国内企業ユーザーにおけるクラウド利用状況
近年、社会経済活動におけるICTの導入・活用が一国のマクロ経済パフォーマンスに与える影響や、企業レベルでのICTの導入・活用が当該企業のパフォーマンスにいかなる効果を及ぼすのかに関する研究が急速に進展している。
それらの研究の多くは、一国の社会経済活動や、企業活動におけるICTの導入・活用は、企業の業務システム改革や組織構改革等の企業内部組織の変革と併せ、マクロ経済や企業パフォーマンスにプラスの効果を発揮することを示している。
代表的なICTサービスである「クラウド」もその例に漏れず、多様な経路・メカニズムでマクロレベル、ミクロレベルでの経済パフォーマンスにプラスの効果を与えており、ICTと経済社会との関係を考察する際、最も重要と位置付けられるICTサービスの一つと言え、その利用実態や今後のニーズを把握することは重要であるものと思われる。
そこで、本稿では、国内クラウド市場の市況感をレビューしつつ、国内エンドBユーザー企業におけるクラウド利用の実態や、クラウド利用に対する今後のニーズに関し、筆者等が実施したアンケート調査データをもとに概観したい。
国内クラウド市場の市場規模
本稿の主題であるエンドBユーザー企業のクラウド利用状況をみる前に、まずは国内クラウド市場の市況感を概観しておきたい。
富士キメラ総研『2017クラウドコンピューティングの現状と将来展望』(以下、「同報告書」)によると、国内のクラウド市場は2016年度の2.3兆円(メインフレーム系システムやサイロ型システム等も含んだSI関連市場全体の市場規模に占める割合は21.4%)から、2020年度には3.7兆円(同30.6%)に拡大すると推計されている。
(同報告書で推計されている)類型別のクラウド市場規模の推移(2016年度→2020年度)をみてみると、「プライベートクラウド」が0.98兆円→1.3兆円(+0.32兆円、伸び率:32.7%)であるのに対し、AWS(Amazon)、Azure(Microsoft)、GCP(Google)等の「パブリッククラウド」が、0.93兆円→1.9兆円(+0.97兆円、伸び率:104.3%)と、市場規模の水準、伸び率ともに「パブリッククラウド」が「プライベートクラウド」を凌駕すると予測されている。
また、「プライベートクラウド」と「パブリッククラウド」との連携を実現する「ハイブリッドクラウド」については、0.05兆円→0.11兆円(+0.06兆円、伸び率:120.0%)と、クラウド市場全体に占める割合はまだまだ小さいものの、その伸び率は120%と高いことが特徴的である。
同報告書の推計結果を踏まえれば、今後の国内クラウド市場は、(1)「パブリッククラウド」が拡大しつつ、それと並行して、(2)(「パブリッククラウド」と、「プライベートクラウド」や「オンプレミスシステム」との連携等の)「ハイブリッドクラウド」市場が拡大するという発展経路を辿るのではないだろうか。
国内企業ユーザーのクラウド利用実態・ニーズ
ここからは、当社が実施した国内企業ユーザーのクラウド利用状況に関するアンケート調査結果から、同ユーザーのクラウド利用実態を概観したい。
なお本アンケート調査は2018年2月23日~同28日にかけてWebアンケート調査方式で実施したもので、有効回答数は2,000サンプルである。
まずはじめに、クラウド(SaaS、IaaS/PaaS)の利用率を企業の年商規模別に集計したものが次の図1である。
図1からは、(1)SaaS(Office365、G Suite等)、IaaS/PaaS(AWS、Azure、GCP等)ともに、企業規模が大きくなる程、利用率が高まること、(2)年商50億円以上の企業においては、SaaSの利用率が概ね7~8割程度と利用の裾野が広いこと、(3)IaaS/PaaSの利用は年商100億円以上の大企業層が中心となっていることが分かる。このように、現時点においては、年商100億円未満の、いわゆる、中堅・中小企業ユーザー(以下、「SMBユーザ」)においては、SaaSがクラウド利用の主流となっている。
