2019年9月13日掲載 InfoCom T&S World Trend Report

世界の街角から:コートダジュールの色彩

先日、ETSIの会議出席のためフランスへ。ETSIとは、欧州の電気通信の標準化を行う組織。場所はソフィア・アンティポリス(Sophia Antipolis)というニースとカンヌの中間、アンティーブから山の中に入ったところにある。

ここは欧州の中心的なテクノポリスで、2,300ヘクタールに及ぶ森の中に世界中から1,300をこえる企業が集まっている。米国のシリコンバレーが世界的に有名だが、出来たのはこちらの方が早く、欧州の人達はこちらが世界初で本家だと言う人も多い。

ETSI会議模様

【写真1】ETSI会議模様:センターの黒いジャケットが筆者
(出典:ETSI。その他文中掲載の写真はすべて筆者撮影)

月曜朝一からの会議に備え、今回は日曜午後にニース入り。欧州の7月は昼が長く、南仏でも夜9時過ぎまで明るく日差しがまぶしいとても素敵な季節。貴重な時間を満喫しないと⁉と向かったのは街の山手、シミエの丘にある2つの美術館。

実はニースは何度も来たことがあり、その度に訪れているのがここ。シミエの丘はローマの遺跡跡でもあり、円形闘技場跡が残り考古学博物館などもある。この地域は地図を見ていただくとよくわかるがイタリアの国境に近く、長年イタリア領であったことから、文化的にもその影響が強く残っている。言語や食文化もイタリアに近い。オリーブオイルも特産品で、料理にも多く使われており、街のレストランはフレンチレストランとなっていても、カジュアルなお店だとパスタがメニューにたくさん並ぶといった感じ。

丘の上までは15番のバスで。中心部から歩けない距離ではないが、上りはかなりきついのでご注意を。

マチス美術館 (MUSÉE MATISSE)

オリーブの木に囲まれた赤い邸宅を美術館にしたもの。イタリア、トスカーナ地方にあるシエナの土の色と言われている赤い壁に、黄色い窓枠、オリーブの木の深い緑とのコントラストが美しい建物。

マチス美術館

【写真2】マチス美術館

規模は大きくないが、吹き抜けの美しい建物の1階には壁面画、2階にはジャネットⅠ~Ⅴという女性の顔を表現した5つのブロンズ像が並ぶ。写実的なものからかなりデフォルメされた顔まで、それぞれ個性的で語りかけるよう。

マチスの壁画

【写真3】マチスの壁画

ジャネットⅠ~Ⅴ

【写真4】ジャネットⅠ~Ⅴ

  シャガール美術館(MUSÉE NATIONAL MARC CHAGALL)

個人的にとても好きな美術館の一つ。ここはフランスでは唯一、存命中の芸術家のために国が建てた美術館であり、シャガール本人も設計や所蔵品の選定等に深くかかわった。自然光をうまく取り入れることで作品を飾る壁が美しく映えるよう設計され、池の上に面する外壁に施されたモザイクは室内からも見ることができる。外の庭の風景まで含め、いかにして彼の作品の世界観を表現するのに相応しい建物とするかを議論し建てられたものとのこと。ちょうどラベンダーの季節で、紫の花と香りに包まれた美術館はアプローチから美しい。

シャガール美術館

【写真5】シャガール美術館

外壁のモザイク

【写真6】外壁のモザイク

美術館にはめずらしいオーディトリアムも本人の希望で作られ、シャガールブルーと称される美しい青が際立つステンドグラスと、チェンバロの大屋根にもシャガールの絵。定期的に演奏会が催され、それを目当てに美術館を訪れる人も多い。私もここでコンサートを聴いたことがあるが、青い光に包まれて演奏を楽しめる本当にすばらしい空間となっている。 

音楽堂のステンドグラスとチェンバロ

【写真7】音楽堂のステンドグラスとチェンバロ

シャガールはロシアで生まれ、パリで学び、第2次世界大戦時にはナチスの迫害から逃れ、米国に亡命、その後フランス国籍を取得し、晩年をこの南フランスで過ごしている。

彼の絵にはユダヤ人である自身のバックグラウンドと聖書のメッセージが表されているものが多いが、それだけではなく、愛を表現した温かみのある人物や動物の姿と美しい色に惹かれる人は多いのではないだろうか。

