2021年2月26日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

ICT雑感:A.トフラー『第三の波』を再読する



リカレント教育、あるいは学び直しという程のものでもありませんが、人生100年の時代と言われているし、自分の余生もあと40年あるかもしれないと考えると、少しは学術的な知識、知見のほうもキャッチアップしたい、もがいていきたいという気持ちで、通信制の大学でいくつか講座をとって学んでいます。

その中の社会学の入門の講座で、情報化社会のことを取り上げていて、「へぇ~社会学はこういうことも研究対象なんだ……」と感心するとともに、情報化による社会の変動を論じた本として、アルビン・トフラー博士(Alvin Toffler 1928-2016)の『第三の波』(TheThird Wave 1980)に言及されていたので、ちょっと興味が湧いて読んでみようと思い立ちました。

というのも、自分が大学生で就活をしていたとき、面談などで「最近読んで感銘を受けた本は?」と聞かれて、確かこの本の名前を挙げた記憶があるのです。ですが、その割には内容が全く頭の中に残っていません。本を入手してみて、日本語訳で600ページ以上の大著であることがわかり、おそらく途中で挫折したんだろうな、と思いました(したがって、正確には「再読」とは言えません)。

あまりにも有名な著作ですが、内容をものすごく大雑把に言うと、文明の段階は農業段階(第一の波)、産業段階(第二の波)を経て、現在第三の波(情報化)が始まりつつある、規格化、同時化、集権化された産業段階から、情報化社会では人は時間と空間の自由を得る、個人と組織と国家社会の大変革に今から備えよ、ということでしょうか。

で、おもむろに読み始めたのですが、トフラー博士がこの本を40年前に書いたということに強い衝撃を受けました。著作の内容は多岐にわたり、社会の現状の分析から、情報化の進展が産業、社会、家庭、個人の生き方などにどのような影響を与えるか、最後は今後の民主主義の在り方までに及んでいます。それだけ各方面にわたる予測、予言がちりばめられているので、すべての予測が当たっているというわけではありませんが、例えばコンピューターの普及がどのような変革をもたらすかという点では……

「家庭用コンピューターが銀行や商店、官庁、近所の家、自分の職場などと連結されれば、製造業から小売商にいたるまで、企業の形態も必然的に変わってくるだろう。労働の質や家族の構成にも変革が起こるに違いない」「まもなく何百万という人びとが、オフィスや工場へ出かける代わりに、家庭で時を過ごすようになる」

(→リモートワークの一般化を予測)

「将来コンピューターは、各家庭、病院、ホテル、交通機関、いろいろな器具、あるいは建物のれんがのなかにまで、さまざまな形で組み込まれた無数の情報読み取り装置にとって代わられることになるであろう。電子化された環境が、文字どおり我々と対話を交わすようになる」

(→これってまさにIoTのことだよね……)

この他にも、ホワイトカラーに分裂が生じて下の人は失業するとか、企業は経済的利益だけでなく社会問題の解決に貢献することが求められるようになるとか、核家族を典型とする家族像から多様な家族形態が認められるようになり、男女の役割の見直しが進むとか、将来の政治ではマイノリティ・パワーの重視が原理の一つとなるなどの議論が展開されています。そして日本版では、巻末にハイジ夫人との共著による日本観察の一文が掲載され、当時「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた我が国について、「日本は、退潮しつつある波(第二の波)の頂点に立っている」と警告を発しています。

40年以上前にトフラー博士が考察、予言したことに、あの頃の未来に立っている私たちは、どの程度追いつけているでしょうか。また、これからの第三の波の展開をどの程度予想し、準備ができているでしょうか。博士の予測と現状との比較、答え合わせをしながら読むことで、今読んで面白い本と言えるように思いました。

 

なお、この本を再認識することとなったのは、最初にも書きましたが、通信制の大学の講義によってです。この講座に感謝するとともに、今世の中で言われている学び直し、知見のアップデートの素材は、身近なところに既に用意されていることを実感しました。

また、本を読んでみようと区の図書館の蔵書を検索してみたがなかったので(こんな著名な本が蔵書にないのが意外だった!)、おそるおそるネットのオークションサイトを覗いてみたところ、リーズナブルな価格で入手できました。このような取引は情報化の進展により可能となったもので、「シェアリングエコノミー」の一形態をなすものとされています。シェアリングエコノミーについては、弊社でもその現状や将来予測の調査を行っていますが、私もその恩恵にあずかり無事本書を入手できたというわけです。

(参考文献)

森岡淸志(放送大学特任教授)編著 『放送大学教材・社会学入門』(一般財団法人放送大学教育振興会,2016年)

A.トフラー,徳山二郎監修,鈴木健次・桜井元雄他訳 『第三の波』(日本放送出版協会,1980年)

※2種類の翻訳が出ているようですが、今回はこちらを入手して読みました。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。

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