世界の街角から:ベルギー ~欧州の首都ブリュッセルへの出張とウェビナー
1.はじめに
本誌編集長から、執筆の打診があったので、この記事を執筆している。当初は、スライドでの資料作りが業務のメインとなっている昨今、これを文章化する重要性は理解しつつも、諸々の締切と戦う中で、執筆は難しいと思い、「今回は、執筆見送りをご海容いただければ」と返信しようとして、ふとこの「世界の街角から」を思い出し、ほぼ1年前である2019年11月下旬に参加したセミナーの記事をお引き受けしたのが、経緯である。
当社研究員が例年、参加していた年明けのMWC 2020も新型コロナウイルスによって開催中止となり、おそらく、海外のセミナーやカンファレンスの類いで海外出張をしたのは、現時点で、私が最後かもしれない。
記憶喚起の意味で、この頃何が起こっていたのか、改めて調べてみると、アジア圏のニュースで欧州でも話題となっていたのは、香港でのデモであり、宿泊中のBBCニュースは、このデモと、ドナルド・トランプ米大統領の弾劾調査の公聴会にて、ウクライナ担当の高官ヴィンドマン陸軍中佐が何を証言するのかといった特集が主であったことを思い出した。そういう時期である。
その後、世界をパンデミックが襲い、ようやく、2020年11月6日から米国ハワイ州では、日本からの旅行客に対する72時間の隔離措置の免除の適用が開始されるなど緩和されている[1]が、欧州では、寒さが戻ってきたからか、ドイツ、フランス、ベルギー、オーストリアではロックダウン、ポルトガルでは外出制限となるなど深刻な状況となっている。その経済損失は、ドイツで190億ユーロとされるなど、経済への影響はますます深刻さを増している[2]。
こうした状況からすれば、個人的にもひそかに楽しみにしていたこの「世界の街角から」も、「昔の世界の街角から」に題名を変えてもネタが尽きてしまうのではないかと心配になり、「コロナに負けるな」の思いと「会社の出張費で行ったのだから貢献せよ」との思いから、本稿を書いている(後者のウェイトが大きいかもしれない)。
2.セミナー参加のためのブリュッセル出張
ウェビナーという用語も定着しているが、対面でセミナーに参加する意義はどこにあるのだろうか。まさに、情報の摂取であれば、ウェビナーで十分であろうが、前後の参加者とのコミュニケーションや、その後の懇親会、海外であれば、外国語を使用する(筆者にとっては数少なく、かつ、強制的な)機会というメリットがあろうか。
参加したのは、海外の調査会社が主催する「デジタル経済における競争政策」と題するセミナーである。約1.5日のスケジュールであり、日本から12時間以上のフライトで、2泊4日というまさに弾丸出張で、観光する時間もほぼなかった。
この短さを象徴するエピソードがあった。ベルギーと東京の直行便は、1日1本しかないが、往路と復路のスタッフが同様だったようで、復路で、「往路もいらっしゃいましたよね」とキャビンアテンダントの方に声を掛けられるほどである。
ちなみに、空港の写真がないのは、空港の写真を撮って自慢げにSNSにアップするのは、「エアポート投稿おじさん」と呼ばれ、嫌われるらしい、と頭の片隅を過ったためであるが、成田空港はともかく、ブリュッセル空港くらい写真を撮っておけばよかったと後悔している。
さて、肝心の研修も宿泊も同じホテル内で行われ、朝食、昼食はホテル内のビュッフェがあり、夜もホテル内に食堂があるため、ほぼ移動をせずに終わってしまったが、初日の懇親会を兼ねての外食と、最終日、フライトまでの約半日の時間があったため、そこでようやく観光らしい観光ができた。
3.欧州の首都としてのブリュッセル
欧州の首都ブリュッセルにおいて、EUのデジタル経済、とりわけプラットフォームの政策動向を聞くということは、データ保護やAI政策の調査研究が多い筆者としては、貴重な機会であった。EUの本部を目の当たりにした(写真1)のも、今回が初めてであり、ここから発信されるホワイトペーパーの数々が、欧州だけでなく、世界中に影響を与えていると思うと、身が引き締まる思いがした(外気温2度であったため、寒かっただけかもしれない)。
余談であるが、宿泊先だったThon Hotel EUのセミナールームは、そのホテルの名称に相応しく、部屋の名前に、Italy, France, Netherlandなど欧州各国の名称を冠していたことが印象的であった(セミナーは写真2のGermanyで行われた)。
4.束の間の観光
ブリュッセルの観光地といえば、世界遺産にもなっている、グラン・プラスが著名で、宿泊先のホテルから徒歩で20分程度の距離ということもあり、帰りは、そこにだけは何とか行った。
