2021年8月4日掲載 ICT経済

シェアリングエコノミーがもたらす価値の連鎖 -2021年シェアリングエコノミー調査報告 第6回-



2021年シェアリングエコノミー調査報告の第6回は、売上増加から見た経済価値の広がりを取り上げる。

[前回の記事]
SDGsの多面性とシェアリングエコノミー
-2021年シェアリングエコノミー調査報告 第5回-

(シリーズ一覧はこちら)

これまでの報告では、シェアリングエコノミーが大きな経済的・非経済的価値を生むことを示してきた。これらの価値は、シェアリングエコノミーに閉じたものではなく、他企業に連鎖し、広がっていく。今回はその連鎖を売上増加からみて行く。

シェアリングエコノミーが成長すると、シェアサービス事業者(シェアサービスのプラットフォーマー)やシェアサービス提供者(シェアサービスを通じて資産・スキルを提供する個人)の活動が活発化、拡大することにより彼らの収入と支出も拡大することになる。それは他企業の売上を増加させる。中でも重要なのはシェアサービス提供者の収入が拡大することによって、商品やサービスの購入が増え、既存企業の売上増加につながる点である。一般的なサービス産業では、ユーザはサービスを購入するだけであり、産業が成長することはユーザの支出拡大にしかつながらない。一方、シェアサービスの成長はユーザ(資産・スキルの提供者と利用者の双方を含む)の支出拡大だけでなく、収入拡大にもつながるのが特徴である。ここで注目したいのは、売上増加はさまざまな企業に広がっていくことである。例として、図1にシェアサービス提供者が飲食店で食事をする場合の売上増加を示した。

図1 売上増加の広がりの例

図1 売上増加の広がりの例
出典:「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」(情報通信総合研究所)より作成

このように、シェアサービス提供者が飲食店で食事とすると、飲食店は飲食サービスを提供するために多くの原材料等が必要になる。そこで、様々な企業の製品・サービスを仕入れることになり、仕入先企業の売上増加につながる。このような連鎖は、あらゆる産業に広がり、全てを合計するには膨大な手間が必要になる。そこで今回は一括して推計できる産業連関分析の手法を用いて推計した[1]

既存企業の売上増加額の推計結果

シェアリンングエコノミーの市場規模が拡大すると、シェアサービス提供者の収入が増加し、それが支出に回り、それに応じて他企業の売上も増加する(図2)。

図2 他企業の売上増加額とシェアリングエコノミーの市場規模

図2 他企業の売上増加額とシェアリングエコノミーの市場規模
出典:「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」(情報通信総合研究所)

2020年度の他企業の売上増加額は2020年度で1.4兆円であり、市場規模[2]の64%の大きさである。2030年度は9.4兆円まで拡大し、市場規模に対する比率は66%に上昇する見通しである。シェアリングエコノミー市場拡大により、他企業の売上も増加することが確かめられた。

シェアリングエコノミーなど新しい製品・サービスが出ると、従来型の企業の生産減少につながる[3]、従来型のサービスを安く代替する[4]等、従来型のビジネスにとってのマイナス面を危惧する意見もある。しかし、技術とビジネスのダイナミズムを考えたとき、従来型の企業もそれ相応の新陳代謝が必要であり、彼らにも新しいシェアリングビジネスに参入する機会は開かれており、いたずらにマイナス面を強調すべきではないと考える。特にここで取り上げるシェアサービスについては、使われていなかった個人の資産やスキルが活用されるようになってサービス提供の多様性が高まった点、それに基づいて他企業にも上記のようなプラスの連鎖がある点を見落としてはいけない。以下、他企業の売上増加がどのような連鎖の結果として生じるのかを見ていく。

他企業の売上増加の連鎖

2030年度の他企業の売上増加額9.4兆円がサービス提供者を起点にどのような価値連鎖の結果として生まれたのかを図3に示した。図1に示した売上増加の流れを①サービス提供者と②~⑥の業種にまとめている。②~⑥が9.4兆円の業種[5]別の内訳であり、矢印がお金の流れを示している[6]

図3 他企業の売上増加の連鎖(2030年度)

図3 他企業の売上増加の連鎖(2030年度)

