2022.2.14 DX InfoCom T&S World Trend Report

DX化で急拡大を目指す国内アート市場

Rudy and Peter Skitterians(Pixabay)

世界のアート市場の現状

アート・バーゼルとUBSから発表された「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2021」によると2020年における世界のアート市場の規模は501億ドル(約5兆4,359億円)となり、対前年比で22ポイント減少となった。減少した原因は、やはり新型コロナウイルスの感染拡大による弊害にあると言えるだろうが、今回の発表で注目されたのは内訳の「オンライン取引」であり、その売上が124億ドル(約1兆3454億円)と過去最高を記録。オンライン取引の割合が、全取引のおよそ25%にまで急拡大したことである(図1)。

【図1】世界のアート市場全体(億US$)とオンライン売上シェア(%)

【図1】世界のアート市場全体(億US$)とオンライン売上シェア(%)
(出典:The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2021をもとに作成)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界の様々なところで都市封鎖が起こり、それにともない美術館、画廊の長期休館や閉館、アートイベントの中止などが余儀なくされたが、この間アート業界では様々なオンライン化が進んでいたことがわかる。

国際的アートフェアのFrieze New Yorkはオンラインによるバーチャル・ルームを設立、また200年以上の歴史を持つ英国オークションハウスのPhillipsはデジタルオークション「Gallery One」を発表するなど様々なイベントや施設でネットへの取り組みが積極的に行われた。またニューヨーク近代美術館(MoMA)では、専門のスクール講座が無料で公開され、Google Arts & Cultureでは世界250以上の美術館とギャラリーが数万点に及ぶ作品をオンライン上で鑑賞できるようにした。こちらでは世界34カ国で描かれたストリートアーティストの作品も観ることができるようになっている。Phillipsの最高経営責任者エドワード・ドルマン氏は、インタビューで「(我々は)インターネットを通じた顧客とのバーチャルコミュニケーションを基盤とした新しいモデルへと、事業の軸を変えることに成功しました。コストも削減できたため、2020年の業績は前年よりも若干良くなっている。」と答えるなど、世界のアート業界では、新型コロナウイルスの感染拡大があったからこそ業界に革命が起きた、と言える状況となっている。

国内アート市場の実態とは

一方、国内のアート市場はどうだろうか。一般社団法人アート東京の「日本のアート産業に関する市場調査2020」によると、2020年の日本の「美術品市場」は対前年比で約8.4ポイント減の2,363億円と発表された。

【図2】国内美術品市場(億円)

【図2】国内美術品市場(億円)
(出典:アート東京「日本のアート産業に関する市場調査2020」)

前述のとおり世界のアート市場はおよそ5.5兆円(2020年)であることから、世界のアート市場における日本のシェアはおよそ4.3%ということになる。しかし、ここで注目すべきなのは日本のアート市場の内訳(図3)だ。取引された上位を洋画、陶芸、日本画などが占め、現代アート(現代美術、写真、映像作品を合わせたもの)の売買に関しては373億円程度である。つまり、そこから算出される世界のアート市場における日本のシェアは、1%にも満たないというのが現実だ。

【図3】ジャンル別市場規模(2020年、億円)

【図3】ジャンル別市場規模(2020年、億円)
(出典:アート東京「日本のアート産業に関する市場調査 2020」)

日本は、GDP(国内総生産)の世界シェアがおよそ5.8%と言われていることから考えても、アート市場における日本のシェアは、相対的に低いと言わざるをえない(世界のアート市場におけるシェアでは1位米国(44%)、2位英国(20%)、3位中国(18%)と上位3カ国で80%以上のシェアとなっている)。

こうした状況を踏まえ、文化庁では世界に比べて小規模にとどまっている日本のアート市場を活性化し、日本人作家および近現代日本美術の国際的な評価を高めていくため、近年様々な活動を展開している。

アート購入方法と販売チャネルの特徴とは

アートの購入方法には、プライマリー市場(画廊や百貨店、アートフェアなどの場)で作家や代理店から直接購入する方法と、オークションに代表されるセカンダリー(プライマリー市場で購入された作品が、作者の手元を離れて売買される)市場で購入する方法の大きく2つがある。

価格については、基本的に「需要と供給」で決まるが、「需要(アーティストの人気)」は上下変動する一方で、「供給(作品が世に出る量)」は大きく変わらないため、人気のアーティストほど希少価値が生じ高騰する傾向がある。そのため現存するアーティストの作品であれば“プライマリー市場で購入したい”というニーズが高くなるため、人気アーティストなどは気の遠くなるような順番待ちリストができ、購入するには自分の順番が来るのを待たなければならなくなるので、セカンダリー市場の存在はプライマリー市場同様に重要となる。

