2020年8月14日掲載 ICT経済 InfoCom T&S World Trend Report

新型コロナで拡大するネット消費



新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以下、「コロナ」)の拡大によって、社会経済活動に大きな変化が起きている。3密(密閉、密集、密接)を避けた行動が推奨され、オンライン授業やテレワーク、オンライン飲み会など多くの場面でオンライン化が進んだ。消費行動でもネット活用が進んだと予想され、本稿ではeコマースを中心とした「ネット消費」に注目してコロナの拡大でどのような変化があったのかをみていきたい。

国内のネット消費動向

はじめに、総務省「家計消費状況調査」の結果[1]から日本におけるネット消費の動向を長期的に観察する。二人以上世帯における2010年1月~2020年5月までのデータをみると、2010年当時はネット消費を行う世帯は全体の約2割、1世帯当たりのネット消費額の平均[2]は月に4,000円程度だったものが、2020年になるとネット消費を行う世帯は全体の4割強、1世帯当たりのネット消費額の平均は月に12,000円を超えるまでに拡大している。そして、2020年5月にはネット消費を行う世帯の割合が調査開始以来、初めて50%を超えた。

【図1】ネット消費の動向

【図1】ネット消費の動向
(出典:総務省「家計消費状況調査」をもとに作成)

【図2】消費の動向(対前年同月比)

【図2】消費の動向(対前年同月比)
(出典:総務省「家計調査」、「家計消費状況調査」をもとに作成)

 

直近の消費額をみると、1世帯当たりのネット消費額は前年同月と比べて3月は4.6%減少したものの4月は5.9%増、5月は16.5%増と増加幅が拡大している。3月はまだ通常に近い状態で営業している店舗が多く、2019年10月に行われた消費税率引き上げの影響が表れた結果だと考えられる。4月になると、7日には7都府県に緊急事態宣言が出され、16日には緊急事態宣言が全国に拡大されたことを受けて、不要不急の外出を避けて家の中で行えるネット消費が拡大したことが分かる。また、二人以上世帯における消費支出全体(ネット消費を含む)は対前年同月比で4月11%減、5月16.2%減と大幅な減少となっており、消費全体が減少する中でネット消費が増加するという消費行動のネットシフトがはっきりと表れる結果となった。

【表1】ネット消費で増加・減少した品目

【表1】ネット消費で増加・減少した品目
(出典:総務省「家計消費状況調査」をもとに作成)

 

コロナによってネット消費額の増加という変化がみられる中、売れる商品にも変化があったと想像される。そこで、4月、5月に増加・減少した品目をみると、4月には医療品(医薬部外品を含む)が最も増加し、店頭で品切れが続出したマスクや消毒液をネットで手に入れようとした人が多かったことが分かる。また、出前や食料品も大きく増加しており、スーパーやコンビニでの不特定多数との接触を避けたいという人からのニーズが拡大したことが分かる。5月になってもこの傾向は変わらず、出前や家電、家具は4月よりもさらに大きく増加している。

一方、外出自粛に伴って旅費・宿泊費やチケットは4月、5月ともに8割以上減少した。国内需要だけではなく、海外からのインバウンド需要が激減したことも重なり、観光産業はコロナで最も大きな打撃を受けた産業の一つとなった。

最後に、コロナがネット消費に与えたインパクトを推計した。消費には季節性があるため、月ごとに直近5年(2015~2019年)における1世帯当たりのネット消費額を用いて2020年の1月から5月に予想される消費額を予測した[3]。この予測値はネット消費が直近5年と同じ傾向で増加した場合の値であり、実際に1月と2月は実績値と予測値が概ね同じ規模となっている。ところが4月は3,822円、5月は5,270円も実績値が予測値を上回っており、コロナによるネット消費増加の影響が表れた結果だと言える。これは、二人以上世帯における平均的なネット消費額であるため、日本全体のインパクトを推計するため、二人以上世帯数(3,686.6万世帯[4])を乗じると4月と5月の2カ月で合計3,352億円となった。これは二人以上世帯における2020年2月のネット消費額に匹敵する規模であり、コロナは5月までにネット消費額を約1カ月分増加させるほどのインパクトをもたらしたことになる。