クリスマスまで1カ月強あったため、飾りつけはされていないものの、クリスマスツリーの準備がされている最中であった(写真3の右に、クリスマスツリーが映り込んでいる)。
なお、今回、ブリュッセル市庁舎内部の写真はないので、ご容赦いただきたい。ただ、帰国してから知ったことであるが、市庁舎のバーチャル訪問体験がウェブサイトで可能である[3]。
ところで、ベルギーでは、オランダ語、フランス語、ドイツ語が公用語とされているが、地域によって異なり、首都であるブリュッセルでは、オランダ語とフランス語が公用語とされている。筆者は、多少の英語やドイツ語であれば読めるが、残念ながら道路標識はオランダ語とフランス語で書かれていたため、さっぱりわからなかった。
ただ、セミナーは英語で実施されたが、空港やタクシー、ホテルでも英語が通じる。
写真4は、欧州でも最古といわれる高級ショッピングアーケードのGaleries Royales Saint-Hubert(ギャルリー・サンテュベール)の前であり、中をぶらぶらと歩いてみたが、必ずしも全部が高級店というわけではなく、手ごろな値段でチョコレートを提供する店舗など、多種多様な印象を受けた。
ベルギーといえば、ワッフルであるが、朝食と昼食のバイキングで既に自分で作るタイプのものがあり、そこで食べていたため、カロリー高めのチョコレートとクリームにまみれたベルギーワッフルを購入することはなく、こちらも写真がない。朝食、昼食のバイキングで満腹だったため、それ以外にも何も買わずに帰ってしまった。
ではなぜ、バイキングの際の写真がないかというと、セルフサービスで作るワッフルは、日本の食べ放題の店によくあるワッフルと変わらない出来栄えになっており、ベルギーワッフルが、単に「ベルギーで作ったワッフル」の意味しかなかったためである。参考に写真5を掲載するが、出来栄えは改めて見てもベルギーの朝食ビュッフェのものと同じである。
5.さいごに
冒頭でも少し言及したが、ベルギーは2020年11月2日から、12月13日までロックダウンとなっている。セミナーは、殆どがウェビナーになり、筆者がプレゼンターとして登壇予定だった国際会議も中止となった。今年、対面で出席したのは1つだけである。これは、ウェブでの実施が規則上認められていないため、という理由である。
海外のウェビナーへの参加が多くなったメリットもあるが、参加者同士のコミュニケーションができないというデメリットもある。ところが、最近、このデメリットは、解消されつつある。例えば、2020年11月16日から20日に開催される仏独日AIシンポジウム[4]では、自身のアバターを作成し、バーチャル会場で行う。
NTTでは、現在、多様な「デジタルツイン」[5]を掛け合わせて演算を行い、実世界の物理的な再現を超えたインタラクションをサイバー空間で実現することを目指している(デジタルツインコンピューティング、以下「DTC」)が、このようなセミナー、学会の懇親会のような非定型的なインタラクションを実現することも、(比較的小規模な)DTCといえなくもない。これが実現されれば、やがては海外出張も極めて例外的になっていくのだろうか。ヒトがリアルに対面することの価値が問われる2020年である。
[1] 時事通信「ハワイ、旅行客の隔離免除 11月6日から日本発も」
(https://www.jiji.com/jc/article?k=2020102801078&g=int)
(ウェブサイトはいずれも2020年11月4日最終閲覧)
[2] Deutsche Welle,“Der zweite Corona-Lockdown wird teuer”
(https://www.dw.com/de/der-zweite-corona-lockdown-wird-teuer/a-55462418)
[3] City of Brussel,“City Hall Virtual Visit”(https://www.brussels.be/city-hall)
[4] Human-centric AI - 2nd French-German-Japanese Symposium
(https://www.ai-symposium-france-germany-japan.com/index)
[5] 「例えば工場における生産機械、航空機のエンジン、自動車などの実世界の対象について、形状、状態、機能などをサイバー空間上へ写像し、正確に表現したもの」をいう(中村高雄「デジタルツインコンピューティング構想 」NTT技術ジャーナルVol.32, No.7(2020)p.6)。
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