IoTはIntelligence of Thingsへ ~CES2020レポート
年始恒例のイベント、ラスべガスで毎年催されるCES。2020年は1月6日から9日までの期間で開催された(写真1)。CESを主催するCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)のリリースによると、期間中4,400以上の企業が20,000以上の新商品を発表し、来場者は17万人以上に上った。CESの歴史は古く、最初の開催は1967年にニューヨークで行われた。長く「家電見本市」として知られてきたが、既にこのショーの主役は家電ではない。今やCESは通信やエンターテインメント、交通や環境などの様々な社会問題を範疇にするテクノロジーの展示会である。現在CTAは、CESが公式なイベント名であり、「Consumer Electronics Show(家電見本市)」という名前を使わないようにという注意を発している。CTAは今回出展した4,400を超える企業は、「すべてテクノロジー企業である」とも表現している。
2020年における10の注目テクノロジー
CTAは、前夜祭的イベント「Tech Trends to Watch」の中で今年のCESから見えてくる、2020年における10のテクノロジートレンドを挙げた。まずはこのトレンドを実際の会場の模様と合わせて簡単に紹介したい。
1. IoT
「IoT」は、様々な機器が接続されビッグデータの入り口となりうる「Internet of Things」として、これまでも大きな注目を集めてきたが、これからは「Intelligence of Things」と考えるべきだとCTAは指摘した。実際に会場内の展示でも、製品にAIを活用していることは強みにならず、アピールさえもされていない。今後は、ビッグデータを収集するモノではなく、データを活かしたインテリジェンスを搭載したモノが主流になることが会場全体から感じられた。
2. 5G
既に韓国と米国で5Gの商用サービスが始まっている。韓国のSamsungやLG、SKグループが、実績のPRも兼ねて、スマートフォン(スマホ)を含む対応デバイスやエッジコンピューティングなどの未来像を来場者に示した。一方、米国では実績に対して、市場の盛り上がりへの期待感が未だ大きい。CTAは米国の出荷台数で、5Gハンドセットが4Gを追い抜く時期は2022年だと予測した。
3. コンテンツ/ストリーミング動画の競争激化
NetflixやYouTubeなどのインターネット動画は、デバイス(スマホやテレビ)やサービスの開発に今後ますます影響を及ぼす。CESの会期中にも、新たな動画サービス「Quibi」の参入が発表され話題となった(写真2)。CTAはこの市場の激しい競争の様相を映画「スター・ウォーズ」になぞらえて「ストリーミング・ウォーズ」だと表現した。
4. AR/VR/XR
XRを体験するハードウェアは、よりメガネ型に近づいた。また利用シーンもゲームなどの個人的なものから、工場内での作業指示など産業用途の可能性が多く示された。
5. ゲーム(クラウドベース、eSports)
技術の進歩により、ゲームの世界がより現実に近づく。eSports市場と、クラウドベースのゲームが拡大することが予想された。
6. 新たな移動手段(自動運転、EV車、マルチモーダル)
日本のトヨタやホンダ、日産などの世界の主要メーカーがコネクテッドカーや自動運転車を紹介。ソニーが、自社の有するイメージセンサーの技術を搭載したコンセプトカー「Vision-S」(写真3)を発表したことも注目を集めた。
7. 空飛ぶクルマ
コンセプトイメージで「空飛ぶクルマ(eVTOL:電動垂直離着陸機)」がいくつか展示された。実際に飛ぶわけではないが、巨大なドローン型のタクシーに試乗でき、端末からのフライトの予約デモなども展示され未来を感じさせた(写真4)。
8. デジタルヘルス(スリープテック、ベイビーテックなど)
就寝中の心拍数や呼吸数などをモニタリングし、ベッドの角度や温度を調整することで快眠を支援するベッド、赤ちゃんの機嫌やおむつの状態を測定するセンサーなど、ヘルスケア関連は非常に多く展示され高い注目を集めた。またAT&Tは、ダラスでの5Gによる患者の精細画像伝送の実証模様を展示し、遠隔医療の可能性を示した(写真5)。
9. レジリエントテクノロジー(公共安全、再生可能エネルギーなど)
サイバーセキュリティ対策をはじめ、例えば積雪時に道路の状況から、通るべきルートをリアルタイムでドライバーに伝える新たな公共交通情報のあり方などが提案された。空気から水をつくる技術など、環境に配慮したテクノロジーも目立った。
10. ロボット
人より正確で迅速に組み立てを行ったり、移動が困難な場所へ入ったりなど、人間の活動を支援する様々な種類のロボットが展示された。また、重いものを持ち上げるなど、人間の能力を補完するパワードスーツのデモも印象深いものであった(写真6)。
未来を創造する技術
これだけ世の中が便利になり、先進的な機器やサービスに囲まれて暮らしているのに、CESに来るとさらに新しいサービスにたくさん出会うことに驚かされる。その中でも特に目を引いたいくつかの展示内容を紹介したい。
