2022.8.10 ICT利活用 InfoCom T&S World Trend Report

働き方改革テレワークはニューノーマルから ノーマルへ ~コロナ禍における勤務形態の変化と課題

Alexa from Pixabay

2020年以降、コロナ禍の収束が不透明な現在、勤務形態に変化が生じている。感染拡大防止のため、人の集まる「密」な環境を避けるなどの理由から、ICTを活用した在宅勤務(以下「テレワーク」と称す)、そして観光地やリゾート地などに短中期的に滞在しながら、リモートワークを活用して仕事を行うワーケーションといった新しい勤務形態が導入されている。

本稿ではコロナ禍におけるテレワークの普及状況とそのデメリットおよび今後の課題などについて考察する。

緊急事態宣言発令前後におけるテレワーク導入・実施の現状

在宅勤務を主としたテレワーク(サテライトオフィス勤務、モバイルワーク等も含む)は、「情報通信技術(ICT)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」であり、わが国での歴史は長く、30年以上にわたって多くの企業が取り組み続けている[1]

2019年4月、「働き方改革」関連法の施行(大企業は2019年4月1日施行、中小企業は2020年4月1日施行、一部の事業・業務では、残業時間の上限規制適用は2024年3月31日まで5年間猶予)にあたり、その推奨されるワークスタイルとして提唱されたのがテレワークだ。翌2020年4月、政府は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、より一層の(有事対応として出勤者7割削減を目標とする等の)テレワーク推進を企業に要請した。それから約2年が経過した現在、テレワーク導入率・活用率はどうなっているのか。

まず2021年4月の総務省の調査で企業のテレワーク導入率を見ると30.7%となっており、従業員規模が大きくなるにつれて導入率も高く、中小企業を含めてテレワークが拡大している(図1)。またテレワーク導入企業では、緊急事態宣言発令後(第1回緊急事態宣言:2020年4月)に導入した企業が6割以上を占めており、発令直後に急速に拡大していることが見て取れる(図2)[2]

【図1】テレワークの導入状況

【図1】テレワークの導入状況
(出典:総務省「テレワークセキュリティに係る実態調査」令和3年4月2をもとに作成)

【図2】テレワーク導入企業のテレワーク導入時期

【図2】テレワーク導入企業のテレワーク導入時期
(出典:総務省「テレワークセキュリティに係る実態調査」令和3年4月2をもとに作成)

一方、従業員の緊急事態宣言発令前後におけるテレワーク実施率を見ると、全国では、発令前の3月以前の約9%から、宣言中に大きく増加し20.4%に倍増、解除後は16%程度で推移している。また、緊急事態宣言発令中の4~5月の実施率は、首都圏が31.4%と高い一方で、地方都市圏では13.6%と首都圏の半分程度の実施率となっているが、いずれも1年半後の2021年10~11月期には実施率が上昇している(図3)[3]。ちなみに2020年度(2020年11~12月にWeb調査実施)のテレワーク実施率は、全国:23.0%、首都圏:34.1%、近畿圏:23.3%、中京圏:19.7%、地方都市圏:16.2%となっている。

【図3】雇用型就業者に占める時期別のテレワーク実施割合

【図3】雇用型就業者に占める時期別のテレワーク実施割合
(出典:国土交通省「令和2年度テレワーク人口実態調査-調査結果の抜粋-」令和3年3月および「令和3年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-3をもとに作成)

雇用型就業者の業種別に見ると、テレワークを導入しやすい業種とそうでない業種があり、対面型のサービスが中心となる宿泊業・飲食業および医療・福祉業では、テレワーク実施率が低い。一方で、テレワーク業務との親和性が高い情報通信業では、実に7割を超す従業員がテレワークを実施している(図4)[4]。NTTグループでは、2022年6月に「原則テレワーク」という新制度を7月1日から導入すると発表。新制度では、従業員の自宅を勤務場所として、国内のどこにでも居住して勤務できるようになる。出社が必要な場合は、出張扱いとして航空機を利用した出社も認める、日付をまたぐ場合は宿泊費も会社が負担する、と大胆に打ち出した[5]。導入後はワーケーションも視野に入ってくる勤務形態となるのではないだろうか。

【図4】業種別テレワーク実施率

【図4】業種別テレワーク実施率
(出典:国土交通省「令和3年度テレワーク人口実態調査-調査結果-」4をもとに作成)

テレワーク実施環境下におけるデメリット

さて、テレワーク実施環境下での社員間および取引先等とのコミュニケーションでは、(音声)電話、メール、Web会議等、オンラインコミュニケーションが主たる手段となっている。そうしたなかで、テレワーク実施環境下における課題もいくつか発生している。内閣府の調査を見ると、特に従来のオフィスや取引先に出向く必要がなくなったことにより、Face to Faceによるリアルな「会話」の機会が減ることでコミュニケーションが希薄になりつつあることがわかる(図5)[6]。調査結果では「社内での気軽な相談・報告が困難」や「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」という、オンラインならではの問題点が上位に挙がっている。一方で「テレビ通話の質の限界」という技術的な不満や、「取引先等とのやりとりが困難」という不満も挙げられているが、第1回緊急事態宣言発令以降、技術面の改善によっていずれも解消されつつある。

【図5】テレワークのデメリット(テレワーク経験者)

【図5】テレワークのデメリット(テレワーク経験者)
(出典:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」
(2021年6月)をもとに作成)