なお、今後のIaaS/PaaS利用意向では、SMBユーザー層の利用意向が大企業層に比べて高くなっており、SMBユーザー企業層におけるIaaS/PaaSビジネスに対する高い潜在性も窺える。
それでは、企業ユーザーは、実際にどのような用途・領域でクラウド(IaaS/PaaS)を利用しているのであろうか。それをみたものが図2である。
図2からは、(1)現時点においては、サーバー、ストレージ、アプリケーション開発/実行、データベース/データウェアハウス等がIaaS/PaaSの中心的な活用領域となっていること、および(2)「分析/機械学習」、「ビッグデータ解析/IoT」、「人工知能(AI)」領域での活用は、現状ではそれほど高くないものの、今後の(新規の)利用ニーズは企業規模にかかわらず高いことがみてとれる。
「分析/機械学習」、「ビッグデータ解析/IoT」、「AI」といったデータマネジメント用途・領域でのIaaS/PaaSは、Amazon、Microsoft、Google等海外の主要プレイヤーも注力度を高めており、今後は、同用途・領域で、ユーザーニーズをいかに取り込んだサービスを訴求できるかがIaaS/PaaS市場における競争力の源泉となりそうだ。
クラウド導入時の課題・障壁
ここまで、国内クラウド市場の規模と、企業ユーザーのクラウド利用実態を概観したが、ここからはクラウド未利用ユーザー層に焦点を当て、どのような要因がクラウド利用の障壁となっているのかを概観したい。今後のクラウド市場・ビジネスのさらなる拡大に向けては、クラウド未利用ユーザー層がどのような障壁・課題を抱えているのかを把握し、当該諸課題・障壁に適切に対処していくことが必要不可欠である。
図3は、クラウド(IaaS/PaaS)導入時の課題・障壁を整理したものだが、それによると(1)「既存業務システム(オンプレミス)との連携性の確保」や「ネットワークの再設計の必要性」といったシステム構築面での課題・障壁や、(2)「セキュリティ性・信頼性の確保」、「運用・管理費用の高さ」といったセキュリティ・料金面での障壁に加え、(3)「導入時の手配の複雑さ」、「導入・利用クラウドの選定時の専門知識・スキル不足」、「運用・管理・保守の体制・スキル不足」といった、クラウド導入「前」(before)と「後」(after)における知識・スキル不足が、障壁となっていることが分かる。
この結果を踏まえれば、とりわけSMBユーザー企業層に対しては、単にクラウドというサービスを単体で提供するのみならず、クラウドの導入前のコンサル/支援や、導入後の保守・運用等のサービスとの一体的なサービス提供(=クラウド・インテグレーション)がますます重要になっていくものと考えられる(先述した、富士キメラ総研『2017クラウドコンピューティングの現状と将来展望』では、クラウド・インテグレーションサービスの市場規模は、2015年度の4,511億円から、2020年度には8,023億円に拡大すると推計されている。また、国内の主要SIベンダー等も、従来型のSIビジネスの強みを活かしつつ、クラウド・インテグレーション領域へ注力している)。
今後のクラウド関連ビジネスの拡大に向けて
ここまで、国内クラウド市場の市況感と、国内エンドBユーザー企業のクラウド利用実態・ニーズについて概観してきた。
そこでのポイントとしては、(1)今後のクラウド市場は「パブリッククラウド」を中心に拡大していく見込みであること、(2)IoT/ビッグデータ/AI時代の到来を踏まえ、「分析/機械学習」、「ビッグデータ解析/IoT」、「AI」といったデータマネジメント用途・領域でのIaaS/PaaSの利用・活用が潮流となるものと推察されることである。また、クラウドの導入前のコンサル/支援や、導入後の保守・運用等のサービスとの一体的なサービス提供も、クラウド利用ユーザーの裾野拡大に向けては重要な戦略変数となるだろう。
そのようなトレンドを踏まえると、今後は、市場競争力を有するクラウド事業者との連携(コラボレーション)や、クラウド導入「前」、「後」の市場・ニーズをいかに機動的かつ効果的に取り込めるかが、クラウド提供事業者にとっての重要な試金石となりそうだ。
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