2017年はICTの新サービス・新技術と事業構造 革新などで果実を取る〔10項目〕

今年は干支で言うと丁酉(ひのととり)にあたり、挑戦の果実を勝ち取る年と言われています。昨年実施された英国のEU離脱の国民投票や米国大統領選挙の結果が現実になるのが今年、2017年になります。大きな挑戦の結果が既に見えているので何とも不安を抱かせます。ここで十干十二支が一巡する60年前を参考に見てみると、1957年(昭和32年)はどういう年だったか、何とも今につながるものを感じます。第1はソ連による初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げ成功と、第2は茨城県東海村で核分裂が臨界に達し原子の火が灯ったことです。宇宙産業のその後の発展と原子力発電への不信感が今日の姿となっています。なお、余談ですが同年、長嶋茂雄氏が巨人(ジャイアンツ)に入っています。その後のプロ野球の隆盛は御承知のとおりです。
そこで、私もここでICT分野での挑戦の果実を勝ち取る項目を考えてみます。大項目としてICTの、(1)新サービス・新技術、(2)産業構造革新、(3)規制・制度の見直し、の3つの潮流に整理して10項目を取り上げてみます。すべて、今後の拡大が見込まれ、将来の私達の生活はもとより、経済・社会のあり方にまで影響を与えるものです。一時ではなく長く続く大きな果実となるものを選びました。
新サービス・新技術
MVNOが本格的に普及・拡大、普及率20%前後でピークに近づく
モバイル接続料の適正化が低価格SIM、多様なスマートフォン(以下、「スマホ」)の普及・拡大をもたらす。世界的な端末メーカーの再編が起こる。途上国メーカーとの提携が必須。
- IoTでLTE活用の方向
モバイル通信事業者による商用サービス開発が進む。NB-IoT、LTE-Mの商用化――2017年中にNB-IoTのデバイスが出荷。
- ARサービス/デバイスの普及
企業利用の拡大。“情報を経験・体験に変える”BtoBtoCモデルの一般化が進む。
- セルラードローンの有用性進展
地方創生、環境保護、農業、観光、緊急物品配送、大型構造物の点検、災害通報などで具体的なサービス基盤の確立が進む。3次元のセルラーサービスエリアのデータベース化。
産業構造革新
- 製造業などすべての産業でサービス化が進む
製造・販売から利用サービス提供型に移行。“デジタル・トランスフォーメーション”の追求。GE、Rolls Royce、KAESER KOMPRESSOREN、Michelin、UPS、UNDER ARMOUR、Roche Diagnostics、コマツ、京福バスなど事例多数。課題を発見・解決するため、対象に共感する力をつける――デザインシンキングの活用。
- 3Dプリンターがもたらす大きな変化
データこそ製造工程そのもの。在庫と物流から現地(現場)製造へ移行――前項5のUPSの事例。倉庫と輸送がなくなる。
- ヘルスケアを進める改正個人情報保護法
データ流通の本格化が進む。医療機関とサービス企業と行政との連携――健康年齢の上昇と医療費高騰の抑制。
- 自動運転のためのデジタル地図整備
自動運転車の活用事例の本格的追求。高齢ドライバーの運転補助が先決――運転能力、道路環境などに応じて運転補助機能を自動化するにはダイナミックデジタル地図が必須。
規制や制度の見直し
- 固定通信サービスとモバイル通信サービスの融合
プラットフォーマーの浸透に応じ、通信市場構造を世界の潮流に合わせる必要――NTTグループに残る規制を緩和・廃止。客先の需要とデジタル・トランスフォーメーションの流れ。
- 電話網 (PSTN) のマイグレーションとユニバーサルサービスのあり方に方向性
2011年6月と11月に、NTT東西から電話網 (PSTN) からIP網へのマイグレーションに関して発表がなされているが、その後大きな変化は見られない。2020年代の移行に向けてそろそろ対応が必要。問題となるのは、ユニバーサルサービスの代替と将来――サービスの確保と料金規制のあり方、国民負担の方法をどうするのか?
以上の10項目ですが、この中には敢えて5G、ビッグデータ、AIは含めていません。世の中へのインパクトが大きいのは当然ですが、果実を得るのはまだ早く個々のイノベーションを特定するのが難しいからです。他方、世間のトレンド予測を見てみると、「日経トレンディ」が発表した2017年のヒット予測の中でICT関連は、1位の「ノールックAI家電」を始め、3位にドローンで空から自撮りする「手ぶらで“旬撮”カメラ」、4位に「燃焼系ウェアラブルジム」、5位に「ドローンレーサー」、6位に「スポクラ(スポーツ専用クラウド)」の5つがトップ10に入っています。やはり、AI、ドローン、クラウドを取り入れた流行ものが見られます。また、博報堂生活総合研究所の「生活者が選ぶ2017年ヒット予想」のトップ10は次のとおりで、
- 自動運転システム搭載車
- AI (人工知能) 技術
- 格安スマホ
- ドローン
- ネットスーパー
- ふるさと納税
- 電気自動車
- インスタグラム
- 訪日外国人観光客
- 仮想現実 (VR)
やはり、ICT関連が多数を占めているのが分かります。要するに、これからのヒット予想にはICTが付きものであるし、ICTこそイノベーションの源泉であるということです。
ただ、私が取り上げた挑戦の10項目にも、「日経トレンディ」と博報堂生活総合研究所のヒット予想にも通信サービスが直接見えるものは少数です。これからの時代、サービスのイノベーションに必ず通信の出番はありますが、主役ではなくサービスの一部となるのが宿命でしょう。その中でどうやってビジネスモデルを成り立たせていくのかが通信事業者の課題です。モバイル通信事業者も、音声からデータ通信への変化、スマホへの移行が進むなか、主にBtoCモデルを追求してきましたが、すべての産業でサービス化、デジタル・トランスフォーメーションが進むのに応じてBtoBtoCモデルを追求していく必要があります。そのためには、他業種とのアライアンスはもとより、M&Aで新しい技術、人材、顧客などを取り込むことや顧客に共感するところから考えるデザインシンキングを身につけることが何より大切なことでしょう。毎年正月の恒例行事ではありますが、本当に2017年こそモバイル通信事業者にとっては大きな果実を勝ち取る年になりそうです。期待と不安が相半ばです。
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