モバイル通信事業者のカーボンニュートラルに向けた取り組み
はじめに
2015年に採択されたパリ協定に基づいて、各国は気候変動対策に取り組んでいる。日本政府は、2050年のカーボンニュートラルの実現を目標とし、再生可能エネルギーの利用促進などを進めている。企業においても、気候変動対策の経営戦略への反映や環境目標の設定など、脱炭素を推進する。本稿は、日本のモバイル通信事業者(MNO)各社およびモバイル業界における主な取り組みについて紹介する。
日本のMNO各社の環境目標と主な取り組み
NTTドコモ
NTTドコモは、自社の事業活動での温室効果ガス排出量を2030年までに実質ゼロ(カーボンニュートラル)にすることを目標としている。自社事業においては、ネットワークの省電力化、再生可能エネルギーの導入およびIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)などのイノベーションの開発に取り組むとしている。また、バリューチェーンにおいては、ドコモショップへの太陽光パネル設置などにより、グリーン化を推進するとともに、携帯電話や通信設備などのサプライヤーから、環境に配慮した製品などの導入を推進する。[1]
KDDI
KDDIは、2030年度までに自社の事業活動におけるCO2排出量実質ゼロ、KDDIグループがTELEHOUSEブランドで展開する全世界のデータセンターにおいては、2026年度までにCO2排出量実質ゼロの実現を目指している。また、KDDIグループ全体では2050年度までにCO2排出量実質ゼロを目指す。KDDIは、携帯電話基地局や通信設備などの省電力化と再生可能エネルギーの利用を進め、パートナーシップや新しいテクノロジーの導入によるCO2排出量削減にも取り組むとしている。[2]
ソフトバンク
ソフトバンクは、自社の事業活動や電力消費などに伴い排出される温室効果ガス(スコープ1・スコープ2)を2030年までに実質ゼロにすることに加え、サプライチェーン全体で排出される温室効果ガス(スコープ3)も含めて2050年までに実質ゼロにする「ネットゼロ」の実現に取り組んでいる。ソフトバンクは、自社事業において、基地局使用電力の再生可能エネルギー化を進めるとともに、AIやIoTなどを活用した電力効率化、次世代電池の開発を通じた環境負荷軽減など、テクノロジーを活用した省エネ対策にも取り組む。[3]
※スコープ1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
※スコープ2 : 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
※スコープ3 : スコープ1、スコープ2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
楽天グループ
楽天モバイルが属する楽天グループは、2023年までにグループ全体の事業活動における温室効果ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)の達成を目指している。同グループは、目標達成に向けて、自社施設などのエネルギー利用の効率化や再生可能エネルギーへの切り替え等を進め、楽天モバイルの一部の携帯電話基地局に、太陽光発電所で発電された再生可能エネルギー由来の電力供給を行う予定である。併せて、データセンターの温室効果ガス排出量削減などに取り組むとしている。[4]
モバイル業界における取り組み
日本のMNO各社が推進するように、モバイル業界におけるカーボンニュートラル(ネットゼロ)達成には再生可能エネルギーの利用が不可欠とされる。2019年2月、モバイル関連の業界団体GSMAは2050年までにモバイル業界のCO2排出量を実質ゼロにするという目標を設定した。[5] GSMAは気候行動タスクフォースを創設し、日本のMNOを含む世界各国の約50社が参画している。同団体は、再生可能エネルギーの利用促進とともに、モバイル端末・機器の環境サステナビリティ向上、モバイルコネクティビティ活用による炭素削減などに取り組んでおり、各社の事業活動のみならずサプライチェーンにおける貢献が期待される。
(出所)
[1] NTTドコモ ウェブサイト
https://www.docomo.ne.jp/corporate/csr/ecology/environ_management/carbon_neutral/
[2] KDDIウェブサイト
https://news.kddi.com/kddi/corporate/newsrelease/2022/04/07/5984.html
[3] ソフトバンク ウェブサイト
https://www.softbank.jp/corp/sustainability/special/netzero/
[4] 楽天グループ ウェブサイト
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2022/0928_01.html
[5] GSMA ウェブサイト
https://www.gsma.com/betterfuture/wp-content/uploads/2022/05/Moble-Net-Zero-State-of-the-Industry-on-Climate-Action-2022.pdf
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清水 郁雄 (Ikuo Shimizu)の記事
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