【図3】コロナによるネット消費の拡大(1世帯当たりのネット消費額)

【図3】コロナによるネット消費の拡大(1世帯当たりのネット消費額)
(出典:総務省「家計消費状況調査」をもとに推計)

海外の動向(米国)

海外では、多くの国で日本よりも強固なロックダウン(都市封鎖)の措置がとられた。世界で最も多くの感染者数を出した米国では、3月中旬から4月上旬にかけて各州でロックダウンに入り、経済活動が大幅に制限されたことにより4月の個人消費支出(季節調整済み)は前月比12.6%減と、過去最大の落ち込みを記録した。その後、5月20日にはすべての州でロックダウンが緩和され、部分的に経済活動が再開されている。

そのような米国におけるネット消費の動向を「Adobe Digital Economy Index」をもとにみてみる。「Adobe Digital Economy Index」は米国の小売業者上位100社のうち80社のオンライン決済データを分析したものであり、4月、5月の2カ月間におけるネット消費は、ホリデーシーズン(クリスマス前の約1カ月)と同等かそれ以上の規模となっている。この結果から、コロナによる外出制限がネット消費に520億ドル増加というインパクトをもたらしたと推計されており、Adobeは「COVID-19がeコマースの成長を4~6年加速させた」[5]と述べている。

【図4】コロナによるネット消費の拡大(米国)

【図4】コロナによるネット消費の拡大(米国)
(出典:Adobe Digital Economy Index(Adobe Analytics | May 2020))

また、特に影響を受けた品目として、アパレル、エレクトロニクス、食料品を挙げており[6]、パジャマが143%増、エレクトロニクス関連が58%増、食料品が110%増などとなっている。さらに、購入した商品の受け取り方法にも変化がみられ、「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」と呼ばれるECサイトで購入した商品をリアル店舗で受け取るスタイルが大きく増加し、4月は前年比208%増、5月は同195%増となっている。これは生活必需品など比較的すぐにほしい商品を最も確実かつ他人との接触を最小限にして入手できることがメリットとなり拡大したと考えられる。

海外の動向(中国)

中国では、1月下旬からコロナ感染者数が増加したものの、武漢市や湖北省の「封鎖」をはじめとする強い措置によって全国的な感染拡大を防ぎ、3月には新規感染者数が二桁以下になる日がほとんどとなった。また、日本で緊急事態宣言が出された4月になると観光地が大混雑したり、リベンジ消費と呼ばれる現象がみられたりするようになった。

そのような中国における消費の動向を中国国家統計局「Total Retail Sales of Consumer Goods」および「Online Retail Sales」のデータをもとにみると、1-2月期は前年に比べて消費全体(消費財の小売売上高)が約2割も減少したものの、ネット消費(商品のネット売上高)は前年よりも増加していたことが分かる。また、品目別には食品が力強い伸び(1-5月期は前年同期比37%増)を示しており、日用品も増加(1-5月期は同14.9%増)しているものの、衣類ではこれまでにない落ち込み(1-5月期は同6.8%減)がみられた。この結果からコロナによって消費全体が落ち込む中、日々の生活に必要な食品や日用品の一部にネット消費が集中していたことが分かる。

【図5】消費の動向(中国、対前年同期比)

【図5】消費の動向(中国、対前年同期比)7
(出典:中国国家統計局「Total Retail Sales of Consumer Goods」、「Online Retail Sales」をもとに作成)

海外の動向(韓国)

