MWC Barcelona 2022のホットトピックは、「Green」
ハイブリッドイベントとして本格リニューアルしたMWC Barcelona
MWC Barcelona 2022が、2022年2月28日から3月3日までの4日間、バルセロナで開催された。過去20年以上にわたり、毎年2月に開催されてきたこのイベントも2020年は新型コロナの感染拡大のため開催2週間前に中止となり、2021年は6月に延期、フィジカル(リアル)開催はされたものの主要企業のほとんどがブース出展を取りやめたため規模が大幅縮小となる一方で、講演セッションはある程度設定され、それらはライブ配信された。
今年はハイブリッド開催という形態は継続しつつも、大手企業の多くがブース出展を行い、また講演セッションもかなり増えた。講演セッションは、基調講演を除いてはその多くがライブ配信されない形式で進んだが、会期終了後に半数程度がアーカイブ配信され、現地参加がかなわなかった多くの人に対しても講演模様が提供されることとなった。少数ではあるが、セッション内容が記事としてまとまった形で公開されたり、YouTubeで配信されたりするなど、情報公開の仕方は多様化している。
結果、現地参加者は6万人を超えた。これは2019年(11万人)の約半数の水準にまで戻ったことになる。一方ではオンライン講演の視聴者数がその週ののべ人数で50万に達したことから、この運営形態は一定の成功を収めたと言えるだろう(図1)。
MWC Barcelona 2022で語られた主なテーマ
今回のMWC Barcelonaでも、多様なテーマについて多くのセッションが設けられ、議論が交わされた。主催者がセッションプログラムを分類しているが、その分類ワードは「5G Connectivity」「AI Advance」「CloudNet」「FinTech」「Internet of Everything」「Tech Horizon」である。
多くが通信ネットワーク関連のテーマであるが、通信ネットワークや通信事業者との関連性がある新しいテクノロジー領域もカバーしている。
前回のMWC Barcelonaで急浮上してきた、パブリッククラウドを活用した通信ネットワークの構築・運用(上記分類ではCloudNetが該当)、とくにAWSの存在感については、前回のインパクトが強かったが、今回も中心にいた企業の一社であった。AWSのスポンサーセッションはいくつも開催されたが、今回はAWSばかりが前面に出ている印象はなく、多様なテーマで多くのセッションが組まれ、活発な議論が交わされた(図2)。
どのテーマのセッションでも語られた「Green」
通信ネットワーク関連でのキーワードである「Open RAN」「5G」「IoT」「クラウド活用」「AI活用」など、多様なテーマのセッションを視聴しはじめてから数時間で気付いたのは、多くの講演者が「Green」「脱炭素」「環境対応」「省電力」といったワードを使って語っていたことである。
実際に、どの企業がどのような形でこうしたワードに触れていたのかについて、紹介したい。これ以外にもGreenの取り組みを発表した企業も多くあった。
Nokia
このイベントを過去20年以上にわたってメインスポンサーとして支えてきたNokiaのCEOは、今回の基調講演で「デジタルなしでのGreen化はない」と表現した。通信業界が5Gを含めたデジタル化により、自業界で抑制できる炭素排出量の10倍、他産業の炭素排出削減に貢献可能だとし、それは通信業界の責任だと語った(図3)。
Vodafone
世界各国でモバイル通信サービスを提供する英Vodafoneは基調講演の常連であるが、これまでもその内容の半分は途上国市場の実態とそこでの取り組みを扱うことが多かった。今回は、途上国でのFinTechや産業向けIoTの取り組みを紹介したが、産業向けIoTではそれが産業の成長を支えるという側面だけでなく、通信網とAI等の活用がGreen化につながるという説明をした(図4)。
また、展示ブースでは中古端末のリユース、リサイクルを促進する「サーキュラーエコノミー計画」を発表、関連の展示をブースの中心に配置した(図5)。
