2023.5.11 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

活況を呈するベビーテック ~世界の最新動向と少子化大国・日本が狙うべき市場

Image by Erika Wittlieb from Pixabay

IT等のテクノロジーの力で出産や育児をサポートする「ベビーテック」の需要が国内外で高まっている。少子高齢化が進む日本では、政府が2023年初頭に「異次元の少子化対策」を打ち出したこともあり、ベビーテックの重要性がますます高まっていくと見込まれる。一方、世界に目を転じれば、人口増が著しい国も少なくない。

本稿では、国内外のベビーテック関連市場を概観しつつ、世界の最新製品を紹介する。

ベビーテックとは

ベビーテックとは、その名のとおり「ベビー(乳児)」と「Tech(テクノロジー)」を掛け合わせた言葉である。2010年代後半から耳にする機会が増え、関連製品の幅も広がってきた。

特に、毎年米国で開かれている世界最大のテクノロジーの展示会「CES」において、2016年にベビーテックをうたったブースやアワードがフィーチャーされて以降、注目度は一気に高まっていった。2018年のCESではベビーテック専用のエリアが設けられるなど、市場は賑わいを見せている。

その後、2020年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックをはさんで、出産・育児の環境もCESの開催状況も一変した。2023年1月に開催された最新のCES 2023ではベビーテックのエリアはなかった。ただ、関連製品はやはり多く見受けられた。

一口にベビーテックと言っても、実際には乳幼児までを対象としており、ユーザーが親か子どもかでその態様は大きく異なる。また、親でも、妊娠期間から産褥期を経て、子どもが乳児期を過ぎて幼児、就学の時期を迎えるにつれ、対応する製品群の装いはがらりと変わる。

市場調査会社のAbsolute Markets Insightsによると、世界のベビーテックの市場は2021年に1,972億3,000万ドル、すなわち20兆円を超す規模だった。また、2022~2030年の年平均成長率は8.9%で今後も拡大を続ける見通しだ[1]

少子化でも成長する市場

少子高齢化が進む日本においても、乳児の関連市場は拡大を続けている。各種調査によると、日本のベビー用品関連の市場は3兆円、4兆円と伸び、堅調に推移している。

日本の「高齢化」層の祖父母らが孫へのプレゼントや投資を惜しまない傾向が強まっていることも、底堅い市場の一因となっている。1999年に日本百貨店協会が制定した、10月第3週の「孫の日」は、孫へのプレゼントを買い求める高齢者の増加に従い、徐々に盛り上がりを見せる。

一方、米国では「ミレニアル世代」と呼ばれる25~40歳ごろの世代でベビーブームの兆しが見られるなど、国によって同市場を取り巻く環境は異なる。

多様化する需要

日本でも根付き始めているベビーテックだが、これを推進するべく、関連企業の有志によって2019年に初めて実施された「ベビーテックアワード」は現在、「授乳と食事 部門」「子どもの学びと遊び 部門」「安全対策と見守り 部門」「妊活と妊娠 部門」「健康・毎日のお世話 部門」「記念・記録・思い出 部門」などの分野ごとに受賞企業や商品・サービスを毎年選出している。

そうしたベビーテックの多様化は日本に限らず世界的な潮流だ。寝ている乳児を監視するベビーモニターがベビーテックの代表格とされてきたが、妊娠・出産・育児にまつわる負担を少しでも軽減したいというリクエストは無数にある。

そうしたさまざまなニーズに応えるべく、多種多様な商品が開発、商品化されてきた。以下ではCES 2023で展示されていたベビーテック関連製品のうち、CESのアワードを受賞するなど注目を浴びた企業とその製品をいくつか紹介する。

乳児の泣き声を翻訳

スイスのベンチャー「Zoundream」は乳児の泣き声を深層学習により分析し、「空腹」や「眠気」など5つのサインとして認識、翻訳するアプリを手掛ける。乳小児科医の協力のもと、乳児によるテストを10万時間以上行い、精度を高めてきた。万国共通で見られる乳児の泣き声の特徴・傾向を利用するため、乳児の言語圏を問わず、対応可能という。加えて、泣き声をもとに、自閉症など潜在的な発達障害や病状の早期発見につなげられるよう、改善を重ねる(写真1)。

【写真1】Zoundreamの泣き声翻訳アプリ (出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

【写真1】Zoundreamの泣き声翻訳アプリ
(出典:文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

なお、同様の「泣き声の翻訳」では台湾のベンチャー「Quantum Music」も「Qbear」というサービスを展開し、泣き声からその原因を「空腹」「眠気」「おしっこ」「抱っこ」の4つに分類して伝える(写真2)。また、同様のサービスを手掛ける企業は日本にもある。

【写真2】Quantum Musicの「Qbear」

【写真2】Quantum Musicの「Qbear」

AI搭載の揺りかご

韓国企業Emma HealthcareのAI搭載型揺りかご「Bebelucy」は、乳児の心拍数や呼吸数といった健康情報や泣き声、周囲の温度などの環境情報を検知、機械学習で分析し、スマホで結果を通知する。

このほかの機能として、乳児の泣き声を学習データから読み解き、空腹や眠気なども判別できる。また、5つのモーションスピードセンサーにより、ベビーベッドを揺らしたりバウンドさせたりして、心地よい眠気を促す(写真3)。

【写真3】Emma Healthcareの「Bebelucy」

【写真3】Emma Healthcareの「Bebelucy」

卵に着想を得たチャイルドシート

イスラエルのスタートアップBabyarkが展示したチャイルドシートは、乳児を包み込むような卵の形をしている。軍事レベルの衝撃吸収の性能が実証済みという。

組み込まれたセンサーがスマホなどと連動し、バックルが正しく装着されているかを教えてくれる。また、乳児が乗ったままの状態で大人が車から一定距離を離れると、乳児が置き去りにされていることをスマホで警告してくれる(写真4)。

【写真4】Babyarkのチャイルドシート

【写真4】Babyarkのチャイルドシート

自走式ベビーカー

カナダのスタートアップGlüxkind Technologiesは、押さなくても自動で走行するベビーカー「Ella」を開発、展示した。

AIとセンサーを搭載し、周囲の障害物との衝突を避ける機能を持つ。スマホと連動し、押す人と一定の距離を保ちながら自動で走ったり、止まったりする。後輪が電動式となっており、上り坂や下り坂でもスムーズに進む。

また、変形して揺りかごの形にもなり、自動で前後にゆっくり揺らす動きをして乳児の眠りを誘う(写真5)。

【写真5】Glüxkind Technologiesの「Ella」

【写真5】Glüxkind Technologiesの「Ella」

世界の市場に目を向ける

CESには日本に未上陸のベビーテックが多く見られた。一方、世界で受け入れられるであろう日本発のベビーテック、ベビー用品も少なからずあると期待される。なぜなら、日本のお家芸で世界的に人気がある、マンガやアニメのコンテンツは子育ての関連商品・サービスと親和性が高いからだ。乳幼児向けの商品の売り場が、食器から玩具までキャラクターだらけであることは容易に想像できるだろう。

特に、東南アジアなど人口増を背景に成長著しい国々には、既に日本のコンテンツが受け入れられている。海外のベビーテックを参考としつつ、日本の強みを組み合わせれば、世界のベビーテックの市場は、日本にとって深掘りの余地がある魅力的なフロンティアとなるはずだ。

[1] Absolute Markets Insights, “Global Baby Tech Market 2022– 2030”, https://www.absolutemarketsinsights.com/reports/ Global-Baby-Tech-Market-2022%E2%80%93-2030-1167

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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