雑感:虎にデジタルの翼、または「さよーならまたいつか!」
今期のNHKの朝ドラ(朝の連続テレビ小説)『虎に翼』が、好評を博しているようですね。我が家でも妻と娘がすっかりハマっていて、毎日のルーティンになっていますが、私もそれを横から見ているので、一応ストーリーは追えています。
現在(今日は5月31日です)、戦争が終わって日本国憲法が公布されたところまで来ていますが、これから主人公の寅子(ともこ、愛称トラ)がいよいよ裁判官を目指して動き出し、さらに地獄の道を歩み続ける過程が描かれていくと思うので、目が離せません。私も一応大学では法律を学んだので、やはり法律に関するエピソードには関心が行きます。
ドラマの中で、寅子が分厚い六法や専門書と格闘しながら勉強したり、風呂敷に本やノートを包んで学校に通ったりする姿を見ると、公務員試験を受けるときだけは必死こいて勉強したなあとか、法例集や資料を風呂敷に包んで内閣法制局に通ったこともあったなあと(法律と風呂敷は実は相性が良いのです)、自分の若い頃のことが思い出されます。
ついこの間まで、法律を読む、あるいは条文を調べる際にどのようにアクセスするかというと、勉強のときは六法を机に置いて参照していました(私が学生の頃は、「ポケット六法」などの携帯できる小型の六法と、自宅での学習用に、「模範六法」などの判例付きの少し大きな六法の2種類を使っていました)。また、仕事用としては、業界とか職域に合わせて編集された「○○六法」と呼ばれるものを使うのが一般的だったかと思います。
今は、ネット上でアクセスできる「e-Gov法令検索」という便利なシステムがあります。業務の関係で法令を調べるときに活用している方も多いかと思います。法令をネットで検索できるシステム自体は20年以上前からありましたが、2017年にe-Gov(電子政府)のコンテンツの一つとしてリニューアルされ、ぐんと使い勝手が向上しました。当初は総務省が、デジタル庁発足後は同庁が運営しています。
ネットで「e-Gov法令検索」などと入れて検索すると、次のようなトップページが出てきます。
まず、「日本国憲法」と入れて検索してみましょう。
上のように表示されました。なお、全文を表示することもできれば、必要な部分だけを表示することもできます。上の図は、ドラマの中で寅子が新聞から書き写した第13条(幸福追求権)と第14条(法の下の平等)、父親の直言が捕まった「共亜事件」裁判のテーマとなった第38条(自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界)を選んで表示したものです。
また、このシステムでは、特定の法令名や用語、フレーズについて、それを含む法令を検索することもできます。例えば、権限を有する公務員の立入検査等について「立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない」などとする規定がありますが、これがどのくらいあるか検索してみましょう。
上のように、582件がヒットしました。さらに個別の法律の規定ぶり(上の図では職業安定法)も、このようにハイライト表示してくれます。なお、実際の条文では、「解してはならない」と「解釈してはならない」の2種類のワーディングがあるようなので、「犯罪捜査のために認められたもの」というキーワードを使いました。この辺の使い方のコツは、「ググる」際のテクニックと同じかと思います。
以前の役所では、法令の改正作業などで既存の法令を参照するために、数十冊の分冊になった分厚い法令集を部局単位で備えておくのが通例であり、またそれは常に最新の情報にアップデートしておく必要があるので、定期的に出版社のスタッフが出入りしてページの抜き差しを行っていました。また、法令改正作業の手順として、当該法令が他省庁・他部局の所管法令に引用されているかどうか(改正が他の法令に影響を与えないかどうか)を確認するために照会をかける、という面倒な作業を行っていました。今はその辺も相当合理化されているようです(現役の方に聞いてみたところ、今は上記の「分厚い法令集」のWeb版もできており、これらを駆使して実務に当たっているとのことです)。
以上ご紹介した「e-Gov法令検索」は、オープンデータとしての性格も有する行政サイドの取組みですが、裁判の現場もこれから大きく変わりそうです。現在、民事裁判手続のデジタル化が進められていて、一昨年と昨年に関係法が成立しています。
(1) Web会議による口頭弁論や離婚の和解・調停などの手続
(2) ネットを利用した訴えの提起や申立書の提出
(3) 事件記録の電子化
などが2028年までの間に段階的に施行されることになっていて、このうち民事訴訟の口頭弁論のWeb参加は今年3月から始まっています。
これらは主に、諸外国に比べて劣っている事業環境の整備の観点から、「未来投資戦略2017」において迅速かつ効率的な裁判の実現が盛り込まれ、検討が始まり形になったものです。既にコロナ禍への対応として、裁判に先立ち行う争点整理手続はリモートで行うことが一般化しているようですが、将来は、顔も見たくない相手とは直接顔を合わせず手続を進めるのが普通になるかもしれません。
「虎に翼」は、多くの皆さんが憲法はじめ法律や司法に関心を持ち、社会の中での役割や自身の生活との関係について考えるきっかけとなるのではないでしょうか。広い意味での「主権者教育」の役割を果たすことになるようにも思います。
オープニングを飾る米津玄師さんの主題歌「さよーならまたいつか!」もいい感じです。このタイトルは、スペイン語に訳すと「アスタラビスタ」(Hasta la vista)となるそうですが、これは映画『ターミネーター2』でシュワルツェネッガー扮するターミネーターのセリフとしても知られ、吹き替えでは「地獄で会おうぜ」と訳されていました。寅子がこれから歩む地獄の道を暗示しているかのようです。今後の展開からも目が離せないですね。
なお、このコラムで私が書かせていただくのは、今回が最後となります。長いことおつきあいいただき、ありがとうございました。それでは、「さよーならまたいつか!」
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