なお、欧州ではかねてからスマートフォン端末の環境対応について複数キャリアが協調して一定の基準を設けており、「Eco Rating」として機種それぞれに点数付けして消費者にわかるようにしている。参画企業は、仏Orange、西Telefonica、デンマークのTelia、英Vodafoneとなっている(図6)。
Telefonica
地元スペインのフラッグキャリアであるTelefonicaも、Vodafone同様に各国でモバイル通信サービスを提供するが、このTelefonicaがブース展示でアピールしていたのが「Green Digitalisation」である。自社が提供する環境対応サービスが、企業の効率化とともに脱炭素化にもつながると説明している。具体的には、ビル向けの電源管理ソリューションなどを紹介していた(図7、8)。
Deutsche Telekom(ドイツテレコム)
MWCの主役の一社であるドイツテレコムも展示ブースで多様な取り組みを紹介していたが、その中に「GreenMagenta」というものがある。これは様々な環境対応の取り組みの総称であり、目的をパリ協定の目標値である「温暖化を1.5度までに抑える」ことへの貢献だとしている。
ドイツテレコムはコーポレートカラーがマゼンタ(赤紫)色であるが、あえて緑色のロゴを使うなど、アピールに工夫している(図9)。
Huawei(華為技術)
米国をはじめ、いわゆる西側諸国でのプレゼンス維持が以前ほどにはできなくなっているHuaweiであるが、MWCでの存在感は依然として大きい。ただし、セッションへの登壇は少なく、MWC会場ではブース展示が中心であった。しかし、MWC会期前日から会期中にかけて、会場外で自社主催イベントを開催してパートナー企業を多く登壇させたり、また同様の他社主催イベントをスポンサーしたりするなど、従来通り、積極的に活動していた。
同社も、こうした自社イベントで自社の取り組みや新製品を紹介する中で注力していたのが、やはり環境対応である。Huaweiは「グリーン化に対する5つの間違い」と題し、環境投資の重要性、正当性を啓発していた(図10)。
5Gの目的が、Green化に置き換わった
今回のMWC Barcelonaが前回までと大きく違った点として、「Green」が最前面に出てきたことが挙げられる。これには大きく2つの側面がある。一つは5G設備自体を環境対応させるという面、もう一つは5Gが世界の環境対応に貢献するという面である。
従来の4Gが、結果的にスマートフォンのために進化した通信規格であったのに対し、5GはIoT向け、社会・産業の基盤としての役割を担うインフラとして位置づけられてきた。しかし、一部の企業向けICTソリューションを除いては「5Gならでは」の新規市場開拓には苦労しており、それは5G普及が進む中国においても同様である。
通信事業者に投資余力がある米国、中国、韓国、日本では5G投資が進むが、他の大多数の国の通信事業者にとっては投資回収が十分見込めないことから、トラフィック逼迫緩和、通信品質向上といった面で効果が期待できる都市部でしか導入が進まないのが世界の5G普及の実態だ。
しかし、今回のMWC Barcelonaで感じるのは、業界全体が5G導入の目的を方向転換させようとしているのではないか、ということである。5Gの位置づけが従来と同じ社会基盤だとしても、その目的が、利便向上による進化・成長のためから、社会基盤の環境対応のため、と5G導入・普及の目的の方向転換が行われようとしているのではないか。
そう考えると、5Gへの投資インセンティブも、社会全体では大きく違ってくるだろう。企業の環境対応が求められる中、とくにローカル/プライベート5Gの領域では、環境対応投資の一部に5G投資が組み込まれる流れを作れるかもしれない。また、通信キャリアが設備を5Gに更改することで自社の環境対応アピールにもなり、さらに通信サービスを利用する側にも、5Gへの切り替えインセンティブが働けば、5G普及を加速させることにつながる、というのが業界として描きたいシナリオだろう。既に世界的に立ち上がってきた環境投資のトレンドに通信業界も乗っていく、そうした意識醸成が図られるイベントとなった、というのが今回のMWC Barcelonaでの大きなトピックであったように思われる。
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