2022.6.13 メディア2030 InfoCom T&S World Trend Report

「Netflix契約者数減少」の読み方

全世界で2億人以上が利用している世界最大の有料映像配信サービス・プラットフォームであるNetflixは、今年の第1四半期に契約者数が減少したことを発表し大きな話題となった。本稿では、公表されたデータを引用しながら同発表の意味を考えてみたい。

1.第1四半期業績

Netflixは4月19日に2022年度第1四半期(1~3月期)の業績を発表した(表1参照)。売上高が前年比9.8%増の78億6,776万ドル、本業の利益を示す営業利益が前年比0.6%増の19億7,162万ドルであった。一般的な企業であれば決して悪い数値ではないが、これまで右肩上がりの成長を続けてきた同社にとっては芳しくない結果となった。

【表1】Netflixの2022年第1四半期損益計算書

【表1】Netflixの2022年第1四半期損益計算書
(出典:Netflix業績発表資料(Form 10Q))

しかし、それにも増して大きなインパクトを持って受け止められたのが、契約者数の減少である。期末の有料契約者数2億2,164万は、前年比で見ると6.7%の増加だが昨年末時点と比較すると20万の純減である(表2参照)。さらに第2四半期にはおよそ200万の純減になる見通しであると説明した。この発表を受けてNetflixの株価は約37%値下がり。株式時価総額は1日で566億ドル(約7.3兆円)も減少した。

【表2】Netflixの2022年第1四半期のKPI 出典:Netflix

【表2】Netflixの2022年第1四半期のKPI
出典:Netflix業績発表資料(Form 10Q)

2.契約者数が伸び悩む要因に関するNetflixの説明

それではなぜ契約者数が伸びなくなったのであろうか。Netflixは業績発表資料の中で、4つの要因に言及している。

1つ目が「リーチ可能な市場の成長ペース」である。コネクティッドTVの普及率やオンデマンドエンターテインメントの受容性、データ通信料金など、Netflixがコントロールできない要因により市場へのリーチが限定されている側面があると説明している。

2つ目は「アカウント共有」の影響である。Netflixの有料アカウントは2億2千万を超えているが、同社はこの他に1億世帯以上(メイン市場である米国・カナダで3,000万世帯以上)が契約せずに他者のアカウントで視聴していると推計している。全契約者数に占める共有アカウントの比率は概ね同水準で推移しているが、前述の要因により必ずしも全世帯にリーチできない状況がある中で、新規顧客獲得の余地を制約する追加要因になっているという。

3つ目が「競争」である。YouTube、Amazon Prime Video、Huluなど、従来の競合に加え、ここ数年、Disneyを含む伝統的なエンタメ企業のストリーミング市場参入が相次いでいる。業績発表資料の中で引用されたNielsenのデータによれば、米国内のテレビ視聴時間に占めるNetflixのシェアは、2021年5月の6%が2022年2月に6.4%に上昇している。しかし同期間に「Disneyプラス」のシェアは1%が1.7%に、「その他SVOD(契約型ビデオオンデマンドサービス)」は8%が9.5%になっている。

そして最後が、景気の停滞、インフレの進行、ロシアのウクライナ侵攻など、さまざまな「マクロ経済要因」である。

3. 契約者数減の評価

ここまで、Netflixがどのような発表を行ったのかを見てきたが、これをどのように捉えるべきなのか考えてみたい。

まず今回の契約者数の減少について「ロシアのウクライナ侵攻によるもの」という報道があるが、これは間違いではないが状況を正確に表しているとは言えない。確かに、ロシアに対する経済制裁機運が高まる中、Netflixもロシアでのサービスを中止しており、これにより約70万契約が減少となったという。したがってロシアを除けば今期も約50万の純増だったということができる。

しかしながら、地域別の契約者数の増減を見ると、ロシアが含まれる「EMEA(欧州・中東・アフリカ)」だけでなく、4つの地域分類のうち「アジア太平洋」を除くすべての地域が純減となっていることがわかる(表3参照)。したがって「ロシアを除けば純増だった」というのは事実ではあるものの、「米国カナダあるいはラテンアメリカのいずれかが持ちこたえていれば、純減にはならなかった」ということもできる。したがってロシア要因だけをピックアップすることはミスリーディングである。

【表3】Netflixの地域別契約者数の増減

【表3】Netflixの地域別契約者数の増減
出典:Netflix業績発表資料(Form 10Q)

