2018年10月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

Dreamforceで感じたValueとSustainability

Dreamforce会場入り口

【写真1】冒険をイメージさせるDreamforce会場入り口
(出典:文中掲載のすべての写真は著者撮影)

「Dreamforce」とは

「Dreamforce」はクラウドを利用した顧客管理システム(CRM)最大手のSalesforce.com社(以下「Salesforce」)の年次イベントだ。例年Salesforce本社のあるサンフランシスコのモスコーニ・センターを中心に周辺の複数のホテルを会場に開催される。今年のDreamforce 2018は9月25日(火)から28日(金)にかけて開催され、世界90カ国以上から17万人以上が参加。IT系企業のイベントとしては世界最大級となっている。ちなみに、世界中からそれだけの人々が集まるこのイベントの開催期間中、サンフランシスコ市内のホテルは需要過多となり、宿泊料の相場は軒並み急上昇する。通常時は1泊200ドル未満で宿泊できるような一般的なホテルチェーンもこの時期は1泊1,000ドルを超える値段となるほどだ。

今回のレポートでは、通常のカンファレンスレポートとは趣向を変え、新製品情報等ではなく、企業としての価値観、特にSustainabilityについて、いかにメッセージが発信されているのかにフォーカスしてお伝えしたい。

会場の様子

これまで筆者は複数の大手ITベンダー主催のカンファレンスを取材してきたが、Dreamforce会場はそれらとは全く違った雰囲気だったことに驚いた。これまで取材したカンファレンスでは多くのIT企業はその技術の先進性やサービスの先見性をいかに“Cool”に伝えるかに工夫を凝らしていたのに対し、Dreamforceでは会場全体が自然との一体化を全面に出したモチーフで構成されており、一般的にイメージされるコンピューターや機械的な冷たさを感じさせるものは一切なかった。

OHANAとTrailblazers

Salesforce CEO Mark Benioff氏のKeynote(基調講演)は社会的価値を全面的に訴求するもので、自社の新製品発表については一切触れず、他のITベンダーのトップCEOとは全く違うスタイルであった。

自然と感謝


自然に感謝するハワイの厳かな祈りの場面の後、Benioff氏は登壇すると、Salesforceに関わるすべての人や企業、団体に対して感謝の意を何度も表すところから始め、これまでで史上最大級のイベントとなったことを伝え、それに続き、このイベントで慈善活動に対するファンドレイジングを行うことと合わせ、「Decarbonizing Dreamforce」と題して、二酸化炭素排出抑制をいかに押さえているかといったSustainabilityを強調した。

Keynote直前の感謝のお祈り

【写真2】Keynote直前の感謝のお祈り

Benioff氏

【写真3】Keynoteで関係者に感謝を告げるBenioff氏

その後、同氏は自分たちは第四次産業革命(4th Industrial Revolution)の真っただ中におり、自社製品を「Customer Success Platform」として定義し、各製品がいかに顧客に対してこの変化への対応に貢献しているかを説き、当然の結果としてビジネスが成長していることを語った。

業績動向に関する説明スライド

【写真4】業績動向に関する説明スライド

Benioff氏はまた、自社の企業文化を、ハワイ語で広義の家族に相当する概念である「ohana」という言葉を用いて、すべてのステークホルダーに対して貢献する「Ohana Culture」と表現し、自社のコア・バリューは「TRUST」、「CUSTOMER SUCCESS」、「INNOVATION」そして「EQUALITY」であることを力説した。

Benioff氏

【写真5】企業文化とバリューを説明するBenioff氏

その中で同氏は社会課題の解決の重要さについて触れ、これらバリューを公共教育、男女平等、LGBTQ、ダイバーシティ、環境分野において実行していることを伝えた。

Benioff氏

【写真6】バリューとアクションを説明するBenioff氏

そして「1-1-1モデル」という、株式の1%、製品・サービスの1%、就業時間の1% を世界中の地域社会に還元する取り組みである独自の社会貢献モデルを紹介。これまで2.3億ドル超の寄付金、320万時間超のボランティア活動、そして37,000以上の非営利団体や教育機関への自社製品・サービスの提供を行ったことを伝え、自社のビジネスが社会変革を達成するための最も良いプラットフォームとなっていることを説明した。

