2022.12.13 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:ケアンズ ~豊かな自然を巡る徒然旅行記~

【写真1】ホテルのフォトスポットからの景色
(出典:文中掲載の写真は、一部記載のあるものを除きすべて筆者撮影)

少し経ってしまったが、コロナ以前に家族で豪州のケアンズに観光で訪れた。今回はその時の旅行の回想に少しお付き合いいただければ嬉しい。

それまで、旅行と言えばもっぱら国内を訪れてきた我が家が、その年に海外を目指した背景には、「子供は大きくなると親と一緒に旅行してくれなくなる」という諸先輩方のアドバイスがあった。あと数年もすれば、子供たちは自分の部活や習い事で忙しくなり、親とは一緒に遊んでくれなくなるらしい。それなら、その前に一度、海外へ行って違う文化や景色を見せてみよう。もしかしたら、それがいつか何かの気づきにつながるかもしれない。でも、子供と行くならアクセスも良く、安心安全に楽しめる場所がいいな……そんな、大人の都合と理想を諸々詰め込んだ訪問先が、豪州の北東部にある都市ケアンズだった。

ケアンズについて

【図1】ケアンズ

【図1】ケアンズ
(出典:CIA World Factbook)

ケアンズは豪州北東部に位置するクイーンズランド州の都市である。今回は世界遺産のクイーンズランドの湿潤熱帯地域を訪れたが、ケアンズはグレートバリアリーフの玄関口でもあり、海と山の両方の世界遺産に恵まれた自然豊かな場所だ。

ジェットスター航空の直行便で日本から7時間半のフライトで到着し、時差も日本と1時間の差となっている。熱帯モンスーン気候に属し、豪州で最も湿度の高い都市とのことだが、年間平均気温は26度で、日本の梅雨に慣れ親しんでいる我々には非常に過ごしやすい気候である。さらにはベストシーズンと言われる乾季は6月から10月なので、夏休みの旅行にはもってこいの旅先だ(図1)。

22時頃発の飛行機に乗り、機内で眠って翌朝、早朝の到着と共に爽やかな旅行が始まる。実際には機内ではなかなか眠れず、眠い目をこすりながら空港からホテルへタクシーで移動したが、その移動時間もわずか15分程。午前6時前にはホテルに到着することができた。

街中の様子

ケアンズの街中を歩くと南国の音と匂いがする。隣接した海から潮風がそよぎ、聞き慣れない鳥の鳴き声が方々から聞こえてくる。街中の道はどこも広く整備されているが、ヤシの木や熱帯地域を象徴する深い緑の大きな葉を持つ植物が通りに溢れ、その存在感を放っている。

また、海沿いの道を歩くと、迫力のある豪華客船がすぐそばに停泊していたり、オープンテラスのレストランが開いていたりして、観光地ならではのリゾート感も漂う(写真2)。ところが、少し歩いた先の浜辺では大きなペリカンが群れをなしてくつろいでいたり(写真3)、けたたましい鳴き声のする街の大きな木には大量の特大コウモリが、豊かな木の実の様にぶら下がっていたりもする(写真4)。きれいに整備された欧州調の人工物(写真5)と、モンスーン気候にふさわしい生命力に溢れた迫力のある天然の動植物たちの共存する景色が、ケアンズの魅力なのだと思った。余談だが、ケアンズの自然豊かな空気に触れた私は到着早々にして強烈な花粉症に見舞われた。止まらぬくしゃみに鼻づまりと涙目。幸い、ホテル近くの薬局で薬を購入し、症状を抑えることができたが、ケアンズに生息する植物の生命力の強さがそのまま症状にダイレクトに現れたのではないかと勝手に理解をしている。

【写真2】停泊する大型客船

【写真2】停泊する大型客船

【写真3】戯れるペリカン

【写真3】戯れるペリカン

【写真6】植物食のメガネオオコウモリ

【写真6】植物食のメガネオオコウモリ
(出典:https://batsoc.org.au/)