韓国では、2月下旬からコロナ感染者数が増加したものの、早期の段階で「ドライブスルー検査」や「ウオークスルー検査」を積極的に行い、4月30日には、国内で発生した新規感染者数が2月中旬以来、初めてゼロとなった。5月以降も感染者数は少数に抑えられており、厳しい外出制限をすることなく感染拡大を抑えることに成功した数少ない国となった。

【表2】ネット消費で増加・減少した品目(韓国、5月)

【表2】ネット消費で増加・減少した品目(韓国、5月)
(出典:大韓民国統計庁「Online Shopping in May 2020」をもとに作成)

そのような韓国におけるネット消費の動向を大韓民国統計庁のデータをもとにみると、ネット通販の取引額は、対前年比で2月24.5%増、3月12.1%増、4月13.0%増、5月13.1%増と二桁の増加が続いている。5月に増加・減少した品目をみると日本と同じような傾向がみられ、オフラインと結び付いている部分が多いレジャーや旅行に関連する消費は依然として大幅な減少となっている。

今後の展望

経済産業省「電子商取引に関する市場調査」[8]によると日本のEC化率(すべての商取引金額に対する電子商取引の割合)は米国や中国、韓国に比べて低く、拡大の余地があると言われている。そのような中、今回のコロナの蔓延をきっかけとして、これまで店頭での購入が多かった食品や医薬品などのネット購入が増加しており、コロナ禍におけるeコマースのメリットに気づいた人も多かったとみられる。コロナが完全に収束するには数年かかると言われており、中国や韓国といった比較的早くコロナ感染を抑え込んだといわれる国の状況をみても、消費行動のネットへのシフトは今後も継続するとみられる。

また、単純にネット消費が増加するのではなく、様々な変化が考えられる。例えば、人と対面で会う機会が減少すれば、スーツやネクタイ、化粧品といった需要が減少することが予想され、一方、家の中で過ごす時間が増えることで、デジタルコンテンツやエクササイズ用品等の需要拡大が期待される。既にこのような傾向は表れており、ネット消費でも売れる商品・売れない商品が出てくると予想される。

販売する側の取り組みについても、コロナをきっかけに様々な場面においてデジタルシフトが加速するとみられる。ネット消費の増加とともにオンラインの重要性がより一層高まることは間違いなく、接客やアフターサービスなどこれまでは対面で行われることが多かった行為も徐々にネット上で行われるようになると予想される。例えば、既にアパレル企業を中心に、リアル店舗で行っていた顧客に対するきめ細やかな説明をオンライン上で行う「オンライン接客」の取り組みが進められている。これからは単にネット上に販路を持つだけではなく、AI(人工知能)やVR(バーチャル・リアリティ)などの先端技術を活用しつつ、ネット上でのおもてなしを実現することが顧客の維持・獲得を左右する要素になっていくのではないだろうか。

[1] 2015年1月からネット消費額を品目ごとに把握するように変更された。それまで回答者がネット消費に含めていなかった品目が含まれるようになった影響には注意する必要がある。

[2] ネット消費を行っていない世帯は0円として平均値が算出されている。

[3] ここでは消費財とデジタルコンテンツの合計とし、サービス(「保険」、「旅費・宿泊費」、「チケット」)は除いている。

[4] 厚生労働省「平成30年 国民生活基礎調査」における世帯総数から単独世帯数を引いた2018年値。

[5] 「COVID-19 Accelerated E-Commerce Growth ‘4 To 6 Years’」https://www.forbes.com/sites/johnkoetsier/2020/06/12/covid-19-accelerated-e-commerce-growth-4-to-6-years/#2ddbe529600f

[6] 「April Digital Economy Index: How COVID-19 Continues to Shift E-Commerce Trends」https://theblog.adobe.com/april-digital-economy- index-how-covid-19-continues-to-shift-e-commerce- trends/

[7] 3月は1-3月値、4月は1-4月値というように累積売上高の対前年同期比を示している。

[8] https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/ outlook/ie_outlook.html

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