2017.11.30 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ドローン管制サービスに関する動向(後編)

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前編においては、ドローンビジネスの概要や現状について簡単に紹介するとともに、今後の空を飛び交うドローンの台数の拡大や本格的な商用利用にともなって必要と考えられている、ドローン管制サービスの概要について紹介した。

後編においては、ドローン管制サービスに関わる注目プレイヤーの動きと規制の動向などに注目して紹介したい。

プレイヤーの動向

前編では、ドローン管制サービスのここ数年の動向について図にまとめた。今後多様な企業がこの新しい市場に参入することが予想されるが、本節では米国と欧州に拠点を置く注目企業に焦点を絞って、紹介することとしたい。

米国の企業:AirMap

AirMapは2014年に設立され、米カリフォルニア州サンタモニカに拠点を置くドローン管制を含む、ドローン空域管理サービスの提供を行う企業である。同社によれば、125カ所以上の空港、および空域管理者がAirMapの空域管理者向けツールを利用しているという(2017年3月のRakuten AirMapのプレスリリース)。また、2017年にはMicrosoft Venturesを中心とする複数の企業から2,600万ドルの投資を受けており、ハイテク企業からの関心度の高さがうかがえる。

日本との関わり合いとしては、AirMapは2017年3月に楽天と合弁会社である「Rakuten AirMap」を設立している。読者の中には、合弁の際の報道発表等を通じて、AirMapの名前を目にされた方もいるだろう。Rakuten AirMapは2017年8月には一部機能(API等)を開発者向けに提供し始めるなど、具体的なドローン管制に関するサービス展開を日本国内で開始している。

本拠地の米国では、ドローン管制サービスの導入に向けて積極的な動きを見せている。その一つが、カンザス州の交通局(The Kansas Department of Transportation : KDOT)との全面的な提携だ。2017年8月、AirMapとカンザス州は州内のドローン管制に関するパートナーシップを結んだことを発表した。この取り組みは米国では初めてであるといわれているが、州内のドローンを活用した経済活性化を狙ったものだとしている。具体的な取り組みとしては、以下のことが公表されている。 

  • ドローン飛行の状況確認やフライト計画を目的として、州または地方政府から重要な安全情報をドローンに送信する
  • 州、地方政府、ドローン運営者間でのコラボレーション、コミュニケーション、データ交換を促進する
  • ドローンに関する規制と飛行領域に関する一般的な知識を振興する
  • カンザスの空港における空域の通知と認証の自動化を行う
  • 公共の安全、ジオフェンシングや遠隔認証といったテクノロジーを活用した個人のプライバシー保護に関する高性能のソリューションのデモを行う。

この取り組みは、カンザス州のすべての空港に導入されたAirMapの航空管制ダッシュボードで実施される予定であるという。カンザス州には、ボーイング、セスナといった航空機会社の製造の拠点があり、カンザス州と航空機産業は結びつきがある。このような背景から、カンザス州はドローン活用によるビジネスを通じて、州内の雇用の拡大を期待しており、積極的にドローンを活用するような下地を作っているのではないかと筆者は考えている。

AirMapからすると、この取り組みはカンザス州で広く利用されることによって、自社のアピールにつながるだろう。また、ドローン管制のユースケースや実際の運行データを集めることができるため、大きなメリットがあると考えられる。また、管制サービスのようなものは1つの地域に多くの企業が参入するということは考えにくい。そういった意味では、他社に先行して参入することにより、今後の自社ビジネスの拡大を目指しているものと考えられる。

欧州の企業:Unifly


次に、欧州の注目企業としてUniflyを紹介する。同社は2015年に設立されたベルギーに拠点を置く企業である。同社もAirMapと同様にドローン管制等に関するソリューションを開発、展開している企業で、欧州に拠点を置く企業の中では早期の段階からドローン管制サービスに関与していた企業であるといえる。同社は、日本企業との関連も深く、2016年11月には、日本でドローンを活用した測量サービスを提供するテラドローンと資本提携(テラドローンがUniflyに約5億円の資本を投入)を行っている。この資本提携によりテラドローンはUniflyの筆頭株主となるとともに、Uniflyのドローン管制のシステムをアジア太平洋地域で展開する予定であるという。また、その他にもテラドローンは、2017年3月にKDDIと共同でドローン管制を含む「4G LTE運行管理システム」の開発を完了したことを公表している。