図1にNetflixのストリーミング契約者数の対前年比伸び率を「国内」と「海外」にわけて掲載した。地域分類を見直した2017年に見かけ上「国内」の伸び率が上昇しているのを除けば、契約者数の伸び率は国内・海外ともに逓減してきている[1]。ちなみに国内(米国カナダ)については2020年度の伸び率が前年を上回っているが、これはいわゆる「コロナ特需」の影響である。

【図1】Netflix契約者数伸び率推移

【図1】Netflix契約者数伸び率推移
(出典:Netflix業績資料(Form 10K)より筆者作成)

すなわち2021年度の通年業績発表の時点で、メイン市場である米国カナダについてはほぼ新規顧客獲得が見込めず、これまで成長をけん引してきた海外の成長率も10%を割り込みそうな勢いだったわけで、成長が止まるのは時間の問題だったということもできるだろう。

4. 今後の展開

Netflixは今後「あらゆる側面を改善していく」ことで2桁の増収と19~20%程度の営業利益率の維持を実現したいと述べている。具体的には、コンテンツやレコメンデーション機能の品質の改善と、アカウント共有問題への対処に注力すると業績発表資料に記している。

このうち、前者に関してはNetflixの英語テレビドラマ史上最大級のヒット作となっている「ブリジャートン家」や「令嬢アンナの真実」(いずれもションダ・ライムズが監督)や、ドキュメンタリー映画「Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む」などを引き合いに出し、引き続きコンテンツ制作に注力していく方針を示した。

また後者については、お金を支払わずに1億世帯以上がNetflixを楽しんでいることを「チャンス」と捉え、これをマネタイズしていきたいと述べている。Netflixは今年3月以降、ラテンアメリカの3市場(チリ、コスタリカ、ペルー)において、追加料金を支払うことで別の世帯ともアカウント共有をできるプランの提供を開始している。こうしたプランの他国への水平展開が今後実施される可能性がある。

予想されるもう一つの取り組みに、広告付きの安価なプランの導入がある。Netflixの共同創業者兼会長兼共同CEOのリード・ヘイスティングス氏はこれまで、「広告モデルの導入はプランを複雑にする」「私はサブスクリプションのシンプルさの大ファンだ」として、導入に否定的なコメントを繰り返してきた。しかしながら第1四半期業績を発表したアナリストミーティングにおいて「私は消費者の選択についてはもっと大きなファンだ」と述べ、「広告に耐えられるユーザーに低料金プランを提供すること」を検討していると明らかにした。今後1~2年の間に判断を下す予定であるという。

当初は「手ごろな料金で楽しめる映像ストリーミングサービス」として普及してきたNetflixだが、その後何度か値上げされている。表4にNetflixが日本市場でのサービス仕様を発表した2015年8月と現在の料金の比較を、米国と日本について掲載した。これを見ると、プランにより上げ幅は異なるがそれぞれ数十パーセント値上げされている。テレビ端末での視聴がメインとなっている米国では、上位プランに加入する利用者も多く、2021年度の米国カナダ地域の月額顧客単価は14.56ドル(約1,890円)に達している。

【表4】Netflixの料金プラン

【表4】Netflixの料金プラン
(出典:Netflix公表資料より筆者作成)

多くの魅力的な映像ストリーミングサービスが登場した今、複数サービスに契約するユーザーも少なくない。そうした人々にとって現行のNetflixの料金負担は重いと感じられるケースもあるだろう。低料金プランの導入は利用者にとって朗報となる可能性がある。

4月の発表に関し多くのメディアが「Netflixが契約者数を減らすのは約10年ぶり」と報じているが、約10年前の契約者減とは、同社がまだストリーミングサービスをDVDレンタルサービスの付加サービスとして提供していた2011年のことである。Netflixはサービスの不振もあり、同年7月にプランを分離して、スタンドアロンの映像ストリーミングサービスを米国で開始したという経緯がある。

果たして今回の契約者数減少も大きな戦略転換のきっかけになるのだろうか。今後の動向が注目されるところだ。

[1] Netflixは数年前に業績開示の地域分類を変更した。従来は「国内」と「海外」だったが、現在は「米国カナダ」、「EMEA」、「ラテンアメリカ」、「アジア太平洋」の4分類。そのため、図1の「国内ストリーミング」に含まれるのは2016年までは「米国」のみだが、2017年以降は「米国カナダ」となっている。したがって厳密に言えばデータの連続性はないのだが、中長期的なトレンドを示すために2013年まで遡ってグラフ化している。

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

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