また一方で、アートの購入には「投資」という目的もある。海外では「資産運用のポートフォリオにアート購入の割合が10~20%入っている」というデータもあるほどで、時計、ワインと同様に、アートにもリセールバリューがあり、保存方法が簡単でオークションに出品する機会にも存分に恵まれている。また現在はコロナ禍の取り組みとしてオンラインでのオークション開催が増え、落札率も好調のようである。但し、投資はやはり一定のリスクをともなうため、アート投資であっても十分な下調べが必要となる点は、留意すべきところである。

【図4】チャネル別市場規模(2020年、億円)

【図4】チャネル別市場規模(2020年、億円)
(出典:アート東京「日本のアート産業に関する市場調査2020」)

以上のとおり、アートには様々な購入方法があるが、日本ではどれもややハードルが高いと言わざるをえないのが現状だ。図4は日本におけるアート購入の販売チャネルを示したものだが、アート作品は百貨店やギャラリーで多く扱われており、その購買対象とされているのは未だ一定の年齢を超えた富裕層となっている点などからもアートを購入する文化が一般層に浸透していない、という指摘につながっている。

ただその中で「作家からの直接購入」が229億円(昨年198億円)へと増加しており、SNSなどを利用した作者と購入者のマッチングによる売買増加という新しい変化も起こりつつある状況となっている。

アート市場拡大に取り組む国内の注目サービス

国内アート業界でも、オンラインを活用したアート系サービスがいくつも登場して注目を集めており、以下では、その中からいくつか紹介したい。

SBIアートオークション sbiartauction.co.jp

美術品のオークション、売買、売買仲介、ファイナンス等のサービスを提供し、アート市場の活性化と健全な発展を目標に掲げている。オークションの落札価格には 16.2%(消費税込)の手数料がかかる。

【図5】SBIアートオークション

【図5】SBIアートオークション
(出典:公式HP)

ANDART and-art.jp

これまで手が届きづらかった高額な有名アート作品や大型作品でも1万円から購入/売買ができる、日本初、アート作品の共同保有プラットフォームサービス。新しい形でアート購入のカルチャー創出やニュースタンダードを社会に提案している。

【図6】ANDART

【図6】ANDART
(出典:公式HP)

ヘラルボニー heralbony.jp

「異彩を、放て。」をミッションに、福祉を起点に新たな文化を創ることを目指す福祉実験ユニット。日本全国の障害のある作家とアートライセンス契約を結び、2,000点以上のアートデータを軸に作品をプロダクト化するなど、福祉領域の拡張を見据えた多様な事業を展開している。

【図7】ヘラルボニー

【図7】ヘラルボニー
(出典:公式HP)

TRiCERA tricera.net

アーティストが簡単に海外進出できるようにすることを目指し、2018年11月に設立された現代アートの越境ECサイト。既に126以上の国のアーティストが参加している。Webサイトは多言語対応になっており、海外からの作品購入が入ると発送をサポートしてくれる。東京品川にミュージアム「TRiCERA」も設立している。

【図8】TRiCERA

【図8】TRiCERA
(出典:公式HP)

スタートバーン startbahn.jp

アート作品用のICタグ付きブロックチェーン証明書「Cert.」の発行サービスを開始し、確かな情報継承による価値担保を求める多くのアート関連事業者へ導入されている。その他、二次流通市場での取引においても、アーティストに一部金額が還元されるシステムを開発し、日米で特許出願中である。

【図9】スタートバーン

【図9】スタートバーン
(出典:公式HP)

この他にも、アート業界の活性化に取り組む期待のサービスが続々と登場しており、今後の動向がますます注目される。

DX化で国内アート市場急拡大へ

国内のアート市場が今後大きく育っていくための要因はいくつか考えられるが、ここでは以下2点について特に言及したい。

1つめは、「アート文化が育っていない」という実状を覆すことが挙げられる。海外旅行で欧米を観光した人ならわかるだろうが、欧米の街中には生活者が気軽にアートギャラリーに立ち寄り、金額の大小に関わらずアートに触れ、自宅用、投資用、両方の目的で購入しているという状況がある。アート市場が大きいためアーティストおよび関係人口が多い。日本でも、日常の生活の場でアートに気軽に触れる機会を増やしていき、アーティストで生計を立てる人、および関係人口を増やしていける活動を少しでも応援していくことが肝要だ。

2つめは、「アートへの投資についても盛り上げる」ことだ。日本の株式市場は米国についで世界第2位の規模があり、アート投資自体が定着する可能性は十分にあると言える。そのためには、アート取引の環境整備と真贋証明技術の普及がキーとなるであろう。その点については前項で紹介した各種の新サービスや国を挙げてのバックアップなどが期待される。

以上のとおり、日本のアート市場は世界に比べてまだまだ成熟していないからこそ、拡大の余地が大きいとも言える。アート業界のDX化と、近年盛り上がりを見せているNFTアート(ブロックチェーン技術を活用して、複製できないように加工したデジタルアートのこと)なども含めて、日本のアート市場がさらに成長・拡大することを期待したい。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部無料で公開しているものです。



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