【写真5】Cairns Art Gallery

【写真5】Cairns Art Gallery
※美術館や水族館、カジノなどの大きな施設が街中に点在する

ちなみに、前述のコウモリはSpectacled Flying-fox(メガネオオコウモリ)という、頭と体の長さが22~25cmになる大きなコウモリだが、花や果物を食べることで花粉の媒介や種子の分散等、豪州の生態系において重要な役割を果たしている。しかし、近年の熱波で生存数が減少しており、絶滅危惧種としてクイーンズランド州で保護されているという。初見で「不気味」に映ったコウモリの姿が、如何に自分の狭い知見のフィルターを通して見たものなのかということを実感する。よく見れば、コウモリも愛らしい顔をしているではないか(写真6)。

キュランダ高原鉄道

世界遺産の熱帯雨林に囲まれた村、キュランダには、ケアンズから日帰りで訪れることができる。パッケージツアーを使い、キュランダ高原鉄道に乗り、キュランダを目指した。この2時間程かかる鉄道の旅こそがキュランダ観光のハイライトの一つになっている。あの有名なテレビ番組「世界の車窓から」のオープニングを10年飾った鉄道である。レトロな車体に乗り込み、33キロの道のりをゆっくりとマカリスター山脈を蛇行しながら登る途中で、ヘアピンカーブが現れる。その時に、車窓から山の中を走る前方の車両を見渡せる瞬間がやってくるのだ。思わず脳裏に番組のオープニングテーマ曲と石丸謙二郎さんのナレーションが流れる(写真7)。

【写真7】キュランダ高原鉄道の有名な景色

【写真7】キュランダ高原鉄道の有名な景色

そして、その後も延々と青い空と白い雲、緑の山並みの雄大な景色が続く。この熱帯雨林は南米アマゾンよりも古く、1億3,000万年前の白亜紀に形成された世界最古のものという。恐竜が生息していた時代と変わらぬ姿のままの自然が車窓に続き、日常から場所も時間も離れたロマンが広がる。窓際に張り付きずっと外の景色を望む長女にも何か思うところがありそうだ(いや、何かちょっとくらいは思うところがあって欲しい)。

キュランダ村

キュランダ村はカラフルなマーケットが軒を連ねる小さな観光用の村だった。到着後はランチタイムとなり名物のハンバーガーを食べ、お腹いっぱいと言いながらガイドブックに名物と記載されているアイスクリームを別腹に収めた。

世界遺産に登録されている熱帯雨林に囲まれたこの村は、ここに1万年以上前から暮らすアボリジニのジャプカイ族の釣りと狩猟の地であった。その後欧州人入植者が金と錫(すず)のために土地を開墾し、コーヒーのプランテーション農業を始めた際、アボリジニの人々は農場労働者として使われた。村の中を散策していると、アボリジニの男性が路面に座り込み、長いパイプ状の楽器ディジュリドゥを吹く姿を見かける。賑やかな観光客の雰囲気と、アボリジニの男性の静かな佇まいの差に、この土地が経てきた様々な歴史の変移を感じた。きちんとこの土地の歴史を学び、子供たちと共有しよう。お土産屋さんの軒先でワニの剥製を嬉しそうに見つめる娘を見て、そう思った。

ランチと自由行動の時間を経て、パッケージツアーの一団に再度合流した。次なる目的地はキュランダから5分のところにあるレインフォレステーション・ネイチャーパークという、熱帯雨林のテーマパークである。この中では、ワニやコアラ、カンガルー、という、いかにも豪州らしい動物たちに会うことができる。子供たちにはワラビーの餌やりが好評だった(写真8、9)。その後、同じパーク内で行われている熱帯雨林の見学ツアーに参加した。ツアーでは第二次世界大戦時の米軍使用車を改造した水陸両用のアーミーダックに乗って水路と泥地を散策する。まさにリアル「ジャングルクルーズ」だ。散策中には原生シダやカメ、蛇などの爬虫類、水鳥などが見られた。1日に3回見ることができると幸せになれるという青い蝶ユリシスも見られるとのこと。ユリシス探しに気合を入れていた上の娘は1回見ることができたと嬉しそうに言っていた。3回見られずとも、小さな幸せは訪れているようだ。

