2025.3.13 InfoCom T&S World Trend Report

デジタル赤字の常態化と今後の方向性

はじめに

国際収支統計のサービス収支[1]は、国境を越えたサービス取引に関する資金の受取・支払を記録しており、日本のサービス収支は、支払が受取を上回る「赤字」状態が続いている。サービス収支を項目別に見ると、知的財産権等使用料[2]や旅行[3]のように「黒字」の項目がある一方、通信・コンピュータ・情報サービスやその他業務サービスなどは赤字が拡大しており、サービス収支全体として赤字が続く状態となっている(図1)。

【図1】日本のサービス収支の推移

【図1】日本のサービス収支の推移
(出典:財務省「国際収支統計」をもとに作成)

本稿では、デジタル関連のサービス収支に焦点を当て、統計データから傾向を確認するとともに、その背景・要因について探ってみたい。

デジタル関連のサービス収支

国際収支統計におけるデジタル関連項目について、日銀レビュー[4]では、表1の5項目をデジタル関連に分類している。

【表1】デジタル関連項目の定義

【表1】デジタル関連項目の定義
(出典:日本銀行「国際収支関連統計 項目別の計上方法」(2022年3月)をもとに作成)

まずは「著作権等使用料」であり、これは図1における知的財産権等使用料の内訳の一つである。OSやアプリケーションに関連するライセンス料が含まれているものの、映画や音楽、キャラクター関連のライセンス料や放映権料なども含まれているためデジタル関連として扱う際には留意を要する[5]。2つ目は「通信サービス」であり、インターネットだけではなく電話や衛星などの通信料も含んでいる。3つ目は「コンピュータサービス」であり、クラウドサービス料金やシステムの開発・運用費、ゲームのダウンロード・サブスクリプション料金などが含まれている。4つ目は「情報サービス」であり、各種データベースサービスや音声、映像、ソフトウェア以外のコンテンツサービスの利用料などが含まれている。最後は「専門・経営コンサルティングサービス」であり、図1のその他業務サービスの内訳の一つである。法務、会計、経営などのコンサルティング料金の他、デジタル広告料が含まれている。

デジタル関連項目の収支について、2014年以降のデータを確認すると、すべての項目で「赤字」状態が続いている。通信サービスや情報サービスは規模が小さい[6]ため、残りの3項目について見てみると、直近10年で「著作権等使用料」は約2.2倍、「コンピュータサービス」は約1.9倍、「専門・経営コンサルティングサービス」は約4.6倍に赤字が膨らんでいる(図2)。

【図2】デジタル関連項目の収支

【図2】デジタル関連項目の収支
(出典:財務省「国際収支統計」をもとに作成)

「著作権等使用料」については、前述のとおり、パソコンやスマートフォンに搭載されているOSの使用料が含まれている。基本的に端末料金に含まれているため、購入時に意識することはほとんどないものの、日本の場合はAppleやGoogle、Microsoftへの支払額が多いと考えられる[7]。大まかな試算として、2023年度の国内スマートフォン出荷台数は2,600万台程度であり[8]、1台当たり5,000~10,000円程度をライセンス料として支払っていると仮定すると、年間の支払額は1,300億~2,600億円程度となる。OS以外にも標準搭載のソフトウェア分があることを踏まえると、端末代金に含まれているライセンス料が「著作権等使用料」のかなりの部分を占めると考えられる。それ以外にもスポーツイベントにおける放映権料も高騰している。PwC コンサルティング合同会社「令和4年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(スポーツ産業に関する諸外国の動向調査事業)」によると、欧州プレミアリーグの放映権料や米国主要リーグの放映権収益額は直近10年で2倍以上に拡大している[9]。コンテンツ配信に伴うライセンス料と合わせて支払が拡大していると考えられる。

「コンピュータサービス」については、クラウドサービスの利用拡大が大きいと考えられる。

総務省「通信利用動向調査」[10]によると、企業のクラウドサービスの利用率は、2014年の38.7%から2023年には77.7%まで拡大している。また、世界のクラウドサービス市場では海外大手3社(Amazon、Microsoft、Google)が6割超のシェアを占めており[11]、日本市場においても海外サービスの利用が拡大しているとみられる[12]。大まかな試算として、2023年の日本のパブリッククラウドサービスの市場規模(売上高)は、3兆円程度であり[13]、その6割は1.8兆円となる。2023年の「コンピュータサービス」への支払額は3.2兆円であり、半分程度はクラウドサービスが占めていると考えられる。

「専門・経営コンサルティングサービス」については、既述のとおり、近年増加しているデジタル広告料が含まれている。2014年以降の「専門・経営コンサルティングサービス」への支払額と日本のインターネット広告費[14]はほぼ同様の規模で推移しており、大部分がインターネット広告料であると推察される。

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各国の状況

まとめ

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

[1] パソコンや通信機、半導体といった財製品は含まない。

[2] 産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)の使用料など。

[3] 旅行者が滞在先で取得した財貨とサービス(宿泊費、飲食費、娯楽費、現地交通費、土産物代など)。

[4] 日銀レビュー「国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化」(2023年8月)https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2023/data/rev23j09.pdf

[5] 音楽や映像、ゲーム等のダウンロード料金、サブスクリプション料金は含まない。

[6] 収支(受取-支払)だけではなく受取・支払両方の規模が小さい。

[7] 内閣府「令和6年度 年次経済財政報告」(2024年8月)

[8] https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=624

[9] ただし、放映権料はオリンピックやサッカーW杯で数百億円規模だと推測され、「著作権等使用料」に占める割合は決して大きくない。

[10] https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/ statistics/statistics05a.html

[11] https://www.srgresearch.com/articles/cloud-market-growth-stays-strong-in-q2-while-amazon-google-and-oracle-nudge-higher

[12] https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=549

[13] 総務省「令和6年版 情報通信白書」

[14] 電通「2023年 日本の広告費」報告書(2024年2月)

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