2021年3月15日掲載 ITトレンド全般 InfoCom T&S World Trend Report

スポーツ産業のDX ~欧州主要リーグにおけるFootballTechの利活用動向



はじめに

スポーツ産業におけるICTの利活用が注目されている。スポーツ庁の試算によれば、国内スポーツ市場規模は、「スタジアム・アリーナの建設・改修、競技団体等のコンテンツホルダーの経営力強化、新ビジネス創出、他産業との融合等スポーツ産業の活性化策」を通じ、2020年で10.9兆円、2025年で15.2兆円へと拡大する[1]。活性化策のうち、「IoT活用」分野の政策を通じ、「施設、サービスのIT化進展とIoT導入」を要因とした市場規模は2020年で0.5兆円、2025年で1.1兆円と試算されている。

スポーツ産業におけるICTの利活用の拡大はベンチャーキャピタルの投資動向からもうかがえる。SportsTechX社がリリースした「Global SportsTech VC Report」によれば、2014~2019年までのスポーツテック分野[2]の資金調達総額が126億米ドル、CAGR(年平均成長率)が25%であった[3]。さらに、同社が5,700社のスポーツテックスタートアップが注力しているスポーツの種類を分析した結果、1位はフィットネス&ワークアウトであるが、2位がサッカーであり、バスケットボールやアメリカンフットボールなどを上回っている。このことから、サッカーにおけるテクノロジー「FootballTech」の利活用への期待が高まっている[4]と考えられる。例えば、AIカメラによるサッカーなどの試合・トレーニングを記録・分析するサービスを提供している、スタートアップのVeo Technologies社(デンマーク)はシリーズBラウンドで2,000万ユーロを調達しており[5]、欧州主要リーグのPremier League、LaLiga、Serie Aなどのチームにサービスを提供している。

本稿では、スポーツ産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について、ICTの利活用が進展しているサッカー業界に焦点を当て、欧州主要リーグにおけるFootballTechに関する取組動向を整理する。さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてのICT活用事例を紹介する。

【図1】スポーツテックスタートアップが注力しているスポーツ(Top 10)

【図1】スポーツテックスタートアップが注力しているスポーツ(Top 10)
(出典:SportsTechX)

LaLigaにおけるFootballTech取組動向

スペインサッカーリーグLaLigaは2016年よりMicrosoftと提携してイノベーションやデジタル、データ分析の技術専門チームを立ち上げ、リーグのDXを推進してきた[6]。例えば、LaLigaは、クラブのアプリやウェブサイトの構築を支援するためのプラットフォーム、クラウド上の試合データを分析するためのサンドボックスツール、試合中のパフォーマンスをリアルタイムに分析できるツール「Mediacoach[7]」などを各クラブに提供し、DXの重要性と競争力にもたらすインパクトについて伝えて続けてきた。

各クラブにおいても積極的にICTを活用している。Sevilla FCではデータ駆動型意思決定を重視しており、R&D部門を設立し、数学や物理、統計学などの専門家がパフォーマンス等のデータ分析を行っている。さらに、人事雇用プロセスを簡素化するために、自社でのアプリケーション開発に取り組んでいる[8]。

立地上のメリットを生かし、地域での連携によるイノベーション向上を図るクラブもある。Valencia市は、EUの研究支援プログラム「Horizon 2020」の下の「European Capital of Innovation Award 2020」において、準優勝都市[9]に選ばれており、ヨーロッパのイノベーション・センターのひとつとして成長している。Valencia CFは地域のNPO「Startup Valencia」と連携し、起業家コミュニティ「VCF Innovation Hub」をローンチした[10]。VCF Innovation HubはValencia CFのMestallaスタジアムを利用し、市内のスポーツとテクノロジー分野の起業家向けにスペースを提供する。当面は薬学、スポーツサイエンス、スマートスタジアム・インフラストラクチャ、ファン・エンゲージメントなどのプロジェクトをフォーカスする。

BundesligaにおけるFootballTech取組動向

ドイツサッカーリーグBundesligaでは、5Gや拡張現実(AR)などを活用するスマート・スタジアムの取り組みを推進している。BundesligaはVodafoneと、スタジアムへの5G導入および、ファン向けのアプリケーションの開発に関する業務提携を締結した[11]。その業務提携の一環として、2019年8月にFC WolfsburgのスタジアムVolkswagen Arenaに5Gを導入し、スタジアムのモバイルキャパシティが60%増加したと公表されている。

スタジアムにおけるファン向けのアプリケーションの開発に関してVodafoneは、スポーツファンの臨場感体験に注力しているARスタートアップImmersiv.io(仏)と共同で、FC Wolfsburg向けにリアルタイムアプリを開発している。MECとImmersiv.io社のプラットフォームを活用し、5Gの高速・低遅延の特性を生かして、アプリでは試合中の選手のリアルタイム情報(ポジション、ゴール、パス、ファイルなど、Bundesligaの試合データ収集システムに基づき収集された情報)を提供できる。Vodafoneは開発したアプリをSaaS型サービスとして、FC Wolfsburg以外のクラブへライセンス提供する予定だ。FC Wolfsburgはアプリの観客への提供方法について、チケットの販売に含むなどの方法を考えている。

