中国におけるライブストリーミングの動向 ~Eコマース・ライブストリーミングについて
中国におけるライブストリーミングサービスの進展概況
中国のインターネット利用者数は2020年3月時点で9.04億人となり、2016年12月時点より1.7億人増加した(図1)。インターネット利用者の増加とともに、ライブストリーミングサービスの利用者数も増加傾向にあり、2020年3月時点の利用者数は5.6億人となり、インターネット利用者数の62%を占めている(図1)。
従来のライブストリーミングはゲーム実況やスポーツ、リアリティーショー、音楽などの配信に利用されることが多かったが、ここ数年、アリババなどのEコマースプラットフォームでの利用が新たなトレンドになっている。2020年3月時点でのジャンル別ライブストリーミングの利用者数を見ると、Eコマース・ライブストリーミングの利用者数は2.65億人と最も多く、ライブストリーミング利用者数全体の47.3%を占めており、ゲーム実況の利用者数を上回っている(図2)。
本稿では、中国で進展著しいEコマース・ライブストリーミングについて、その概況と経済効果を考察したうえ、今後の展望を論じる。
Eコマース・ライブストリーミングとは
Eコマース・ライブストリーミングとは、ライブ配信者(インフルエンサーやリテーラーなど)がインターネット・プラットフォームのライブ配信機能を利用し、リアルタイムに商品の紹介・試用などの動画を配信し、視聴者の購買を促すことを目的とするライブストリーミングだ。ライブ配信中に、視聴者からの商品についての質問に対し、配信者はリアルタイムに回答することが可能であり、視聴者は配信中の画面をクリックすることで商品を購入することができる(図3)。また、Eコマース・ライブストリーミングサービスを展開しているプラットフォーマーには主に2種類があり、一つはアリババグループの「Taobao(淘宝)」や「JD.com(京東)」などのEコマース・プラットフォーマー、もう一つは「TikTok(抖音)」や「Kuaishou(快手)」といった動画配信プラットフォーマーだ(図4)。消費者協会が実施したアンケート調査によれば、従来のEコマースに比べ、ライブ配信により、商品のイメージがより直観的・リアルになり、さらに、ソーシャルな相互のやりとりができる点が評価されている。
Eコマース・ライブストリーミングの経済効果
中国のEコマースの利用者は2020年3月時点で7.1億人までに増え、インターネット利用者の78.6%を占めている[1]。国家統計局が5月に公表した2020年1~4月の小売関連の主要データを見ると、新型コロナウイルスの影響により、小売売上高が前年同期比で16.2%減(物価変動は考慮されていない)となっているが、オンライン商品小売売上高は同期比8.6%増の2兆5,751億元(約39兆円)になっており、小売売上高全体の24.1%を占めている[2]。経済活動がまだ完全に回復していない中、オンライン消費が個人消費を支えており、ライブストリーミングを活用することで販売拡大を実現した企業も少なくない。例えば、中国伝統菓子メーカーの「稲香村」は今年の春節期間中に、インフルエンサーを起用し、「Taobao」や「TikTok」などのプラットフォームでライブ販売を行うことによって、冷凍食品のオンライン売上高が例年同期に比べ、30%増加し、1回のライブ配信で12万件の注文を獲得したという[3]。
プラットフォーマー側でもリテーラーへの支援策を実施している。例えば、「Taobao」は今年の2月上旬から、出店するショップのライブ配信サービス利用料金を免除すると発表した。料金免除を実施した結果、2月のライブ配信新規利用ショップは1月に比べ、7倍も増えた[4]。
Eコマース・ライブストリーミングの成長は雇用創出にもつながっている。ライブストリーミングは既にサプライチェーンが形成され、インフルエンサーエージェンシーや養成学校、マーケティングなどの周辺産業における雇用の拡大が期待できる。人材紹介大手の「智聯招聘」のレポートによれば、2020年2月の企業全体の求人ポジション数と求人人数がそれぞれ前年同期に比べ、31%と28%減少したのに対して、ライブストリーミング関連の求人ポジション数と求人人数がそれぞれ83%と132%伸びた。特に、Eコマース・ライブストリーミング関連の求人ポジション数はライブストリーミングポジション全体の3割と、最も高い比率を占めている。
今後のEコマース・ライブストリーミング市場
ネットワークインフラの整備やスマートフォンの進化、オンライン・ペイメントのさらなる普及など、技術面の要因により、中国のEコマース・ライブストリーミング市場規模は、2019年の4,338億元から2020年に9,610億元までに成長する見込みである[5]。
一方、利用者から、ライブ配信で紹介された商品が実際の購入リンク先の商品と一致していない、ライブ配信者による誇大表現がある、アフターサービスが保障されていない、インフルエンサーと運営者、リテーラーの責任の所在が不明確など、不満の声もある。市場の拡大とともに、関連する法規制の整備が必要になるであろう。
[1] 中国インターネット情報センター(2020.4)『第45次中国インターネット発展状況統計報告』https://cnnic.cn/hlwfzyj/hlwxzbg/hlwtjbg/202004/P020200428399188064169.pdf
[2] 中国国家統計局(2020.5)“The Performance of National Economy Continued to Improve with Major Indicators Manifesting Positive Changes in April”
https://www.stats.gov.cn/english/PressRelease/202005/t20200515_1745635.html
[3] 消費日報網(2020.3)「市場規模が9,000億元を突破できそう、ライブ配信エコノミーはどれぐらい人気なのか?」https://www.xfrb.com.cn/article/depth/10061443713031.html
[4] Alibaba Group Press release (2020.3) “Taobao Live Accelerating Digitization of China’s Retail Sector” https://www.alibabagroup.com/en/news/article?news=p200330
[5] iiMedia.cn (2020.4)『2020中国のライブEコマースが参入する産業及びベンチマークのブランド運営ケースに関するビッグデータモニタリング報告』https://www.iimedia.cn/c400/71136.html
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