脳波を読み取る技術については本誌9月号で「ブレインテックの動向」として紹介しているが、CESでフランスのNextMind社が見せたデモ(写真7)はキーボードやマウスもなく、手を動かすことさえ不要な新たなコンピューターの出現を予感させた。ユーザーが手のひらサイズの装置を後頭部にセットし画面を見て、見えるものの形や色をイメージすると、思ったことが「入力」されていく。例えば、数字のテンキーが画面に表示されている場合、入力したいキーに注目しているとキーが反応して数字が入力される。筆者が試してみたところ、ひとつの文字を入力するのに20秒くらい要した。実用化にはもう少し時間がかかりそうだが、思うだけでタイプができたり、ゲームのキャラクターを操作できたりする時代が来ることを充分想像できた。同社の説明員によると、利用者の脳波は随時解析されていくので、利用すればするほど早く入力できるようになるのだという。CESでは、このデバイスに対するアプリケーションの開発キットを399ドルで提供するという発表が行われた。この展示は今年のCESのイノベーションアワードを獲得している。
デルタ航空が発表した「パラレル・リアリティ・ディスプレイ」(真8)もSF的だ。ひとつのディスプレイであるのに、それを見る人個々に応じたパーソナライズされた情報が表示される。空港のフライト案内表示板には通常多くの出発便情報が並んでいるが、欲しい情報はその中の1行だけであることがほとんどだ。デルタの説明によると、それぞれの乗客に対してのみ必要な搭乗ゲートや位置、アップグレードの可否などを、異なる言語で表示することが可能だという。もちろん個人を特定するためオプトインが必要だというが、案内表示やマーケティング、エンターテインメントなど応用できるケースはたくさんありそうだ。ちなみにこの技術は、米国のスタートアップMisappliedSciences社が有している。
トヨタが発表したスマートシティ構想
「Woven City」
日本企業も、NTTグループが米国向けに紹介したIOWN構想(写真9)や、ソニーが発表した前述の自動運転車Vision-Sなど多くの注目を集めていた。既存の事業者はいずれも、テクノロジーを軸とした変革が求められ、そのイメージをCESの中で提案した。
そのような中、トヨタ自動車の豊田章男社長が自ら語った静岡県裾野市におけるスマートシティ構想「Woven City(ウーブン・シティ)」(写真10)もまた、新たなモビリティの発表を期待した聴衆に衝撃を与えた。
豊田社長がコネクテッド・シティと位置づけたこの街は、2020年末の閉鎖が発表されていたトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地を利用する。この跡地を更地として、トヨタの自動運転EV車「イーパレット」(写真11)を走らせ、様々なロボットやデータを利活用した新たなサービスを試す実証都市として作り上げる計画だ。
これを単なる自動運転車の実験場とみる向きもあるが、豊田社長はトヨタ自身の大転換を示唆したと言える。講演の中でも、同社長はトヨタ自動車の起源が自動織機であり、クルマの会社ではなかったことに触れた。トヨタの創始者である豊田佐吉の考え方をまとめた「豊田綱領」に、「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし。」というものがある。トヨタグループにはトヨタホーム(昨年、パナソニックと住宅事業を統合し街づくり事業での協業を発表していた)もある。クルマの時代に変化が訪れてもトヨタ自動車はWoven Cityで時代の先を行くことをアピールしたのだ。言わずもがな、wovenはweave(織る)の過去分詞形でトヨタの源流である自動織機を想起させる命名である。
スマートシティの取り組みを、既存の街に手を加える「ブラウンフィールド」と、新たに街づくりをする「グリーンフィールド」に分類する考え方がある。ブラウンフィールドの場合、既存事業者の意向を少なからず汲み取るため思い切ったイノベーションに踏み込めないケースもある。Woven Cityと同じグリーンフィールドの事例としては、Googleの親会社Alphabetが手掛けるトロント市の計画「Sidewalk Toronto」が有名であるが、トロントではパーソナルデータの活用に難色を示した市民の反対運動が起こった。だが、パーソナルデータなしでは、住民に根ざした社会課題の解決をICTで実現することは難しい。Woven Cityはトヨタが、自らの土地で、(恐らく当初は)関連社員のオプトインを得てパーソナルデータを活用し、自らの自動運転車を走らせる。Woven CityはSidewalk Torontoと多分に似ている印象を受けたが、丸ごと実証都市というトヨタのアプローチはスマートシティの理想像を具現化させうる可能性が高い。Woven Cityは2021年に着工予定だという。
人間中心のAIとしてのIntelligence of Things
2020年のCESでは、「人間中心のAI(Human Centric AI)」ということが盛んに語られた。豊田章男社長もAIが人を超越し人間の競争相手となるいわゆる「悪のAI論」を念頭に、トヨタの取り組みは人を補完する「知能増幅(Intelligence Amplified)」だと強調した(写真12)。
NextMindも、スリープテックも、パワードスーツも、AIを活用することで人間の弱みを補うことに重点が置かれたプロダクトだ。そう考えると、AIを採用することでプロダクトの差別化ができる時代は終わりを告げそうだ。インテリジェンスがあらゆるものに搭載される、そんな未来を確信する今年のCESであった。
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