【写真8】眠るコアラ

【写真8】眠るコアラ

【写真9】ワラビー

【写真9】ワラビー

スカイレール

陽も傾きかけ、帰路につく時となった。そしてここから最後のイベントが始まる。全長7.5km、所要時間45分のスカイレール(ロープウェイ)でケアンズ北部の駅まで戻るのだ。世界遺産となっている世界最古の熱帯雨林を眼下に見下ろしながらの空中散歩は壮大であった。小さなゴンドラに収められ、ロープにぶら下がる自分たちの存在が小さく、頼りないものに感じられる。そして、自分たちと同じ「人」がこの巨大な原生林の中に支柱を立て、乗車中のロープウェイが今まさに成り立っていることに感動する。一体、どうやって組み立てたのだろうか。圧倒的で雄大な自然。そして、そんな自然の中に支柱を立てる人間。双方の時間や大きさの概念の対比にクラクラしてしまう。もちろん、純粋にゴンドラの外に見える景色も圧巻である(写真10)。

【写真10】スカイレール

【写真10】スカイレール

ちなみに、このスカイレールには専用のアプリがあり、英語・中国語・日本語のオーディオガイドやインタラクティブマップと共に楽しむことができるようになっている。45分間でスカイレールの旅の見どころを教えてくれる機能に加え、ARで目の前に熱帯雨林の動物が現れる「森の動物探しゲーム」も含まれている。また、スカイレールの駅では一部の駅を除きFree Wi-Fiが設置されており、撮った写真をそのままSNSに上げてシェアすることも可能になっている。私は当時アプリを使わずにスカイレールを利用したが、後で確認したところ、アプリの地図にはワニの日光浴場所やユニークな動植物の見えるポイントも示されていた(図2)。次回は是非このアプリと共にスカイレールに乗ってみたい。

【図2】スカイレールのアプリ

【図2】スカイレールのアプリ
(出典:https://www.skyrail.com.au/experience/overview/)

ケアンズの街中に戻って:アボリジナルアート

キュランダからケアンズに戻った夜、街中にあるアボリジナルアートセンターを訪れた。そこには様々なアボリジニの作家の作品が並べられていた。店内で蛍光灯の明かりに照らされ眺める作品はどれも個性豊かであった。しかし、私は展示物ではなく、その建物の壁面いっぱいに描かれている絵が一番好きだった。夜間にライトアップされ浮かびあがるその絵はしっとりとした空気を帯びて躍動的で幻想的だった(写真11)。かつて大学生の頃、南仏でマティスの絵を見たクラスメイトが、それまで得意ではなかったあの原色の作品が、南仏の光や空気の中で見ることにより、これまでとは違う作品の様に感じられて大好きになったのだ、と語っていたことを思い出した。同じ作品であっても、見る場所の空気、光、水、湿度、匂いにより、自分への届き方は全く異なるのだと。きっと目の前のこの作品も、同じようにこの場で一番輝き生きる作品なのだと思った。例え日本に持ち帰り見ることができたとしても、きっとこの躍動感は感じられないのだ(残念ながらここに載せている写真も、あの時の魅力の数百分の一も捉えることができていない)。そう思うと、その瞬間に立ち会い味わっているこの時間はとても贅沢なものなのだと思った。ケアンズの自然と同じように力強く重厚で、温かい愉快なアートだった。ちなみに、その時の下の娘の感想は「可愛い絵だね」だった。よく見ると、左右に朗らかな表情のカンガルーとワニがいる。娘たちにもこの土地で育まれている文化とその温かさが届いてくれているといいなと思った。

【写真11】アボリジナルアートセンターの壁画

【写真11】アボリジナルアートセンターの壁画

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