それでも、「同じ釜の飯を喰っている」社内のお互いを熟知しているチームメンバーとの間で当たり前に行われていた雑談ができない影響は大きく、社会心理的距離はなかなか縮まらないことが推測される。だがこの状況も、直近では緩和の傾向にあることが見て取れる(「社内での気軽な相談・報告が困難」が2020年12月38.4%→2021年4~5月33.9%)。果たしてこの緩和の背景には何があると想定されるだろうか。技術的向上、あるいは前述のオンラインコミュニケーションツールの活用により不満が解消されるようになったのだろうか。最近では、気軽にコミュニケーションが交わせる「チャット」、特にビジネスでの利用に特化した「ビジネスチャット」が各種サービスで提供されている。こうした、オンラインでのコミュニケーションをより豊かにするテキストコミュニケーションと動画コミュニケーションを2軸とするアプリの普及が、こうした変化の原動力となっているのではないかと推察するところだ。

まとめ

テレワークは、2020年度当初の緊急事態宣言発令後、「ニューノーマル」な働き方として、改めて注目されるようになった。2年後の現在、テレワークの企業導入率、雇用型従業員の実施率ともに上昇した。(少々暴言かもしれないが、製品の技術進化に関連するわけではないものの)、E・ロジャーズ(Everett M. Rogers)の「普及論」、またはジェフリー・ムーア(Geoffrey Moore)の「キャズム理論」にしたがえば、テレワークは、アーリーマジョリティ(前期追随者、市場全体の34%)のポジションに位置し、「ニュー」はとれて「ノーマル」な勤務形態となり、社会生活環境に定着しつつある、と言えるのではないだろうか。

直近では、新型コロナウイルスやインフルエンザなどによるパンデミックの影響だけではなく、「猛暑」という自然環境の影響もあり、さらなるテレワーク推進の方向性がみられる。経済産業省「夏季の省エネルギーの取組について」(2022年6月10日公表)では、観測史上初の猛暑が続くことから、「テレワーク推進」維持の方向が見て取れる[7]。これまでオフィス内で日常的に行われていたFace to Faceによるちょっとした立ち話だけではなく、雑談や連絡・相談、いわゆる「報連相」がしづらくなり、「社内での気軽な相談・報告が困難」という状況にあるが、それも徐々に解消されつつある。Web会議システムと併せて、社員間の気軽なコミュニケーションや日常的な業務連絡にも活用され始めたのが、既存のメールに加え、PCとスマートフォンでも利用可能なビジネスチャットなどで、その活用がコミュニケーション不足解消の一助となりつつあると考えられる。しかし、テキストベースコミュニケーション(含ピクトグラム)で、どこまで今までのようなFace to Faceコミュニケーションとその関係行為からの創発機会の創出をもたらすことができるのか。

コミュニケーションツールが活用されたとしても、コロナ禍によりテレワークが急速に普及した後、ほぼ2年以上にわたる在宅勤務によって一部の従業員に孤立化懸念が高くなるという労働環境上の課題、および新たな社内失業を発生させてしまうなどの懸念はないだろうか。業務の生産性に対する評価の問題も併せて派生してくる。

そしてまた新たな課題・懸念材料としては、「働く場所=自宅」とした際の「自宅」とはどこを指すのかという問題がある。例えばワーケーション実施の際、サブスク宿泊を活用するなどして全国各地を移動している場合には、「自宅」の定義が曖昧ではないのか、その際の労災適用範囲はどうなるのか、と指摘する声もある。

また併せて企業のDX化促進への寄与・影響がどこまであるのかという点も不透明だ。

テレワークの実施自体は「ノーマル」な働き方として定着しつつあるが、それに伴い新たな課題が派生してきていると言えよう。今後も関連動向を注視していきたい。

[1] テレワーク人口推移等の関連については、弊社國井昭男主任研究員「テレワークはウィズコロナ社会に定着するか」、InfoCom T&S World Trend Report(2020年8月号)を参照(https://www.icr.co.jp/ newsletter/2020/07?cat=173)

[2] 総務省「テレワークセキュリティに係る実態調査(2次実態調査)報告書」令和3年4月 https://www.soumu.go.jp/main_content/000744643.pdf 調査実施期間:2020.12.15-2021.1.8

[3] 国土交通省「令和2年度テレワーク人口実態調査-調査結果の抜粋-」 https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/content/001469008.pdf  
「令和3年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」 https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/ content/001471975.pdf

[4] 国土交通省「令和3年度テレワーク人口実態調査-調査結果-」 https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/content/001471979.pdf

[5] 日本電信電話株式会社「リモートワークを基本とする新たな働き方の導入について」2022年6月24日 https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/06/24/ 220624a.html

[6] 内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2021年6月) https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/ covid/pdf/result3_covid.pdf

[7] 経済産業省「夏季の省エネルギーの取組について」(2022年6月10日) https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220610002/20220610002-1.pdf

※この記事は会員サービス「InfoCom T&S」より一部抜粋して公開しているものです。

当サイト内に掲載されたすべての内容について、無断転載、複製、複写、盗用を禁じます。InfoComニューズレターを他サイト等でご紹介いただく場合は、あらかじめ編集室へご連絡ください。また、引用される場合は必ず出所の明示をお願いいたします。

情報通信総合研究所は、先端ICTに関する豊富な知見と課題解決力を活かし、次世代に求められる価値を協創していきます。

調査研究、委託調査等に関するご相談やICRのサービスに関するご質問などお気軽にお問い合わせください。

ICTに関わる調査研究のご依頼はこちら

関連キーワード

鈴木 修一(退職)の記事

関連記事

メンバーズレター

会員限定レポートの閲覧や、InfoComニューズレターの最新のレポート等を受け取れます。

メンバーズ登録(無料)

各種サービスへの問い合わせ

ICTに関わる調査研究のご依頼 研究員への執筆・講演のご依頼 InfoCom T&S World Trend Report

情報通信サービスの専門誌の無料サンプル、お見積り

InfoCom T&S World Data Book

グローバルICT市場の総合データ集の紹介資料ダウンロード