のノースホールを除く、ウエストホール、セントラルホール、サウスホール(1階および2階)で放送機器やソフトウェアなど、最新のメディア・エンターテインメント(以下、M&E)業界向けソリューションが展示された。

今年のNABの注目キーワードはAIだ。数多くのAIを活用したソリューションが展示され、セッションやキーノートスピーチでもAIが話題に上っていたが、特に生成AIが注目されていた。2日目の4月15日、トレンドバー[1]では生成AIのポストプロダクションへの活用が最も票を集めていた(写真1)。

2022年11月にサービスを開始したOpenAIの対話型生成AI「ChatGPT」は、開始からわずか2カ月でアクティブユーザー数が1億人を突破し、その急速な普及が、多くの産業において生成AIの可能性と危険性の議論を引き起こした。従来のAIは「与えられた情報を基にした情報の検索、整理」や「決められたルールに基づく様々な行為の自動化」などが得意だったが、ChatGPTをはじめとする生成AIは学習したデータを基に新たなコンテンツを作ることができ、文章に加えて画像や動画の生成も可能である点が従来のAIとは異なる。言い換えると、生成AIの主な特徴は「様々なコンテンツを新たに生成できる」点と「様々なコンテンツを生成するための高度な学習能力を備えている」点にある。

M&E業界においても生成AIをはじめとしたAIの影響は目覚ましく、これまで映像の撮影や制作・編集時に必要だった作業を簡易化・代替することができるようになってきた。本稿では、今年のNABにおけるセッションや展示の内容を紹介し、従来のAIや生成AIがM&E業界に与える影響について考察する。

NAB Show 2024概要

今年のNABには世界中から約61,000人が来場したが、2019年の約90,000人には及ばなかった。各ホールには41を超える国から1,300社以上の企業がブースを出展し、ウエストホールにはAWSやMicrosoftなどのクラウド事業者、VerizonやAT&Tといった通信事業者がブースを展示。セントラルホールには、キヤノンやパナソニック、ソニーやGrass Valleyといった放送・映像機器の総合メーカーが出展し、加えて音響機器や照明機材なども展示されていた。サウスホールにはビデオ編集ソフトウェアやポストプロダクション関連のソリューションを提供する、RossやBlackmagic Design、Avid、Adobeなどが出展していた。

また、合計750以上のセッションが開催され、メインステージでのキーノートスピーチを含む多くのセッションで、AIが議論の中心となっていた(写真2)。

【写真2】多くの人が訪れたラスベガスコンベンションセンターのサウスホール

【写真2】多くの人が訪れたラスベガスコンベンションセンターのサウスホール

展示、セッションを含めAIが前面に押し出されていたが、特に撮影、制作・編集におけるAIを活用した展示が多く、生成AIを活用したソフトウェアなども数多く展示されていた。以降では実際にどのようなソリューションが展示されていたのかを紹介する(図1)。

【図1】放送コンテンツ制作ワークフローとNABで見られたAI活用ソリューション

【図1】放送コンテンツ制作ワークフローとNABで見られたAI活用ソリューション
(出典:公開情報、NAB視察をもとに筆者作成)

撮影におけるAIを活用したソリューション

撮影におけるAI活用の事例としては、従来のAIを用いたカメラの展示がいくつか見られた。スポーツ映像ソリューションを提供するPixellotのAIカメラ「Show S3」は、専用のカメラヘッドを会場に設置することで、人が介入することなくカメラが自動で選手やボールを追いかけることができる。そのため、カメラマンの数を減らし人件費を削減することで、90%以上の撮影コストダウンが可能だ。また、撮影後も自動でハイライトの作成や、クリッピングの編集ができるなど、編集段階での稼働の削減も可能だ。

AIカメラに加え、バーチャルプロダクション[2](以下、「VP」)のソリューションも数多く展示されていた。ニコンの子会社であるMark Roberts Motion ControlはVPのソリューション「The Unreal Ride」をセントラルホール入り口に展示。同ソリューションにはゲームエンジン「Unreal Engine」が活用され、Unreal Engine上の生成AIによりテキストや音声情報から瞬時に背景を生成することができる。

体験ブースでは、体験者が車に乗り込むと、あたかも背景に映し出される場所で、車を運転しているかのような映像が左右のディスプレイに流れていた。このVPの活用をすれば、場所や時間、天候に左右されずに撮影が行えるため、大規模な撮影セットの設置が不要となり、大幅なコスト削減が可能となる(写真3)。

【写真3】Unreal Engineを活用した「Unreal Ride」によるVPのデモ

【写真3】Unreal Engineを活用した「Unreal Ride」によるVPのデモ


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ポストプロダクション(制作・編集)におけるAIを活用したソリューション

キーノートスピーチで語られたAI活用の利点

M&E業界におけるAI活用の危険性と不安要素

M&E業界におけるAI活用の今後


※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] 来場者が今年のM&E業界に最も影響があると考える項目に投票する仕組み。

[2] テレビや映画の撮影・制作において、リアルタイムでコンピューターにより生成された映像をLEDディスプレイなどの背景に映し出し、役者があたかもその場所にいるかのように撮影する技術のこと。本物のセットや屋外のロケーションと同様の現象をつくり出すことができる。

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