2024.5.30 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

「住まい」と「ICT」と「サステナブル社会」

Image by Gerd Altmann from Pixabay

今年、2024年4月、建築物の「省エネ性能表示制度」が開始された。住宅販売・賃貸事業者は、住宅のエネルギー消費性能、断熱性能、目安光熱費、ZEH水準クリアか否か等が、わかりやすく統一の書式で記載された「省エネ性能ラベル」を広告等で表示することが必要となった。国土交通省のホームページには、その目的について「販売・賃貸事業者が建築物の省エネ性能を広告等に表示することで、消費者等が建築物を購入・賃借する際に、省エネ性能の把握や比較ができるようにする制度です。住まいやオフィス等の買い手・借り手の省エネ性能への関心を高めることで、省エネ性能が高い住宅・建築物の供給が促進される市場づくりを目的としています。」[1]と記載されている。また、来年、2025年4月からはすべての新築住宅に省エネ基準[2]への適合が義務付けられることとなっている(2022年建築物省エネ法改正)。これにより、日本の住宅政策が、省エネ、気候変動・地球温暖化への対策、カーボンニュートラルの達成に向けて一歩前に進み、欧米と比較して「寒い家」と言われている状況が改善していくと考える。今回は「住まいとICT」の観点から、ZEH、HEMS、V2H、都市OS、データ連携基盤、IOWN等のキーワードについて確認するとともに、連携・俯瞰して眺めることにより、サステナブル社会の実現に向けた動きを考察してみたい。

ZEH(ゼッチ:Net Zero Energy House)とは、「エネルギー収支をゼロ以下にする家」で、家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家のことである。2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画において「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」とされている。そのためには、住宅の高気密・高断熱を実現させ、使用するエネルギーの量を大幅に減らし、太陽光発電や蓄電池の導入等、創エネ・畜エネの仕組みを住宅に導入する必要がある。HEMS(ヘムス:Home Energy Management System)は、それらを効果的に実現する手段で、省エネに向け、家庭内で使用している家電機器等の電気使用量・ガス使用量・太陽光発電量・電力会社からの電力購入量等(スマートメーター情報)を「見える化」するとともに、各家電機器等を自動制御することで、エネルギーを無駄なく使用可能とするシステムだ。また、家電機器等を遠隔からも制御可能とすることで、豊かで便利な暮らしも支える。

昨今、話題となっているEV(Electric Vehicle)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のバッテリーに貯められた電気を自宅に供給し、自家消費できるようにしたシステムがV2H(Vehicle to Home)で、自宅に設置した太陽光発電との連携により、昼間に自家発電した電力をEVで活用すること等で電気料金の低廉化や総エネルギーの低減に貢献する。さらには災害時の非常用電力として安心な住まいを実現する。

以上のとおり、ZEH、HEMS、V2H等への取り組みが始まっているが、2022年の注文戸建住宅のZEH普及率は33.5%、建売戸建住宅は4.6%(資源エネルギー庁)、マンションにおいては集合住宅供給戸数の39.3%(ZEHデベロッパー実績報告)、2021年のHEMS普及率は全世帯の2.5%(環境省)と、普及促進に向け強化が必要な状況だが、その主な課題は導入コストだと言われている。補助金制度も継続的に実施されているが、社会全体に対する効果分析を行い、エネルギー供給に関する総コスト削減等との関係で効果が認められるのであれば、更なる補助金の拡大等、思い切った政策も必要な段階ではないかと考える。

各住戸内でのエネルギー効率化の先には、街・地域全体でのエネルギー管理やエネルギー効率の改善、再生エネルギーの普及、電力の融通、災害対策等を実現することが期待される。各住戸のHEMSをネットワークでつなぎ、データ連携をすることにより、街・地域全体のエネルギー効率が改善される。地域課題や市民サービス向上を目的に自治体サービスや民間サービス共通のプラットフォームとなり、データ連携基盤によりデータ分析を行う「都市OS」との連携も進めるべきと考える。住宅政策と地域デジタル化の政策の連携が必要となる。都市OSの導入ですら様々な自治体の様々な原課が提供する様々な行政サービスを一つのデジタルのプラットフォームに乗せ、データ連携基盤でビックデータ分析を行うことがなかなか進まないが、さらに民間企業のサービスや住宅政策などとも連携しなければ、日本の地域のデジタル化は効果をあげないと考える。全体を俯瞰して、苦手な横連携を克服する政策立案と実行能力が問われていると言えよう。

ところで光ブロードバンド回線をマンションやビルで利用する際に必要な「光配線方式」のことをご存じだろうか? マンションやビルなどの屋内・構内通信ケーブルを光ファイバーで敷設する方式で、今から20年ほど前に開始された。東京湾岸の新築タワーマンションの一つに最初の光配線方式が導入された際に感激したことを今でも鮮明に覚えている。それ以前は、新築のマンションやビルを建てる際にはメタル線とテレビ用の同軸ケーブルが敷設されることが一般的であったが、それ以降は、この光配線方式が主流となり、光ケーブルでテレビも見られるので、テレビ用の同軸ケーブルやアンテナ設備も不要となった。この光配線方式は共用部に置く装置に電力が必要ではなく、省エネであり、安全であり、壊れにくいというメリットもある。新築時にメタル線で引いてしまうと、後から光ファイバーに交換することが極めて困難、もしくは交換する際に高額な費用がかかることになる。これは、火災の拡大を防止するため建物内には防火区画を設けなくてはならないが、ケーブルを交換するためには、この防火区画に穴をあけ、交換後はすき間を建築基準法施行令に定められる不燃材料で埋める等の防火措置を施す必要があり、これに手間と費用がかかるためだ。メタル線しかないマンションではブロードバンドをVDSL方式で提供することになるが、速度も安定せず、NTT東日本も2023年10月から新規の申し込みを終了した。

現在、NTTグループが進めるIOWN構想は高速・大容量・低遅延な通信が可能で、光電融合デバイス等で超低消費電力を実現する等、光ファイバーの可能性をさらに高める技術だ。建物のインフラとしての通信ケーブルは、新築時から通信のインフラとしての光ファイバーと配管をしっかりと準備することが未来のためにも、物件価値向上のためにも必要である。また、メタルケーブルしか敷設されていない既築の古いマンションやビルにおける光ファイバーへの交換についても簡易な工事技術の開発等も含めコスト低廉化の努力が必要だろう。この「大都市の未光化エリア」の問題は意外な盲点だと考える。

住まいの省エネ性能の向上やICTを活用したエネルギー効率の向上・便利で豊かな機能の提供、街全体でのエネルギー効率向上の仕組み等は技術革新とともに、ますます進化を続けると考えられる。そのための、分野横断的な政策立案と実行能力、インフラ設備としての光ファイバーの整備を怠らないように努めなければならない。サステナブル社会の実現に向け注視していきたい。

[1] 国土交通省「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ表示制度」https://www.mlit.go.jp/shoene-label/

[2] 建築物が備えるべき省エネルギー性能の確保のために必要な建築物の構造や設備に関する基準。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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