世界の街角から:英国 ~Bluebellの風景

ロンドンはとても美しい街だが、少し郊外に出るだけで田園風景が広がり、また違った美しさの小さな町がたくさん点在している。ロンドンに駐在していた当時、友人の勧めもあり、National Trustのメンバーとなり、古城やマナーハウス、ガーデン巡りをするのが週末の楽しみだった。
National Trustは会員590万人を超え、ボランティアとして保護活動に参加する人が7万人という英国最大の自然保護団体で1985年に設立され、今年125周年を迎えた。「国や行政に頼らず、一般の人からの会費や寄付金で開発に晒されるおそれのある自然や歴史的建造物や景勝地を買い取り、国民の遺産として保持していく」を理念に活動しており、現在500余りの建物やガーデン等を所有し、一般に公開している。大体10~12£の入場料がかかるが、メンバーになるとほぼすべてのプロパティに自由に入場でき、駐車場も無料となる。当時、年会費が65£くらいだったので、6~7回ガーデン巡りをすれば元が取れ、自然保護活動にも参加できるという仕組み。素晴らしい場所がたくさんあったが、今日はその中の一つ、Standen Gardenとその周辺の見どころについて紹介したい。
ロンドンから車で約1時間。電車でもビクトリア駅から1時間少しのEast Grinstead駅が最寄りとなり、そこからバスで行くこともできる。このガーデンには古いお屋敷や季節ごとに様々な花が咲く美しい庭があり(写真1、2)、いつ訪れても楽しめる素敵な場所だが、特におすすめなのが4月の後半、Bluebellの咲く頃。Bluebellはその名のとおり、美しいブルーの色をした小さな花(写真3)。

【写真2】Standen Garden

【写真3】Bluebell
名前からも想像されるように、ヒアシンスに似た釣り鐘のような形をした小さな花で森や林の中に自生している。世界の6割近くが英国に自生するという特徴的な花で、イングリッシュブルーベル、ワイルドヒアシンス、ウッドベル等、様々な名前で呼ばれている。残念ながら、森林など自生環境の減少により年々その数が減っていることから、National Trustは積極的に保護活動を行っている。このガーデンでも森の中でしか見ることができないため、フットパスと呼ばれる「歩くことを楽しむための道」が整備されており、Mapの道順に従って決められたルートを歩く。木々の間に一面ブルーの花が咲き乱れている風景は圧巻で美しい(写真4、5、6、7)。

【写真4, 5, 6, 7】Bluebell
幸いなことに私はうまく満開なところを見ることができたが、花の寿命は短く一年でたった1週間。日本人が桜を楽しみにするように英国人はBluebellが咲くのを楽しみにしているようだ。4月下旬にロンドンに行かれた時は、少し足をのばしてみてはいかがだろか。
そこからもう少し行ったところにあるのがPooh Countryと呼ばれるくまのプーさんの舞台と言われる場所。小さな1970年代の建物でPooh Cornerと言う、くまプーファンには聖地のようなカフェとショップがある(写真8、9)。

【写真8, 9】Pooh Cornerのかわいい看板
子供の頃からプーさん大好きなので心ときめく場所。中にはかわいいグッズや絵本などがたくさん。そこから川の方に行くと、物語の中でプーさんが仲間と木の棒を投げて遊んだ「プーの棒投げ橋」がある(写真10、11)。

【写真10, 11】プーの棒投げ橋
多くの人が見に来ていて棒を投げている人もいるが、正直ここはそう言われればそうなのねという感じではあった。とはいえ、森の中を散歩していると、確かにプーさんが遊んでいたのではないかと思えるようなほのぼのとした心地よい場所だった。
Grinsteadにはもう一つ、Bluebellの名を冠した名物がある。East GrinsteadからSheffield Parkの間を走るBluebell鉄道だ。わずか11マイル(17.7km)を懐かしい蒸気機関車が走る。元々は国鉄の路線であったが、1958年に廃線となったものを3年かけてボランティアで構成された保存協会が再興し、1960年から営業を再開したもの。現在でも保存協会によって運営されており、多くの観光客やサポーター、そしてボランティアによって支えられている。

【写真12】Bluebell鉄道
出典:Bluebell鉄道HPより
Sheffield Park駅には鉄道博物館があり、古い蒸気機関車などが展示されており、グッズを販売するショップやカフェもある。

【写真13】博物館の入り口はプラットフォームから
出典:Bluebell鉄道HPより

【写真14】アフタヌーンティ
また、列車の中でアフタヌーンティにランチやディナーを楽しめるプランも大人気。予約がなかなか取れないのだが、ラッキーなことにふと思い立って電話をしてみたら、予約が取れ乗ってみたことがある。アンティークな車内で、美しい車窓の風景を見ながら、トラディショナルなアフタヌーンティを優雅にシャンパン付きで楽しむ本当に素敵な時間だった。
ところが、これにはハプニング談がある。当日は早めに始発駅(と思っていた)East Grinsteadに到着し、駅や周辺の写真を撮って楽しんでいたら、駅員さんが近寄ってきて、SLに乗るのかと聞かれた。アフタヌーンティ列車だから、まだ時間があるでしょ? と余裕で返事をすると、その列車は終点のSheffieldからの往復なのでここからは出ないよと言われてびっくり! ちゃんと予約の時に確認したつもりだったのだが、予約が取れた喜びで舞い上がって肝心なことを聞き逃していたみたい。かつ、その日は電車で来ていたので、Sheffieldで終了して降ろされても帰る足もない。事情を説明すると、とにかく今発車する列車に乗ってSheffieldまで行けと。その間に連絡して、こちらに戻る片道で食べられるようにアフタヌーンティをセットしてもらうよう手配しておいてあげると。あの親切な駅員さんが、たまたま私を見かけて、何か変だなと声をかけてくれなければ、あの体験はできなかったのでした。改めて駅員さんに感謝!
Bluebell鉄道は今でも非営利団体が運営している小さな鉄道。多くのファンで大人気ではあるが、観光客からの収入だけでの経営は容易ではなく、人々の寄付で支えられている。コロナの影響で今年は長期間ロックダウンされていたので、相当厳しいことになっているのではないかと心配になる。
どうかあの素敵な空間がなくなりませんように。
機会があればぜひEast Grinstead周辺を訪れて、田園風景や懐かしい蒸気機関車を楽しみつつ、自然保護と鉄道の存続に協力する素敵な休日を過ごされるのはいかがでしょうか。
※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。
調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。
ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら関連キーワード
船本 道子の記事
関連記事
-
ブロックチェーンとどのように向き合うか ~地域活用の可能性~
- WTR No432(2025年4月号)
- ブロックチェーン
- 地方創生
-
世界の街角から:フランス パリ、リヨンへの旅 ~着物がつなぐ歴史と文化~
- WTR No432(2025年4月号)
- フランス
- 世界の街角から
-
より実効性のある公益通報者保護制度の確立に向けて
- ICR Insight
- WTR No433(2025年5月号)
- 国内
-
MWC2025に見る通信業界の転換点:“次のG”ではなく“次のAI”
- AI・人工知能
- MWC
- WTR No433(2025年5月号)
- イベントレポート
- 海外イベント
-
ビジネスフェーズへと向かうネットワークAPI ~日本の通信事業者はどのように取り組めるか~
- MWC
- WTR No433(2025年5月号)
- イベントレポート
- モバイル通信事業者(国内)
- モバイル通信事業者(海外)
- 海外イベント
InfoCom T&S World Trend Report 年月別レポート一覧
ランキング
- 最新
- 週間
- 月間
- 総合