欧州では、ドローンの運行管理に向けてGUTMA (Global UTM Association) という団体が設立され、ドローン管制に関する技術の標準化に向けた議論が行われている。欧州と書いたが、実際にはこの団体には欧州に限らず世界各国の企業が加盟しており、例えばドローンを開発する中国のDJI、フランスのParrot、日本からはNTTデータ、プロドローン等が参加している。Uniflyはこの中の主要なボードメンバー(ボードメンバーにはAirMapの名前もある)となっている。ドローン管制には多様な企業が関与しているため、ボードメンバーであることがすなわち業界全体に大きな影響力を持つという短絡的なことはいえないが、ドローン管制に関して一目置かれている企業であることは間違いないだろう。そういった意味では、欧州の動向を見る上でUniflyの存在は欠かせないものとなっていると考えられる。

政策、規制動向

最後にドローンやドローン管制に関する近年の政策、規制動向に関して簡単に紹介して、結びとしたい。

米国の状況:

米国では、連邦航空局 (FAA) がドローンの規制を担っている。これにより2012年から2015年にかけて、ドローンを運用する際の制度(飛行高度、飛行時間、ドローン登録、操縦者の免許)について環境が整えられたといえるだろう。本稿で注目してきたような商用ドローンに関しては、2016年にFAAが25kg以下の小型ドローンに関する規則を発表している。これによれば、利用可能な時間は日中のみ、飛行高度は地表から400フィート (122m) 以下、操縦士、または操縦士と連絡体制にあるオブザーバーの目視可能な範囲内といった内容になっている。

また、ドローン管制サービスについては、米航空宇宙局 (NASA) が中心となり、Google、Amazon、Verizon、AT&Tなどの民間企業との連携のもと、ドローン管制の実用化に向けた実証実験が開始されている(研究期間は2014年から2019年)。具体的には前ページ表1にあるような4段階に分けた計画が実施または予定されている。NASAは2013年からドローン管制に関する研究や議論を開始しており、早い段階からドローン管制について着目していたといえるだろう。

米NASAによるドローン管制の実証実験の取り組み

【表1】米NASAによるドローン管制の実証実験の取り組み
(出典:総務省、NASA公表資料より情総研作成)

欧州の状況:

欧州では、ドローンの規制については、各国がそれぞれに実施しているというのが現状といえる。しかし、ドローンの運行距離が拡大すれば、隣接する国を超えた活用が行われることが考えられ、欧州で統一的なドローン規制の策定を望む声が高まりつつあるといえる。欧州全体でのドローンの規制については「欧州航空安全機関 (EASA)」が主導している。

EASAは2015年12月に、ドローンを規制する枠組みの策定を行うことを公表(表2)し、翌年の2016年にはドローンの安全規制に関する原案を発表している。また、2017年5月にEASAはドローン規制のプロポーザルを公表しており、2017年末を目処にEUに提出される予定であるという。以上のことから、各国独自で策定されてきたドローンに関する規制が、欧州全体で策定される可能性が出てきている。

EASAが2015年に公表した規制枠組み

【表2】EASAが2015年に公表した規制枠組み
(出典:Jetro「欧州 ドローン:統一規格策定に向けて」より引用
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/083497962b2f6773/20170007.pdf)

まとめ

後編では、米国と欧州の注目企業や政策、規制の動向について紹介を行ってきた。ドローンを活用したビジネスに期待が集まる一方で、複数台のドローンを活用する際に必要となるドローン管制という、いわば「インフラ」導入に向けた動きが活発化しつつある。また、規制面でも各国で制度を整えようとする動きが見られる。ドローン管制サービス自体は、これから民間企業、政府、業界団体等を巻き込みつつ整備されていくものと思われるが、現状ではドローン管制の市場規模がどの程度になるのかは不明瞭である。一方で、ドローン管制サービスを「インフラ」と捉えた場合、AirMapを紹介した際に記したように、複数産業が同一のエリア(市場)で運営を行うというのは難しいのではないか。つまり、市場ができてから参入するということは困難な場合が予想される。そういった意味では、今回紹介した2社をベンチマークに今後この市場がどのような動きを見せるのか注視していくべきであろう。■

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