売上増加が最も大きい業種は②サービス業の20,304億円である。この内訳(①⇒②、②⇒②、③⇒②、④⇒②、⑤⇒②、⑥⇒②)を金額の大きい順にみると、シェアサービス提供者からの売上(①⇒②、11,955億円)が最も大きく、次いでサービス業自身からの売上(②⇒②、3,500億円)、その他(⑥⇒②、1,999億円)が続いている。業種別内訳[7]の詳細は、図中に示されていないが、飲食業が第1位である。これはシェアサービス提供者の利用が多い(①⇒②が大きい)ためである。第2位は法務・財務・会計等の企業向けサービスであり、サービス業からの売上(②⇒②)が大きいが、これは製造業等の他業種からの売上も幅広くあり、積み上げた結果として大きくなっている。

次に大きいのは③製造業の19,739億円である。内訳(①⇒③、②⇒③、③⇒③、④⇒③、⑤⇒③、⑥⇒③)では、サービス提供者からの売上(①⇒③、7,704億円)が最も大きいが、製造業自身(③⇒③、6,482億円)やサービス業(②⇒③、3,077億円)からの売上も大きく、価値連鎖の幅が広い。図中に示されていない詳細な業種別内訳では、ガソリン等の石油製品製造業が大きい。シェアサービス提供者からの売上(①⇒③)に加えて、様々な業種(③⇒③、②⇒③等)からの売上が加算されるため大きくなっている。次いで食料品製造業が大きいが、要因はシェアサービス提供者からの売上(①⇒③)である。

以上のように、売上増加が大きい業種の価値連鎖のパターンは、

  1. シェアサービス提供者の利用が多い、
  2. 様々な業種で幅広く使われている

の2パターンがある。2.のパターンは一見するとシェアリングエコノミーとの関係が薄いが、多くの業種への価値連鎖の結果として大きな売上拡大効果が及ぶのである。

◇◆◇

以上みてきたように、シェアリングエコノミーの拡大は様々な企業の売上拡大につながる。ここではシェアサービス提供者の収入からの影響を算出したが、シェアサービス利用者の支出からの影響等を含めると更に大きくなる。他企業は、シェアリングエコノミーによるマイナス面ではなくプラス面に着目し、価値の連鎖を広げていくのが得策であろう。

今回取り上げた調査結果の詳細は、「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」として販売している。市場規模予測、新型コロナによるユーザの増加の動向、ユーザの特性やシェアサービス事業者との連携のメリット等を記載している

リンクバナー「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」

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(参考)シェアサービスの説明とサービス例

(参考)シェアサービスの説明とサービス例

[1] 均衡産出高モデルを用いて推計した。ここでは生産額の増加(生産誘発額)を売上拡大としてとらえている。「2021年シェアリングエコノミー調査報告書・データ集」では経済波及効果と表記している。

[2] 詳細は第2回を参照。2030年度はシェアリングエコノミーの認知度の低さ等の課題が全て解決する前提での予測となっている。

[3] 例えば、個人のカーシェア利用増加(自動車購入・所有の減少)によって、自動車の生産が減少する等。

[4] 例えば、美術大学出身の個人が安くロゴデザイン等のサービスを提供するようになることで、デザインサービス企業の売上が減少する等。

[5] 「その他」には農業、鉱業、建設業、電力・ガス・水道業、金融・保険業、運輸・郵便業、情報通信業、公務、分類不明の業種が含まれる。サービス業は不動産、商業、その他以外のサービスを全て含んでいる。

[6] 例:①⇒②11,955億円は①サービス提供者から②サービス(業の企業)へ支払うお金(サービスの売上の一部)を示している。②サービスの売上20,304億円は①⇒②11,955億円、②⇒②3,500億円、③⇒②822億円、④⇒②244億円、⑤⇒②1,553億円、⑥⇒②1,999億円の合計。矢印はお金を支払う金額が大きい方向を向いており、金額が大きい程太くなっている(例:②⇒③3,077億円が③⇒②822億円よりも大きいので矢印は②から③の方向)。またボールド体で強調しているのは、金額が3,000億円以上の取引である。

[7] 業種別の売上高②~⑥の内訳であり、②⇒②等の同じ業種の中の売上の場合は⇒の先(右側)の業種の内訳を示している。

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