デジタルサービスは高い利便性とともに消費者被害のリスクももたらしている。同時にその技術は不公正な取引を行うプレーヤーにも好都合な環境を提供する。
欧州では2019年にデジタル経済における消費者保護の法律を大幅に改正する指令を施行し、各国における国内法は2021年から成立している。現在、欧州委員会はこの見直しを行っている。長い期間をかけた見直しであるが以下は、その概要である。
デジタル経済で検討が続くEUの消費者法
欧州委員会は、2020年採択した消費者をエンパワーするための「新消費者アジェンダ」の中で、オンラインとオフラインで平等なレベルの公平性を確保したいとしていた。そのための追加措置が必要かどうかを分析する目的で、2022年からコンサルテーションで情報収集を行ってきている[1]。主に以下の表にあげるような項目に関して、EUの消費者保護法[2]の下でデジタル環境において高いレベルの保護が確保されているかどうかを評価、判断することになっている。

【表】消費者保護法改善へ向けた追加措置の案
(出典:欧州委員会公表文書より抜粋、作成 ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/13413-Digital-fairness-fitness-check-on-EU-consumer-law_en)
欧州委員会はまた、デジタル領域で高まりつつある脅威に対して、現行のEUの消費者法枠組みの下での執行協力体制が耐えられるかどうかも評価したい考えである。消費者・業界団体、公的機関、企業を念頭においた質問では、現行のルールの全体像、デジタル技術が現行ルールに与えるインパクト、EU消費者法の改善へ向けた案について問われている。
最終結果は2024年秋に発表される見通しである。
Amazonの事例
上の表に記載されているサブスクリプション契約の「解約ボタン」は、既にAmazonが提供しているものである。欧州委員会は2022年7月1日、Amazonが解約に関する慣行をEUの消費者法に合わせることを約束したと発表した。
これらの変更は、欧州委員会と消費者保護協力ネットワーク(Consumer Protection Cooperation Network: CPCN)[3]に集まった欧州の消費者保護当局による措置を受けたものである。CPCNは強い執行権限をもち、Amazonの解約方法について、「複雑なナビゲーションメニュー、偏った表現、わかりにくい選択肢、何度も促されるなど、解約へのハードルが高い」と指摘した。これを受け、Amazonは、ユーザーが2回クリックするだけで、目立つ解約ボタンからAmazon Primeの購読を解約できるようにすることを約束したのである。
デジタルサービスの消費者規制の見直しはわが国でも続いているが、その間にも新たな問題が出現しつつある。消費者規制はおそらく、より短いインターバルで改正が求められる必要があるかもしれない。また、欧州の例をみると、強力な執行機関の素早い対応が功を奏したわけだが、これだけ有効だった理由と仕組みには学ぶところがあるようである。
[1] https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/13413-Digital-fairness-fitness-check-on-EU-consumer-law_en
[2] - 不公正商行為指令(UCPD)2005/29/EC :取引業者による誤解を招くような強引な商法を禁止する。
- 消費者の権利指令(CRD)2011/83/EU:契約前情報、オンライン契約の正式要件、撤回権に関する規則を含む。
- 不公正契約条項指令:93/13/EEC契約における不公正な標準条項を列挙する。
[3] 消費者関連法規の施行責任は加盟各国が負うが、越境消費者トラブルやEUレベルの広範な違反に迅速に対応するために創設された。加盟各国の所管当局に加え、加盟国や委員会が選出した主要消費者団体(外部機関external entities)を「CPCアクター(CPC actors)」と認定し、これらのCPCアクターが「CPC警告メカニズム(CPC alert mechanism)」を通じて「公式な警告(external alerts)」を発出し、消費者相談等から入った広範な違反となりうる案件について委員会および加盟国所管当局に直接情報を提供する。https://www.caa.go.jp/policies/future/national_research/assets/cms_future201_220411_10.pdf
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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