トランプ大統領就任でポイ活が変わる? ~暗号資産推進政策とポイント経済圏の関係~

トランプ大統領による暗号資産推進政策
2025年1月、トランプ大統領は「デジタル金融テクノロジーにおける米国のリーダーシップの強化」に関する大統領令に署名した。この政策では、特にドルに裏付けられたステーブルコイン[1]を金融決済の基盤として公式に採用する方針が明示された。この大統領令には以下の主な内容が含まれている。
- ステーブルコインの金融決済への公式採用:国際取引や資産保全手段としての活用を推進。
- 暗号資産に関する規制の見直し:業界のイノベーションを阻害しない形での規制改革を目指す。
- 国家的なデジタル資産備蓄の検討:政府がステーブルコインやビットコインなどを戦略的に保有する可能性を示唆。
日本への影響は、生活者目線では「ポイント経済圏」
この政策は、米国がデジタル通貨分野で世界的なリーダーシップを確立するためのものと理解できる。一方、日本ではデジタル通貨に近しいものとして、企業が発行するポイントが既に「ポイント経済圏」を形成しており、その利用シーンは海外で見られないような独自の進化を遂げている。本稿では日本の「ポイント経済圏」が、暗号資産の普及やステーブルコイン時代の到来とどのように関わるのか、という点について考えたい。
NTTドコモ、楽天、三井住友FG等の大手企業が展開するポイント経済圏は、日本国内で約2兆円規模の市場とみられ、消費者の日常生活に深く根付いている[2]。このような状況下で、海外でステーブルコインが普及した場合、ポイント経済圏はどのような影響を受けるのか、また、どのように対応すべきだろうか。ポイント経済圏とステーブルコインには「デジタルな資産」という共通点がある一方で、発行の仕組みや用途には大きな違いがある。この違いを理解し、日本のポイント経済圏をどのように進化させるべきかを検討する必要がある。
ステーブルコインの普及でポイント経済圏も変わるのか
日本では企業が発行するポイントを軸に、巨大な「ポイント経済圏」が形成されている。これは、顧客の購買行動をデータとして活用し、企業の収益源やマーケティング戦略の中心として機能している。
ポイントは消費者にとって、購買活動からの還元として得るものであるが、支払い時にポイント充当もできることから決済手段としても活用されてきた。またためたポイントを金融市場で運用するサービスも広がってきており、資産保全としての価値も持ちつつある。しかしいずれも、ポイントを管理するプラットフォームがポイントを円、ドルなどの通貨に換えて(そのように見せてはいないが)実現しているものである。
しかし、米国でステーブルコインによる決済が広がるとすると、日本もそれに本格的に対応していくことになるだろう。既存の各国通貨をベースにした金融インフラによる決済はコスト高な選択肢となるため、デジタル通貨による決済に大きくシフトするというシナリオは現実味を増すと思われる。
そうなると、現在、ポイント経済圏で提供されている様々なサービス・機能をデジタル通貨ベースでの決済プラットフォームへ対応させていくことが求められるだろう。そこで以下のような対応策を考えておく必要があるのではないか。
1. ステーブルコインとの相互運用性の確保
例えば、dポイントをステーブルコイン(USDCなど)に交換可能にする仕組みを構築すると、国際的な取引に対応できるようになる。ドル通貨に換えるのではなく、ステーブルコインに換えることで、換金コストを圧縮することができる。そうなれば、ポイント同士の交換コストを圧縮できるケースも出てくるのではないか。
2. 決済インフラの多様化
d払い、楽天Pay、PayPayなどの既存の決済プラットフォームにステーブルコイン決済機能が追加された場合、消費者は決済時に「円」、「ポイント」、「ステーブルコイン」のいずれかを選んで利用できるようになるだろう。ステーブルコインとビットコイン等の交換はデジタル通貨同士の交換であり、システムコストも圧縮できることから、交換手数料を下げる動きも期待される。暗号資産をより身近に扱えるようになるかもしれない。
3. ポイント発行モデルの国際化
日本のポイント経済圏は国内利用を前提に設計されており、現状では特定の提携店舗やサービスで利用可能な範囲に限定されている。これに対して、ステーブルコインは世界中のどこでも使用できる柔軟性を備えている。日本にいる限りはあまり感じられないだろうが、海外でステーブルコインベースの決済が今後広く一般的になる時代に、デジタル通貨による決済とほぼ同等の利用シーンとして普及してきた日本のポイント経済圏が、独自に進化したまま孤立してしまうことは避けたい。国内で発行されるポイントの利用範囲をさらに広げ、国際的なオンラインショッピングでも使える仕組みの整備を期待したい。
4. ポイント有効期限の扱い
ポイント経済圏では、一般的に「有効期限」が設定されている。本来がマーケティング目的であるため、有効期限を設定することで消費者の購買を促進する意味で合理的である。しかし、ステーブルコインは通貨の代替としての価値を持つため、一般的には有効期限を持たない。こうした性質の違いが、消費者がどのデジタル通貨(ないしは相当のもの)を選ぶかに影響する可能性がある。ポイントの付与は、その経済圏へのロイヤルティ向上効果を期待してのものであるが、有効期限があるポイントを有効期限がないステーブルコインに換える動きが一般的になれば、購買を促す効果は希薄化するだろう。
5. 独自ステーブルコインの発行
ポイント経済圏を維持・拡大するためには、独自のステーブルコインを発行するという選択肢も考えられる。例えば、楽天が独自の円連動のステーブルコインを発行し、既存のポイントと連携させたり統合させたりするなどである。これは上記の国際対応、グローバル展開において効果的かもしれない。
ポイント経済圏は日本独自で進化したマーケティングの形態であり、現在も各陣営間で激しい競争が繰り広げられている領域であるが、同じく「デジタルな資産」である暗号資産の利用促進がトランプ政権の政策となっていることから、海外における決済インフラの今後の動向を踏まえて各ポイント陣営も戦略を検討することになるだろう。
[1] ステーブルコインは暗号資産の一種であり、その価値が法定通貨や資産(米ドル、ユーロ、金など)に裏付けられている。ビットコイン等の暗号資産は価格変動が激しいが、ステーブルコインは価値が一定に保たれ、低コストかつ高速な国際送金が可能である点で、金融サービスの効率化や金融包摂の促進が期待される。代表的なものに、USDT(テザー)やUSDC(USDコイン)などがある。
[2] ポイント経済圏の市場規模について公的機関からの発表はないが、矢野経済研究所推計では2.7兆円、野村総合研究所推計では1.3兆円となっている(いずれも2023年度推計値)。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3605
https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/20241206_1.html
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。
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岸田 重行 (Shigeyuki Kishida)の記事
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