「1-1-1モデル」を説明するスライド

【写真7】「1-1-1モデル」を説明するスライド

トレイルブレイザー・コミュニティの形成

Salesforceは社内外にかかわらず、課題に挑戦する人々を未開地で道しるべをつける人や先駆者を指す「トレイルブレイザー(Trailblazer)」と呼び、同志としてのコミュニティの一体感を醸成している。既にお気づきになったかと思うが、イベント会場からスライドにいたるまで、すべてのモチーフがこのトレイルブレイザーの活動をイメージして作られている。

トレイルブレイザーには当然ながら、ビジネスパートナーも含まれる。Dreamforce直前に提携が発表されたAppleについても、このトレイルブレイザーの仲間として触れられた。

Benioff氏はこのトレイルブレイザーについて、単なるコミュニティというだけなく、その経済効果について、2022年までに、330万の新たな仕事を作り出し、8,590億ドルのGDP創出効果があることを訴えた。

セールスフォースのもたらす経済効果スライド

【写真8】セールスフォースのもたらす経済効果スライド

Benioff氏によるこれらの話が終わった後、Co-Founder兼CTOのParker Harrisにプレゼンターとしてのバトンが渡され、Einstein Voiceといった新製品についてアナウンスが行われた。

Sustainability

同社は今回のイベントにおいて、特に、持続可能性(Sustainability)、気候変動(Climate Change)への対策について複数のセッションを持った。同テーマのゲストスピーカーに、前副大統領で「不都合な真実」の著者であるAl Gore氏を迎え、地球温暖化にともなう気候変動への影響、大型台風・ハリケーンや干ばつによる被害の増加といった気象災害が深刻化していることについて語ってもらった。一方、同氏は化石燃料から再生可能エネルギーへの転向がビジネスと雇用を創出しており、確実に新たなビジネスチャンスとなっていることを解説した。

Al Gore氏

【写真9】気候変動による危機について語るAl Gore氏

ランチボックスにも環境へのこだわり

些細なことに思われるかもしれないが、開催期間中に配られるランチボックスにも他のカンファレンスでは見られない工夫を感じた。通常この手のランチボックスでは、サンドウィッチはビニールにくるまれ、サラダはプラスチック容器に入れられ、食器にも使い捨てのプラスチックのスプーンやフォークが用いられる。配られたランチボックスでは、それらが一切使われておらず、容器そのものも90日で土に帰る植物性繊維からできたものだった(写真10参照)。

ランチ

【写真10】環境に徹底配慮したランチボックス

展示スペース

展示スペースで一際目を引いたのがUnilever社だ。同社は“Making Sustainable Living Commonplace” (サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に)をビジネスの中心に据えており、ここでは“Unilever Grows Sustainable Brands with Salesforce”と題して、セールスフォース各プロダクトの自社での活用について紹介していた。

Unilever社展示

【写真11】Unilever社展示模様

Salesforce Tower

Salesforce本社はSalesforce Towerと呼ばれる現在サンフランシスコで最も高い326mの高層ビルとなっている。このビルも同社が自負するSustainabilityにこだわったものとなっている。

Salesforce Tower

【写真12】Salesforce Tower

DreamforceではこのSalesforce Towerの内部見学ツアーが行われていたが、定員制であったため、登録が間に合わず見学はかなわなかった。しかしながら、日本からの取材とのことで交渉したところプロパティ・マネージャーがわざわざ、環境に関する冊子を持参し対応してくれた。それには再生エネルギーの100%利用、米国の商用ビル最大規模の水資源リサイクルシステムであること等、Sustainabilityへの取り組みが記載されていた。

Salesforce Towerカタログ

【写真13】Salesforce Towerカタログ

不可欠となる価値観の醸成と拡散

今回、Dreamforceに参加し、ここでは書ききれない複数のセッションや有形無形の様々なメッセージに触れたことで、現在テクノロジー企業が迎えつつある時代の転機を感じた。これから時代に支持され続けるテクノロジー企業の条件としては、従来型の戦略やマーケティングに基づき、顧客により良い製品・サービスを届けるだけでは、それらの差異化が困難になりつつある現在では不十分になってきている。むしろ、製品そのものではなく、その事業の核となる価値観をすべてのステークホルダーと一体になり醸成し、さらにその外部へも動的に伝えていけるかが求められているのではないだろうか。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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