FC Bayern Munichにおいても、Deutsche TelekomおよびImmersiv.ioなどと提携して、5GやARを活用し、Allianz Arenaの入り口での選手とのAR記念撮影や、スタジアム内でのスマートフォン/スマートグラスを用いた選手情報の確認を可能にする等、ファン・エンゲージメント向上に取り組んでいる[12]。

COVID-19対策としてのICT活用事例

FootballTechの利活用の進展がCOVID-19の影響によってさらに加速している。例えば、ICTを活用するバーチャル観戦の事例が多く見られる。イングランドPremier Leagueにおいては、Manchester City F.C.がCiscoと提携し、Webexを活用してクラブの公式アプリでオンライン観戦パーティーを開催した[13]。さらに、スタジアム内の座席にLEDスクリーンを設置し、オンライン観戦のサポーターの動画を投影することで、無観客のスタジアムの雰囲気を盛り上げる。

同様の効果を得るために、LaLigaではバーチャル音声を活用している。パートナーシップを締結しているEA Sportsの試合音声データベースを活用すれば、無観客の試合でもサポーターの音声などを試合中のイベントに合わせてブロードキャスティングできる[14]。

また、アフターコロナを見据えて、ワクチン接種証明や陰性証明などをチケットに組み込むソフトウェアを開発している動きもある[15]。

まとめ

LaLigaやBundesligaはFootballTechに対して積極的な姿勢であり、パフォーマンス分析やファン・エンゲージメント向上、業務プロセス効率化などの分野にICTを利活用している。技術の導入のみならず、自らR&Dなどのデジタル部門の設置や、地域の企業コミュニティへの支援などへ取り組むことによって、サッカー産業だけでなく、他産業も含めた地域全体のイノベーションエコシステムの創出にも貢献できる。

国内ではJリーグのクラブにおいても、ビッグデータの活用などスマート・スタジアムの取り組みが行われている[16]。こうした取り組みは地域の活性化にもつながっている。

さらに、国際サッカー連盟(FIFA)ではAIに基づいた半自動化ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によるオフサイド判定の実証実験が行われている[17]。今後はFIFA World Cup Qatar 2022の開催に向け、FootballTechに関する取り組みのさらなる進展が期待される。

[1] スポーツ庁「平成29年度『スポーツ産業の成長促進事業(3)スポーツ関連新事業創出支援事業』報告書 新たなスポーツビジネス等の創出に向けた市場動向」(平成30年3月)
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/houdou/30/05/__icsFiles/afieldfile/2018/05/31/1405699.pdf

[2] スポーツとテクノロジーをかけ合わせた分野

[3] https://www.sportspromedia.com/from-the- magazine/peloton-ipo-zwift-strava-sports-tech-venture-capital-investment

[4] https://medium.com/sportstechx/5-questions-to- better-understand-sportstech-startups- 73cb175c65bc

[5] https://techcrunch.com/2021/01/06/veo-raises- 25m-for-ai-based-cameras-that-record-and-analyze-football-and-other-team-sports/

[6] https://newsletter.laliga.es/global-futbol/laliga- clubs-digital-transformation-sme-guide

[7] https://newsletter.laliga.es/global-futbol/laliga- mediacoach-data-in-the-cloud/rrss

[8] https://newsletter.laliga.es/global-futbol/monchi- method-secrets-football-famous-sporting-director

[9] https://ec.europa.eu/info/news/leuven-european- capital-innovation-2020-2020-sep-24_en

[10] https://www.valenciacf.com/en/article/en- valencia-cf-reach-agreement-with-startup-valencia- 2020-09-17

[11] https://www.telcotitans.com/vodafonewatch/ vodafone-ready-to-kick-off-5g-real-time-stadium-app/2390.article

[12] https://www.immersiv.io/portfolio/bayern- munich-deutsche-telekom/

[13] https://sporttechie.com/cisco-webex-virtual-seats- manchester-city-games

[14] https://www.sportspromedia.com/news/la-liga- return-tv-broadcasts-virtual-fans-fifa-crowd-noise

[15] https://newsletter.laliga.es/global-futbol/laliga- partner-g2-strategic-digital-ticketing-new- opportunities

[16] https://business.ntt-east.co.jp/new_standard/ sports_entertainment/nack5stadium/

[17] https://www.forbes.com/sites/stevemccaskill/ 2020/11/26/fifa-trials-ai-powered-automated-var- calls-ahead-of-2022-world-cup/?sh=a713a947252b

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