 私が初めてシャガールの絵に魅せられたのは、パリオペラ座の天井画「夢の花束」であった。

14人の音楽家のオペラ作品をモチーフにしたもので、5色の華やかな絵はとても印象的で首が痛くなるほど見上げたものだった。正直、シャガールが熱狂的に好きで、各地を見て回っているという訳ではない。ただ不思議なことに、時々に、世界中で彼の絵に出会うことがあり、そのタイミングで自身に合ったメッセージを感じることができる作品であったりする。直近ではロンドン郊外の教会のステンドグラスとそこに込められたメッセージに心揺さぶられた。ここは本当に小さな村にポツンと立つ小さな教会。メジャーになっていないため、ロンドン在住中何度か訪れたが、一度も他の人に会うことがなかったような場所である。ずっとひっそりとそのままであって欲しい場所なので、誰にも教えたくない気もするが、機会があればまたご紹介したい。

この美術館には常設展となっている部分と、企画展を行う部屋がある。こちらは常設で展示されている「楽園を追放されるアダムとエヴァ」。

有名なアダムとエヴァ(イヴという表記もあり)が禁断の果実を食べて楽園を追放されるというお話である。エヴァの手には禁断の果実があり、今まさに2人で食べようとしている。最初の人類である2人はエデンの園で何不自由なく暮らしていたが、この実だけは食べてはいけないと言われた善悪の知識を知る木の実をヘビにそそのかされて食べてしまう。そのことで楽園を追われ、人間は死という定めを負い、厳しい環境の世界で生きていかなくてはならなくなったという物語。この絵の2人はまだそんな事態を想像もせず、ちょっとした好奇心で、悪いことをする秘密を分かち合うのを楽しんでいるようにすら見える。

楽園を追放されるアダムとエヴァ

【写真8】楽園を追放されるアダムとエヴァ

こちらは「アブラハムと三天使」
左に立つアブラハムと妻のサラが既に年老いているにもかかわらず、子供を授かると天使達から告げられて驚いているシーン。ただこの絵の天使達は座り込み、囲んでいるテーブルには飲み物のボトルやグラスがある。今であれば女子会のおしゃべりを楽しんでいるかのようにも見えるのは私だけだろうか。

アブラハムと三天使

【写真9】アブラハムと三天使

今回、イヤホンガイドを借りてみた。一つ一つの作品の背景やそこに描かれている細かな部分についても理解することができた。特にシャガールは一枚の絵に複数の物語を書き込んでいることが多いので、今まで見落としていたストーリーが理解できた。もちろん、柔らかな光が差し込む落ち着いた空間で、ソファーに座りただ眺めているだけも素敵だが、一度解説を聞くとより理解が深まり新たな発見もあるのでお勧め。 

ニースサラダ

【写真10】ニースサラダ

美術館の庭には小さなカフェもあり、軽食やお茶を楽しむことができる。到着してから何も食べていないことに気づき、やはりここはニースサラダ(La salade niçoise)を。日本でニース風サラダというと、茹でたジャガイモやインゲンが入っていることが多いが、本場では生野菜のみ。本来家庭料理なので特に野菜の種類に定義はないとのことだが、トマトやレタス、きゅうり、玉ねぎ、パプリカ等が入っており、その上にオリーブとツナ、アンチョビ、茹で卵のスライスが入っている。味付けはオリーブオイルとバルサミコ、塩、コショウをお好みで。日本人なら一皿でお腹いっぱいになるボリューム。冷えた白ワインと一緒に!




シミエの丘からのんびり歩いて、海岸まで約30分。
コートダジュールの海は澄んだ青が美しく、きっと誰もが魅了される。

ニース海

【写真11】ニース海

 海辺の遊歩道、プロムナード・デ・ザングレはのんびり海を眺める人、犬の散歩をする人、ジョギングにサイクリングと思い思いの時間を過ごす人で溢れている。私もその中に紛れて散歩を楽しんだ。

色彩溢れる美しいコートダジュールは海辺もいいが、山の中に美しい小さな村が点在する。

次回はゆっくり旅行で訪れたいと思いつつ……

ニース海 夕景

【写真12】ニース海 夕景

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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